プロローグ
柔らかな肌に触れる武骨な指先は、どこか怯えているようだった。
無理もない――マチルダ自身、初めての夜のことを思い出すと未だに体が震えるほどだ。夫が大切に思ってくれているのはわかるのだが、物理的な痛みの記憶はそれほど簡単に消えてくれるものではない。
「……マチルダ」
低い声が鼓膜を打つと、マチルダはそっと顔を上げた。
深い青色の瞳は確かな情欲に濡れているのに、その表情は曇り切っている。おそらく彼も、初めて肌を重ねた夜のことを思い出しているのだろう。
「俺は――また、あなたを傷つけてしまうかもしれない。もちろん、もう二度とあんなことはしないと誓う。だが……その……」
栄光の金翼騎士団――国内で最も優れた騎士たちが所属する、国王直轄の精鋭部隊。
武勇に秀でた彼らを束ねる夫、リカルドだったが、寝所ではその勇猛さも影をひそめてしまう。
「万が一、またあなたを傷つけるようなことがあれば……その時は、殴ってでも止めてくれ。短剣で刺してくれても構わない」
「そ、そんなこと! ……大丈夫、です。ちゃんと――あなたを受け入れる用意はできています」
しなやかな筋肉に包まれた体は、確かに非力なマチルダが殴っただけでは止まらないかもしれない。けれど、マチルダとてすでに覚悟はできていた。
自分は彼の妻だ。そうなった経緯こそ少しばかり事情があったとはいえ、今ではちゃんと彼を受け止めてあげたいと思う。
「……リカルド様の思うままに、触れてください」
意を決してそう告げると、リカルドは息を吸ってマチルダの体を強く抱きしめてきた。
互いに身にまとうもののない、肌と肌が触れ合う抱擁は、じわじわと体の芯を溶かしていくかのように心地よかった。
「ん……ふ、ぅっ……」
軽く唇を吸われ、厚い舌でたっぷりと咥内を愛撫される――まるで食べられてしまうのではないかと思えるほどのくちづけは、それほど嫌いではなかった。むしろ回数を重ねるごとに、捕食にも似たその行為に溺れてしまいそうになる。
「んんぁっ……っく、ン……」
ちゅぷちゅぷと音を立てながら唾液を攪拌されて、次第に体が熱くなってくる。
くちづけだけでこんな風になってしまう自分は、淫らで浅ましい女なのだろうか――そんな不安が、ふとマチルダの脳裏によぎる。
だが、丹念に妻を蕩かそうとしてくるリカルドは容赦なくマチルダを追い詰めてきた。
瑞々しく張った乳房をやんわりと揉みしだき、その尖端で薄く色づいた乳蕾を軽く指先で弄う――初めての時とは違い、くすぐったいような力加減でその場所を触れられて、マチルダの体は軽く跳ね上がった。
「ッあ、ぁ……」
「――痛むか?」
「いえ……あ、あの……大丈夫です」
羽のように軽い触れ方でマチルダの肌を焦がす指先は、徐々にじれったさをもたらしてくる。
もっと触れてほしいと思えるような手つきは、まるで壊れやすい砂糖菓子に触れるようでもあった。
「ぁ、あっ……や、ぁ」
軽くしこりはじめた胸の蕾を更に弄りながら、リカルドは妻の柔らかい体に何度も唇を落としていく。少し乾いてかさついた唇が柔らかい肌を滑ると、それだけで刺激が生み出されて愉悦が肌の上を駆け抜けていった。
「ひぁ、あっ……」
「マチルダ――力を、抜いてくれ。俺は、あなたを強引に暴きたいわけじゃない」
リカルドの低い声が、かすかに鼓膜を揺らす。
その声音に確かな熱を感じてしまい、マチルダの体はそれだけでも軽く反応した。足の間が熱い愛蜜で潤み、喉が異様なほどに乾く――寝台にまとわせたシーツの冷たさが心地いいと思えるほどに、その体は熱を帯びてリカルドを欲してしまっていた。
「だ、大丈夫です……触って――あなたの手で、触れてください」
軽く上ずった声でそう懇願するマチルダは、縋るようにリカルドの腕に触れた。
隆起した筋肉はまるで芸術のようで、眺めていてうっとりとしてしまう。けれど、そうすると自然と視線が下腹部に誘導されてしまう。
「……怖いか?」
おずおずと尋ねてくる声に、マチルダは小さく頷いた。
肌を重ねるのは、今のところマチルダにとってあまりいい思い出がない。その理由の一つが、眼下に反り立つそれ――赤子の腕ほどもある、長大なリカルドの雄杭だった。
「怖いです、けど……その分、たくさん触れてください。リ、リカルド様に触れられるのが、好きなんです」
純潔を失った時の痛みと驚きが、脳裏によみがえっては消えていく。けれど、リカルドに求められるのは決して嫌ではない。
「だから……もっと触って」
生まれはそれほど裕福ではないが、曲がりなりにもマチルダは貴族の子女だ。自分から男性を求めてしまうのははしたないことだとわかってはいるけれど、自分が言わなければ優しいリカルドはきっとこの手を止めてしまうだろう。
鮮やかな赤毛を揺らしたマチルダは、小さく息を吸って夫の目をしっかりと見つめた。
「あなたを、ちゃんと受け止めたいんです」
「マチルダ――」
はっとしたような表情を浮かべたリカルドが、一拍置いてそっと鼻先にキスをしてくれる。
触れるか触れないか、くすぐったいようなくちづけにマチルダが身をよじると、リカルドはそんな彼女を寝台の上にそっと組み敷いた。
「……駄目だと思ったら言ってくれ。俺はもう、あなたに辛い思いはさせたくないんだ」
勇猛果敢で知られる金翼騎士団の長だったが、彼の根底には根深い心の傷がある。
それすらもすべて受け止めようと頷いたマチルダの秘裂に、そっと指先が触れた。
「っ、ひ……ンぁっ……」
閉じていた蜜口に彼の指が揺れるだけで、かすかな快感が芽吹いてくる。指の第一関節だけを挿入して軽く折り曲げ、確かめるようにその場所を何度もなぞり上げられると、異物感は徐々に快楽へと変わっていった。
「んぁ、ァっ……や、あっ」
「――よかった……ちゃんと、感じているのか」
口に出してそう言われてしまうと、どうしても恥ずかしさが勝ってしまう。だが、リカルドは快楽に耐える妻の姿を確認しながら、ゆっくりと指先を奥へ滑り込ませてきた。
「んくぅっ……ッは、ぁっ」
「苦しいか?」
「だい、じょうぶ……です。でもっ――ひ、あぁっ!」
普段、剣を持つリカルドの指は、マチルダのそれより一回りも太い。にわかに潤み始めた蜜壺をその指でかき回されると、それだけで目が回るような快楽が彼女の体を襲った。
けれど、ある一点――入口から少し進んだ場所にある一か所をなぞられた瞬間、マチルダの体に電流のような痺れが走った。
「……ここ?」
「ぁ、やぁっ……そ、そこっ――だめ……」
確かめるようにくちくちと同じ場所を刺激するリカルドを、マチルダは弱々しい声で制止しようとした。だが、彼の動きは止まらない。懇ろに感じる場所を愛撫され、同時に別の指で淫芽を軽く捏ねられる。
「ッひ、ぁあっ……! や、ぁんっ! 一緒に、しちゃ……」
徐々に主張を始めた肉蕾は、指先で軽く押し潰されただけで敏感に快楽を受け取ってしまう。
それだけでも腰が淫らに跳ね、膣肉がきゅうきゅうと指を食い締めるのに、更に蜜壺の中まで一緒に刺激されると訳が分からなくなってしまう。
「やら、ぁっ……や、リカルドさまっ……」
駄目だと思ったら言えと言ったのはリカルドの方なのに、彼はマチルダの花芯を弄ることを止めてはくれない。むしろ先ほどよりも丁寧に、確実に彼女が感じるように刺激を与え続けてくる。
「ひっ、ぁ――あ、やっ……だめ――」
指先で蜜窟をかき混ぜられるごとに、くぷくぷという水音が大きくなっていく。
いやらしい音が鼓膜を揺らすのだけでも耐えられないのに、リカルドはその音をマチルダにわざと聞かせるように指を動かしてきた。
「ぁ、あ――」
「これで……多少は解れたか?」
ゆっくりと抜き取られたリカルドの指先は、マチルダの淫蜜でてらてらと濡れている。
直視できないほど淫靡な光景に唾を飲んだマチルダだったが、リカルドは軽く息を吐くと寝転んだ彼女の足をぐっと持ち上げた。
「そろそろ――マチルダが欲しい」
完全に屹立した肉杭が、濡れた秘裂にぐりぐりと擦りつけられる。
自分の中にすべて収まるとは到底思えないその造形に、マチルダは思わず息をのんだ。どうやっても初夜の思い出が頭をよぎる――痛く苦しい、けれどどこか甘いような、不思議な記憶だ。
「……わかりました。あ、あの……」
ぐちっ、と音を立てて先端が蜜口に押し当てられると、どうしようもなく下腹部が疼く。
マチルダの女の部分が、本能的にリカルドを求めている――彼に満たされたいと願っている。
「どうした?」
「焦らされるのは、怖いので……い、一気に、してください」
彼に満たされたいけれど、痛みが長続きするのは怖い。そう思ったマチルダは、懸命にそう伝えてみた。じっくりと膣内を蹂躙されるよりは、そちらの方がまだ楽かもしれない。
だが、その言葉を聞いたリカルドは艶やかな黒髪をかき上げ、深く溜息を吐いた。
「あまり煽ってくれるな。……抑えがきかなくなりそうだ」
「え、ぇ――ッひ、あぁッ……!」
もしかして、なにか気に障ることを言ってしまっただろうか――そんな不安が頭をよぎる前に、張り詰めた雄茎が一気に蜜壺を押し広げてきた。
「ぁうっ……! ン、あぁっ……は、ぁぅっ……」
マチルダの願い通り、リカルドは一気に腰を進めて最奥を貫く。規格外の質量を持ったそれがみっちりと自分の中を埋め尽くしていく感覚に、マチルダは臓腑が押しつぶされるのではないかという圧迫感を覚えた。
(あれ……? 痛くない……?)
けれど、破瓜の瞬間に覚えたような強い痛みは感じない。それどころか、丁寧な愛撫で蕩かされた膣内は彼を迎え入れたことで悦び、艶めかしく蠢動しているようだった。
「ッ……マチルダ、痛みは」
「な、ない、です……けど、ぁ、これっ……!」
ぐりぐりと最奥を切っ先で刺激され、自然と腰が揺れる。圧迫感こそ強かったが、不思議と辛さはまったくない。それどころか、自分の内側を満たされる悦びが溢れるようだった。
「や、ぁっ……ん、リカルド様……」
深く繋がりあったまま夫の名を呼ぶと、彼は柔らかくマチルダの唇を食んだ。
繰り返されるくちづけは甘く幸福で、これまでに感じたことのない充実感を与えてくれる。徐々に刻まれる律動に身を任せながら、マチルダは広い背中を抱きしめたのだった。
(この後は製品版でお楽しみください)