マリユスは、小さく笑った。再びアリゼの腰に手をまわし、抱きあげるようにして階段を登っていく。
ふたりは、アリゼに与えられている部屋に入った。ぱたんとドアを閉じ、マリユスは部屋の真ん中にある椅子に腰を下ろす。
「さみしがらせたぶん、お相手をさせていただきましょう」
どこまでも穏やかな口調で、マリユスは言った。立ったままのアリゼの腰を抱き寄せる。
「お話をしましょうか? それとも、ダンス?」
「なんでもいいわ……」
自分の声が、甘えたものになっていることにアリゼは気がついた。
「あなたが、そばにいてくださるなら」
「かわいいことを言う」
マリユスはアリゼを抱き寄せ、立ちあがるとキスしてきた。最初は唇を重ねるだけ、しばらくそうやってアリゼを甘やかし、続けてそっと、舌が入ってきた。
「ん、っ……」
今まで何度もキスはされたけれど、舌を入れられるのははじめてだ。アリゼは微かに身じろぎしたけれど、マリユスは彼女を抱きしめて離そうとしない。
「あ……、マリ、ユ……ス……さま」
途切れ途切れの声で、そう訴えた。しかしそれは、彼の加虐性をいや増すことにしかならなかったらしく、マリユスは舌先でぐるりとアリゼの口腔をかきまわした。
「ん、ぁ……」
濡れた、柔らかい感覚が全身に広がる。立っていられなくて、アリゼはマリユスに縋りついた。彼はアリゼを抱きしめ直し、さらにくちづけを濃厚なものにする。
舌先で歯の形を確かめられ、上顎を舐められる。ひくりと動いたアリゼの舌を捉えてきゅっと吸って、するとアリゼの足から力が抜けた。
「ふふ」
甘えた鼻声しか出せないアリゼを愛おしむように、マリユスはキスを続ける。頰の裏側に舌を這わされ、すると奇妙なほどに体が疼いた。
「かわいらしい……アリゼ」
「あ、っ……ん、んっ……」
満足そうにマリユスは言って、いったんくちづけを解いた。アリゼの胸からはせつなさが湧きあがり、開いた瞳からは涙がひと筋流れ落ちる。
「ああ、泣かないで」
宥めるように、マリユスはささやいた。再びキスをし、ちゅ、ちゅと音を立てて啄んだ。
「あ、あ……あ、あ」
彼の手はアリゼのドレスの胸もとに這った。しゅる、と音がして、リボンが解かれたのがわかる。アリゼはびくりと身を跳ねさせたけれど、逃げようとは思わなかった。
「アリゼ」
甘い声で名をつぶやいて、キスをしながらマリユスの手はアリゼの体を這った。リボンを解かれ留め金を外され、気づけばドレスが脱がされている。マリユスに唇を奪われたまま、アリゼは下着姿で立っていた。
「い、や……!」
自分の姿に気がついたアリゼは、思わず声をあげる。そんな彼女の背を、マリユスはゆっくりと撫でた。すると少しずつ驚きが解け、代わりに羞恥が湧きあがってくる。
「マリユス、さま……」
「怖がらないで」
マリユスはささやいた。
「こうやって、私のものになるのです」
言い聞かせるように、マリユスは言った。背を撫でられ、腰をなぞられ、すると羞恥心はますます大きくなる。
「あなたのすべてを、私に見せて……? あなたのすべてが、私は欲しい」
「あ、あ……あ」
唇をなぞり、舌を吸い、上顎を舐めながらマリユスはつぶやいた。その声が、アリゼの体に響く。アリゼは震える。
またしゅるりと音がして、コルセットのリボンが解かれたのがわかった。腰を覆っている拘束が外れる。今までも体に触れられていたとはいえ、アリゼは鎧のようなコルセットに守られていた。しかし今は、絹の下着一枚だ。それはあまりにも頼りなく、マリユスの手をありありと感じてしまう。
「っあ……あ、あ。や……」
「私に、すべて見せて?」
マリユスは繰り返した。彼の手は下着の肩紐に至り、するりとそれを下ろされた。上半身を覆うものはなくなり、アリゼはマリユスの視線が、自分の胸に落ちていることに気がついた。
「や、ぁ……!」
「うつくしい形だ」
感嘆したように、マリユスは言った。
「理想的ですね。こんな……素晴らしいものを、ドレスで隠していたとは」
「見な、いで……」
「そんなわけにはいきません」
マリユスはアリゼの腰を引き寄せ、ぐっと引き寄せる。彼女の体は安定を失い、ぽすっと落ちた先は、柔らかいベッドの上だった。
「きゃ……」
ベッドに仰向けになったアリゼの上に、マリユスがのしかかってくる。彼の手はアリゼの腰をすべって乳房に触れ、きゅっと力を込めて掴んできた。
「いぁ……」
「柔らかくて、心地いい」
どこか淫靡に微笑んで、マリユスは言った。その声音に、アリゼの体はびくりと震える。
「ここに触れるのは、私だけなのですね……? きっとご自分でも、ほとんど触れたことはない」
「あ、っ……そん、な」
マリユスの言うことは本当だったけれど、言い当てられてしまうことにアリゼは非常な羞恥を覚えた。体を捻って逃げようとしたけれど、しかしマリユスはどう力を入れているのか、アリゼは身動きすることができない。
「やっ、マリ、ユス……さま」
「ふふ」
彼は微かに笑って、両手でアリゼの乳房を包み込んだ。彼の手のひらに乳首が押しつぶされ、すると体を奇妙な感覚が走る。
「あ、あ……あ、ああ……」
「感じているのですね」
満足そうに、マリユスは言う。彼の指は自在に動き、乳房が不規則に揉まれる。そのたびに味わったことのない情感は強くなり、アリゼは腰をもじもじとさせた。
「感じているあなたは、かわいらしい……もっと、あなたの姿を私に見せて」
「や、ぁ……ああ、あ……っ」
ぎゅっと力を込められた。そのようなことをされては痛いと思ったのに、体を貫くのはどこか甘い、痺れるような感覚なのだ。
「だ、め……マリユスさま」
かすれた声で、アリゼは言った。
「おかしい……わたし、おかしくなっちゃう」
「おかしくなって、構わないのですよ」
そんなアリゼが愛おしいというように、優しい声でマリユスはささやく。
「おかしくなって? その姿を、私に見せて?」
「そ、んな……ああ、あ……」
アリゼは身をよじった。すると小さく、くちゅりと音がする。それはアリゼの両脚の間からで、今まで感じたことのないそれに、アリゼはなおも混乱した。
「だめ……だめ。こ、んな……こと」
「なぜ、だめなのですか?」
からかうように、マリユスは言った。
「こうやって、体に触れさせてくれているのに。あなたのすべてを、晒してくれているのに」
「ちが……、そんな、ことじゃ」
ひくん、とアリゼの体が跳ねる。マリユスは目を細め、なおも乳房に触れながら彼女を見つめていた。
「おかしな、ところを……あなたに、見られたくない」
「おかしくはないと、言っているでしょう」
マリユスは少し苛立ったようにそう言って、アリゼは思わず目を見開いた。
「男に触れられて、こうなるのはあたりまえだ。その反応を見せてくださっているのに、おかしいなどということはありません」
彼はアリゼの唇に触れ、触れるだけのキスをしてくる。そのまま顎を、咽喉を、鎖骨を舐めて、そして乳首にくちづけた。
「あ、あ……あ!」
アリゼの口から洩れる声が、色を増した。自分でもどきりとするような甘い声だ。マリユスは顔をあげ、アリゼの顔を見て微笑んだ。
「いい声だ」
「んぁ……あ、あ……あ、ああ……!」
彼の唇は乳首をくわえ、きゅっと吸った。つま先まで、あの感覚が走る。アリゼは裏返った声をあげてしまい、反射的に羞恥に顔を隠した。
「あ、あ……ん、っ……」
「いけませんね、お顔を隠すのは」
そう言ってマリユスは、アリゼの腕を取る。ぐいと乱暴に腕を引かれて、するとアリゼの目には今までになく艶を増したマリユスの顔が映った。
「アリゼ」
優しい声には、しかし淫らな色が浮かんでいた。男がそのように変容することなど、アリゼは知らなかった。それでいて彼が、欲情しているのだということがわかる。愛する女の裸体を前に、興奮しているのだということが感じられた。
「マリユス、さま」
そのことはアリゼに、思いもしない感覚を与えた。彼女は手を伸ばしてマリユスの背にまわし、ぎゅっと抱きしめたのだ。
「アリゼ……」
マリユスは驚いたようだった。しかしすぐに小さく笑い、乳房にくちづける。乳首を吸いあげる。
「は、ぁ……あ、あ……あ、あ」
彼が触れてくるたびに、体の中の熱が大きくなる。燃えるように熱くなる。アリゼは呼吸を乱し、激しく胸を上下させた。
マリユスの手は乳房から、下肢にすべった。そっと、両脚の間のデルタに触れられる。そのようなところを、と思うもののその奥は、先ほどからたまらなく疼いている。この感覚を解消してくれる――治めてくれるのなら。より、感じさせてくれるのなら。
「脚を、開いて」
腰をもじもじとさせていたアリゼは、言われるがままにそっと脚を開いた。くちゅ、と小さな水音が立つ。すると奥まった秘処にマリユスが指を伸ばしてきた。きゅっと触れられる。
「あ、あ……あ、あ!」
「ふふ、濡れていますね」
秘められた部分に彼は指を這わせ、前後に動かす。するとつま先までもが痺れ、体が硬直する。アリゼは途切れた声をあげ、同時に目の前が真っ白になるのを感じた。
「あなたが感じているという証です……あなたが私に、感じさせられているという」
「わ、たし……」
そのような部分が、これほどの感覚を生み出すとは思いもしなかった。アリゼは大きく目を開けて、薄く微笑んでいるマリユスを見つめている。
マリユスの指は、巧みに動いた。濡れた花びらの端に触れ、爪の先でこする。折り重なっているそれをかきわけ、蜜の溢れる奥を引っ掻く。アリゼの下肢はびくっと震え、太腿に触れたマリユスの手が、それを押さえた。
「素晴らしい反応を見せてくださる……あなたが感じていることが、これほどに嬉しい」
「あ、や……っ、……マリ、ユスさま……」
あまりの感覚にアリゼは身をよじるけれど、マリユスはそんな彼女を追い立て、ますます感じさせてくる。そこを執拗にいじられていると、次第に体が自分のものではないような――マリユスのものになっていくような感覚があって、それにもさらに、今までにない奇妙な情感を味わうことになる。
「う、ぁ……ん、んっ……」
マリユスはアリゼの腿の裏に手をすべらせ、ぐいと大きく開かせた。濡れている秘処に空気が入り込んできて、そのひやりとした感覚にアリゼは大きく震えた。
「あ、あ……っ、あ……あ!」
指ではないものが触れてくる。濡れた、柔らかいもの――それがマリユスの舌であり、彼がアリゼの両脚の間に顔を寄せていること、秘部を彼に舐められていることに気づき、アリゼは思わず声をあげる。
「や、っ……だ、め。そんなこと……だめ、です。しちゃだめ……」
「あなたのここは、とても美味だ」
舌なめずりをしながら、マリユスは笑った。その笑い声さえも、敏感な部分に響く。
「甘い蜜が、どんどん溢れてくる……こうやって舐めとっても、きりがありませんね」
花びらの端を舐められ、くわえられてきゅっと吸われる。それがたまらない刺激になってアリゼは腰を跳ねさせて、しかしそれは彼に押さえ込まれてしまう。彼はますます秘処を攻め、アリゼの目の前は次第に白く塗りつぶされて、意識が遠のいていくような感覚に襲われた。
「ひぁ……あ、あ……あ、ああ、あ!」
気づけば脚を、大きく拡げさせられていた。今までこのような格好など、したことがない。そこに顔を埋めるマリユスの金の髪に指を絡め、思わず力を込めてしまう。
「あ、あ……ご、めんな……さ……」
「構いませんよ」
マリユスは笑う。そのまま秘芽を舐めあげ、くわえ、きゅっと力を込めて吸った。
「っあ、あ……あ、あ、ああっ!」
意識が遠のく。目の前を塗りつぶした白に、転々と星が散る。アリゼの全身はこわばって、つま先までがきゅうとしなった。
「……あ、あ……っ、あ……あ!」
一瞬、自分を見失った。自分がどこにいて、なにをしているのか。なにをされているのか。今がどういう状況で、我が身になにが起こっているのか――すべてが霞の中に消えてしまい、アリゼは大きく目を見開いた。
「ふぁ……あ。あ、ああ……」
「達きましたね」
マリユスが顔をあげる。彼は満足そうに唇を舐め、その仕草がとても艶めかしいと思った。
「達、く……?」
「そう。快楽の絶頂を知ったということですよ」
くすくすと、彼は笑っている。彼の笑いにアリゼはかっと頬を染めたけれど、嘲笑われたという感じはない。マリユスはアリゼの頰にくちづけをして、そしてぺろりと舐めてきた。
「きゃ、っ」
「あなたは、本当にかわいらしい。このような姿を見せてくださって……私、だけに」
うたうようにマリユスはそう言って、そしてアリゼに体を重ねてくる。彼の脚に膝を大きく拡げさせられて、再びの羞恥にアリゼは声をあげた。
「いや、です……この格好。恥ずかしい」
「いいのですよ、私の前だけなのですから」
そう言ってマリユスは、腰を突きあげてきた。脚の谷間になにかが触れる。熱くて硬くて、太いなにか――アリゼは、ひゅっと息を呑む。
「この甘い体に、私を受け入れて……?」
どこか甘えるように、マリユスは言った。まとめた指よりも大きなそれは、アリゼの秘処をぐいと押し開く。
「あ、あ……あ!」
ぬるりとしたそれが、蜜口をかきわける。異物が入ってくる感覚に、アリゼは大きく目を見開いていた。
「な、ぁ……あ、……あ、ああ!」
戸惑うアリゼにマリユスが微かに笑ったけれど、今までのように余裕のある笑いではなかった。まるでなにかに追い立てられているかのような、切羽詰まっているかのような――なにが彼を追い詰めているのだろう。そして自分の身には、いったいなにが起こっているのだろう。
「マリユスさま……、マリユスさ、ま」
必死になって、アリゼは彼の腕にしがみついた。彼はアリゼを抱きしめてくれて、その間にも秘処へなにかを突き込まれる違和感は続いている。
「や……、これ、や……っ」
「怖がらなくてもいいから」
マリユスはアリゼの頰に、こめかみに、額にキスをする。彼が突きあげてくる異物は花びらを押し開いて挿り、それに包まれ、さらに奥へと望んで進む。
「いやなことはしませんよ……あなたを傷つけるようなことは」
「ひ、ぁ……あ、ああ、あ!」
ぐちゅん、と音がして、中ほどにそれが挿り込んだ――その一瞬の違和感にアリゼは、はっと息を呑む。体の中のそれは熱く、どくどくと鼓動していて、同時にまるでそこにあることが自然だとでもいわんばかりに、アリゼの体を支配している。自分の体が、自分の知らない反応を見せているということに、にわかに強く、不安になった。
「あ、だ……め。だめ。これ以上、は……あ」
「あなたの中は、心地いい」
かすれて揺れる声で、マリユスがささやく。
「私を受け入れてくれている……ほら。中が、絡みついてくる」
彼は、大きく息をついた。その手がアリゼの腰を掴み、下半身を持ちあげられて、すると繋がった部分がより深くなる。
「ああ……あ、ああ!」
ずくん、と熱いものが体の奥にすべり込む。痛みや苦しみはない、しかし猛烈な違和感が下腹にあった。
(この続きは製品版でお楽しみください。)