プロローグ
月の第一日曜日は、普段頑張っている〝自分へのご褒美〟の日。
まだまだ寒い日が続きそうな二月はじめの休日、智花は精一杯のおしゃれをして「啓太」を待つ。着ているブラウスとフレアスカートは一昨日買ったばかりだし、セットで買った下着も下ろしたてだ。
「そろそろ来る頃かな」
智花は今一度洗面台の前に立って、身だしなみを整える。
その時、マンションの前でオートバイが停まる音が聞こえた。
智花は急いで玄関に向かい、髪の毛を掌で撫でつける。
足音が玄関前で停まった。
チャイムが鳴り、ドア越しに明るい男性の声が聞こえてくる。
「お待たせしました。ランランデリバリーです」
――啓太だ!
智花はすぐにドアを開けて亜麻色の髪をした配達員を中に招き入れた。
彼は宅配ポータルサイトの「ランランデリバリー」の配達員だ。智花が住んでいる地区一帯を活動拠点にしているらしく、毎月お世話になっていた。
「配達ご苦労さま。外、寒いし雨の中、たいへんだったでしょう?」
智花がねぎらいの言葉をかけると、啓太は爽やかな顔でにっこりと微笑んだ。
ただでさえ男前なのに、笑うといっそう魅力が増す。
「いいえ、これくらい平気ですよ」
「そう? 夜にかけて雨脚が強まるみたいだから、気をつけてね」
「はい」
大型リュックサックを背中から降ろすと、啓太が玄関先で跪いた。
秀でた眉とまっすぐの鼻筋。彼の容姿はどの角度から見ても完璧で非の打ち所がない。
「ご注文の品、イチゴチョコカスタード生クリームと、ベーコンレタスのクレープです」
差し出された品を受け取り、玄関からすぐの位置にある冷蔵庫の中に入れる。
「ありがとう。えっと……代金は――」
智花が玄関のほうを振り返ると、啓太がいつの間にかすぐ近くまで来ていた。
「一八五〇円です。お支払いは、いつものとおり〝智花さん自身〟で――ってことでいいんですよね?」
「うん……啓太くんさえよければ」
「もちろん、僕はそれで構いませんよ。いや……むしろ、そうじゃなきゃ嫌だな。だって、もうすっかりその気なので――」
じりじりと詰め寄られ、リビングルームまで後ずさる。部屋はフローリングで、ラグは敷いていない。
「啓太く……ん、んっ……」
見つめ合ったまま部屋の隅にあるベッドまで進み、立ち止まると同時に唇を奪われて舌を口の中にねじ込まれた。
まるで成人向けビデオのような始まり方。
けれど、決して男性向けのものではない。あくまでもロマンチック、なおかつエロチックで女性がキュンとするシーンありのストーリー展開のものだ。
彼の左腕に抱き寄せられ、あっという間にスカートが床に落ちた。
「これ、いいですね。すごくエッチっぽい」
啓太がショーツの腰ひもに指をかける。それを解かれると、恥骨の下部を覆う柔毛があらわになった。
ブラウスの前が開き、両方の乳房が彼の目前に零れ落ちる。
にんまりと笑う啓太の口角に、チラリと赤い舌が覗いた。
「ノーブラとか……智花さん、あきらかに僕を煽ってますよね?」
そして啓太が腰を屈め、大きな口を開けて乳房にかぶりついてきた。舌で乳先を転がされ、思わず身をよじって声を上げる。
「あんっ……け……いたくんっ……」
「智花さん、僕とこうするの好きですか?」
ゆっくりとベッドに押し倒され、耳朶を舌で愛撫される。
勝手知ったる他人の家――啓太の手がサイドテーブルの引き出しを開け、中から避妊具の小袋を取り出した。自然と息が荒くなり、頬が痛いほど火照ってくる。
「僕は、とても好きです。だって、僕と智花さん……身体の相性がものすごくいいですよね? そう思いませんか?」
唇に触れるだけのキスを繰り返しながら、啓太がそう訊ねてくる。
すでに腰砕けになっていた智花は、半裸の状態で啓太の下で返事もできずに喘ぎ声を漏らした。すると、ふいに唇が遠のき、布擦れの音がした。啓太が着ているものを次々に脱ぎだしていたのだ。彼がそうしている間に、智花もブラウスと下着を脱いで一糸まとわぬ姿になった。
智花に見つめられた啓太が、わざとのようにセクシーな表情を浮かべる。そして、勃起した自身のものを掴み、切っ先を蜜窟の入り口にぴったりと添わせてきた。
「さあこれで準備オッケーです。いつでも智花さんの気持ちいいところを突いてあげられますよ」
智花の腰を挟むようにして膝立ちになった啓太が、満足そうに微笑みを浮かべた。
「啓太くんっ……」
名前を呼んで啓太のほうに手を伸ばすと、彼は智花の腰を引き寄せ、一気に蜜棒を挿入した。
「ああっ……んっ……ん、ふっ……あああっ」
ワンルームマンションの壁は薄く、思いきり大声を上げるわけにもいかない。
智花はいつものように唇を噛み、必死になって声を押し殺した。
その様子を見て、啓太が笑みを浮かべながら腰の動きを早くする。脳天を突き抜けるような快楽を感じて、智花は恍惚となりながら目を硬く閉じた。
「啓……太っ……気持ちいい……ふあぁっ……!」
これだから〝自分へのご褒美〟は止められない。
近づく啓太の唇にキスをしながら、智花は彼の身体に全力でしがみついた。
(このあとは製品版でお楽しみください)