プロローグ
地上四十五階にあるホテル客室で、多部(たべ)詩(し)織(おり)は人生において最大級に重大な局面を迎えていた。
「ねえ、一之瀬(いちのせ)くん。……本当にするの?」
「するよ。だって、俺達結婚するんだよ? これから先、一生ともに暮らすんだし、夫婦ともなれば子作りをするのはごく自然なことだからね」
詩織の問いかけに、賢人(けんと)が当然だと言わんばかりに答えた。
今日は、九月の祝日の前日である日曜日。時刻は午後十一時。
ついさっき入浴を済ませ、着ているのは純白のバスローブのみ。
今いるのはキングサイズのベッドの上であり、ここに来たのは双方合意の上だ。
「こ、子作りって……いくらなんでも飛躍しすぎじゃない? だって私達、今日会ったのって十四年ぶりなんだよ?」
「そうだけど、だからって何も問題はないだろう?」
賢人に訊(たず)ねられ、詩織はもごもごと口ごもった。
「……そりゃあ、そうだけど――」
「確かにずいぶん久しぶりだけど、こんな展開もあっていいと思うし、大事なのはお互いの気持ちだ」
賢人とは、つい数時間前に中学の同窓会で顔を合わせた。それは、実に卒業以来の再会だったが、思いがけない急展開の結果、詩織は今、彼とめくるめく夜を過ごさんとしているのだ。
仰向けに横たわる詩織の横で、賢人がおもむろにバスローブを脱ぐ。
同窓会では気づかなかったが、彼は驚くほどセクシーな身体をしている。
厚い胸板に、盛り上がった肩の筋肉。綺麗に割れた腹筋に、腕や手の甲に浮かぶ太い血管―― どこをとっても、少し前に映画で見た細マッチョのハリウッド男優並みにかっこいい。
顔だって、そうだ。
切れ長で涼やかな目元に、まっすぐにとおった鼻筋。思い返してみれば、確かに昔から顔立ちは整っていた。けれど、今の賢人は当時からは想像もつかないほどレベルアップしている。
「それに、会わなかった時間が長い分、これからはそれを取り戻すつもりで深く濃く知り合っていけばいいよ」
「ふ、深く濃くって……」
「嫌か?」
「い、嫌じゃないよ。……だけど、本当に私なんかでいいの? あとで後悔したりしない?」
卵型の顔に、何の変哲もない肩を少し超えるくらいのワンレングスヘア。
非の打ち所がない賢人に対して、詩織は特に美人でもなんでもない平凡な顔をしている。
女性にしては高身長で、街を歩いている男性は半数以上が詩織よりも背が低い。大柄であるせいもあってか、今ひとつ女性らしさに欠ける。その他、いろいろとモテない要因だらけだし、どう考えても賢人のようなハイレベルの男性が望むような女ではなかった。
唯一の救いは、彼が詩織よりも十センチ以上背が高いことくらいか。
それにしたって、賢人ほどのイケメンが何を好き好んで、再会して数時間で自分との結婚を決めたりしたのか――。
「後悔なんかするわけないだろう? 俺は結婚相手として君を選んだ。決断までの時間は短かったけど、それ相当の考えがあってのことだし、俺達の間には昔からの絆だってある。逆に聞くけど、多部さんは僕との結婚を、後悔するかもしれないって思ってる?」
「ううん、思ってないよ。ぜんぜん、思ってません!」
答える声が、やけに大きかった。
長く会わないでいたが、賢人の人柄はよく知っている。彼以上に好条件の男性なんて、この先ぜったいに見つからない。今の時点で、二百パーセント後悔なんかしないと言い切れる。
「じゃあ、いいんだな。だけど、入籍前だし、とりあえず避妊はしておこうか。結婚するんだし、もうお互いに下の名前で呼び合わないか?」
「う、うん。いいよ」
詩織が頷くと、賢人がにっこりと微笑みを浮かべた。
その顔が美男すぎる。かつて常に自信なさそうに窄められていた口元からは、歯磨きのコマーシャルが似合いそうなほど白い歯が零れている。
いったい、いつこんなふうに華麗なる変身を遂げたのか……。
気がつけば、彼の顔に見惚れて、口がポカンと開いたままになっていた。
詩織は、あわてて口を閉じ、咳払いをする。
賢人がどこからか避妊具の小袋を取り出し、歯で噛み千切って開封した。そして、慣れた手つきでそれを硬く猛っている屹立に装着する。
それまでは視界の端にぼんやりとそれを捉えていただけだった。しかし、賢人の動きを目で追った結果、今や彼の男性器は詩織の視線の真ん中にある。
(お……大きいっ……!)
詩織は思わず頭の中で、そう呟いて目を見張った。
自身の僅かな男性経験と視聴したアダルト向けの動画から得た知識から判断するに、賢人のものはあきらかに大きくて立派だ。
「セックス、どれくらいしてないんだ?」
「さ……さあ……もうずいぶん……確か五年……ううん、六年かな……?」
「そうか。だったら、いきなり挿入すると身体がびっくりするかもな。心配はいらないよ。ゆっくりと愛撫して、詩織が十分濡れてから挿れるから」
「う……うん。そうしてくれると助かる」
(助かるって、なによ。むしろ私のほうが、やる気満々みたい……)
積極的にアプローチしてきたのは賢人のほうだし、詩織は最初から押され気味だった。
しかし、結局は双方合意の上で、今こうしている。
詩織は、今さらながらこんなふうにベッドに横たわり、賢人に身体を開こうとしている自分を訝しむ。
しかし、初心なティーンエイジャーじゃあるまいし、もうここまで来てしまったのだ。今さら拒むなんて往生際が悪すぎるように思う。
詩織は腹を括り、上体を起こして自らバスローブを脱ごうとした。
しかし、賢人が起き上がろうとする詩織の肩を、そっと押さえてくる。
「俺が脱がしてあげるよ。……詩織、キス……していいか?」
囁くようにそう聞かれ、無意識に首を縦に振った。
すぐさま唇が合わさり、彼の右手がバスローブの襟元に入ってくる。
もう片方の手で腰を抱えられ、身体が浮いたタイミングでバスローブを剥ぎ取られた。
全裸になり、そのままキスを続ける。
久しぶりのキスに、頭の芯がじぃんと痺れてきた。
詩織が喘ぐと、それを待っていたかのように賢人の舌が口の中に入ってくる。
「ん……ぁっ……、ん、ん……」
口腔を舌でまんべんなく舐められ、全身が熱く総毛立つ。じっとしているつもりなのに、身体が小刻みに震えているのがわかる。
賢人は、キスがすごく上手だ。
早くも蕩けそうに感じてしまい、詩織はベッドの上でもぞもぞと身じろぎをした。
頬が痛いほど熱くなっているし、さっきから脚の間がムズムズする。
久しぶりすぎて忘れかけていたが、今感じている高揚感からすると、もう十中八九秘部はぐっしょりと濡れているに違いない。
それが証拠に、乳先がチクチクと疼いているし、花芽の勃起も感覚でわかる。
賢人のキスが、詩織の首筋に移った。
舌先がチロチロと動きながら肌の上を滑り、両方の肩を巡ったのちに右の乳先に辿りつく。
まるでソフトクリームを食べるように舐められ、思わず甘えた声が漏れる。
「や……あぁんっ……!」
背中が浮き上がり、強い快感に全身が震える。
シーツを掴んでいた詩織の手が、賢人の肩に移った。指で彼の肌を掻き、思いきり身体を仰け反らせる。
「あ……ふ……賢人っ……気持ちいい……あたま……どうにかなっちゃいそ……ああんっ!」
賢人のキスが乳先を離れ、腰骨に移った。彼の左手が詩織の右脚を持ち上げ、膝裏を自分の左肩の上に載せる。
必然的に彼の顔の前に秘部を晒す恰好になり、詩織は恥ずかしさのあまり身体を上にずらそうとした。
しかし、すぐに腰を強く引かれ秘所にキスをされた。秘裂の中を入念に舐め上げられ、全身が熱に浮かされたように熱くなる。今まで、そんなところを愛撫された事なんかなかった。とてつもなく淫靡で、たまらなく甘美だ。
詩織は、もう我慢できなくなり、目を潤ませて賢人に向かって懇願する。
「お……お願いっ……もう……」
上体を持ち上げ、賢人の髪の毛を軽く掴む。硬そうに見えた髪の毛は見た目よりは、ずっと柔らかで指触りがいい。
賢人が秘所に口をつけたまま、ゆっくりと顔を上げた。その光景を見る詩織の口から、掠れたため息が零れる。
「もう、挿れてほしくなったのか?」
低く落ち着いた声でそう言われ、詩織は素直に「うん」と言って頷く。
「そうか。よし、わかった。もう十分すぎるほど濡れてるし、今すぐに挿れてあげるよ」
彼は、おもむろに起き上がり、詩織の腰を自分の膝の上に載せた。両脚を大きく広げられ、蜜にまみれた秘裂が、すっかりあらわになる。はしたない恰好をさせられ、恥ずかしさを感じるとともに、長く忘れていた性欲が一気に蘇ってきた。
「見たい? 俺が詩織に挿れるところ……」
賢人が、溢れ出た蜜で屹立の先を濡らす。クチュクチュという水音がして、詩織はそれを聞きながら、自ら両膝を左右に押し広げる。
「うん、すごく見たい……」
我ながら、なんて淫らなことを言うのだと思う。
けれど、それが本音だったし、今さら恥じ入ったところで何の意味もないだろう。
それに、詩織にそうさせるほど賢人とのセックスはしっとりと甘やかで、身体のみならず、心の奥を熱く潤わせてきていた。
「じゃあ俺は、俺に挿れられて感じてる、詩織の顔をじっくりと見させてもらおうかな……」
賢人が詩織と視線を合わせながら、舌なめずりをした。
その顔が不埒すぎる。
詩織は、ますます彼のものがほしくなり、無意識に小さな喘ぎ声を漏らした。
昔は、ぜんぜんこんなふうじゃなかった。
中学生の頃よく見知っていた賢人が、まさかこれほどまでに魅力的な男性に成長をとげるなんて――。
賢人が屹立の先を詩織の蜜窟の入り口に押し当てた。そこを、ゆるゆると抉るように捏ね回し、淫らな水音を立てる。
「詩織のここ……すごく熱くなってる。そんなに、これがほしい?」
賢人が顔を上げ、詩織を見る。
詩織が頷くと同時に、彼のものが蜜窟の中にゆっくりと沈みこんできた。ずっしりとした重厚感があるそれは、思いのほか硬くしなやかで、詩織の蜜窟を甘やかに押し広げてくる。
「あっ……あ……ああああっ!」
もう何年も閉じたままになっていた隘路が、彼のものによって暴かれ悦びに震える。
「賢人っ……あ……ああんっ……! ああああぁん!」
我ながら、なんて声を出すのだと思う。
けれど、身体はまるで砂漠の中で水を得た動物のように彼を強く求めている。
「詩織……」
名前を呼ばれ視線を上に向けると、賢人が上に覆いかぶさってくるところだった。
「嬉しいよ。詩織が、すごく気持ちいいって顔をしてくれて。……もっと、見せて。詩織のエロくて可愛い顔――」
ぴったりと身体が折り重なり、腰を強く振られる。
途端に脳天を突き抜けるほどの快楽が押し寄せ、一瞬意識が飛びそうになってしまう。
繰り返し突き上げられ、いつの間にか彼の腰に両脚を巻きつかせていた。
「賢人っ……あんっ……あ……あぁああんっ!」
信じられないほど気持ちいい――。
続けざまに声を上げ、賢人の肩にしがみつく。
賢人が詩織の身体を腕の中にしっかりと抱き込み、視線を合わせてくる。
その状態で、更に腰の抽送を早められ、詩織は恍惚のあまり涙目になった。優しくキスをされ、じっと目を見つめられる。
こんなふうに視線を合わせながらのセックスなんて、これまで一度だってしたことがなかった。
見つめ合い、キスをして、更に深く身体を交わらせる。
だんだんと強くなる快楽が頂点に達し、詩織は賢人の腕の中で愉悦の波に呑み込まれた。
「ああっ……! あ……あぁああああっ……!」
内奥がビクビクと震え、賢人のものを繰り返し締め付けるのがわかる。
それに反応して、屹立が蜜窟の中で硬く膨張し、何度も脈打ちながら精を放った。
絶頂を迎え、彼の腕の中でぐったりしていると、賢人がそっと唇を合わせてくる。何度もそうしているうちに、彼のものが詩織の中で再び硬さを取り戻していく。
「賢人……」
詩織は、我知らずねだるような目で賢人を見た。
「もっとしてほしい?」
微笑んだ顔で訊ねられ、素直に首を縦に振る。
「いいよ。詩織がそうしてほしいなら、何度でもしてあげる」
賢人が枕の下のほうから新しい避妊具の小袋を取り出した。
「……ふふっ……まるで手品みたい」
詩織が笑うと、賢人がその唇にまたキスをしてくる。
しばらくの間キスを重ね続け、再び彼のものが蜜窟の縁にあてがわれた。
唇を合わせたまま挿入され、ゆっくりと中を掻き回される。
セックスが、こんなに優しくて甘いなんて――。
詩織は自分からも賢人にキスをして、感じるままに彼の身体に全身を絡みつかせた。
(このあとは製品版でお楽しみください)