「──大丈夫か?」
その時、当の将吾がコップに水をたっぷり汲んで持ってきてくれた。樹生ははっとわれに返り、なんとか身を起こしてそれを受け取った。
「あ、ありがとう、……!」
喉が渇いていたので有り難く飲んだが、あわてていたのか激しく咳き込んでしまう。コップを落としそうになるのをさっと彼が拾い上げてくれ、背中をさすってくれた。それに感謝する言葉も、すぐに出てこない。
まずいことに、咳きこむことで、劣情を一層強く感じてしまっていた。
強く息を吸い、咳が出るごとに身体が反りかえり、全身にさらに熱さが広がっていく。目はまだ涙に濡れて潤み、半開きの唇からは短い喘ぎがもれて、のけ反らせた喉が、ひくひくと震えている。それでも何とか咳が収まったので、将吾を見、懸命に微笑んだ。
「ごめん、お兄ちゃ……。も、一人で、大丈夫だか、……!」
けれど、その言葉は途中で途切れてしまった。彼は何故か、樹生がこれまで見たこともないような、恐いまなざしでこちらを見つめていたのだ。
──次の瞬間、将吾の頭が降りてきて、貪(むさぼ)るように唇を吸われた。驚いた形に開かれたままの唇は、あっさりと舌の侵入を許し、将吾はすぐに舌を絡めてきた。
──え、な、何……──
もちろん、樹生はキスそのものが初めてだった。温かく湿った感触が口中に広がった。唇を合わせたまま、身体を強く抱き寄せられる。
「んっ、うッ……」
なんとか身体を離し、声を出そうとしたのだが、彼はそれを許さなかった。すらりとした、やや細身の青年なのに腕の力は強かった。身を離すことが出来ず、喉から漏れるのはくぐもった喘ぎだけだった。そうして唇を重ねて抱えこまれた体勢のまま、ダークグリーンのブレザーを脱がされ、シャツ一枚にされてゆっくりとベッドに横たえられる。樹生は上着を脱がされただけで身体が少し楽になるのを感じた。今朝干したシーツと毛布から、かすかに日なたの匂いがした。
驚きよりも先に、快感がぞくぞくっと背骨から全身を駆けめぐり、樹生は呆然とした。将吾の舌の動きがそれをさらにかき立てた。やわらかく、けれど執拗(しつよう)に口内をくまなく愛撫し、震える舌に何度も絡みついてくる。その度に全身の血が沸騰したようになって、ぞくぞくと全身に鳥肌が立つような感覚が広がり、責め立てられる。
樹生はどうしたらいいかわからなかった。ズボンの中で牡茎が固く張りつめて悶(もだ)えているのがはっきりと伝わってくる。擦れて痛い。
「あっ……?」
その時唇が離れ、将吾が身体を下へとずらしたので樹生ははっとした。次の瞬間、かすかな金属音とともに下腹部に開放感を感じ、びくん、と身を震わせた。
「お兄っ……!」
「じっとしてろ」
有無を言わせぬ口調だった。金具が擦(こす)れる音が響き、制服のボトムの前を開けられ、下着ごと引き下ろされたのだ。ボトムが床に落ち、下半身をさらけ出される。やや冷たい外気に、開かされた足の中心で、まだ若くみずみずしい牡茎はピンと張りつめ、上を向いて細かく震えていた。
「これじゃ、ずいぶん辛かったろう……」
将吾の呟くような声に、真っ赤になった。同時にその牡茎に、下から上へと、ゆるりと温かく湿った感触が触れた。将吾が舌を這わせたのだ。
「え!?あっ……だ、だめ、そんなの、汚……ッ!」
まさか、そんなことをされるとは思ってもいなかった樹生は、悲鳴に近い声を上げた。将吾は目を細めて微笑み、その先端に溢れた透明な液体を舌先で丁寧にぬぐい、それからそっと口に含んだのだった。
「ひゃ、ンッ……!」
温かな舌とあごの裏の感触に、樹生は再び激しく身を反らせた。もう、声も出せなかった。
もちろん、こんな行為も、意識が飛んでしまいそうになるほどに気持ちいい、という感覚も初めてだった。口を放してほしくて両腕を懸命に伸ばし、股間の将吾の髪に指を絡ませた。けれど将吾は舌での愛撫を止めなかった。それどころか前だけではなく、その裏側の軟らかな肉にも舌を這わせ、口づけ、吸い上げて軽く歯を立て、翻弄(ほんろう)する。優しいが執拗な責めだ。
──そんな、おれ……──
どくん、と牡茎が脈打ち、ひどく心地よい感覚とともにさらに身をもたげるのを感じ、樹生は必死に首を振った。頭の下でベッドが軋(きし)んだ。このままだととんでもないことになってしまう。
──だめだ、それはだめだ。どんなに気持ちよくても、薬のせいでも……いや、だったらなおさら、大好きなお兄ちゃんにこんなこと、しちゃいけない……!──
けれどその時、将吾はそれを軽く吸い上げ、舌と上あごで押さえるようにした。
「待っ……、だ、だめ……そんな……こと、したら、出ちゃ、ン……っ!」
その動きに、言い終える前に樹生はあっけなく果ててしまった。反らされたままの背骨が軋(きし)み、熱い液体が身体の中心からほとばしるのを感じた。
「あ、アッ……!」
一瞬の頂点の後、そのままベッドに倒れ、樹生は震えた。将吾に対して何てことをしてしまったんだろうと思った。
けれど、彼は何の苦もなく樹生が放ったものを呑み下すと、そのままこちらに身を乗り出し、目を細めて樹生を見つめてきた。思わず頬が染まり、荒い息の中で何とか声を絞り出す。
「ご……ごめ、汚して……」
将吾はかすかに首を振って、微笑んだ。
「本当に、可愛(かわい)いな、お前は」
その声と、優しく愛撫するようなまなざしに、樹生は少し安堵(あんど)した。けれど次の言葉に心臓が飛び上がった。
「……樹生。お前を抱きたい。もっと深く、お前と繋(つな)がりたい」
「えっ……!?」
思わず将吾を見返した。彼の瞳には愛しさと、真剣さと、そして間違いなく劣情の光があった。かすかに震える低い声で、将吾は続けた。
「いやか?いやなら……しない。まさか自分でも、こうなるとは思っていなかった……」
「……」
その言葉に樹生はふと哀しくなった。
──おれが薬で、ヘンなことになっちゃったから将吾兄ちゃんもおかしな気持ちになったんだろうか。だって、そうでもなければ男のおれなんかに、そんな風になるわけないし……──
けれど、将吾の茶色の瞳を見つめかえしていると、樹生は何故か泣きたいような、切ない感情が溢れてきた。
その想いに押されるようにして、そっと、ほっそりとした自分の腕を伸ばし、将吾の首に腕をまわした。彼をとても好きだと思った。初めて会った十歳の時からずっと。それは先程、薬物を呑まされておかしくなったこととはまったく関係ない想いの筈だ。それがどういう感情なのか、まだよくわからなかったが、彼にそうされてもいやとは思えなかった。
「樹生……?」
その反応に、将吾は驚いたような目になり、それから愛しげに一度、彼を抱きしめると、そっと一旦離れ、無造作に自分の服を脱ぎ落とした。すると意外なほどに精悍(せいかん)な、しなやかに筋肉のついた身体があらわになった。大理石の彫刻のような、滑らかで均整の取れた、きわめて美しい姿に樹生は一瞬見とれてしまった。
次の瞬間、そっとその身体が覆いかぶさってきた。しなやかな筋肉が肌に触れ、まだ身につけていたシャツも脱がされる。そのとき、腹部のあたりに、将吾の熱く、固く息づいている逞(たくま)しい雄根が触れたのが感じられ、かすかに震えた。この後何をされるのか、はっきりとわかる。
「すまない、お前には少し、辛(つら)いと思う……」
将吾が耳元で囁(ささや)いた。びくりとする。
「俺も、男とは初めてだから……気をつけるけれど……」
樹生は、大丈夫、と言いかけたが、何だか不安で声にならず、ぎゅっと腕に力を込めた。自分は今、どこか感覚がおかしくなっているのかもしれない、とも思った。けれど、今は将吾の想いに応えたかった。将吾も強く抱きしめ返した。
「──!」
将吾の指先が下に伸び、そっと、だが確かな動きで秘孔の入り口を開かせる。そして次の瞬間、痛みが全身を貫いた。彼の雄根の先端が秘孔に分け入ってきたのだ。
それを受け入れることは、とても無理なように思えた。もともと男の欲望を受け入れるように出来ていない秘孔は、先端が入っただけで無理に引き延ばされた。今まで経験したことのない圧迫感と痛みに、腰が無意識のうちに、浮きかける。
「──やっぱり、辛いか?」
将吾が慌てたように囁(ささや)いた。けれど樹生は懸命に首を振り、将吾にすがりついた。自分で受け入れると決めたのに逃げたくなかった。すると将吾はまた愛しげに目を細め、前に手を回し、樹生の牡茎に触れた。一度果てた筈の牡茎は、将吾に背後から挿入された為に再び反応しかけていた。
「えっ……?あ、あっ……また……」
将吾の長い指がそれをやんわり掴(つか)み、愛撫を始めると、樹生の若い牡茎は再び敏感に感じ始めた。その劣情が秘孔にも伝わり、受け入れている部分がやんわりとほぐれ、将吾の指の動きに反応してうごめいた。それにつれて苦痛が快感にすり替わっていく。
「いい子だ……」
耳元で囁かれ、ずるり、と将吾の雄根が中に入ってきた。挿入されたとたんにさらに熱く、そして固く太くなる感触に樹生は震えたが、腕は懸命にしがみついたまま放さなかった。体内の肉襞が震え、将吾の雄根に吸い付く。強く擦られ、その刺激もまたぞくぞく震えるような心地よさに変わっていく。その感触に将吾もまた心地よさそうに息をつき、さらに身体を奥に進めた。
「うぁっ……!」