そこは古い洞窟だった。
奥には祭壇が設えられており、立ち入りが許されるのは儀式の時のみ。
この時ばかりは廃れた仄(ほの)暗い洞窟も数々の灯篭に照らされ、聖域として命を吹き返す。
儀式は簡単なものだ。とはいえ、彼女にとって苦痛であることに間違いはない。
今宵、灯された洞内には悲鳴のような女の喘ぎが何度となく響き渡っていた。
「李舜(り しゅん)様、お許しを――!」
鸞(らん)は懇願するように己を犯す男の名を呼んだ。彼の熱く滾(たぎ)った楔(くさび)は鸞の体内へ深々と刺さり、前後に激しく突き動いている。
逃れるために鸞が身を捩(よじ)れば捩るほど、その形をより深く味わうことになる――今も腰を揺らした途端、角度を変えて突かれた内壁に痺れるような刺激が走り、思わず顎がのけぞった。
「ぁ、ん、っあ!」
鸞は今、冷たい洞窟の壁に手をついて尻を突き出すような格好で男に抱かれていた。上等な白い絹の着物はほとんどはだけ、帯で結んだ腰回りしか隠せていない。白い乳房は放り出され、後ろから突かれるたびに上下へと揺れていた。
尻は男の手で割り開かれ、脚の合間に突き立てられた楔で持ち上げられるように無理やり立たされているのだった。
「許す?」
男の唇からは不思議そうな声が漏れる。
「何を許すというのだ? これは儀式だ。俺とそなたが夫婦(めおと)になるためのな」
「あぁっ!」
いっそう激しく突かれ、鸞はほとんど悲鳴に近い嬌声を上げた。
もう、立っていられない――……がくがくと震える膝は既に限界を超えているのに、男と繋がった場所に吊り上げられるように体を支えられているせいで、その場に倒れ込むこともできない。
乱れた着物の裾から覗く大腿を白い液体が滴り落ちていった。
男の精を注がれた秘所からとめどなく流れ落ちる、淫らな模様。
どうして、と鸞は薄れゆく意識の中で思った。
今宵まで何も知らなかったはずの体は無理やりに開かれ、限界を超えて貫かれ続けている。がくがくと揺らされて、鸞は苦しげに喘いだ。開いた唇の端から飲み込み切れなかった唾液が伝い、顎から首筋を汚していく。
「もう、ぁ、あっ……」
「まだいけるだろう?」
鸞の耳元で男の低い声が囁いた。
汗で濡れた長めの髪はうっすらと赤みを帯びている。鍛えられた肉体を持つ美丈夫だ。胸板を鸞の背に押し付けるようにして、耳朶に舌を這わせる。
「ぁ――」
「そなたは武芸を得手とするだけあって、体力もある。そら、また膨れて来たぞ」
「痛……っ、あ!」
秘所の突起を押しつぶすように弄ばれ、鸞は痛みに顔を歪めた。初めて男を受け入れる体はまだ与えられる刺激を快楽として認識できないでいる。
ただ、女としての本能が自動的に反応を返しているのに過ぎないのだ。
「あ、ぁ、あ……!」
あれほど意地を張って声を殺していたのに、いつしか喘ぎは嬌声となって鸞の喉をついていた。そうしないと呼吸ができないほど、男は激しく鸞を責め立てる。
「いや、ぁっ――」
耳元で男が微かに笑む気配がして、一層深く楔を打ち込まれた。内臓ごと押し上げられるような感覚に鸞は息を止めて目を見開く。
「あ……!」
「素直になれ。俺の他には誰も見ていない」
熱い吐息が耳朶に触れ、ぞくりとした感覚が背筋を這い上がる。
李舜は耳元に唇を近づけたまま囁きかけた。
「男に触れられるのは初めてなのだろう? もっと力を抜いて俺に全てを預けろ」
「んっ……」
だが、鸞は頑なに李舜を拒み続ける。
言う事をきかない鸞に、李舜は軽く肩を竦めてみせたようだった。
「初めて会った時から思ってはいたが、お前は珍しい女だな。早く身を任せた方が楽になれるだろうに――」
「はっ……ぁ、ん、あ――」
下にばかり集中していたので、男の手が不意に乳房に触れた時、鸞は不覚にも悲鳴を上げてしまった。
「ひ、ぁっ!?」
あれだけ下腹部を嬲(なぶ)っておきながら、男がそこに触れたのはそれが初めてだった。新鮮な反応を返す鸞に男――李舜は満足した様子で吐息をつく。
「恥ずかしがっているのか、可愛らしいな」
「いや――……!」
後ろから手のひらで包まれるように乳房を揉まれ、鸞は頬を朱に染めて抵抗した。
「やめて、触らないで」
「なぜ?」
李舜は意地悪く問いかける。
包み込むようにして二度、三度と揉み上げていくうちに、最初はやや固かったそこが柔らかみを増して男の指の形に馴染んでいく。
「や、あっ!」
「大丈夫だ。俺が教えてやる」
「あぁっ――!」
胸の突起を親指と人差し指で摘ままれた途端、鸞は一際高い声を上げた。その瞬間、ぎゅっと膣が収縮して男を締め付ける。
「く……っ」
李舜は低く呻き、鸞の腰を引き寄せた。
「――っ!」
体内に突き込まれた雄の楔がどくん、と弾けた。熱い飛沫を叩き付けられる感覚に鸞は両目を見開き、声にならない声を上げる。
「ぁ、……!」
結合部から溢れ返る液体が鸞の体を汚していく。ずるずると壁についた手が滑り落ちて、意識を失いゆく鸞の体を男の逞しい腕が受け止めた。
なぜ、という困惑と交わりによる疲労が鸞の心と体を絡めとる。
(私は仮初の妃よ。それがなぜ、こんなことになっているの――?)
疑問に答えてくれるはずの李舜はただ黙したまま、ぐったりと凭(もた)れる鸞の体を抱き留めていた。
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