「……」
ノは、乱れたベッドに横たわり、一人、身悶えていた。
緩く暖房の効いた、明かりをつけたままカーテンを閉じている部屋には、彼女の荒い息とともに、栗の花のような香りが濃密に漂っている。
それは彼──の放った、熱い迸りの名残りだった。
「──ンッ……!」
きつい緊縛のために、手から腕にかけての痺れに耐えられず、雪香はわずかに身体を動かす。
彼女が今、その、抱かれた熱もさめやらない身体にまとうのを許されているのはただ一つ、全身を緊縛している縄だけだった。
途端、全身を編み込むように拘束した縄に身体を締め付けられ、あえぎが漏れる。腰まである長い黒髪は乱れて身体に沿って流れ落ち、彼女の名前の通り雪のように白く、きめ細かな肌の色を、一層際立たせた。
ほっそりとしたその体を締め上げる、上質な絹で作られた、雪香の小指ほどの太さの縄は長く、滑らかな上に強靱だった。その為に拘束感は強いが痛みはなく、肌を傷つけることもなかったが、代わりに深く、容赦なく食い込んでくる。
その縄は、二つ折りの状態で輪を作って彼女の首にかけられ、その下にも幾つか結び目を作った二重の状態で身体をぐるりと巡って股間をくぐらされていた。さらに背骨に沿って背を這い上り、最後に首の後ろに通された縄で、雪香の身体を縦割りに拘束している。この状態から、縄は左右に分かれて両脇の下から体の前に回され、身体の中心に渡された二重の縄をそれぞれすくう形でくぐって背に戻ると、今度は背中側の縄にかけ、再び前へと渡されていた。
こうして縄は背中と胸腹を何度も交差し、白い肌に編み目のように食い込み、締め上げていた。
いわゆる亀甲縛り、と言われる緊縛である。
首から下をきつく、左右対称に編み込む形で縛り上げられているので、もともと細身の割にふっくらとした雪香の二つの乳房は縄の間から絞り出されるような形になり、一層大きく見えてしまっている。そのために胸の突起はちりちりと感じ、固く尖って、シーツが触れるだけで快感が走り抜ける状態だった。
それに、胸だけではない。
雪香の股間の花びらを割り、花芯を露わにしたそこに、二重になった縄が強く食い込んでいるのだ。縄は雪香の蕾を挟んで絶え間なく嬲り、擦って刺激し、ひどく淫らな感覚を伝えている。
しかも、雪香の両手首を後ろ手に縛る縄は、その股間に食い込むそれに繋がっており、背から首の後ろに渡された縄にもくくりつけられていた。
「う、ッ……」
ギシリ、と手首の縄がきしむ。
わずかに手を動かすだけで、繋がっている股間の縄が引っ張られ、さらに食い込んだ。同時にジン、と、強い刺激が全身に伝わり、胸や腹部に打たれた縄までもが柔らかな肌をより一層蝕む。
「──あ、ンッ……」
その感覚に、唇から漏れた声の切ない響きに、雪香は真っ赤になった。
──こんな状態で、心地よくなってしまっているなんて。本当に、私はどこかおかしいのかもしれない……──
「──お前は俺の親父をたぶらかした、淫売だ。しかも親父を殺し、さらに俺から逃げようとした。だからこうして拘束してやる」
途端に、自分を抱き、緊縛した龍斗の声と、憎しみに満ちたその顔が脳裏に浮かんだ。雪香を罰するために繰り返し抱いた後、再び服を身につけた龍斗は、低くそう罵ったのだ。
雪香は思わず震えた。彼の怒りは当然だと思った。
もう六年もの間、自分は彼の父、暴力団不動組の組長である不動剛の愛人だったのだから。
しかも今、その剛を殺めたという嫌疑をかけられている。しかし、無実の身であっても、彼が疑っても仕方のない状況で、且つある事情からその疑いを晴らすことが出来ないジレンマを抱える雪香は何も言い返せなかった。
──けれど今、龍斗のことを想った途端、雪香の全身を走ったのは恐怖ではなく、先ほどまでの、炎に焼かれるような彼との行為の感覚と、震えるほどの切なさだった。
淫らな薬を感じやすい部分にたっぷりと塗られ、龍斗に息も絶え絶えになるほどに繰り返し抱かれ、嬲られた。
そうして何度もいかされた後で緊縛された身体は絹縄の中で火照り、疼き、締め付けられ、擦られるたびに、彼に抱かれた時の快感を呼び起こされ、震えてしまう。
頬が染まった。男に抱かれるのは初めてではないのに。
二十歳の時、どうにもならない事情から、家族を救うため、雪香は龍斗の父、剛の愛人になったのだから。
剛は雪香に執着し、彼が病を得るまでの間、ほぼ毎晩相手をさせられた。淫らに感じる薬を飲まされたり、これよりはずっと軽いが、拘束され、行為をさせられたこともある。
だが龍斗の行為はそれを遥かに超え、心も体も、燃えるように熱く、感じてしまうものだった。
──罰するために自分を抱いたはずなのに、龍斗の行為は熱く激しかったのだ。
雪香より五歳年下の、二十一歳の龍斗の心も身体も、若さと力に満ちているからだろう。
彼はその全てを彼女に叩きつけ、荒々しく貪った。何度も繰り返し雪香を抱き、貫き、責め立てた。そして雪香自身も彼に翻弄されながら、気がつくと行為に我を忘れ、熱く強靱な身体にすがりついていた。それが一層、怒りを煽ったのか、行為はさらに激しくなった。
そしてようやく、龍斗が雪香の体から所有の証の雄根を引き抜いたその時、雪香は息も絶え絶えになり、股間をぐっしょりと濡らして、ただぐったりとシーツに横たわった。
白い肌は抱かれた直後のために火照り、唇、胸の突起や股間の花芯など、感じやすい部分は全て執拗に嬲られ、翻弄されて濡れそぼち、赤く腫れ、熱を帯びて疼いていた。
その、体のどこでも、軽く触れただけで感じてしまう状態の雪香に、龍斗は身動きするなと命じ、震える体を、細く滑らかだが強靱な、絹でわれた縄で容赦なく縛り上げたのだ。
「良い格好だな。そら、お前も見てみろ」
そして、緊縛された雪香の半身をぐいと起こすと、小さく悲鳴を上げる彼女に構わず、髪を掴んで、その顔を壁に掛けられた全身の映る大きな鏡に向けさせた。
「……!」
雪香は目を見張った。淫らに緊縛された自分の姿が、はっきりとそこに映り込んでいたのだ。とした部屋の照明に照らされ、その上気した肌も、溢れた体液で濡れそぼった股間も、ピンと尖った乳首も、行為のあとでぐったりと弛緩した顔も、全てが露わに見えてしまう。
かつて龍斗の父、剛に抱かれた時にも、何度も自身の痴態を見せつけられた。それは、羞恥に悶える雪香を見て、楽しむために設えられた鏡だった。
けれど今、鏡の中に映り込む自分は、明らかにその時よりも強い快感を感じ、その証の体液で全身を濡らしている。その傍らに顔を寄せる龍斗は、はっきりと怒りと憎悪、そして冷ややかな軽蔑を浮かべていた。
「……!」
雪香は耐えきれず目を背けようとした。
だが、龍斗は髪を強く掴んだまま、彼女の視線を固定させ、動けなくさせた。そして、冷たい言葉を投げつける。
「見るんだ、淫売! お前が今、どんなにいやらしい姿なのか、はっきり自分の目に焼き付けろ」
その言葉に雪香は従うしかなかった。何と浅ましい姿なのかと目に涙が滲み、視界がぼやける。
──わかっている。こんなものを見せられなくても、私がどれほど淫らなのか……──
六年ぶりの龍斗との行為で、はっきりと感じ、さらに彼が欲しくて求めてしまっていたのだから。そして今、彼に緊縛されたことで、再度感じやすい部分を刺激され、その手の力強さに、またしても自分の体は淫らに反応してしまっている……。
上気した頬に涙が伝い落ちた。
と、龍斗がいきなり手を放したので、雪香はきつく緊縛された状態のまま、床の上に倒れ込んだ。その身体を龍斗は手荒く抱き上げると、ベッドに無造作に放り投げる。
その衝撃と、全身がまた締め付けられる感触に、雪香は呻いた。
「あうっ……!」
龍斗はそんな彼女を一度、顔をしかめて凝視すると、手早く身支度を済ませ、そのままさっさと、部屋の扉に向かって歩き出した。
「え、ま、待っ……」
ノブに手をかける龍斗に、雪香ははっとした。
両腕が支えにならない状態で懸命に身を起こしかけ、声をかけた。
そんな彼女を、顔をしかめて凝視し、龍斗は冷ややかに言った。
「俺が戻るまで、その格好でそうしていろ。俺から逃げようとした罰だ」
「ち、違います、逃げるなんて……」
「罪人は拘束されるものだ。それにお前はこれから俺の奴隷だ。そのことを自分の身体でこれから、とことんまで思い知れ」
冷たく言葉を投げかけると、龍斗は足早に寝室を出ていった。
扉が閉ざされ、鍵が外から下ろされる金属音が響く。
「あうッ……」
呆然とそれを見送った後、雪香は拘束された体を支えることが出来ず、そのまま、再びシーツに倒れ込んでしまった。その衝撃で縄がきしみ、全身が締め付けられる。さらに胸の突起がシーツに擦れ、その瞬間、淫らな快感が全身を走り抜けた。
「……!」
雪香は思わず身を震わせ、鏡から懸命に顔を背けた。
先程まで自分を思うさまに翻弄し尽くしていった、龍斗の若く力に溢れた手や腕、胸板、そして男の証の感触が、はっきりとよみがえってきたからだ。
雪香の股間と白い内股は、拘束された時点で既に、行為の際に龍斗が放った体液と、彼女の溢れさせた蜜でぐっしょりと濡れている。執拗に嬲られ、擦られてほの赤く色づき、過敏なままになっていた花芯と、それを包む花びらは、彼との記憶にひくひくと震え、淫らな蜜で股間に食い込んだ絹縄を新たに濡らしていく。
雪香はぬるりと湿った感触に、びくりと身をすくませた。その拍子に背で拘束された両手首が上に動き、キシリ……と音をさせながら、繋がれている股間の縄を締め付ける。
「あ、ンッ……」
花芯が激しく擦られ、こみ上げる強く淫らな快感に、思わず声が漏れる。
その声の甘さに、恥ずかしさのあまりシーツに顔を埋めた。途端に今度は、縄によって絞り出され、ちりちりと感じていた胸の突起が二つともシーツに強く擦れ、それにも感じてしまう。それまでの行為で、雪香の肌は何かに触れただけでジンと快感が走るほど過敏になっていた。
そうして絹縄にきつく緊縛されて秘部を淫らな粘つく液で濡らし、胸の突起を尖らせ、上気した肌で身悶えている雪香の姿は、ぞくりとするような被虐的な美しさがあった。
情欲に耐えかねて微かに首を振ると、巧みな緊縛のために一層身体が締め付けられ、びくんと震える。そのたびに長い髪が揺らめき、胸や腰にまとわりついて、さらに妖しく淫靡に見せた。
──そんな、私……──
あんなに彼に抱かれて、あられもない姿をさらけ出した後だというのに、自分はまた、こうして新たな快感にシーツの中で身悶えている。しかも極めて淫らな格好に拘束された姿で……。
──この、淫売!──
行為の際に、怒りに満ちた眼差しで自分を見据え、罵った龍斗。
本当にその通りだ。なのに……。
「あ、うッ……!」
気がつくと雪香は、さらに激しく手首を動かし、一層きつく自身を拘束する縄を締め付けていた。まるで、記憶の中の彼の言葉で、自分を追い詰め、罰するかのように。自分でしていることに呆然とした。
だが、その結果、縄はさらに体を締めあげ、特に股間に渡された縄はさらに厳しく花芯に食い込み、強い刺激を与えてきた。拘束された不自由な体で、雪香は身を反らせ、力なく身悶えた。
──罰せられて、拘束されたのに感じて、さらに自分から、もっと求めてしまうなんて……。本当に、彼のいうとおり、私は淫らだ……──
強い罪悪感とは裏腹に、いや、それだからこそなのか、縄が食い込み、擦り上げられた花芯からは蜜が溢れ、あらたに強い快感の波が押し寄せてきた。思わず身を揉むようにして俯せになり、悶える。途端、絞り出されて固く尖り、ちりちりと感じていた胸の二つの突起がシーツに擦れ、また、ジンと刺激がわき起こる。
「うッ…あンッ……」
感じやすい部分が同時に苛まれ、刺激されて、龍斗との行為がよみがえってくる。花びらと花芯を荒々しく押し広げ、容赦なく深々と打ち込まれた彼の雄根。若さと力に溢れたその男の証に、一体何度貫かれ、何回感じさせられて達したのか覚えていない。
その行為や、拘束された疲労で、意識が朦朧としてきた。雪香はもう、快感に押し流される他は、何も出来なくなっていた。
そうして身体を力なく波打たせた雪香の股間には、再び縄が食い込んだ。
──あ、ああッ……。気持ち、い、いッ……──
縄のきしみとともに、快感が押し寄せる。雪香は何も考えられなくなり、目を閉じ、一人で身悶えながら、ほっそりとした背をしならせた。そうして達してしまう。
龍斗に抱かれた時よりも快感の波は低いが、その分、淫靡な感覚だった。股に食い込んだままの絹縄が、新たに溢れた蜜でぐっしょりと濡れ、ぬらぬらと酷く淫らな感覚を伝えてくる。
「あ、うッ……」
そのまま、雪香は汗と蜜、それに龍斗の体液で濡れたシーツの上に、ぐったりと倒れ込んだ。閉じたままのその瞳から、涙が幾筋も溢れる。
「うッ、う……」
こんな淫らな格好で、確かに快感を感じていた事実を突きつけられて、消え入りたいような恥ずかしさと切なさを感じ、力なくすすり泣く雪香は、意識が遠のいていくのを感じた。
涙をそのままに、緊縛された縄に身を委ね、目を閉じる。これまでの記憶が、霞んでいく脳裏に、ゆっくりと横切っていく。
──その姿は、網に捕らえられ、屈強な漁師に思うさま犯された人魚のようだった。
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