その背徳さえも媚薬と化して
著作 如月一花 Illustration 南香かをり
第2話
「特にないわよ。九重くん、忙しいでしょ? 外回りは?」
「午後からです」
「そう。いつもお疲れ様」
そつなく会話出来たろうか、と頭の中で自問自答しながらにっこりと笑みを見せた。
「一緒にお昼でもどうですか?」
「ご、ごめんなさい。夫に荷物を届けないといけないから」
いきなりの誘いに、海はあろうことか夫の奏多のことを話題に出してしまった。
なんでこんな時に彼を引き合いに出して断るしかないのだろうと思う。
思い切って、九重とご飯を食べても良いじゃないか。
でも、海の中でキュッと音を立ててブレーキが踏まれる。
「急ぎだって言うから……本当にごめんね」
「じゃあ、俺も途中まで付き合いますけど」
「場所遠くてタクシーで飛ばすから、九重くんに悪いわよ」
海はにっこり余裕の笑みを見せつつ、九重がなんで自分を誘うのか気になった。
彼がわざわざ海を誘う必要などどこにもないはずだ。
なのにこんな風に誘われると少し期待してしまう。
(私が二十八歳、九重くんは二十六歳か。私が独身ならね)
九重がまだ隣で寂しそうに立っているので、海はにっこりしつつ席を立った。
ちらりと時計を見れば、ちょうど昼休みの時間だ。
(最近、目もよく合うから意識しちゃいそう)
「また誘って」
海は九重から逃げるように立ち去ると、フロアを後にした。
廊下を小走りで駆け抜け、突き当たりの人気のない資料室の鍵をカードキーで開けて、するりと入り込む。
息を切らせながら、ひと目につかないように資料室の奥へと足を進めた。
ポケットからはローターを出し、息を飲む。
海の最近の楽しみは、資料室で自分を慰めること。
もう一ヶ月続けているが、まだ見つかったことはない。
そのせいか行為は増長していき、ついには指先で嬲るだけでは物足りなくなって、おもちゃを持ち込んで昼休みにたっぷり楽しむことを覚えてしまった。
小型のローターはポケットに入るくらいのサイズで、ドアを閉めてしまえば音も漏れない。
今のところは怪しまれることもなく過ごせている。
社内でも人気があり、しかも意識している九重からの誘いを断ってでも、この埃っぽい一室で黙々と自慰にふけることの方が今の海には重要なのだ。
(ご飯よりこっちが良いなんて、自分でも性欲旺盛だと思うけど、でも、ここしかないんだもんね)
隅っこまで移動すると、海は辺りを一応確認してから手に持っていたローターのスイッチを入れる。
ウィーンと音がすると、心が高揚感でいっぱいになって、そのままスカートを捲り上げ、棚に手を突いた。
そして、下着越しに蜜芽を捏ねていく。
「あっあっ!」
先ほどまで真面目に仕事をしていただけに、快感が増しているのを感じた。
しかも、ついさっきまで九重と話していたと思うと、余計に体が反応する。
「九重く……」
(……声に出しちゃった)
恥ずかしく思って、慌てて唇を噛んだ。
今までこんなに一人で盛り上がってしまったことはない。
(興奮しすぎ)
自分で自分の気持ちを抑え込みつつ、下着越しにぐりぐりと擦りつけていると蜜が溢れ出してぐっしょりと下着を濡らしていく。
慌てて脱いで、直接秘丘をなぞるようにいたぶる。
「ンンッ」
少し妄想しただけでも頭の先までヒリヒリするような快感に苛まれる。
もどかしい想いになってローターを蜜壺に挿入してしまうと、海は立っているのが辛くなって座り込んだ。
「んっはあぁ……あぁ……」
悦に浸り、誰にも相手にされない寂しさを忘れようと必死になる。
ローターだけでは物足りないと、指先を使って胸を鷲掴みにして揉み始める。
「はぁあ……あぁあ……」
じわじわした快感が込み上げてくるが、海は最近物足りなさを感じていた。
このまま資料室で一人自慰にふけり、自らを満たしていかないといけないと思うと、虚しくなる。
堂々とセックスしたいのに、海には相手がいなかった。
夫の奏多はいるが、彼はまるで相手にしてくれない。
(私って、なんの為にいるんだろう。子供が欲しいって言われたこともないし、今夜は寝かせないなんて言われたこともない)
性欲旺盛な海にとって、結婚をして眠れないほどセックスに明け暮れることは一つの夢だった。
子供を作ろうと誘われて、そのまま毎夜という妄想はもう何度もしている。
それなのに、奏多は結婚のハネムーンで一度セックスをして以来、海とは距離を置くように仕事ばかりになった。
忙しいのは将来の子供のためと言われたが、そもそもまともに子作りをしていない。
それどころか、結婚以来手を握りあってのデートもなく、日に日によそよそしい態度を見せてくる。
この二年間、まともにセックスをすることはなく、ただ夫婦関係だけが続いている。
「んンンッ!」
指先で膨らみの先端を嬲るようにいじると、ぷっくりと立ち上がってきて、思わずうっとりと見つめてしまう。
そのまま捏ねていると、たわわな胸が揉んでくれとばかりに揺れ始める。
海は一人愉悦の笑みを浮かべて、自分の胸を思い切り揉んだ。
「あっああっ」
思わず喘いでしまうと、快感が増して蜜が溢れ出してくる。
ナカにあるローターが楽しむように振動して、海は足を広げてたっぷりと反対の手で蜜芽を転がした。
「んあっあっ!」
(こんなところで、また、イクッ)
そんな変態チックな自分にどこか酔いつつ、頭が真っ白になっていくのを感じて、思い切り指先で弱い部分を弄り回す。
「ああっああっ!」
声を我慢していられず、好きなだけ喘いだ。
昼休みはみんな外に食べに出るから大丈夫なはずだ。
それに、鍵が開いても、服を着るくらいの余裕はあるだろう。
そんなことを思いながら、たっぷりと弄んでいるうちに、海はローターだけでは物足りなくなって指まで挿入してしまう。
「んあああっ」
蜜口はたっぷりと咥え込んで、ヒクヒクし始めた。
海は頭の中がトロトロになったのを感じて、ようやく満ち足りた笑みを浮かべた。
さらに自分の指先でローターを使ってかき混ぜると、一気に果てそうになる。
そのまま頂きを昇り詰めると、海は思い切り果てた。
「ンンああああっ」
それまで緊張していた体から、がっくりと力が抜ける。