「……ふ、ぁッ――」
窓の外には吸い込まれそうな星々の輝き。
夜空とを隔てるガラスを曇らせる吐息は、蓮田真璃香(はすだまりか)の唇から絶え間なくもれ聞こえる喘ぎによるものだ。窓の下に張り出したタイルの上に手をついた真璃香は背後から伸びる男の大きな手に裸体をまさぐられている。腿の付け根に沿って腰まで上ってきたそれは、真璃香の下半身を覆う拘束具越しに敏感なところを撫でた。
「ッ……」
がっちりと秘めた場所を守るその名を――貞操帯という。
「邪魔だなあ」
耳元で男の気だるげな声がした。
「ぁ、ッ……」
その声にすら感じ入るように、真璃香は喘ぐ。
「これ、外しちゃおうよ。鍵は君が持ってるんでしょ?」
するりともう片方の手が太腿を撫で上げ、そのまま脇腹を通って剥き出しの乳房をこねた。びくん、と真璃香の背がしなる。
男は器用に指先を使い、柔らかな胸を弄ぶ。
「ぃや、ッあ」
何度もそこを揉まれ、真璃香は淫らに体をよじった。
愛撫するごとに淫猥な形へと変わる乳房の触り心地は彼の嗜虐心をそそったらしい。くすくすと笑い、しつこくそこを攻めてくる。
「君のここ、すごく柔らかくてたまらないね。いつまでも触っていたくなる」
ざぱん、と湯が波打つ音がして男がぴたりと背後に寄り添う感触があった。直接、肌に当たる男のみずみずしい筋肉の感触と体温を感じて、真璃香は頬を赤らめた。
「ぁ……」
ぴたりと耳元に当てられた唇がささやきを吹き込む。
「男にこうされるの、初めて? 真面目そうだもんね。恥ずかしがってる顔がすごくそそるよ」
顎をとられ、振り返らされたすぐ間近に男の整った顔があって真璃香はどきりと息を呑む。高い鼻梁に涼やかな目元。薄っすらと色づく形の良い唇に浮かぶのは、甘い誘惑の微笑み。
宇能壬涼(うのうみすず)――二十五歳になる彼は、この高級タワーマンションのオーナーだ。祖父に不動産王と名高い大富豪の宇能百太(ももた)を持つ、超のつくお金持ちである。
その最上階にある彼のプライベートルームに呼ばれた真璃香は服を脱がされ、有無を言わさずに浴室へと連れ込まれて今に至る。
「あ、ぁ」
執拗に胸を愛撫されているうちにぞくぞくとする快感が下半身に生まれ、真璃香は堪えるように目を閉じた。その間にも、壬涼の手は動きを速めていく。背後から抱きすくめられるような格好で、両手を使って左右の乳房を揉みしだかれ、言いようのない感覚に喉をそらして身悶える。
「や、あぁ、ッぁ」
「かわいい」
ちゅ、と耳朶を唇で吸われる。
(なんで、私、こんな目に……ッ)
はぁ、と苦しい息を吐き出して、真璃香は自分をこんな境遇に陥れた友人を呪った。本当は彼女がこうなるはずだったのだ。なのに、寿退社してしまった彼女の代わりに急遽、同期の真璃香に白羽の矢が立った。
「壬涼、さん……ッ、やっぱりこんなの、おかしい……です……! 私、こんなお仕事だとは思ってなか、ひゃッ――」
くい、っと乳首を摘ままれ、思わず悲鳴が出てしまう。
「やだ、やッ……」
「やだなあ、ちゃんと契約書に書いてあったでしょ?」
くすりと笑った男は、防水用のケースに入れた一枚の書類を真璃香の前に見せる。
「甲は乙をこのマンションの管理人として雇用し、乙はその仕事に従事する。なお、通常業務の他にオーナーである宇能壬涼の性欲管理もその業務に含まれる」
窓際に置かれたそれを、真璃香は見ていられなかった。
壬涼がぎゅっ、と背後から真璃香の体を抱きしめ、熱い吐息を耳に吹きかけたからである。
「ぁ――」
「でも、残念な項目もあるね。ただし、本番だけは厳禁。乙は常に貞操帯を身に着け、この鍵は甲側の立会人が所持すること」
「ひぁ、あッ」
首筋を甘く噛まれ、真璃香はびくびくと腰を揺らす。
「ねえ、辛くない? ひどい契約だよね。どれだけ気持ちよくしてあげても、これがある限り、君の中には入っていけない」
再び、男の指先が真璃香の陰部を鋼の拘束具越しにさすった。羞恥に耐えきれず、涙がこみ上げる。このような器具をつけられ、体をなぶられ、なんという拷問だろうか。
(恥ずかしくて死にそう……!)
真璃香が羞恥に涙を呑む間にも、壬涼の愛撫はエスカレートしていく。抱きすくめたまま太腿の辺りを手のひらで撫で擦り、きわどい所を指先でなぞる。
「ゃ、あ……っ」
じんわりとした熱さをともなう感覚が脚の付け根に生まれ、そこが湿っていくのを真璃香は自覚した。
「感じてるね」
壬涼は真璃香の首筋に舌を這わせながらシャワーに手を伸ばす。すぐに湯音がして、シャワーから出た湯が浴室を濡らしていった。
「触れないんだから、こうするしかないよね?」
微かに笑う気配があったと思った途端、無防備だった下半身にシャワーの湯が下から当てられる。
「やッ――」
びくん、と真璃香は背を反らせて逃げようともがいた。
「ゃ、ひぁ、あッ!」
「なんで? 気持ちよくない?」
壬涼は可愛い抵抗をいなし、真璃香の左腿を左手で軽く抱え上げる。そうして左右に開いた秘部へとシャワーヘッドを近づけた。
「んぁ、やッ……ぁ、あッ」
温かい飛沫が感じやすくなっている部分を刺激する。
自分の腕の中でびくびくと悶える真璃香を、壬涼は満足そうな顔で見つめている。最高の玩具を手に入れた無垢な子どものような笑みだった。「やめ、も、ぁッ、や、あッ――」
こらえきれないほどの感覚が下半身からせり上がってくる。真璃香は目じりに涙をためて、懇願するように頭を左右に振り乱した。
「私、こんなのッ……耐えられな、ぁ、ッあ」
「少しずつ覚えていけばいいんだよ。なにも恥ずかしいことじゃない。ほら、俺だってこんなになってるんだから」
「――ッ」
腰に擦り付けられる固くて熱いものの正体に気づいた真璃香は言葉を呑み、耳まで紅潮させた。それはもう、すっかりそそり立ち、ぬるりとした液体まで滴らせている……――。
「どうしようかな。口か、脚か」
「ぁ、ふッ」
壬涼はシャワーを戻すと、空いた指を真璃香の唇に這わせた。そこを指の腹で擦ってから歯列を割って中へ侵入させる。突然に口へ含まされた男の指をどうしていいのかわからず、真璃香は泣きそうな声を漏らす。
「んぁ、あ、ッン……!」
飲み込み切れなかった滴(しずく)が唇からこぼれ、胸元に滴り落ちた。ぬるりとした唾液の滑りを借りた男の手のひらが乳房を揉みつぶすように行き来する。
「ン、ッあ」
ようやく指を引き抜かれ、真璃香は荒い息を繰り返す。
「ん――……ッ」
だが、唾液で濡れた男の指が太腿の内側に触れた途端、びくんと背をしならせた。
「壬涼、さ……ッ、あ」
そこを丹念に唾液で濡らした壬涼は、真璃香の腰をぐいと引き寄せてその脚の合間に屹立した己を挟み込ませる。触れた肌からぞくっ、と背筋を迸った淫らな感覚に真璃香はおののいた。
「ぁ、やッ」
身じろぎすると、男の形がリアルに伝わってくる。
「動くよ」
壬涼は甘くささやき、言葉通りに腰を前後に振り始めた。
「や、ぁ、あッ!」
タイルの上に手をつき、腰を突き出した格好で真璃香は羞恥に濡れた声を上げる。唾液で滑りをよくされたそこは壬涼の動きを助け、ほどよい摩擦を与えてしまっているようだ。
「こんなの、やめてッ、やぁ、あッ――!」
「どうして? 気持ちよくない?」
壬涼は舌で真璃香の耳朶をなぶる。
「私、こんな――こんな――ッ」
信じられない思いで、真璃香は喘ぎ続ける。
ほんの少し前まで、どこにでもいる普通の派遣社員だったはずの自分。高校を出て地元の不動産代理店に雇われ、それなりにちゃんと働いてきたつもりだ。
もちろん恋愛にはそれなりに興味はあったものの、いい子から逸脱できなかった真面目な自分。それが今は、こんなに卑猥な格好で後ろから男――それも極上の美形のお金持ち――に攻められている。
(逃げ出さなきゃ、こんなの、絶対におかしいんだから)
なのに、脚が動かない。
ぬるりと肌を濡らすのは、いまや最初に塗り込められた唾液だけではない。真璃香の秘部から滴り落ちたそれと壬涼の屹立した先端から染み出したそれが交じり合った愛液だった。
「ねえ、顔見せて?」
ようやく脚から男のものが抜かれたと思った矢先、体の向きを変えられる。ぎゅっと目を閉じて顔を背けると、顎を取られて強引に仰向かせられた。
「ぁ……ッ」
脚の間に男の膝が差し込まれ、そこを閉じられないようにされる。
値踏みするような視線に全身を晒す羞恥に、真璃香は懸命に耐えた。散々、愛撫された体は熱を持って紅潮し、その視線にさえ感じ入るように微かな痙攣を見せる。
「キス、しようか」
「――!」
彼はまるで、真璃香がその経験すらないことを見透かしたかのような微笑を浮かべている。
「あの、あッ……!」
ぐい、と顎を掴む手に力が入り、頭ひとつ分以上背の高い彼を真下から見上げる形になった。
「こわい?」
いまさら尋ねる彼に、真璃香は震える声で「いいえ」と強がる。
「ふうん」
その反応すら楽しむように――まるで退屈を紛らわす猫のように――壬涼は微笑み、ゆっくりと唇を近づけた。微かに触れた後、角度を変えて深く重ねられる。
「ん、ぁ」
苦しくなって薄く開いた唇に濡れた舌が割って入る。
「ンふ、ふぁ」
真璃香は男の胸を突き放すように手を触れるが、どうしても力が入らない。舌を探られ、甘く吸われると腰が砕けそうになる。
「ぁ、んッ、あ、ふッ……」
浴室に舌を絡め合う卑猥な音が響き渡った。
いつしか壬涼の手に導かれた真璃香の手には、先走りを滴らせる男のそれ。無理やり握らされたそれを、不器用にいじる。口付けがさらに深まり、それぞれに濡れた音を立てる。
「ン、ぁ、あ」
手のひらの中で、どくんと破裂しそうなほどに高まったそれがついに弾けた。
「ゃッ……――」
手だけではなく、胸元や頬にまで飛び散った熱い飛沫に真璃香は悲鳴を上げる。
「…………」
男の放った白濁した液体に汚された自分の体を見た時、真璃香の中でなにかが切れる音がした。もう、戻れない――。呆然と汚れた手を見ていると、壬涼に名を呼ばれる。
「真璃香、おいで」
手を引かれ、ふたりで温かい湯船の中に体を沈めた。
真璃香を腰の上にまたがらせた壬涼は射精した直後で僅かに上気した頬にまだ物足りなさげな笑みを浮かべ、湯の中にある白い大腿を撫で上げる。
「次は君の番だよ。ほら、おいで。もっと気持ちよくしてあげるから――」
(このあとは製品版でお楽しみください)