彼の声は不思議だ。
いつもは若さで輝いているのに、たまに同じ十八歳とは思えないような深い大人の艶を帯びる。特に二人だけの時は、ざわざわと胸が波立ってしまうくらい。
「もっと脚を開いて」
栗色の髪に縁取られた顔は男らしく、精悍だ。背が高く、体つきもたくましい。それでいてどこかあどけなさが残っているので、不思議な色香を漂わせているのだった。特に印象的なのは、極上の煙水晶を思わせる澄んだ灰色の瞳――その深くて熱い瞳にじっと見つめられて、ブランシュ・ド・ヴォルカンドは小さく身を震わせた。
「でも」
「さあ開いて」
彼は目前に跪(ひざまず)き、優しく、しかし辛抱強く繰り返す。声音は命令というより懇願に近く、決して強引ではない。それなのになぜか抗(あらが)うことができなかった。ブランシュはためらいながらも、きつく揃えていた膝を少しずつ開き始める。
二人きりとはいえ、ここは玄関のすぐ脇にある居間だ。質素だが、きれいに片づいていて、テーブルにはお茶の用意もされている。心地よく整えられたくつろぎの場所で、こんな恥ずかしいことをするなんて。
ブランシュの頬は赤く染まり、極北の海のようなブルーグリーンの瞳が困惑に揺れた。秘めごとを始めるには、窓から差し込む午後の光は明る過ぎる。
「ねえ、待ってちょうだい。やっぱりここでは――」
「ここではって、他の場所ならいいのか? どこ? 君の寝室? だが僕は、今ここで君を愛したい。ランプや蝋燭の光じゃなく、この明るい日差しの中で、ララのすべてが見たいんだ」
からかうように囁きながら彼の手が両膝に伸びて、いっそう大きく割り開く。
「あっ!」
ブランシュは思わずドレスの裾から、手を離しそうになった。肘掛け椅子に深く腰かけ、膝を立てて、ドレスを腿まで持ち上げているのだ。これでは彼に、奥まで見られてしまう。
胸元は谷間がのぞきそうなくらい深くはだけられていた。輝くプラチナブロンドが肌の大部分を隠してくれているものの、あちこちに彼がつけた薄赤いキスの痕が散っている。
水色のドレスこそ侍女から借りたものだが、一国の王女として大切に育てられてきた身には、思いもせぬ淫らな体勢だった。
「だめだ、ララ。手を離さないで。ドレスをもう少し上まで持ち上げて」
「……え、ええ」
咎められているはずなのに、彼の声はどこか甘く響く。ブランシュは命じられるまま裾を持ち直した。
本当の自分はララという女性ではないし、こんなことが許されるはずはないのだけれど――。
「いい子だから、そのまま動かないで」
両膝に手をかけたまま、彼は顔を寄せてくる。あたたかな息が内腿にかかり、ピクンと体が跳ねた。
「かわいいよ、ララ」
強く、熱っぽい眼差しに射すくめられて、ブランシュはいたたまれず目を閉じる。
「ほ、本当なの? 本当に恋人同士はするの……こ、こんなことを?」
「もちろんさ。さあ、楽にして」
いかにも自信ありげに囁かれ、ブランシュはなんとか力を抜こうとした。少なくとも彼の誘いにのると決めたのは自分自身だったのだから。
「あんっ!」
その時、彼の指が右の膝頭の上で優しく円を描き始めた。
「だ、だめ――んっ! ……んんっ」
拒絶の言葉はたちまちキスで遮られてしまう。彼に引き寄せられ、柔らかく舌を絡められて、ブランシュの胸は大きく上下した。口づけはまだうまくないが、ぎこちなく舌先を動かし、懸命に応える。
「う……ん」
ブランシュは彼の指がどんなふうに動くのか、すでによく知っている。
まず内腿をゆっくり撫で上げ、ドロワーズを引き下ろして、秘密の花園へと伸びてくるだろう。それから薄い下生えをくすぐって、ブランシュを軽く喘(あえ)がせ、さらに花びらを丹念にいじめ始めるのだ。そうなればもう自分を抑える自信はなかった。はしたないとわかっていても、腰をくねらせ、いやらしい声を上げずにはいられない。
男女の営みについては国を出る前に女官長から教えられており、自分なりに覚悟もしていた。ところが彼から施される行為は、キスも愛撫も、想像していたものよりはるかに濃厚で執拗で、ブランシュを混乱させるばかりだった。
出会ったばかりだし、まだ最後の一線を越えてはいないのに、彼にはもう途方もなく翻弄されてしまっている。
「ひっ!」
ふいに彼の唇が離れたと思ったら、今度は秘部にあたたかく濡れた感触が走った。ブランシュは驚いて目を開ける。
「な、何? きゃっ!」
瞳に映ったのは、信じられないような光景だった。
大きく開かされた脚の間で、彼の栗色の髪が揺れている。ドロワーズ越しではあったが、舌先で大切な部分をついばまれたのだ。
「な、何をするの?」
「何って……大切な人への挨拶さ」
恥ずかしさに脚を閉じようとしても、両膝の間に体を入れられているせいで閉じられない。彼はさらに顔を近づけ、唾液をまぶすように秘裂を舐め始めた。
「いやぁっ!」
クチュクチュと濡れた音が響き、鮮烈な刺激が背筋を駆け抜ける。そこからわき上がる感覚はせつな過ぎて、とてもじっとしていられない。さらに舌を細かく動かされて、ブランシュは悲鳴を上げた。
「だめっ!」
「どうして? こんなに気持ちよさそうなのに」
「だって、そんなところ、ああっ!」
「ほら、見てごらん。ララのかわいい花びらが、うれしそうに震えている」
促されるまま視線を落とすと、唾液で湿った布地越しに薄桃色の肉花がくっきり浮かび上がって見えた。あまりに淫靡な光景に、ブランシュは慌てて目をそらす。
指で触れられることさえためらわれるような場所なのに、彼はそこに唇を押し当てた。キスしながら口腔を探る時のように、舌で丹念に輪郭をたどっている。
「や、やめて」
「だめだ。やめない」
「あ……ん、んん!」
きつく唇を噛んでも、濡れた声は抑えられない。秘唇を食まれたまましゃべられると、腰が蕩けそうなくらい疼く。指でいじられる時と同じくらい、いや、それ以上に感じてしまう。
「君だっていやなはずはない。こんなにグッショリ濡らしているんだから」
低い笑い声までもがブランシュを煽(あお)る。しかも舐めるだけでは満足できなくなったのか、彼はおもむろに秘花を弄(もてあそ)び始めた。音をたてて啜り、時に軽く歯をたてながら、二本の指で挟むようにして擦りたてる。
「きゃっ! あ、ああ……あ」
体の中でいくつもの火花が弾け、脚の間からトロトロと蜜が零(こぼ)れ落ちるのがわかった。確かに彼の言うとおりブランシュは恥ずかしいくらい濡れていて、部屋中に響く水音もさっきよりずっと大きくなっている。与えられる愛撫に反応している証拠だった。
けれど体が持っていかれそうなくらい追い上げられているのに、何かがまだ足りない。快感に身を委ねきれず、ブランシュは小さく眉を寄せた。
「う……」
どうにももどかしいのは、身に着けたままのドロワーズが邪魔しているから? それとも彼の指と唇の動きがいつもよりゆるやかなせいだろうか? いずれにしても、間近にあるはずの沸点にはまだ届かない。
まるでその気持ちを読んだように指が止まり、彼が身を起こして微笑んだ。
「ララ、どうしてほしい?」
「えっ?」
「僕に教えて。何をすればいいのか」
「そんなこと――」
ブランシュは真っ赤になって俯(うつむ)いた。
布地越しではなく直接、そしてもっと強く、あそこにいっぱい触れてほしい。指で、それに唇でも――望んでいるのはとても口にはできそうもないことばかりだ。ちゃんとわかっているくせに、彼はあえてそれを言葉にさせたがっている。
「い、言えないわ」
「じゃあ、ここでやめようか?」
スッと体を引かれ、ブランシュは思わず追いかけるように手を伸ばしてしまった。無意識に椅子から足を下ろし、腰が浮く。
「ああ、ララ」
前のめりになった体を、突然抱きしめられた。
「あっ!」
「もっと触れてほしいんだね? なんて素直な人だ」
「ひ、ひどいわ」
目元が熱くなり、涙が零れそうになる。悔しいけれど、彼の言葉を否定できなかった。からかわれただけでなく、あさましい姿も見られてしまったのだ。彼と、自分自身に腹が立って、どうしていいかわからない。
「放して!」
ブランシュはたくましい腕の中で必死にもがいた。しかし体が自由になるどころか、かえって強く抱きしめられてしまう。長身で胸板も厚い男が相手では、抵抗できるはずもない。
「いや! 放してちょうだい!」
「ごめん。ごめんよ、ララ。僕が悪かった」
なだめようとしたのだろう。彼はブランシュを抱き込んで、まばゆいプラチナブロンドを撫でながら、謝罪を繰り返した。
「どうか許してくれ。君があんまりかわいらしいから、つい……」
それでもブランシュが黙ったままでいると、彼はそっと右手を握ってきた。
「すまない。本当に恥ずかしかったんだね、ララ。では、こうしよう。触ってほしいところへ僕の手を置いてくれないか。それならできるだろう?」
「あなたの……手を?」
「お願いだよ、ララ。機嫌を直して」
その囁きは砂糖菓子みたいに甘く響いた。しかしそれ以上にブランシュを追いつめているのは、焦らされ続けてジクジクと蜜を滲ませている秘密の場所だった。このまま放っておかれたら、本当におかしくなってしまいそうだ。
ブランシュは彼の手を取り、少しためらってから、そっと唇を押し当てた。
「あ、あなたを……許すわ」
本当はヒクつく秘部に彼の指を導き、思いきりいじってほしかった。けれど王家の姫であるという誇りがそれを許さない。彼の手に口づけることは、ブランシュにとって最大限の譲歩だった。
「……ララ」
彼は灰色の瞳を瞬かせ、ブランシュをじっと見つめていたが、やがて彼女の華奢な体を抱き上げた。大股で奥の長椅子へ歩み寄り、そっと横たえる。
「君の気持ちはよくわかった。無理を言ってすまない。お詫びにたくさん愛してあげるよ」
「だけど、もうすぐみんなが戻ってくるわ」
「大丈夫さ」
長い指が水色のドレスをまくり上げ、ドロワーズを優しく引き下ろした。
「あ……ん」
あらわになった白い腿を彼がゆっくり撫で上げる。
「心配いらない。暗くなるまで誰も戻ってこないから」
「どうしてわかるの?」
「頼んでおいたんだ。君とゆっくり過ごせるように」
両脚を大きく開かれて、ブランシュはひとつ息を吐き、目を閉じた。すべてが彼の目にさらされてしまうが、もう抗おうとはしなかった。
「すてきなララ、たっぷり楽しませてあげるからね」
彼もこれ以上焦らすつもりはないらしく、すぐに待ちこがれている場所にキスを落としてきた。
「ああっ!」
指で花びらを押し開きながら、彼の舌はさらに奥へと浸食してくる。ついには膨らんだ敏感な芽をつつかれ、口づけされて、ブランシュは大きく背をしならせた。爪先まで電流が走り、細かな痙攣が止まらない。
「気持ちいい、ララ?」
「え、ええ……アル……と、ても」
クリクリと舌で転がしたり、爪で軽く弾いたり、透明な愛蜜で唇と指を濡らしながら、彼は綻(ほころ)び始めた秘花を味わい続ける。
「やん……あ……あ」
淫らな水音が響く中、ブランシュは両脚の間で揺れる栗色の髪をかき乱し、いつ終わるともしれない愛撫に啼(な)いた。
「ひ……あ……アル……アル」
ブランシュは熱に浮かされたように、彼の名を呼んだ。
アルという名の十八歳の青年。けれどもそれらが事実だという保証はない。ブランシュだって本当のことを告げてはいないのだから。
しかしだからこそ今だけは彼の恋人として振る舞い、何も考えられなくなるくらい思いきり愛されたかった。