第五話
著作 有允ひろみ Illustration きらた
第5話
片方ずつ脱がされたハイヒールが、床に落ちる音が聞こえた。閉じた両脚を膝でそっと割られて、左右の太ももで健太の腰を挟むような姿勢になる。
「い……一応確認するけど、今の……本気で言ってるの?」
「もちろんだ。ほら、遠慮せずにイヤならイヤと――」
「イ……イヤじゃないよ。します! 健太とセックスする。……でも私、こういうシチュエーションってはじめてで――」
「今はっきりと同意したな。ルールはいわば二人の間で交わした契約だ。口約束でも契約は成立するし法的な効力もある。よって、これからするセックスは、双方同意のもとで行われる正当な行為だ」
「あんっ!」
掌で左乳房を包み込まれ、そっと揉まれる。たったそれだけでも、感じすぎて唇がワナワナと震えた。そして、脚の間が徐々に潤ってきた。
「志穂が戸惑ってるのは十分わかってるよ。もし途中で止めたくなったら、遠慮なくそう言ってくれ。すぐに止めると約束するし、何を置いても志穂の気持ちを最優先するよ。……わかったか?」
「うん」
ネクタイを外す衣擦れの音と、キスをするたびに聞こえてくる小さなリップ音。
それが聴覚を刺激する毎に、男女としての二人の距離が急激に縮まっていくような気がする。
健太がシャツのボタンを外し、ベッドの外に脱ぎ捨てた。
思いのほか逞しい上半身を見て、志穂は我知らず生唾を飲んだ。微かな音だったにもかかわらず、部屋が静かだったせいか、健太に気づかれてしまった。
「ふっ……俺の身体、気に入ってくれたか? 一応鍛えてるから、見られて恥ずかしいって事はないけど」
「き……気に入った。正直、すごく好み……。健太って着痩せするタイプだったんだね。スタイル抜群だし、目のやり場に困っちゃうくらい」
そう言いつつも、目前に迫る見事な胸板から目を逸らす事ができない。
「志穂だってそうだろ」
「私っ? わ、私はそれほどでもないよ。背ばっかり高くて痩せっぽちだし、色気なんかまるでないし胸だって貧相だし――」
ただでさえさほど大きくない胸が、仰向けになっているせいで余計平らになっている。
志穂は恥じ入って、何気なく胸元を隠そうとした。けれど、すぐに健太に阻まれる。彼はたしなめるように首を横に振った。
「隠さないで。志穂の身体はすごく魅力的だ。俺からすれば身長も胸の大きさもちょうどいいし、どこをとっても十分すぎるくらいセクシーだよ」
「ま、また嘘ばっかり――」
「今度のは嘘でも冗談でもない。そうじゃなきゃ、今こうしていないよ」
身体の上にのしかかってくる重さとたしかな温もり。
恥じらいが薄らいでいくと同時に、身体の緊張が解けていく。
健太が正当化したセックスへの甘い期待が、志穂の手を無意識に彼の背中に縋り付かせた。
「ぜんぶ俺に任せてくれるか? そうすれば、最高の快感を味わわせてあげるよ」
今まで聞いた事もないような甘い声で囁かれ、即座に頷いた。
やはり、恋愛に関しては健太のほうが遥かに先をいっているようだ。
「健太に全部任せる。……だから、最高の快感っていうのを味わわせて」
彼の顔に嬉しそうな微笑みが浮かんだ。
「いいよ」
「だけど、お願い――灯り、消して……。真っ暗じゃなくていいけど、さすがに恥ずかしいから」
「了解」
それからすぐに明るかった照明が、濃密な蜂蜜色に変わった。ホッとした唇にキスをされ、閉じた膝を両脚で挟み込まれる。
「脱がしていいか?」
訊ねられ、頷くと同時に背中を腕に抱えられる。ブラジャーのホックを外され、首筋にキスをされている間にブラウスの前を開けられた。あらわになった乳房を見て、健太がゆっくりと舌なめずりをする。
「今の、すごくいやらしい……。健太って、そんな顔するんだね。知らなかった……ふ、ふ……」
恥ずかし紛れに笑おうとするも、胸が高鳴りすぎてそうできない。もはや身体中のあちこちが熱に疼き、一時も早く触れてもらえるのを待ち望んでいるみたいだった。
「志穂の裸の胸が目の前にあるんだ。いやらしくもなるよ」
「私の裸なんか昔、夏に健太んちの庭で一緒に水遊びをした時にさんざん見たじゃない。ペタンコ具合はその時とさほど変わらな――ぁんっ……あぁっ……」
彼の舌が喉元を下りて胸の谷間をそっと吸い上げる。その間にスカートのジッパーを下ろされ、ストッキングとショーツとともにベッドサイドにあるソファの上に追いやられた。
ため息のような甘い声が漏れ、胸元が大きく上下する。浮いた背中を腕にすくわれ、左乳房にかぶりつくようなキスをされた。先端を舌で捏ねるように愛撫され、一気に体温が上昇する。
ものすごく気持ちいい。
志穂は両手でシーツを掴み、早々に嬌声を上げた。
「あんっ! あ……ああんっ!」
志穂が両脚を膝立てて快楽に酔いしれていると、健太の唇が右の乳房に移った。そして、今まさに志穂がそうしてほしいと願ったとおりに、両方の乳房を掌で包みながら、それぞれの先端にきつく吸いついてくる
「あっ……ああんっ! 健太……もっとして……それ……すごく好き……あっ、あああんっ!」
強い愉悦を感じて、志穂は上体を浮かせるようにして身を捩った。身体が左に傾き、その拍子に右脚を高く掲げられる。
気がつけば右のふくらはぎが健太の左肩の上に乗っており、恥ずかしい部分を彼の目前に晒すような体勢をとっていた。
「け……健太――」
思わず腰を引こうとするも、彼の腕に太ももを抱え込まれており逃げる事ができない。健太がそこに顔を近づけ、今にもキスをしようとしている。
「そ、そこは、ダメッ……。お、お風呂……入ってからじゃないと」
志穂が健太の肩を押さえると、彼は名残惜しそうに顔を上げた。
「どうしても?」
下からじっと見つめられ、拒む気持ちが揺らぎそうになる。
「ど、どうしても……」
「そうか。それなら仕方ないな。さて、どうするかな……バスルームに移動するか? だけど志穂のここ、もう一時も早く挿れてほしいって感じになってるけど」
健太が掲げたふくらはぎをさらに押し上げ、秘裂の間に指を沈めた。ぐちゅぐちゅという水音が立ち、健太がにんまりと笑いながら志穂の反応を窺ってくる。
「ほら、聞こえるだろう?」
卑猥な音が更に大きくなり、指先が今にも蜜窟の中に滑り込みそうになる。
「やっ……は……恥ずかし……あっ、あ、いやぁ……あっ、あっ……」
「イヤがってる割には、もの欲しそうな顔をしてるな。目が潤んでるし、いつも見る志穂の顔とはまるで違う……。すごく艶めかしくてエッチだ」
「エ……エッチって……そんな言葉聞くの、久しぶりだし!」
言いながら、唇が震え声が上ずってくる。身体は熱くなる一方だし、もう一時もじっとしていられなくなった。
「健太――」
「わかってる。もう待ちきれない――そうだな?」
上体を起こした健太が、志穂の上にゆったりとのしかかってきた。見つめ合い軽く唇を触れ合わせていると、彼が避妊具の空き袋をベッドの外に放り投げた。
熱く硬い先端が溢れ出た蜜を纏い、ぬらぬらとぬめりながら秘裂を繰り返し撫で回す。
「入るぞ」
「うん……あっ……健太……あっ、あああああっ!」
熱く硬いものが蜜窟の入口を押し広げ、ずぷりと中に沈んだ。切っ先が隘路に分け入り、少しずつ奥に進んでいく。強張っていた蜜壁が嬉々として屹立を受け入れ、悦びに震える。
まだ挿入したばかりなのに、もう身も心も濡れそぼっている感じだ。
「あんっ! 健太……気持ちいい……どうしよう……すごく気持ちいいの……ぁんっ……あああっ!」
志穂は健太の唇にキスをし、腰の上でつま先を交差させた。挿入がより深くなり、いっそう硬くなった屹立が蜜窟の中を席巻する。
「俺も気持ちいいよ。志穂の中……一時もじっとしてない……まるで俺のものに吸い付くみたいに蠢いてる」
「そんな……」
セックスの最中に、自分の中がどうなっているかなんて考えた事もなかった。ましてや、相手から聞かされた覚えもない。けれど、そうと教えらえた今、にわかに二人が交じり合っている部分が気になりだす。
「ほら、今すごく締め付けてきてる……わかるか?」
「わ……わかる……。私の中……すごくいやらしく動いてる……」
目を閉じて舌を絡め合っていると、健太の腰が緩やかに抽送をはじめた。中を繰り返し掻かれ、身体の中心をキラキラとした閃光が走り抜ける。頭の中がカッと熱くなり、意識が朦朧としてきた。
「あんっ! ああああっ!」
背中から両方の肩を抱え込まれ、奥をズン、と突かれる。志穂が激しく身体を仰け反らせると同時に、健太の腕に背中と肩を抱え込まれた。下腹を抉るように腰を振られ、最奥に何度となく熱塊の先をねじ込まれる。
「ぁあっ……健……あっ……もう……イっちゃ……ああああっ!」
ふわりと浮き上がった身体が、パンと弾けて四方に散らばっていくような感覚に陥る。激しい突き上げに息ができなくなり、志穂は喘ぎながら襲い掛かる悦楽の波に全身を委ねた。それと同時に蜜窟の中で屹立が強張り、繰り返し脈打って吐精するのがわかった。
「健太っ……あっ……ああっ……」
爆ぜたあともなお硬いままの切っ先が、最奥を押し上げる。
志穂は掠れた声を上げながら、唇を寄せてくる健太の腕の中で激しく身を震わせた。濃厚で性急な絶頂を味わい、息をするのがやっとだ。
(このあとは製品版でお楽しみください)