「さあ、シャルロット」
「えっ?」
驚いたことに王太子は添えられていた銀のスプーンを取り上げ、自らジャムをすくってくれた。シャルロットは目を見開いて、口元に差し出された紅色のジャムを見やる。
「あ、あの――」
「その上着は重いだろう? 私が食べさせてあげよう」
「いえ、そんな」
「遠慮は無用だ。私はもう少し君に心を開いてもらいたい。そう身構えずに、どうか私に慣れてくれないか」
オリヴィエは手ずからジャムを与えることで、親密になろうとしているように見えた。まるでペットや小さな子どもに対する扱いみたいだが、それも当然かもしれない。いつまでもよそよそしさの抜けないシャルロットに焦れているのだろう。
確かに今のままではこれから訪れるラヴィニア姫の疑いを招いて、ひいてはルタンシアンとの外交問題に発展しかねなかった。
――わたくしがいけないのだわ。
少し恥ずかしかったが、シャルロットは素直にスプーンの先端を口に含んだ。
薔薇のジャムはおいしかった。瞬時に口の中に上品な甘さが広がり、かぐわしい香りが鼻に抜けていく。思わず笑みを浮かべると、オリヴィエもまた口角を上げた。
「さあ、もうひとさじ」
再びスプーンを差し出され、唇を開きかけた時だった。
「あ!」
オリヴィエの手元がわずかに揺れ、ジャムが少し零れたのだ。ちょうどシャルロットの右の鎖骨の辺りに落ちて、その冷たさに声を上げてしまう。
「これはいけない」
「きゃっ!」
今度は悲鳴を抑えられなかった。あろうことかオリヴィエが顔を寄せて、ジャムを舐め取ったのだ。
「つい手元がおろそかになってしまった。すまない、シャルロット」
ところが詫びを言いながらも、オリヴィエは白い肌から唇を離そうとはしない。
「だが君の肌は柔らかくて……甘いな」
「いえ、それはジャムのせいで――」
その先を続けることはできなかった。 柔らかなぬくもりが鎖骨をなぞるように這い始めたのだ。次の瞬間、まるで痕をつけようとするかのように強く吸われた。そのまま背中に腕を回されて、シャルロットは小さく喘ぐ。
「な、何をなさるのですか!」
逃れようとしても、強く抱き締められていて身動きできなかった。
「うっかり粗相をしてしまったから、きれいにしただけだ」
オリヴィエは楽しそうに答えると、唇を下にずらし始めた。
「お、お戯れを」
かつて家庭教師がいてくれたころ、シャルロットも男女の情事について教えられたことがある。いずれは嫁いで子をなすことが大切な役目だったからだ。
王太子がしかけてきた行為は少しそれに似ている気がした。口づけを交わし、抱き合い、やがて相手とひとつになるのだ。だが聞かされたものはもっと淡々としていたはずなのに、オリヴィエの唇は優しくも執拗だった。シャルロットが困惑のあまり、激しく息を乱してしまうくらいに。
「お離しください、どうか」
「なぜ? 私たちは親しくならなければならないのだから、これはちょうどいい機会ではないか」
オリヴィエは微笑んで、ほっそりした身体から青灰色の上衣を落とした。
「あっ!」
薄物だけの姿にされて、シャルロットはうろたえ、かぶりを振る。
ちょうどオリヴィエは胸元に顔を寄せていた。このままではまともに乳房を見られてしまう。けれどもいくら抗おうとしても、青い瞳から肢体を隠すことも、力強い腕から逃れることもできなかった。
「落ち着いてくれ、シャルロット」
「で、ですが」
いくら親しくなるためと諭されても、身体の震えは止まらない。それどころかオリヴィエの唇が肌を滑るたびに脈が乱れ、体温が上がっていくような気がした。
「おやめください、どうか」
「いや、やめない。君はこうされるのが好きみたいだから」
オリヴィエは手を伸ばして指でジャムをすくい取ると、鎖骨から胸の谷間にかけて紅色の痕をつけた。突然のひんやりした感覚に、のけぞらずにはいられない。
「ああっ!」
シャルロットが悲鳴を上げても、腕の力はゆるまなかった。むしろさらに引き寄せられて、ねっとりと肌を舐め上げられる。
いったいどうすればいいのだろう? オリヴィエの舌や唇が這うたびに、全身に甘いしびれが走る。今までに一度も感じたことのない感覚に、シャルロットは戸惑うばかりだ。
「感じやすいのだな、シャルロット」
「そんなはずは――」
実のところ感じやすいという意味すらわからないのに、王太子の低い囁きさえもが妖しい刺激となった。身体が勝手に痙攣して、ひっきりなしに甘い疼きに襲われる。なぜだか腰の奥が急に重だるくなり、シャルロットは目を閉じて大きく息を吐いた。
――どうして……こんな?
未知のさざ波をなんとかやり過ごそうとしていたため、寝衣のリボンを解かれ、大きくはだけられたことにも気づかなかった。そのあらわになった胸元に、再びたっぷりとジャムが塗りつけられる。その冷たさに、シャルロットは小さな悲鳴を上げた。
「あ、い、嫌ぁ!」
「いい眺めだ、シャルロット」
大きな掌で二つの乳房を包まれ、ゆるゆるとまさぐられて、シャルロットは驚愕に目を見開く。琥珀色の瞳に映ったのは、あまりに淫らな自身の姿だった。
いつの間にか絹の寝衣はすっかり剥がれ、かろうじて身体にまとわりついているような有様だ。もともと下着をつけていないので、蜂蜜色の薄い叢やすんなりした脚を隠してくれるものもない。胸のふくらみは紅色の筋で汚され、右側の尖りは今まさに王太子の唇に含まれようとしているところだった。
「お許しを! あ、あうっ」
拒絶の声は途中から甘く掠れ、嬌声へと変わった。王太子が淡い色の肉粒を食み、口中で転がし始めたからだった。
「ここも愛らしくて、とびきり甘い。まるで極上の果実のようだ」
唇に尖りを挟まれたまま囁かれて、シャルロットは声にならない悲鳴を上げた。ボンボン菓子を味わうみたいに舌先で舐められ、強く吸われ、もう一方の乳首も二本の指で摘ままれて、たおやかな肢体が大きく跳ねる。
「や、あ」
与えられる快感は痛みと錯覚してしまうほど強烈だった。いつの間にか白い頬は紅潮し、涙で濡れていた。
けれど奇妙なことに王太子その人を拒んでいるわけではなかった。シャルロットは泣きながら、無意識に広い背に腕を回す。生硬な身体を苛んでいるのは。爪先からぐずぐずと蕩けてしまいそうな得も言われぬ熱感だった。
しかしオリヴィエは拒絶の涙と受け取ったのだろう。胸元から顔を上げると、長い指で優しく頬を拭ってくれた。
「すまない。君を苦しめるつもりはないのだ」
再び溢れた涙を、今度はいたわるように唇で吸い取る。
「だが、ここでやめることはできない。ラヴィニア姫に怪しまれないよう、君の身も心ももっと私に馴染んでもらわなければ」
「そんな――」
「どうやら身体は慣れ始めているようだな。初めてなのに……こんなにも感じている」
そのまま胸元に顔をうずめられて、シャルロットは激しく首を振った。
「かん……じる?」
「そうとも、シャルロット。わからないのか?」
オリヴィエは身を起こして、「教えてあげよう」と薄く笑った。その手が細い身体を長椅子に押し倒したかと思うと、白い両腿をつかんだ。
「な、何をなさるのですか?」
すかさず脚を大きく割り広げられ、シャルロットは恐慌状態に陥った。
王太子の目前に、自身の最も恥ずかしい場所がさらされているのだ。『真珠の間』にはいたるところに燭台が置かれているので、薄い茂みはもちろんのこと、奥の秘部もあますところなく見られてしまう。
「いや、嫌ぁっ! 見ないで! お許しください!」
悲鳴を上げると、オリヴィエが覆いかぶさってきた。隠そうとした両手をつかまれ、広げた脚の間に身体を入れられて、シャルロットは恥ずかしい格好のまま動きを封じられた。あまりのことに声も出せずに打ち震えるしかない。
まさかこのまま純潔を奪われてしまうのだろうか?
「どうか聞いてくれ、シャルロット」
その怯えを感じ取ったかのように、オリヴィエがシャルロットを呼んだ。危険な熱を孕んではいるものの、優しい声音だった。
「約束する。私は決して君を汚すようなことはしない」
琥珀色の瞳を見つめ、長い指が右側の内腿を優しく撫で上げる。
「あ」
思わず声を漏らすと、オリヴィエは身を屈めて、そこにフッと息を吹きかけた。
「ひぁっ!」
くすぐったくて身を縮めたが、同時になぜだか身体の奥が切なく疼き始め、シャルロットは困惑に眉をひそめた。内側からとろ火であぶられるような、いてもたってもいられなくなるような、今まで知らなかった感覚だ。
ふいに脚の間に指が伸びてきた。ほのかに色づいた花びらを優しく探られ、シャルロットは大きく身を震わせる。
「あん!」
そんなところを誰かに触れられるなど、これまで考えたこともなかった。しかし直接秘処をいじられると、あまりの心地良さに声が抑えられなくなってしまう。いくら堪えようと思っても、はしたない喘ぎが勝手に零れ落ちた。
「だめ、あ、あう」
しかもオリヴィエが指を動かすたびに、脚の間からピチュクチュと耳を塞ぎたくなるような音がする。粘度を感じさせる響きはシャルロット自身の身体から生じているのだった。
どうしてそんな状態になるのかわからないものの、全身がどんどん熱くなっていく。オリヴィエの愛撫とその音が導き出す快感が、シャルロットをどこまでも追い上げ続けた。
「や、あ、あ、嫌ぁっ!」
「そんななはずはない。もしも嫌なら、これほど濡れないはずだから」
オリヴィエは「目を開けて」と囁いた。
「見てごらん、シャルロット」
涙でかすむ瞳に映った指先は、しっとりと濡れていた。
「あ」
「君の蜜だよ」
「わたくしの……」
その指が施していた行為を思い出し、シャルロットの頬は火のように熱くなる。
「君の淫らな花園はぐっしょり濡れている。身体はすでに悦びを覚えているのだ」
諭すように囁きながら、オリヴィエは再び秘められた場所に指をうずめた。
花びらのような秘裂をめくり、ゆっくり前後に擦りながらなぞっていく。やがて何かを探り当てたらしく、その動きが止まった。
「あう、あ、あ」
オリヴィエが包皮を剥いて、清らかな真珠をあらわにしたのだ。さらにその指は狙いすましたように、そこばかりを嬲る。一方でシャルロットは自分に何が起きているのかわからないまま、強過ぎる快感に激しく身悶えた。
「やめ、て……」
「いや、だめだ」
オリヴィエは覆い被さるようにして動きを封じ、涙に濡れる頬に口づける。
「あ、あ、や……」
淫らな水音が響く中、なおも小さな陰核を弾かれ、執拗にいじられて、シャルロットはわれを忘れて嬌声を上げた。
「あ、や、お許しくださ――」
オリヴィエが形のいい小さな耳を柔らかく噛んだ。そのまま舌先でふっくらした耳たぶをくすぐり、弄ぶ。
「君に触れると……私は歯止めが効かなくなるようだ」
桜色の耳殻に囁かれた言葉は意味をなさずに通り過ぎ、大きく見開かれた琥珀色の瞳ももはや何も映していない。
「かわいいシャルロット」
オリヴィエに抱かれながらシャルロットの身体は快美の海原を漂い続けたが、二人の夜はまだ始まったばかりだった。
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