プロローグ
これで良かったんだ、間違ってないと自分に言い聞かせながら、神原(かんばら)美空(みく)は胸元に手を当てた。ゆったりと三つ編みに結んでいた黒髪はほどけて広がり、着ていたブラウスとタイトスカートは床に落ちていた。くりっとした目で圷(あくつ)をじっと見てしまう。小柄な美空は彼に組み敷かれると、ほぼ自由がなかった。
ベッドの上で硬直している自分を見て、三〇才の圷周磨(しゅうま)はどう思っているのだろう。まだ処女だったのかと呆れているか、それとも逆に喜ぶタイプなのか。
様子を窺うように見れば、圷は顔を背けていた。
「ごめんなさい。慣れてなくて」
思わず謝るが、圷は「こっちこそごめん」と言ってじっと見つめてくるだけだ。
まるでお互いに初めてと言わんばかりだが、圷に限ってそれはない。
会社でも人気があり、女子はバレンタインなどで彼を狙っていた。
美空が『彼女』というポジションではなく『セフレ』という立場になれたのは、本人にとっても意外だったが、それでも嬉しいことだった。
裸のまま見つめあっていると、圷が口付けてきた。
「んっ……」
初めて感じる熱っぽい口付けに美空は一気に蕩けた。
体を預けるように圷の首に手を回し、甘えてみせる。
すると、圷はそのまま舌を口内で這わせて楽しむように蠢かせた。
「はぁ……あぁ……」
蕩けていく感覚と羞恥心から、息を乱すだけでも恥ずかしくてたまらない。
「神原さん、可愛いね」
「そんなことないです」
「手、どけて」
胸を隠していた手を払われると、そのまま鷲掴みにされる。
いきなりのことで驚いたが、美空は嬉しくて歓喜の声をあげていた。
「ああっあっ!」
「感じやすいんだ」
首を振って否定するが、やわやわと揉まれるたびに体がくねり、腹の奥がジンジンしてくる。
まるで物足りないとばかりに体は圷を求めていた。
(恥ずかし……でも、少しでも一緒にいたいから)
「セフレに向いてないんじゃないの?」
「え?」
突然言われて、美空は戸惑った。
「男に慣れてるわけじゃなさそうだから」
「ご、ごめんなさい! どうすればいいですか?」
「このままでいいよ。このままで神原さんは可愛い」
「え……」
認められている、そう勘違いしそうな言葉だが、圷の彼女になれなかったからセフレになろうと決めたのだ。
特定の彼女を作らない――バレンタインデーの日にそう宣言した彼は、大勢の女性を振った。
でも、セフレならなってもいいということになり、こうして強引に体の関係を持っている。
圷の黒のタイトスーツが似合う細身の体躯は魅力的で、その少し冷めた目は戸惑いを今にも見抜いてきそうで、美空は顔もまともに見れなかった。
そのまま圷が膨らみに舌を這わせる。
「あっああっ!」
感じたことのない刺激に、美空は体を退け反らせる。
シーツを引いて逃げようとするが、圷は許さないとばかりに先端を舐めてきた。
「やぁっ!」
「気持ちいいってことだね? 反応が初心でいい」
舌が往復し始めると、ぴちゃぴちゃと卑猥な音がし始め、美空はいやいやと首を振った。
「やっ、だ、だめっ」
「だめ? 何が? セフレでしょ?」
「でもっ……」
(体が変になってく。こんな恥ずかしいところ、圷さんに見られたくない!)
身を捩って逃げると、今度は足を大きく開脚させられた。
下着の上から秘丘をなぞられて、美空は体を跳ねさせる。
「あっ!」
「濡れて滲み出てる。神原さん、いい感じになってきたんじゃないかな」
「ち、違いますっ」
「こういう場合、セフレなら否定しないこと」
「でもっ」
(勢いでセフレって言っただけで。心からセフレになりたいわけじゃない)
苦しい思いを胸に秘めていると、圷が下着に指を潜らせて蜜芽を摘まむ。
「あっああっ!」
恥ずかしさでいっぱいになるものの、圷の太い指が下着の中に入り込んでいると思うと複雑だった。
このまま一気にめちゃくちゃにしてほしい衝動が湧いてきてしまう。
しかし、圷は楽しむようにぬちぬちと音を立てて蜜芽をいじり回した。
「あっあっあっ! だ、だめっ」
「ダメじゃないよね。ほら、両方弄ろう」
言われて、膨らみも両方いじられると、美空は一気に頭を蕩けさせる。
感じたことのない感覚に体がヒクヒクして止まらない。
「やあ……っ! それ以上……されたらっ」
「イキそう、だね?」
「ちが……」
「蜜が止まらないのに? ほら、神原さん、自分で下着脱いで?」
「えっ」
突然の申し出に美空は戸惑った。
好きならなんでもやって見せろ、そういうことだろうか。
女性に命令するような、そんな趣味が圷にあったのかと思うと意外だが。
寝転がったまま下着を脱ぐと、蜜が糸を引いた。
恥ずかしいと思いつつも脱ぎ捨てた美空は秘丘を手で覆う。
「すぐに隠すね」
「恥ずかしい、ですから」
「見せて?」
そう言って手を払われ、秘部が露になってしまう。
頬を赤らめると、圷の指先がするすると丘を撫で出した。
「あっああっ!」
感じたことのない刺激に、美空は体を捩って逃げた。
「やっぱり蜜が溢れて止まらない」
圷は蜜を舐めとると、そのまま美空の秘丘に顔を埋めた。
「だ、だめっ!」
「なんで? セフレなんだから、お互いに好きにしようよ」
「汚いですから」
「お風呂ならいいの?」
「それも、だめですっ」
美空は顔を背ける。
ただの言い訳に過ぎないことは分かっている。
「全部ダメなら、今舐めるしかないよね」
這うように舌で蜜玉を転がされ、美空はシーツを引いた。
「あっああっ!」
「体の相性、良いと思うけど」
そう言われたが、美空は複雑だ。
別の時間軸では、圷と美空はバレンタインデーの一週間前から付き合っていたはずだった。
彼女という立場を手に入れたはずだったのだ。
それなのに、どうしてセフレにしかなれないんだろうか。
(この後は製品版でお楽しみください)