進められる手の感触に恐怖を覚えながら、しかしアンジェリカは陶然としてしまう。
「あっ……」
「ここが気持ちいいの?」
耳殻に唇を押しつけるようにささやかれ、ぞくりと身体が震えた。
男の指先はついに、アンジェリカが今まで誰にも触れられたことのない秘所にまでたどり着き、花弁を包み込むように触れられたあと、柔肉をそっと押し開いた。
とたんに、アンジェリカの口からは、これまで出したことのない嬌声が漏れ出る。
「い、やあっ……ふ……あ、あんっ――」
「いやなの? うそだよね?」
男は意地悪く喉で笑い、いやらしく指先を動かし始めた。
すると、アンジェリカの秘められた部分からは次第に水音が響くようになり、しっとりと濡れた蜜口から流れた愛液が、つうっと太ももに伝っていくことが自分でもわかった。
「せ、せめて……ちゃんと、ベッドで……」
懇願するように目を向けた先に、天蓋付きの大きなベッドが鎮座していた。とうの彼が与えてくれたはずの豪奢なリネンと、クッションがいくつも並んでいる。
それなのに彼は、アンジェリカの寝室に入ってくるや否や、まだ昼間にも関わらず、性急に窓際の長椅子に押し倒したのである。
アンジェリカは無論のこと、抵抗に身体を起こして逃げようとしたのだったが、すぐに後ろから男の強い腕に捕らわれてしまった。今は窓枠に手をつかされ、長椅子の座面に膝をのせた不安定な状態で、彼に覆い被さられているところであった。
彼の右手はドレスの胸元を探り続け、左手は裾を割り開いた秘所に伸びたままだ。
「くぅ――」
アンジェリカの懇願に気を悪くしたのか、唐突に男の口が彼女の耳朶(じだ)を食(は)む。
甘い痺(しび)れが体内を駆け抜けた。が、アンジェリカはこれ以上、変な声を出したくはなかったから、懸命に唇を噛んでその快感をこらえていた。
「ねえ、アンジェ。僕は今すぐに、君が欲しいんだよ」
それは広々とした部屋だから、ベッドさえ遠く感じるということだろうか。
彼が愛称で呼んでくれたことはうれしかったけれど、アンジェリカは未だ戸惑いを隠せない。
アンジェリカが返答に困っていると、男が不安げに続けた。
「――君は、僕が嫌いなの?」
「……っ」
その問いには、アンジェリカは即座にぶんぶんと首を横に振った。
「好き――好き、です……!」
嫌いなはずがなかった。婚約者となったハルフォード侯爵に、一目惚れしてしまったのは、紛うことなき事実なのだから。
しかし、この城にきてから夜伽の覚悟をしていたアンジェリカを前に、そのハルフォード侯爵が婚前交渉はしないと断言した。結婚前の淫らな行為で、アンジェリカを汚したくはないと。アンジェリカを大切にしたいと、そう言ってくれたのだ。
男の人に慣れていないアンジェリカだったから、その言葉にどんなに救われたことか。そして、そんな優しいハルフォード侯爵を、ますます好きになってしまっていた。
だからなぜ、こんなことになってしまったのか――アンジェリカには、わからない。
「だったら、アンジェ。君は僕のものだ」
ハルフォード侯爵はなぜか自嘲気味に低く笑うと、胸元から抜き出した右手でアンジェリカの顎をつかむ。
「んぅっ……!」
そのままぐいと上向かされ、大きく喉をそらせたアンジェリカは、後ろからハルフォード侯爵のキスを受けることになった。
「はっ……ふぁっ……」
それは息継ぎすらままならない深い口づけだった。
唇をなぞるようになめられたあと、彼の舌は明確な意思をもってアンジェリカの口腔内に滑り込んできた。歯列を割り、歯茎から頬の裏、口蓋と、愛撫するように順に探られる。やがてそれが、ぎこちなく引っ込められたアンジェリカの舌を捉えると、無遠慮に絡ませてきたのであった。
「はあっ……んう……ふっ――」
こんなキスは知らないと、アンジェリカは次第にとろけていく頭の中で思う。
ハルフォード侯爵が与えてくれたキスはいつも、羽のように軽く、甘いものだった。
唇を重ねるだけの口づけと、抱き締めてくれる心地よさを知ったばかりのアンジェリカには、それがひどく淫らな行為に思えた。
羞恥に顔を染めながら、せめて反抗するように顔をそらそうとするが、がっちりとつかまれているので少しも動かすことができない。
それどころか、自由なはずの両腕や両足でさえ、まるで捕らわれているかのようにアンジェリカの思い通りになってくれないのだ。ハルフォード侯爵の一挙一動に、ぴくりぴくりと反応するだけである。
「キスだけでこんなになるなんてね」
ようやく唇を離してくれたハルフォード侯爵の左手が、さらにアンジェリカの奥をあばくように進む。ぐっしょりと濡れた秘部に、ずずっと指先が差し入れられた。
「ひぅっ!」
アンジェリカはあまりの愉悦に身体をすくませ、反射的に逃れようともがいていた。
「ダメだよ、アンジェ。だって、こんなになってるんだよ?」
子供を叱るような口調で、ハルフォード侯爵はアンジェリカをたしなめる。
秘部を探る指はいつの間にか三本にまで増やされていて、ぐちぐちと卑猥(ひわい)な音を立てながら、抽送(ちゅうそう)を繰り返していた。侯爵の折り曲げた指の関節が深くアンジェリカの中に出し入れされるたびに、蜜孔からはとめどない愛液がこぼれていく。
「あ、あ、それっ……いやぁ……っ」
抗うことも忘れ、アンジェリカは与えられる快感に身もだえてしまう。
するとハルフォード侯爵は、アンジェリカの言葉を汲み取ってくれたのか、やんわりと言い継いだ。
「そうだね。これじゃあ、いやだよね」
ずるりと抜かれた彼の指先には糸を引くように、ねばついた液体が絡みついている。
アンジェリカは恥ずかしくなって目を伏せ、これ以上ひどいことはされないのだろうと安堵に胸をなで下ろしたが、ぞっとするような虚脱感を意識しないわけにはいかなかった。
アンジェリカの蜜孔は、もっと侯爵の指先を吸っていたかったと主張するように、ひくひくと妖しくうごめいていたのだった。
下ろされたままのドロワーズに手をかけようとしていたアンジェリカの目の端に、しかし信じられない光景が映る。
ハルフォード侯爵が、自身にまとわせていたトラウザーズの前をくつろがせていたのであった。
「……っ」
ひっと息を呑むアンジェリカを前に、そそり立った侯爵の男根があらわになる。
「アンジェ。君
が求めている方をあげるよ」
そう言って彼は、固く熱を持った己の先端を、後ろからアンジェリカの蜜口に押し当てた。
何をされるのかわかったアンジェリカは慌てて身を引こうとするも、ハルフォード侯爵の腕が腰に回されていて逃れられなかった。そのまま強い力でぐっと尻を突き出すような格好をさせられ、秘列をなぞるように彼の鈴口を使って蜜を塗りたくられる。
「んふう……っ」
ぞくりとするような感覚に身体を震わせているアンジェリカの蜜孔が、ハルフォード侯爵の肉棒によってぐっと押し広げられ始めた。
「あああっ!!」
媚肉が左右に割られる感覚に、アンジェリカはひときわ大きな悲鳴を上げる。
とろとろにとろけきっていても、そこは男性を初めて受け入れる衝撃にわなないていたが、侯爵の熱杭は構わずにアンジェリカを貫いた。
「――――」
目のくらむような痛みと、ふっと苦しげにうめくハルフォード侯爵の吐息が耳にかかり、アンジェリカは身を強張らせる。
「アンジェ。アンジェ、思った通り……君は僕の心だけでなく、身体も締めつける」
「……っ……っ――」
腰を引いては押し進めるという行為をひたすらに繰り返すハルフォード侯爵は、アンジェリカとつながっていることに陶酔しているようだったが、アンジェリカの方は先ほどまでの快感などとうに吹き飛んでおり、破瓜(はか)のつらさに瞳を濡らしていた。
ただただ、早く終わって欲しいと、唇を噛んでこらえている。
やがてハルフォード侯爵は、アンジェリカの尻に強く腰を打ちつけると、ぶるりと身を震わせた。
あまりにも唐突に体内で熱が弾けたことに、アンジェリカは呆然としてしまう。
まるで一滴も逃さないとでも言うように、ハルフォード侯爵はぴたりとアンジェリカに身体を重ねたまま、しばらく動かなかった。
「アンジェ、痛かったね? ごめんね」
アンジェリカの中から己を引き抜いたハルフォード侯爵は、今までの乱暴な所業が嘘だったかのように、ハンカチーフで汚れを清めたのち、そっと彼女を後ろから優しく抱き締めてくれる。
「……っ」
アンジェリカは何も言い返せず、ただ黙って振り返ると、侯爵を抗議するように涙目でにらみつけた。
そんなアンジェリカを見て、しかしハルフォード侯爵はなぜかうれしそうに微笑む。
「それ、その瞳だよ」
「な、なんですか……」
「瞳が泣き濡れてきらめくと、まるでピンクダイヤモンドのように美しい」
「………」
それはあのとき聞いた台詞であり、再び彼の口から聞きたいと思っていた言葉であったが、今は言って欲しくなかった。初恋の思い出が、身体と同様に汚されてしまうような気がしたからだ。
「だから君にはぜひ、僕の子を産んで欲しいと思ったんだ。きっと、美しい子ができるはずだよ」
「――っ」
しかし続く台詞に、アンジェリカは言葉を失ってしまう。
中に放たれた理由はわかったが、それはこんなふうにされてまで急くことなのであろうか。アンジェリカ自身、覚悟していたことだったが、とうのハルフォード侯爵が否と言ったのではなかったか。
「戸惑っているね」
混乱するアンジェリカを前に、ハルフォード侯爵が面白そうに喉の奥を鳴らす。
「真実が知りたい?」
「……はい」
まったく意味がわからないアンジェリカだったが、乱暴な振る舞いのわけは知りたい。
ハルフォード侯爵の整った顔をじっと見つめていると、やがて彼の唇が皮肉に歪められていった。
「僕はね、侯爵じゃあないんだ」
「……?」
怪訝(けげん)と眉をひそめるアンジェリカに、彼は大仰(おおぎょう)に肩をすくめてみせる。
「僕は、ブラッドリー・ハルフォード。正式に侯爵位を継いだウィリアム・ハルフォードは、僕の双子の兄さ」
「っ――!!」
アンジェリカが大きく目をみはる。
けれど同時に、ハルフォード侯爵に感じていた数々の違和感の答えがわかり、アンジェリカは妙に納得している自分に気づいた。が、それも束の間のこと――。
「僕は兄を憎んでいるんだ。だから君には、兄ではなく僕の子を孕(はら)んでもらう」
「……えっ!?」