序章
「俺を脱がして」
甘いキスのあとに、結(ゆ)愛(あ)は耳元で囁かれた。
ホテルのベッドの上で結愛の細い指は、冴(さえ)島(じま)のワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。開いたシャツの隙間から見えてくる彼のたくましい身体に、心臓が早鐘を打つ。今まで聞いたことのない速さで、呼吸が浅く荒くなった。
「結愛、緊張してる?」
「だって」
(初めてだから)
男性の服を脱がすのも、誰かに脱がされるのも未経験だ。
ジーっとワンピースのファスナーがゆっくりと降りていく。冴島が背中に手を回していると、彼との距離が近すぎて、結愛はボタンが外せなくなった。一度手を止めて顔を見ると、冴島の顔もほんのりと赤くなっているように見えた。
ホテルの部屋にはベッド脇にあるスタンドライトだけ。もしかしたらライトが暖色系だったから、緊張しているような顔色に見えたのかもしれない。
冴島が脱がそうとしているタイミングに合わせて、ワンピースの袖から腕を抜く。ビリジアン のワンピースの下から、桜の花のような薄いピンクのレースが入った下着が顔を出した。
『もしかしたら』があるかもしれないんだから、と妹の結奈(ゆな)に言われるがままに、下着までかえた甲斐があった……というべきだろうか。妹の身代わりになったお見合いで、職場の上司に下着姿を晒すとは。
「恥ずかしい? 耳まで真っ赤だ。可愛いよ、結愛」
足元からワンピースが出ていくと、冴島が床に落とした。結愛は右手で胸を、左手で股を隠してみる。小さな手では下着以上の隠し効果は全くなく、ただの気休め程度でしかない。
それでもワンピースを脱がされてしまったという羞恥心を手で隠すことで少しでも静めようとしていた。
「結愛、ほら……途中だろ?」
ワイシャツを脱がせてよ、と言わんばかりに冴島が厚い胸を突き出してきた。残りのボタンを二つほど外してから、結愛がワイシャツを掴んで脱がした。上半身裸の彼を見て、さらに胸の鼓動が速くなる。
恰好良すぎる。
細身に見えるのに、脱いだら筋肉質だ。腕の筋肉もしっかりしているし、腹筋も割れている。
一方の結愛は、三十歳になり、代謝が落ちて前よりも肉がついたなと思っていた。目の前の引き締まった身体が神々しく見えてしまう。
エリートでイケメンの年下上司と、バイトで日々ぎりぎりの生活をしている三十路女の結愛との差が浮き彫りになっているような気さえしてしまう。
「横になって」
「……あっ。ちょ……んぅ」
枕に頭をつけようとすると、素早く背中に手を入れてきた冴島にブラホックを外された。ブラジャーを上に押しやると、彼の指が小さいピンク色の実を摘まんだ。
ゾクッと背中に初めての感覚が走っていく。
(やだ、変な声が……)
指で弄られていないもう一つの実が、冴島の口の中に入る。舌先で突かれたり、口腔内で吸い上げられたりする。
「んんっ、ん、んぅ……んぁ」
「声、出して。結愛の可愛い声を俺に聞かせて」
「だ、め……こんな声、しらなっ……あんっ」
「俺だけが知る声だから。結愛、出して……声を。我慢しないで」
強く指先で摘ままれて、結愛は「ああ」と大きな声をあげた。満足そうに彼が笑い、大きく立ち上がった実から口が離れた。
「気持ちいい?」
「……あ、わからなっ……んあっ」
「初めて?」
「う、ん……やっ……冴島、課長、おかしくなりそうで……怖い」
「まだ胸の先っちょしか触ってないのに。俺を煽るなって」
「え? なに?」
なんでもない、と答えた冴島が、身体を軽くあげると今度は唇に噛みついてきた。手は胸を弄ったままだ。
くぐもった嬌声がキスの合間に漏れ出てしまう。
(ああ、下腹部がおかしい)
お腹の奥がやけに疼いてくる。股の部分からも何かが出て、下着を濡らしているのがわかると太腿を擦り合わせた。
唇を離した彼がフッと優しく笑った。
「俺もキツイけど、結愛も我慢できない?」
「我慢、ですか?」
「お腹に手をあてて、太腿を擦り合わせてる。中が疼くんだろ?」
「……なっ!」
何かがお腹の中で欲しているように感じる。痒いような、寂しいような……。結愛にはしっくりくる表現が見当たらない。
三十路女とはいえ、男女の関係に疎い結愛。セックスの知識は一般常識として知られていることさえもわかっていない。いまどきの女子高校生よりも無知だ。日々、バイトに明け暮れ、節約にばかり目を向けてぎりぎりの生活を送ってきた結愛には、知識を得る機会がなかった。
「下着を脱がすぞ」
指を布に引っかけると、するっとあっという間に脱がされてしまった。膝を掴んで足を開かされるなり、結愛は両手で繁みを隠した。
「隠すの? 何もできないけど?」
「だって……見ないで、ほしい」
「見ないでどう触るの? それとも、手が離れるように俺が奉仕すればいい?」
「……え?」
(奉仕って?)
どういうこと、と問う前に、冴島が太腿に噛みついてきた。
「ああっん」
ビクビクっと全身が快感で震えた。
「へえ、結愛は太腿が弱いんだ」
「や……だめ、それ……くすぐったい」
舌先が太腿の上を滑っていく。体中に何度も流れる快感の電流で、頭がおかしくなりそうだ。声も我慢する間もなく、出続けてしまう。
(やだ、やめてほし……むり)
さらに出そうになる声に結愛の手が動いた。繁みを隠していた手が口元へと動くと、ぐっと足を限界まで開かされて、彼の頭が入ってきた。中に隠れている真珠を舌先で探られ、チュッと吸い上げられる。
「え……ちょ……だめぇ、汚いから」
「やだ」
「だって……お風呂に入ってない」
「甘い香りがするよ。蜜も甘い。溢れてくるし……美味しい」
「美味しいはず、あっ……ん、ない」
強く吸われるたびに、身体が勝手に震えてしまう。
(だめ……どうしよう。何か……きそう)
「指、入れるよ?」
ぬるっと中に指が入り、身体の中を支配してきた。指が動くたびに、溢れ出て蜜口にたまっている愛液がぐちゅっと音をたてた。
膣筒を撫でるように動く指は、結愛の感覚をおかしくしてくる。世界がチカチカして、向こう側の世界が見えてきそうなそんな感じだ。
「や……、か、ちょう……なにか……おかしく、なりそう」
「いいよ、おかしくなれよ。俺の指で、乱れろ」
「んぅ……あっ……やっ……あああああ!」
一本しか入ってない冴島の指をぎゅっと締め付けてから、身体中が痙攣した。
「イッたな」
精悍な顔が、ふんわりと微笑んで見てくるから結愛の胸がきゅんと締め付けられた。
「イッた……?」
「気持ち良かっただろ?」
「身体に力が入りません」
「可愛いなあ。そんなんじゃ、明日には歩けなくなってんじゃないか?」
「え? 何を言って……?」
「これからだろ、セックスってのは」
「もう、無理です」
「駄目。俺のがまだ入ってないだろうが。俺も気持ちよくさせろよ?」
(え? 気持ちよくさせるって?)
結愛は茫然としながら、中学のころに勉強した保健体育を思い出してみる。記憶は霞がかっていてはっきりと思い出せない。
高校生のころの友人たちの会話でそのような話題があったかどうか記憶を探ってみるが……やっぱり思い出せない。
生きていくのに必死すぎて、男女の情報が皆無だ。
(どうしよう。普通は何をするの? ここで……)
「動揺してる? 結愛は何もしなくていいよ。俺が勝手にやるから。結愛は足を広げて受け入れてくれるだけでいい。痛いから……それだけ我慢して」
「痛い……んですか?」
「え? 知らないの? 初めては痛いって聞くけど……まあ、いいや。我慢できない痛みだったら言えよ」
ガチャガチャとベルトを外す音がして、チャックを下ろして中から大きくて太いものを出してきた。
「悪いな。まさか見合い当日にセックスするとは思ってなかったからゴムがないんだ。今日は中に出さないから。次からは用意しておくな」
「え? 妊娠……」
「そういう知識はあるんだな。大丈夫、妊娠したら責任取るから」
冴島に膝を掴まれると、グッと膣口が押し広げられるのがわかった。小さな口が、今までにないほど大きく開いている。溢れている愛液のおかげか、痛いのは少しだけで中に入っていく。
「だい、じょうぶか?」
「はい」
返事をして気が緩んだのか、一気に奥まで押し込まれた。ビリっと裂けるような熱い痛みが一瞬だけした。
「ああ……いっ……破けたみたいな感じが……」
「処女膜だな。俺にもわかった。やばい……結愛の初めてが俺かって思ったら……止められそうにないかも」
冴島は苦しそうな声を出しつつも優しい表情で笑い、結愛の手を握りしめてきた。指を絡めて手を強く握ってくる。
最初はゆっくりと抽挿が始まる。だが、優しく動いていたのは最初だけ……。だんだんと腰の動きが速くなっていき、結愛の中を攻め立ててくる。
「あ……ああっ、や……それ……ああ」
「悪い……ヤダって言われても止められないから」
水音と互いの肌が当たる音が、室内に響く。
「また……くる。波が……課長、一緒に……」
「無理だろ、一緒にイッたら、中に出しちまう。先に、結愛だけイケ……」
さらに膣中を擦られるリズムが速くなる。下腹部の奥で、ジンジンする個所を的確に突かれた結愛はまた痙攣を起こした。視界が真っ白になる。ぎゅうっと冴島の太い男根に噛みついた。
「あ……くっ……ヤバいから」
熱い吐息とともに漏れでた言葉が終わる前に、冴島が動き出した。
「や……だめっ! まだ……中が」
(痙攣している途中だから)
「わかってる。俺も限界だから。このままじゃ、マジで中に……」
今までにないくらいの速さで奥まで突かれてから、急に引き抜かれた。膣内が寂しくヒクついた。
「……ん、くぅ」
と冴島が声を漏らしながら、結愛の下腹部に白い熱を吐き出していた――。
(このあとは製品版でお楽しみください)