ベッドに座り、キスを交わすたびに一枚ずつ、服を落とし合う。理人もシンも気は急(せ)いていたが、あえてゆっくり進もうとした。
青白く光る理人の体は、褐色に輝くシンの腕の仲にすっぽりおさまってしまう。互いの姿を見つめながら、体温を、感触を丁寧に確かめ合う。もう次はないと、どちらも知っていたからだ。
「とてもきれいだ、理人」
シンの指が顔の輪郭をなぞり、首筋をたどって鎖骨まで下りてくる。たったそれだけのことで、理人は息を弾ませた。
「シン、僕……」
先日まで『ルシファー』で、繰り返し性戯を施されてきた体だった。リョウに触れられなかった場所はなく、尿道さえも犯された。何をされても相手を楽しませることができるよう仕込まれたはずなのに、今はただ肌をなぞられただけで震えてしまう。
誰よりもシンを求めているのに、そのせいで理人はかえって怯えていた。
「怖がらないで、理人」
対するシンは慎重だった。決して急ごうとせず、背中を優しくさすりながら理人の額にキスを落とし続ける。
「こ、怖くなんか」
「でも震えている。それとも寒いですか」
「い、いえ」
理人はどうしていいかわからず、シンの胸に顔を埋める。その拍子に腹に硬いものが当たった。
「シ、シン?」
恋しい人の欲望が大きく形を成していた。彼が自分を本当に欲していることを、その熱が言葉より雄弁に伝えていたのだ。
「ねえ、理人。もしつらいなら、無理は――」
理人はかぶりを振って、無言で跪く。シンの素直な反応がうれしかった。身を屈め、唇を開いて、彼を含もうとした時だ。
「だめですよ、理人」
シンはいたずらっぽく笑うと、急いでベッドから下りた。二人は向かい合って床に座る形になった。
「一緒に、ね」
意図を察し、理人は頬を赤らめて頷く。長い指に促されるまま大きく足を開いた。
「あ……ん」
頭をもたげ始めた自身をすかさず握り込まれる。それがシンの手だと思うと、どうしようもないほど体が熱くなった。
「理人も触ってくれますか」
「は、はい」
請われて理人もシンのものに手を伸ばしたが、その大きさと硬さにまた怯んでしまった。徹底的に仕込まれたはずなのに、シンが相手だとぎこちなくなるばかりだ。
「ご、ごめんなさい、僕」
「大丈夫。焦る必要はありません。ああ、そうだ。ちょっと待ってくださいね」
シンは一度体を離して立ち上がったが、すぐに透明な小瓶を手にして戻ってきた。
「ほら、これを覚えていますか」
ふたを開けると、覚えのある甘い匂いが漂ってきた。
「これ、ココナッツの」
「そう、理人のためのオイルです。少し緊張をほぐしましょうね」
「あんっ!」
全部言い終わらないうちに、シンは指に垂らしたオイルを理人の乳首に塗りつけた。右側、続いて左側。小さな突起をつまみ上げ、二つの桜色の乳輪にまであますところなく指を這わせる。
「あっ……ああ……」
「気持ちいいですか」
シンは体を屈めて、オイルにまみれた果実に舌を伸ばした。反対側も指をすり合わせるようにしてこね上げる。
「い、いやっ」
「でも、理人。ここは喜んでいるようですよ。ほら、大きくなってきた」
肉粒を食みながら、空いている手が股間に実るものをとらえた。当然のようにそこにも香り高いオイルを塗り込まれる。
「あ……うう」
ヌチュヌチュと濡れた音をたてながら扱かれて、理人の肉棒は素直に質量を増していく。慣れているはずなのに、あっという間に追い上げられてしまった。
「シン! 待って、シン」
胸元から、はりつめた男根から、切羽つまった震えが何度も腰の奥に走る。
自分だけが愛してもらうわけにはいかない。理人も慌ててシンの欲望を握ったが、うまく力が入らなかった。
「あ……いや……だめです、僕ばかり」
「だめじゃない。もっともっと感じてください。かわいい理人を全部私に見せて」
南国の実の甘い香りとシンの優しい囁きが、理人をさらに追いつめる。
「さあ、もっと大きく足を開いて」
誘われるまま足を広げると、巧みな指は竿を離れ、奥で震える二つの玉袋を揉みしだき始めた。そのゆるやかな刺激がもの足りなくて、理人はつい腰を揺らしてしまう。
「どうしました。理人?」
「い、いえ」
シンは焦らすように乳首からも唇を離した。そんなふうにはぐらかされて、理人は途方にくれてしまう。もっと触って、いっぱいなめてほしい。けれどもそんなことは言えるはずもなかった。理人は涙を浮かべて、シンを見つめる。
「どうしてほしいですか、教えてください」
「えっ?」
「さあ、理人」
促すように唇をなめられて、理人はついに甘い誘惑に屈した。
「さ、触ってください、シン。僕のペニスを」
「そこだけでいいんですか」
「む、胸も」
「胸も?」
「なめてください」
シンは満足そうに頷くと、再び理人の茎にたっぷりオイルを垂らした。シロダーラをしてくれた時より強めに握り込まれ、指の輪が上下に動き始める。
「あ……い……あん……」
もともと敏感な方だが、今日はまったく抑えがきかなかった。
恥ずかしい水音と共に、たちまち戻れないところまで追いつめられる。カリ、と乳首に歯をたてられ、理人はあっけなく射精した。
精を放った後の、たゆたうような脱力感。
シンの肩にもたれて荒い息を吐いていた理人は、背中を撫でられ、ようやく恋人を置き去りにしたことに気がついた。
「ご、ごめんなさい、シン!」
一緒に――そう誘われたはずなのに、悦びに震え、相手の手を汚してしまったのは自分だけだったのだ。
「かまいません」
「だけど、一緒にって」
「理人が私の手で気持ちよくなってくれるのが見たくて、意地悪をしてしまいました」
「シン」
抗議しようとした唇を、再びキスで封じられる。長く、深い口づけ。強く抱きしめられて、体の奥がまた疼き始めた。
「愛しています、理人」
「僕もシンを愛しています」
もう言葉はいらなかった。シンに抱き上げられ、理人は素直にベッドに横たわる。口にしたばかりの気持ちを、全身で示したかった。
首筋に、胸元に、腹に、落ちてくるキスの雨を受け止めながら大きく息を吐く。
「シン」
「何ですか」
「お願いです。どうか僕に……愛させてください……あなたを」
シンは驚いたように目を見開いた。
「僕にも、あなたに魔法をかけさせて」
じっと見つめていると、シンは根負けしたように笑みくずれた。
「魔法なら、とっくにかけられていますよ。理人に会った時からね」
その言葉と共に体を抱き起こされ、シンの上に馬乗りにさせられた。
「あ、あの」
「後ろを向いて、理人のかわいいあそこを私に見せてください」
「シ、シン!」
秘孔をさらけ出すことも、性器をなめ合うことも、もちろん『ルシファー』で経験済みだ。それでも相手がシンだと思うと、躊躇せずにはいられない。
「お願いです、理人」
「わ、わかりました」
理人は覚悟を決め、シンの顔をまたぐようにして恐る恐る足を開いた。そんな姿勢を取ると、再び反応し始めている前方も、まだ閉じている後ろも、すべてが彼の前にさらされてしまう。けれどシンからはもっと足を開くように促されてしまった。
理人の目にもまた、反り返るほどに育ったシンの肉茎が映っている。長くて、いかにも男らしい形だった。
「腰を上げて、もっとよく見せてください」
答えるかわりに、理人はさらに足を広げてシンの弩張を口に含んだ。むせるほどの質量にえずいてしまいそうになったが、舌を使って必死に奉仕する。そうせずにはいられなかった。
秘められた場所をシンが蹂躙し始めたのだ。露をはらみ始めた亀頭をすすられ、後ろの蕾にも指が差し入れられた。
「んんっ!」
ゆるやかな、しかし着実な侵略。閉じられた場所は拒みながらも、シンの指を受け入れ始めているようだった。その形や、引っかくようにこすられる襞の一枚一枚までわかるような気がして、理人は少しずつ思考を奪われていく。
「かわいい理人、私の大切な理人」
理人自身をゆるくしゃぶりながら、シンは何度も名前を呼んでくれた。そのままほぐされ続け、やがて彼の指を何本受け入れているのかさえわからなくなった。
理人は涙を流しながら、愛しい男の形をなめすすり、突き入れられた指に導かれるまま腰を振る。体も、心も溶けてしまいそうだ。リョウの手で嬲り尽くされた時でさえ、こんなに追いつめられたことはなかった。