彼が、無作為に女性を辱めるような趣味を持っているとは思いたくなかった。
メラニアと言葉を交わすにしろ、彼はいつだって理路整然としている。そんなアロイスが、どうして自分を裸にして、あらゆる場所に触れてくるのか。
答えとして頭の中に浮かんできたのは、この数日間でたっぷりと聞かされた呪いのような言葉――魔女という、忌まわしき呼び名だった。
「わ、わたしが――わたしが魔女だから、このような無体をなさるのですか……罰せられて、当然だと……?」
「罰? ……とんでもない。罰を受けるべきは私の方だ。君はなにも悪くはない」
そう言いながら、彼の手指はロザリーンの下肢までも伸びてくる。
邪魔なドレスの一切を取り払った彼は、やや苛立たしげな手つきで自らが着ていた上着を脱ぎ捨てた。
「悪いのは、全て私だ」
胸元を緩めたアロイスが、ロザリーンの両足を掴んだ。
割開かれた膝の奥、最早簡素な下着以外に隠す物のないその場所に、冷たい指先が伸びてくる。
「やっ……!」
足の付け根に触れられただけで、ぞくぞくとした感覚が体中に駆け巡ってくる。
誰にも触れられたことのないその場所を暴こうとするアロイスは、足を閉じられないように押さえつけたまま、わずかに濡れた白い布をゆっくりと押し込んだ。
「ぁ、ぁあっ……」
「もう、濡れてきているね? 胸に触れられたのが、そんなに悦よかったのかな」
体を折り、わざと耳元で囁くアロイスの声に、ロザリーンの頭の中にはぼんやりともやがかかったようになった。
抵抗を許されず、ただなすがままに組み敷かれる――胸を引き裂かれるような苦しみとともに、彼から与えられる得も言われぬ感覚に、すっかり思考がその役割を果たさなくなってしまっていた。
「下着も、こうなってしまっては邪魔でしかないね。外してしまおうか」
「それ、は……だめ、だめです……許して……!」
首を横に振るロザリーンの懇願を、アロイスは許してはくれなかった。
体の中からあふれる液体で濡れてしまった下着を、彼はさっさと足から引き抜いてしまった。
異性の前で生まれたままの姿をさらすことになったロザリーンは、羞恥と恐怖で震えるしかない。それも、あのアロイスが自分にこんなことをしているだなんて――悪い夢であればどれほどいいだろうと、幾度も頭を振る。
だが、夢の終焉はいつまで経っても訪れなかった。
「離して……どうして、あなたがこんなことを……」
彼に触れてほしいという感情が、まるでなかったわけではない。
だが、それはこんな形で成就を願うものではなかったはずだ。
「――君を、手放したくはないから」
混乱しきったロザリーンの思考に、低い声が覆い被さる。
唇同士を再び重ね合わされて、ロザリーンは一筋だけ涙をこぼした。生理的なものであるのか、悲しみから来るのか、境界が曖昧になったその涙を指先で拭って、アロイスは彼女の素肌に触れた。
「は――ぅ、うぅっ……」
太腿から、秘められた場所をゆっくりと指先がなぞる。
蜜口を中指で撫で上げ、指の第一関節までをそっと押し込まれると、妙な異物感を感じるとともに、くちゅりと水音が聞こえてきた。
「ぁ、あっ、ふ、ぅうう……」
浅い位置でくちゅくちゅと指を動かしながら、彼の親指はまた別の場所に触れようとしていた。
襞の合わせ目の上、にわかに膨らみはじめた花芽を親指で転がされて、ロザリーンの体はこれまでとはまた違った快楽を受け取りはじめた。
「んんっ、ぁ、それぇっ……」
「ここに触れられると、気持ちがいい? こうして、指で押しつぶされるのはどうだい?」
「ぁあっ、あ、やっ……」
こりゅこりゅと、円を描くように花芯を愛撫されると、体の奥からとろとろとした蜜が溢れてくる。
喉の奥から転がり出す自分の声が、甘く媚びるような響きを孕みだしたことを感じて、ロザリーンは必死に唇を引き結んだ。
だが、それを許すまいと、アロイスが挿入した指の動きを強くする。
「ひぁぁっ、ア、やぁっ」
「たくさん声を聞かせておくれ。もっと、君が気持ちよくなっているところを私に見せて――」
残酷なまでの愛撫が、ロザリーンの理性を突き崩していく。
理不尽なほどの快楽が彼の手指によって生み出され、無垢だった体を淫らに染め上げていった。
「ぁあぅっ、やっ、アロイス、さまぁっ……」
「あぁ――そうやって名前を呼ばれると、とてもいいな……。自分の名前が、とても特別なもののように思える」
ぐちゅ、ぐぷっと、淫らな音が部屋の中に響き渡る。
最早耳を塞ぐこともできず、ロザリーンはアロイスにされるがままになっていた。
指先は媚肉を掻き分け、よりロザリーンの奥へと潜り込んでくる。
指の腹が丹念に襞を擦り、緩慢な動作で捏ね回される花芽は時折思いだしたように強く押しつぶされた。
「――ッは、ア、あぁっ!」
ぞくぞくとした喜悦が生まれ、そして消えていく。
お腹の奥がジンジンと熱くなっていくような感覚とともに、どこか切なさを感じてしまって、ロザリーンはやがて小さく体を揺らしはじめた。
「ンぁ、あ……ふ、ぁぁ……」
柔らかく温かい、泥濘ぬかるみのような快楽に身を委ねながら、ロザリーンは涙でぼやけたアロイスの輪郭を追った。
「ぁ、あふっ、っうう……アロイス、さま」
「あぁ、少しずつ解れてきたね――指を増やしてみよう。君が気に入るといいけれど」
「え――ぁ、ア、んんっ!」
言うや否や、とろりとした蜜を湛えた秘裂にアロイスの人差し指が挿入された。
バラバラと異なる動きで蜜壺の中を刺激され、それまで燻くすぶるようだった快楽が一気に花開きはじめる。
「んンぁっ、は、あっ――ッ! ……ふ、ぁあっ」
息を吸おうとしても、うまく呼吸ができない。
肺まで届くことのない浅い呼吸を繰り返しながら、ロザリーンは思わずアロイスの腕にしがみついた。
そうしていなければ、天地がひっくり返ってどうにかなってしまいそうになる。
すると、いじらしいロザリーンの仕種に気をよくしたのか、アロイスは陶然とした表情で何度もその唇に吸いついてきた。
「んんぅ……ァ、んむ……ふ、ァあ」
「んっ……ロザリーン……もっと……」
深く繋がるように舌を絡め合い、互いの唾液を攪拌かくはんしながら、淫楽を覚えるほどのくちづけに溺れる――ロザリーンの中で、次第にそれは心地よいものになりはじめていた。
(頭が、ぼうっとして……温かくて、気持ちいい……)
ぼんやりとした思考の中で、自らアロイスを迎えるように舌を絡める――とろりとした蜜のようなその感触は、逃れがたく甘美なものだった。
「あ、ぁぅ……んっ、は、ぁ……」
唇が離れると、互いを繋ぐ銀色の糸が名残惜しげにほどけた。
やっと新鮮な空気を吸うことを許されたロザリーンは、苦しげに眉を寄せながら数度咳き込んだ。
アロイスは、そんなロザリーンの様子が落ち着くのを待ってから、再度彼女の中で指を動かしはじめた。
「ひゃ、ぅうっ……ァ、んぁあっ、それっ、だめぇっ……」
「だめ? 先ほどよりもよく濡れて、とても熱くなっているよ――もっと触れてほしいと、君の体が私に絡みついてくる」
くぷりと音を立てて引き抜かれた彼の指先は、二本ともしとどに濡れていた。
それが自分の体から溢れてきた愛蜜であるということを理解したロザリーンは、今度こそ耐えられないとばかりにぎゅっと目を閉じた。
「お、お願いです。もう……許して、許してください……」
「言ったはずだ。罰せられるのは私の方だと――抵抗ができない君を、こうして組み敷いている。許されざる姦淫かんいんの罪を、私は今犯そうとしているのだから」
アロイスの唇が、にわかに歪んだ。
それがどのような感情であるのかを、ロザリーンは読み取ることができなかった。
だが、ややあってから蜜口に押し当てられた熱い塊に、ひゅっと息を呑んでしまう。
「ぁ……」
ぬるりとした、水っぽいなにかが、太腿の更に内側に触れた。
硬く、質量を持ったそれを直視することができず、ロザリーンは目を固く閉じたまま嘘であることを祈った。
「目を、開けて」
静かな命令だった。
強い口調ではなく、ともすれば懇願するかのような頼りなさを帯びたその声は、けれどもロザリーンの中心を大きく揺さぶってくる。
「ロザリーン。お願いだ――私を見て」
欲情に濡れた男の声が、まるで操り人形の糸のようにロザリーンの体を支配する。
言葉に従い、うっすらと目を開けたロザリーンの目に飛び込んできたのは、切なげにほほえむアロイスの姿だった。
「このまま、挿入れてしまうよ」
「まっ――ァ、ああぁっ……!」
ドクンッと、鼓動が大きく跳ねた。
丸みを帯びた先端が、きつい隘路をゆっくりと押し広げていく。
それまで浅い位置を指先だけで広げられていたロザリーンの体には、大きな質量とともに身を裂かれるような痛みが一気に走り抜けていった。
「い、たぁっ……ァ、やだぁ……痛い、お願い……やめてっ……」
「すまない――ロザリーン……もう、私は……っ」
堪えきれないといった様子のアロイスが、一気に腰を進めてきた。
秘められた場所へ肉楔を突き立てられたロザリーンは、胸の奥から押し出されるように苦しげな声を出した。
「ァっ……い、ァああっ……」
熱く、硬い肉の塊が、ロザリーンの体を押し開く。
アロイスは一度奥までそれを埋めると、ゆっくりと腰を引いてきた。圧迫感が薄くなるが、相変わらず鈍い痛みは引くことがなかった。
「あぁ……ロザリーン。これで……」
わずかにうわずって掠れたその声が、幻のようにぼんやりと耳朶を掠めていく。
もう、なにが起こっているのかを理解できない――したくないとさえも思っていた。どうしてあんなに優しかった彼が、こんな無体を働くのか。
「あぉ……ァ、はっ……」
彼の名を呼ぶことにすら失敗したロザリーンは、小さく体を揺さぶられながら、貫かれた痛みに耐えるしかない。
「痛い思いを、させてしまったね。君にはできるだけ、痛みよりも快楽を感じてほしいと思っていたのだけれど」
わずかに呼吸を乱しながら、アロイスは優しくロザリーンの肌に張りついた髪をどけてくれる。
だが、その間に繰り返される律動は指先の優しさとは対照的に荒々しく、肉と肉がぶつかりあう淫らな音は、ロザリーンの思考を塗りつぶすように反響していた。
「ァあっ、は、ぅっ……」
「ロザリーン、どうか、どうか私を許さないで――君の純潔を奪い、それでもこんなに、君に溺れてしまう私を……」
繰り返される抽送によって、ロザリーンの体は何度か艶めかしく跳ねた。
痛みと、彼によってわずかに生み出される快楽が、ロザリーンを幾度となく攻め立てた。
(どうして、あなたがそんな顔をするの――)
泣きたいのはロザリーンの方だ。
だが、まるで自ら針の山を体に刺しているかのように、アロイスの表情は苦悶くもんに歪んでいる。なぜ彼がそんな顔をするのか、もう、ロザリーンにはなにもわからない。
「知らなかったんだ……君が、こんなにも……で――」
なにか、彼が言っている。
次の瞬間、アロイスが短く息を詰めた音と、体の中に吐き出される熱いものを感じたロザリーンは、一度だけ目を見開いた。
(これは……子供、の……)
子を宿すための種が、ロザリーンの中に吐き出された。
「アロイスさま――」
泣きじゃくり、嗄かれた声で彼の名前を呼ぶ。
痛みと疲労、羞恥と快楽の狭間で何度も揺られたロザリーンは、次第に自分の意識が遠のいていくのを感じた。
(このあとは製品版でお楽しみください)