ベッドへ仰向けに押し倒されたリーゼルの足に、男の大きな手のひらが触れる。びくりと震えるのも構わず、少し乱暴な慣れた手つきで小さな足の甲から滑らかな脛、膝頭と順番になでていく。
(っ……)
絹の夜着に隠された太腿から足の付け根にその指先が達した途端、リーゼルはもう少しで悲鳴をあげそうになった。
「ふ、ぅん……」
祈るように握りしめた両手を口元にあて、声をこらえる。
こわい。
「どうした、震えているだけではそそられないぞ」
「っ、あっ」
男の意図は明白で、硬く閉ざした花の蕾と同じく、外の世界を何も知らないリーゼルの身体を咲かせようとしているのだった。
「いやっ……」
リーゼルは本能的に首をふる。長い亜麻色の髪が白いシーツの上で乱れた。華奢な体は組み敷かれると男の胸の下にすっぽりと入り込んでしまう。
「――!」
男の指が淡い茂みに触れた感触に、リーゼルは堪え切れずに彼の名を叫んだ。
「ア、アレックスさま」
そんなところを他人に触られる日が来るなんて思いもしなかった。
知識としては男女の営みも承知している。
けれど、リーゼルが知っているそれは、絵本や小説の中で幸せそうに笑顔を交わしあい、抱き合って口づけを交わす程度のものでしかなかった。
リーゼルの、最も秘された部分をアレックスと呼ばれた男は何のためらいもなしに指で押し広げた。いや! と叫びたかった。いますぐこの場から、逃げたかった。
「ひ、ぁっ」
慣れた手つきで秘所のひだをこすられ、息を飲む。
「あ、ん……っ」
びりっ、と股間から脳天にまで痺れるような感覚が突き抜けた。腰が震えた。
「あ、あっ」
「そう怖がるな、まったく……叔父上もやっかいなものを押し付けてくれたものだな。ずいぶんと俺のことがお嫌いらしい」
アレックスはリーゼルを抱きすくめる。
その情緒的な声色で甘い言葉を囁けば、大抵の女を陶酔させるだろう。けれどアレックスは何となく投げやりな風情なのであった。それは彼の格好にもあらわれている。夜着ではなく、外行きの上着とシャツ姿だった。城の外から帰ったその足で、今夜から愛妾(あいじん)として彼のものになるリーゼルの部屋を訪れたのである。
リーゼルのふっくらとした胸は、アレックスの胸元に潰され、彼がみじろぐたびに形を変える。濡れた舌先でなめられた首筋は弾けてしまうのでは、と心配になるほどの早さで脈を打ち続けた。
(わ、わたし、わたし、どうなってしまうの……!?)
アレックスの指使いは相変わらず大雑把で、処女のリーゼルを気遣う素振りはまったく感じられない。それにも関わらず、リーゼルの息は既にあがってしまっていた。
下手に遠慮したような手つきよりも、ただ純粋に己の性欲を満たそうとする獣じみた行為だからこそ、リーゼルの内奥にひそむ快楽の花芯は敏感に反応を示したのかもしれない。
アレックスの腰をはさむように大きく開かされたリーゼルの白い腿が、彼の指が動くたびにひくひくと震えた。入り口にあった指がゆっくりと押し込まれ、撫でるように中を広げてゆく――……。
「んっ……」
ぐい、と内壁を押されたリーゼルは両目を固くつむる。
すると、アレックスが不本意そうな声をあげた。
「そう身を固くされると、無理やり犯しているような気分になってくるじゃないか。もっと愉しめ、ほら」
そんなことを言い始めるので、リーゼルは思いきり心の中で叫ぶ。
(無理やり犯すのと何がちがうのよ――!!)
リーゼルを今まさに抱こうとしているこの男は、殿下と呼ばれる身分である。
大陸一の国力を誇るウルバッハ帝国の前皇帝を父に持つ、皇子のひとり――。
一方、リーゼルは彼の愛妾として宮廷に召し上げられた伯爵令嬢。そこには政治的な思惑が絡み合い、リーゼルの意志はないがしろにされている。
思わず泣きたくなった。
だめ、とこらえる。
(わたしがちゃんとしなければ、お父さまがお困りになるのよ)
顔をそむけ、上半身をよじって耐えるリーゼルの体はアレックスの手によっていつの間にかうつ伏せにされていた。
そのまま絹のスリップを脱がされる。
「あっ」
やめて、と心の中で叫んだ。
(おかしくなりそう――……!)
背後から男のたくましい腕に抱きかかえられ、乱暴に胸を揉みしだかれる。華奢な身体に不釣り合いな胸の膨らみはたっぷりとアレックスの手のひらを満たし、無垢(むく)な桃色をした乳首は張り詰めんばかりに立ち上がってくる。
まだ微かな兆し程度ではあるものの、そこには確かに快楽の芽のようなものが疼き始めている。
「ぁ、あ、んっ!」
「ああ、やっと濡れてきたな……」
暗闇のなか、アレックスの表情はわからない。
それどころか、リーゼルは彼の顔すらよく知らなかった。きちんとした挨拶もないままにリーゼルは愛妾用の館に放り込まれ、初夜を迎えている。
「まったく……叔父上も何を考えておられるのやら。俺がまだ未婚であるのをいいことに次から次へと政略相手の娘を押し付けるのだから、たまったものじゃない」
アレックスがふてくされたように言うので、リーゼルはかすむ頭で考える。
(アレックスさまの叔父上って、この帝国の……)
それはリーゼルを彼の愛妾に指名した現皇帝陛下に他ならない。誰も逆らうことのできない、帝国玉座に座る、唯一無二の存在だ。
「あ、ふ……っ」
再び仰向けにされたとき、リーゼルは既に意識がもうろうとしていた。
体のあらゆるところを愛撫され、ほぐされた肌の表面は汗と唾液によって、てらてらとぬめる。一体いつ、下着を脱がされたのか記憶にない。
気づけば全裸で、しかも両脚は膝を折り曲げた格好で大きく広げられている。
それを恥ずかしいと思う余裕すら、いまのリーゼルにはなかった。
「……だな」
「え……?」
「顔は幼いが、体は十分に大人だな、と言った」
そこでようやく、リーゼルはハッと目を見開く。
慌てて足を閉じようとするが、遅かった。
既にそこにはアレックスがたくましい腰を滑り込ませている。
「――っ」
本能的に、あるいは反射的に、リーゼルの体が動いた。
頭では逃げてはいけないとわかっていても、体は勝手に動いた。ベッドから起き上がろうとするその腕をアレックスはなんなく捕まえてひとまとめにして頭上へ抑え込んでしまう。
「っ……」
腿(もも)に触れた固い感触
。
先は濡れている。
滑らかで、熱い。
なに、と頭は考えるけれど体はじんと痺れて、まるでその正体を知っているような素振りなのが不思議だった。
「足を開け」
当たり前のようにアレックスは言う。
命令というよりは、そうするものだからと、さとす口調に近い。
「…………」
両腕をとらえられたまま、どうすることもできずにリーゼルは従った。
羞恥に頬を染め、それでも、そっと腿を開く。
「もっとだ」
「……!」
ぎゅっと目をつぶり、さらに足を開いた。
男の眼前に秘所の全てが晒される。その、散々にほぐされて、ぱかりと開いたひだをかきわけて押し付けられる肉の剣――。
「ひぅっ……」
足の指がシーツの上を滑る。
ぐっ、と狭い中を貫いて進むアレックスの雄は遠慮というものを知らない。ぎち、と音がしたような気がする。リーゼルは激しく首を横に振った。
「む、無理です……入りませんっ……」
「入る」
「入りませんったら……!」
「いいから、俺にしがみついていろ」
解放したリーゼルの腕を自分の首に回させて、これで両手が使えるとばかりにアレックスはリーゼルの腰を掴み、引き寄せた。嬌声をあげて背をしならせるリーゼルの内部へと強引に己の雄をねじ込む――!
「あぁっ!!」
熱い!
灼熱の剣に体内を貫かれて、リーゼルは助けを請(こ)うように喘いだ。言われた通り、アレックスにしがみつく。それを待っていたかのように、激しく揺さぶられる。
「あ、ふっ」
だめ、と叫びたいのをリーゼルは呑み込んだ。
アレックスの吐息が耳を撫でる。彼が突くたびに、リーゼルの足先が宙で踊る。どこからどこまでが自分の体なのか、もうわからない。それでも拒否はできない。逃げてはならない。
「あ、はぁ、あんっ、んっ……!」
「そういえば名前を聞いていなかったな」
懸命に男を受け入れるリーゼルの頬を撫でながら、アレックスは今更のように尋ねた。
リーゼルは喘ぎながらも、自らの名を名乗る。
「リ、リーゼ、ル……っ……リーゼル・フォン……コルネリウス、にございます――っ……」
「……コルネリウスだと?」