彼はニュースキャスター!後編【第五話配信】

【第五話】

彼はニュースキャスター!~TL小説編集者の私~ 後編

 

著作:如月一花 illustrator:龍 胡伯

 

第5話

でも、考え方を変えれば、締め切りに間に合うようにしてもらうことを大前提として仕事をしてもらえば、編集者だって楽になる。

そもそも、締め切りの先に本当の締め切りがある、なんて平気で言っている作家もいるのだ。

その点も改善が必要だと思うのだが、みんな慣れていて何も言わない。

言ったところで、先程のように『書かない』というメールが来てゴネられる。

「困ったなあ。何か作戦を考えないといけない気がする。みんな慣れすぎてるよ」

加奈は思わず呟いていた。

隣に座る高津も、余裕を持って出来なくとも、とにかく無事に発売出来ればいいみたいだった。

それで自分が犠牲になっても、もう慣れている、そんな感じだ。

「そもそも、締め切りの作り方もう少しなんとか出来ないかな。余裕で一週間とか遅れてくるんだから、それを見越してとか。見直しが多い作家さんには、原稿を分けて赤字を送るとか」

うーんと考えてしまう。

「もう少し、スケジュールをタイトに組めば、否応なしにみんな動くと思うんだけど。片桐さんに言ってみようかな」

加奈はもやもやした気持ちが晴れないまま、立ち上がる。

先程のことを反省してないと思われそうだが、これまでずっと仕事をしてきて我慢ばかりしているので、さすがに相談したいと思っていた。

外に出て打ち合わせをする以外は、部屋に缶詰めなのだ。

もう少しお互いに歩み寄れないかと提案するくらいはいいだろう。

加奈は紙コップを捨てて編集部に戻ると、片桐のところにすぐに向かった。

そして声を掛けると片桐は忙しそうにしながらも顔を上げる。

「どうしたの?」

「お忙しいところすみません。あの、私たちの負担をもう少し減らすべきだと思うのですが」

「負担……?」

何それ? という顔をされてしまい、加奈は動揺した。

今までのことを負担とも思っていないとなると、自分だけが部署で浮いていることになる。

それだけは避けたい。

しかし、自分が言わなければこの部署は永遠に何も変わらない。

「その、スケジュールの見直しを提案したいんです。他にも、もう少し作家さんに譲歩してもらって仕事を進めていければと」

「それは無理よ〜。ずっとこのスケジュールでお互いに進めているんだもの、遅くなる分には良いでしょうけど、早めに切り上げたいなんて言ったら怒られるわ」

片桐は笑った。

まるで子供の戯言を聞いているかのようにまともに取り合ってくれていない。

「それは、そうですが。私たちばかりが相手の言うことを呑んでいたら、体を壊します」

「そうならないように、体調管理して欲しいわ」

「片桐さんだって家族があるのに、無理をしているじゃないですか」

加奈が言うと、片桐が苦々しい顔をする。

「まあ、自分で決めたことだもの。両親が手伝ってくれてるし、家族もオーケーしてるから」

加奈はグッと手を握る。

「だからって。せめて来月からスケジュール管理をもう少しタイトにするとか」

言った途端、片桐は寂しげな顔をして加奈を見つめてきた。

「出来ないわ。それ以前のことを知ってる人達に変わったと言って簡単に変えてくれるとは思えない。それに、早く仕上げて欲しいとお願いするのは簡単だけど、内容が雑になるのは困るのよ」

「でも、お互いに……」

加奈は片桐の顔をじっと見た。

すると彼女は椅子をくるりと回して反対方向を見てしまう。

「気持ちは分かるわよ。でも、私たちは内容で勝負してるから、雑な物を売り出すわけにはいかないのよ。文字の間違いだって指摘されたらネットで拡散されることもある。だからね、作家にはしっかり時間をかけてもらって、後は私たちが任されて、原稿を見直して、納品する。スケジュールのことを気にしてたら、そのうちに自分が疲れてくるわよ?」

加奈は何も言えなくなった。

考え方がまるで違うのだ。

それは元々雑誌をやっていた加奈と小説を受け持つ編集部の人間の埋められない溝みたいなものだ。

結局、どちらを尊重するか、ということに尽きる。

雑誌の場合も締め切りギリギリになって納品する人はいたが、編集者の頭を悩ませるような人はいなかった。

毎月発売だから、もし遅れたら自分の記事が載らないことになるのだ。

そうなればもう、そのライターやカメラマンは仕事を頼まれなくなる。というのも、世界出版の旅行雑誌は有名で、いくらでも代わりに仕事をしたいという者がいるからだ。

一方で新設のTL編集部は作家を尊重せざるを得ず、それに編集者も付き合うことが当たり前になっている。

作家は締め切りまでに自分の満足のいくものを書けばいいし、もし間に合わなくても、次の発売日に出せばいい。致命的な傷にはならない。

要は、ブランド力から来る考え方の違いだ。

だから自分たちの為にスケジュールをタイトにしたいと言っても、それは無理な話なのだ。

「私もね。子供がいるのに徹夜してって怒られるけど、仕事が好きだから仕方ないのよ。子供にも理解してもらえるように、小さい時から説明してる」

「そうかもしれないですが……」

「そのうちに慣れるわよ」

「……はい。色々と出過ぎてしまってすみません」

加奈は頭を下げた。

この仕事じゃ新人だ。

片桐や他の編集者を思えば、自分が口出ししたところで変わるわけがない。

「ううん。少しずつ変わらないといけないのよね。私もそう思ってはいるけど、出来ないのよ」

加奈は寂しそうな顔をする片桐を見つめた。

「とりあえず、仕事に戻って。水瀬さんだって結婚したなら、悩みは増えていくはずよ」

「そうですよね。編集長のことお手本に出来ればと思います」

「ありがとう」

加奈は会釈をすると、席に戻った。

時計を見て、慌てて原稿に取り掛かる。

少しでも読みやすい原稿にしたいと赤字を丁寧に入れていく。

片桐も家族を犠牲にしてまでやっているのだし、自分も見習いながら頑張ろう、そう思っていた時だ。

肩をポンと叩かれる。

「あんまり無理しなくていいよ」

あまり口を聞いたことがない、歳のいった男性の先輩編集者だった。

「いえ、私も仕事頑張りたいので。片桐さんみたいになりたいなって思いますから」

加奈は微笑むと、男性は耳元に顔を近づけてきた。

いきなりで驚いていると、囁かれる。

「女上司で家にも帰らないで仕事されると、こっちも帰れないんだよ。だから、水瀬さんもほどほどにな。そんなにやる気出しても、ここはどうせ何の期待もされてない編集部なんだから」

「なっ……」

加奈はいきなり言われて頭にきた。

まさかそんな気持ちで仕事をしている人がいるとは思わなかった。

「そんなふうに思いながら仕事しているんですか?」

「給料分はしっかり働くよ。でもさ、女が頑張ると男の肩身が狭くなるんだよ。つうか校了の日とはいえ、家庭ほったらかして帰らないなんて最低だろ、人として」

男性編集者は嫌味ったらしく言う。

今まで会話をしたことがなかったが、どうやら加奈のことも見下しているようだ。

特に結婚してまで働くのが許せないらしい。

 

(このあとは製品版でお楽しみください)

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