序章 勘違いで、美味しく頂かれました
この時期の雨は、まだ冷たいらしい。日中にはなかった寒気を覚えながら、沙花滝(さかたき)ヒヨリは半ズボンの足を抱えて座り込んでいた。
夜の雨空を見上げるパッチリとした大きな目、猫っ毛のショートカットをしている。小さな体のおかげで、どうにか歩道の店前の隙間にちょこんと収まっている状況だ。
とはいえふわふわの髪も、今は少し湿ってしまっていた。
「雨、全然やまないなぁ。まさか歩いている途中で雨に振られるとは……ついてない」
降り出した雨は、今やバケツをひっくり返したような土砂降りに変わっていた。あれから一時間、転々とある店もシャッターが下りてしまった通りで座り込み続けている。
「もうどこのお店も閉まっちゃっている時間だし、コンビニがどこにあるのかも分からないし」
そう独り言を続けたところで、ヒヨリは溜息を吐いた。順応性が高いと自負しているが、声を出して気を紛らわそうとしているくらいには緊張しているのかもしれない。
何せ、全く想定外の〝初めての家出〟だった。
高校を卒業したのは、先月の話だ。立て続けに面接に落ち、適当に仕事先を見付けて食っていくから平気、と答えたところで父と大喧嘩になった。
『仕事をナメるな』
自動車整備工場を経営している父の、開口一番の一喝にドキリとした。
雇ってくれるところだって、売上げがかかっていてそこから給料を出してくれている。たとえジョークだったとしても、『適当に』という言葉は失礼だと思えた。
でも将来どうしたいかなんて、ちっとも浮かばなくて悩んでいたところだ。
それを知らない父に、いきなりそんなことを言われてカッとなって反発した。
大喧嘩の末、こんな家とっとと出て行ってやると告げ、財布とスマホを持ったままの身一つで家を飛び出した。新幹線に飛び乗り、気付いたら東北から関東まで来ていた。
分からない土地、道だって全部知らない。でも帰るつもりはなかった。
「一人でだって生きていけることを証明して、見返してやる」
このまますごすご帰宅して、父に『やっぱり無理だったんじゃないか』と言われるのを想像すると、絶対に嫌だと思った。
「とはいえ、どうしたもんかなぁ……」
移動もままならない土砂降りに、再び溜息をもらす。雨さえなかったら、二十四時間の漫画喫茶でも探せただろう。
でも一晩を無事に過ごせたとして、仕事やら寝る場所やらを見付けられるのだろうか?
見知らぬ土地のド真ん中、雨の冷たさに心細さがぐぅっと込み上げてきた。
部屋着のまま飛び出してきて、全財産は小さな財布と預金の数万円だ。ポケットに入っているスマホも、充電は残り三割を切った。
「め、めげるもんか。でも、このまま仕事がなかったらのたれ死んでしまうのも確実……! 屋根があるところで寝られなかったら、どうしたらっ!」
ヒヨリは自分のことでいっぱいで、向こうの道に人が現れたのにも気付かなかった。足を止めて見てきたその人が、『仕事』のくだりでぴくりと反応して真っすぐ向かってくる。
「仕事? 困ってるの?」
「そりゃ、こんな雨の中で寝る場所もないんだから――って、うわぁあぁ!?」
頭を抱えていたヒヨリは、顔を上げて色気のない悲鳴を上げた。
靴先が現れ雨粒が消えたかと思ったら、目の前に男性が立っていて驚いた。
傘を持って覗き込んできた顔は、上品な印象の端整な顔立ちをしていた。年頃は三十歳くらいだろうか。さらりとした髪も、清潔感があった。
だが、もっとも驚いたのは、その顔に漂う疲労感ぶりだった。
「だ、大丈夫なんですか? あの、今にも倒れそうというか、よくよく見たら寝不足みたいなお顔でも、あるような気がするんですけど……」
「気にしないでくれ。今日で〆切と打ち合わせの怒涛のスケジュールが、終わった」
「はぁ……」
職業柄、なのかな?
よく分からなくて、ヒヨリは気の抜けた相槌を打つに留める。男性は、話している間も遠慮なくじーっと見つめてくる。
こんなに見てくるとか、相当疲れているのかな……?
「あの」
意を決して、そう声を出した時だった。
「君、もしかしてそういう商売をしているのか?」
「へ?」
「それなら、俺が今夜のお客になってもいいかな。この雨だ。一回分寝たら一晩泊まっていいし、朝食だって付けよう。だから今日は、他の誰も取らないでほしい」
思ってもいなかった言葉に、目を丸くした。
仕事の疲労感がマックスらしい彼は、どうやら先程のヒヨリの独り言を聞いて〝一晩泊める代わりに抱かれる仕事〟と勘違いしたみたいだ。
誠実そうだが、案外大人の男として、そういうところもよく利用しているのだろう。
ヒヨリは行くところもない。この雨だ、屋根があるのも有り難い。一人で生きていくと決意したからには、そういうのも腹をくくるしかないのか。
そう考えて首がやや傾いた時、不意に片腕で抱き上げられた。
「きゃあぁあぁ!?」
「交渉成立だ。それなら、俺の家に泊まっていくといい」
話しながらも、彼はすたすたと歩き出していた。まさかの頷いたと取られたらしい。そもそもヒヨリは、何も答えていない。
この人、もしかして相当疲れているのでは!?
「あのっ、分かりました。それなら一晩お世話になります。でも、その、下ろしていただけませんか? 自分で歩けますから大丈夫です」
「君を抱えているんだ。さすがに、さっきみたいにふらふらには歩かないさ」
逃げる気はないと伝えたつもりなのに、直前までの疲労症状を暴露された。
やはり、平静に物を考えられる状況ではないようだ。
ヒヨリは困った。家に着いたら倒れてしまうのではないかと、これから食われようとしている状況を棚に上げて心配になる。
「家は近くなんだ。あれが、そう」
「へ?」
ふと抱き直され、傘を持った手で指を差された。
いつの間に閑静な住宅街へ抜けたのか、灯かりの落ちた一軒家が並んでいた。彼が向かった家の門には、『兎嶺』と書かれた表札がある。
「うさぎ、みね……?」
思わず声に出して読んだら、彼が笑う吐息をもらした。
「それは素なのか、それとも売りのキャラ設定なのかな。『とみね』だ、兎嶺(とみね)葵(あおい)。君の名前は?」
「へ? ああ、沙花滝ヒヨリです」
尋ねられたので条件反射で答えた。
すると、門から入った彼の目がヒヨリへ向いた。その瞳が柔らかな微笑みを浮かべ、ドキッとした。
「あ、あの、なんですか?」
「本名、名乗って良かったのか?」
「……えーっと、だめ、だったでしょうか……?」
途端、彼がこらえきれず噴き出した。
「なんで俺に聞くんだ。それに、かまをかけたら、まさかの本名で驚いた」
ひどい。なんでここでかまをかけたの?
ヒヨリは、肩を揺らして笑い続けている葵を軽く睨んだ。
「初回の子に、実名で名乗られたのは初めてだよ。そう可愛く睨まないでくれ、個人情報は守ろう。あとで店の名前を聞いても、本名を知ったことは言わないと約束するから」
「えっ、店に連絡するつもりなんですか!?」
びっくりして大きな声を出してしまった。
「こ、こういうのって、一度きりなんじゃ」
「そのつもりだったが、手放しがたい。個人的には、本当の名前が知れたのも嬉しいし――傘、少し持っててくれるか?」
玄関に立った彼に傘をお願いされて、つい受け取った。
そもそも降ろした方が早いのではと思った時、玄関が開いた。中に入った葵が電気をつけると、広い玄関と伸びる廊下が見えた。
葵が靴を脱いだ。続いて傘も置くと、ヒヨリの靴もそのまま脱がせにかかる。
「えっ。もう着いたし、自分で歩きますよ」
「長時間あそこにいたんだろう? 体力を消耗しているだろうが、夕食を先に御馳走してやる余裕がない。すまないが、今すぐ抱かせてほしい」
抱く、という言葉に心臓がはねた。
緊張して手に力が入ると、家に上がった葵の目がヒヨリを見た。ここで誤解を解いてしまったら、一晩の安眠を確保できなくなってしまう。
「あ、あのっ。一晩泊めてくれるって本当なんですか? い、一回で、いい?」
咄嗟に会話を繋げて確認したら、誤魔化せたようで葵が笑った。
「いいよ、一回で。最初にそう言っただろう?」
ヒヨリを抱いたまま、葵が真っすぐ階段を上がって一つの部屋の扉を開ける。
そこは寝室だった。大きなベッドと、そばにはサイドテーブル。カーテンがされた小窓の前には小さな机が一つあって、色合いが揃えられたタンスが壁側に置かれている。
室内のすっきりとした様子から、性格はこまめで、几帳面でもあるだろうことが察せた。
「予備で机は置いてあるが、仕事部屋と私室は完全に部屋を分けてある。家を買ってみたら、一人だと部屋数も余ってね」
「そ、そうですか」
普段から、女の子を呼び慣れているんだろうな……。
たぶん、そういう事情もあって分けている可能性が頭を過ぎった。しかし悠長に推測していると、ベッドに下ろされてすぐ、葵がのしかかってきて驚いた。
「うわっ。あ、あの……」
強く緊張した瞬間、髪に指を埋めるように頭を撫でられてどぎまぎした。
「少し頭も湿っているみたいだが、あとで風呂も貸そう。先に、いいか?」
慣れているのか、これから遠慮なく美味しく頂かれるようだ。
確認のために髪を触っただけであるらしい。ヒヨリは疲れてもいたので、ふかふかのベッドに身を預けたままドキドキしつつ頷いた。
「ど、どうぞ」
答えた途端、葵の頭が少し下がった。背を滑って大きな両手が腰を包み込み、服の上からゆっくりまさぐりながらキスを落とし始めた。
「あ……っ」
葵が上着をたくし上げ、白い腹に柔らかな唇で触れる。
くすぐったいような感覚がして、ヒヨリは唇をきゅっとしてこらえた。咄嗟に顔を横にそらして、葵の方を見ないようにした。
「緊張しているのか?」
不意に問われてドキッとした。
「き、緊張なんて、してないです」
察されてしまったことに恥ずかしくなる。強がりで言葉を返したら、葵が少し止まって、それから唐突に両手で引き寄せられて腰が浮いた。
びっくりして視線を戻すと、彼がかぷりと腹に甘噛みした。
「あっ」
柔らかに歯を立てられて、ビクッと腰がはねた。
下から滑り込んだ大きな手が、上着をたくし上げて下着ごと胸を包み込んだ。
「ん……、は……っ、あ」
小さな胸を揉み解しながら、口で肌を愛撫されてぞくぞくした感覚が走り抜ける。声が抑えられなくて、恥ずかしさにまた唇を噛んだ。
「我慢しなくていい。ここで聞いているのは、俺だけだ。好きなだけ淫らに喘いでいい」
ヒヨリは、睦言のような囁きにかぁっと顔が熱くなった。
そんなことを言われても、恥ずかしさが増しただけだ。けれど葵がブラジャーをぐいっと上へ押しやって、意地っ張りな反論も間に合わなかった。
「……あっ……は、ぁ」
隠すものがなくなった乳房を揉まれ、もう片方も先端部分をこねくり回された。
葵の舌が、次第に腹部から胸の膨らみへ向かって滑っていく。
「あぁ……あ……っ」
初めての経験で、漂うあやしい空気にすらドキドキは増した。胸の谷間に吸い付かれ、ヒヨリは敏感に感じ取ってびくんっと体を震わせた。
「声、甘くなってきた」
「んぅっ」
ちゅぅっと首に吸い付かれて、また声が出てしまった。
数回キスを落とした葵が、熱っぽい吐息をもらして頭を起こした。
「初々しいというか、不慣れというか……。もともと心地よかったけど、甘くなった君の声は困るくらいにクるな」
クるって、何が?
火照った目で見上げたら、葵が再び頭を埋めて胸にキスをしてきた。
「分からない? なら、それでいいよ」
ささやかな乳房を揉み解しながら、首筋や肌を舐められて吸い付かれビクッと体がはねた。
「あ……あっ……」
「そうやって感じてくれているだけで、自分でも驚くほどに腰が熱くなる。まだ触っていないのに、もうこうだ」
開いた足の間に、ぐりぐりとこすり付けられてハッとした。葵のズボンの一部が、固くなって大きく主張している。
勃っているのだ。
これが、これから自分の中に入るのか……。
「そろそろ、ここも解しておこうか」
肌をまさぐる葵の手が、するりと腹を滑ってヒヨリの半ズボンに触れた。
「ひぅっ」
上から足の付け根をなぞられて、ぞくんっと背がはねた。じんわりとそこが熱くなって、ヒヨリはびっくりする。
「な、何?」
「良かった。感じてくれているみたいだな。汚すといけないから、脱がすぞ」
「えっ、あの、ま……!」
止める暇もなく、部屋着用の薄地の半ズボンが脱がされてしまった。
な、慣れている……。
ヒヨリは慄いた。思わず胸の前で手をぎゅっと握っていると、葵の手が下着に触れ、上下に撫でてきた。
優しく上の部分をこね回したり、時折くいっと指を曲げて強くこすってきた。
「あ……、あぁ……っ、あ」
抑えようと思っても、声が出てしまう。刺激が和らぐとじゅんっと奥が湿ってきて、強まると途端にかぁっと奥が熱くなる。
いやらしい気持ちが、下腹部の奥からぐんぐん込み上げてきた。
と、葵の手が離れ、秘所が刺激を求めてひくんっと繰り返し喘いだ。ヒヨリは、いつの間にか付けられている冷房に、そこがひんやりとするのに気付いた。
「あ。ぬ、濡れて……?」
「すまない。思った以上に早く濡れてしまったな、洗濯はしよう」
葵が、あっさりヒヨリの下着も抜き取った。驚く間もなく、足を大きく開かれた。
男性に秘部を見られていることに、かぁっと頬が染まった。
けれど直後、彼が自分の上着をベッドの脇に脱ぎ捨てた。引き締まった上半身が現れて、ヒヨリは目を丸くした。
「う、わ……」
地元でバカ騒ぎをしていた同級生とは比べ物にならないくらい、胸板もしっかりとしていて色っぽさも断然違っていた。
ついまじまじと見つめていると、葵が気付いてヒヨリを見てきた。
「じっと見て、どうした?」
「い、いえ! なんでもないんですっ」
まさか、大人の裸を見たのが初めてだとは言えない。
これが終われば、一晩はぐっすり寝られるのだ。ヒヨリにとって、まずそれが重要だった。じっくり休められれば、今後のことを考える余裕だって戻るだろう。
そう思いながら慌てて答えたら、葵がズボンのベルトを外しながら言う。
「なんだ、俺の体に見惚れてくれていると思ったのに」
「えっ!」
思わず大きな声が出てしまった。しまったと思って口を塞いだが、もう遅かった。彼が、「ぷっ」と噴き出して肩を揺らす。
「図星だったみたいだな。あたっていて嬉しいよ」
「な、なんで、嬉しいだなんて」
「俺も、少し乱して見えただけの君の体に、見惚れたから」
この人は、なんでそういうことを言ってくるの!?
ヒヨリは赤面して、口をパクパクしてしまった。こんな台詞をポンポン言えるだなんて、やっぱり慣れているのだろう。
「久し振りなせいか、この通り余裕がなくてね。全部脱がす時間も惜しい――このまま進めてもいいかな」
喘ぐような吐息混じりに言いながら、彼がズボンの前を開けた。解放された勃った男根が目に留まった瞬間、ヒヨリは息を呑んだ。
初めて見たそれは、大きくなって脈打っていた。
とても狂暴そうな印象を受けるのは、ヒヨリが未経験なせいか。
「わ、分かりました。ど、どうぞ……?」
裸を全部見られるよりはいいのかもしれない。こんなに大きいのが入るのか疑問だったが、ひとまず了承を伝えた。
葵が太腿が閉じないよう手で押さえ、秘所に触れてきた。
「やぁっ」
指がちゅくりと濡れた部分をなぞった瞬間、甘い快感が走り抜けてびっくりした。
指がうごめくたび、蜜口はどんどん濡れて熱くなっていく。
「はぁっ、やばいな。悶える表情だけでイきそうだ」
熱っぽい吐息をもらした葵が、頭を寄せて乳房をぺろっと舐めた。
「あ、ぅ……っ、両方は、だめ、です」
「気持ちいいんだろう? 全然だめじゃない」
興奮を煽られたかのように、彼がぱくりと胸を口に含んだ。
「あっ、あ、……ひぅっ」
舌先で固くなった乳首を転がされると、もっと奥が熱くなってきた。すると指が秘密の園をかきわけて、くちゅりと浅く入ってくるのを感じた。
花弁の内側と膣壁を撫でられると、一段と強い快感の波が押し寄せた。
不埒な水音にも追い立てられ、ヒヨリはベッドの上ではねる。
「あぁ、あ……っ、まっ、て、だめ、キちゃう」
喘ぎながらも手を伸ばしたら、葵にやんわりと押さえ込まれた。
「外側から徐々に煽っていったつもりだったが、いい具合に中も感じているみたいだな」
「か、感じてる? 私、気持ちよくなっているの?」
「何を驚く? 何もかも順調だよ。ほら、気持ちいいんだろう?」
葵の手が、濡れて柔らかくなった花弁をぐちゅぐちゅと動かした。
その瞬間、快感が洪水のように押し寄せて、ヒヨリはびくんっと全身ではねた。
「あぁっ、強くしたら……っ」
「イッていいよ。俺の奉仕は気にせず、素直に気持ちよくなっていい」
秘部を愛撫する彼の指が、一番感じる上の部分も撫で回してきた。
快感が一気に強まって、じゅわりと蜜が溢れ子宮が甘く切なく疼く。自然と腰を浮かせて間もなく、ヒヨリは達してしまっていた。
「あ……う、そ……気持ちいい」
快楽が奥で弾ける感覚。何かを締め付けたいと、ひくひくと膣道が収縮を繰り返す余韻も心地いい。
弛緩して腰がベッドに沈むと、葵がより指を膣道へと進めてきた。
「あ、あぁ……あ、また、奥から、キちゃう」
先程覚えた熱が、疼く膣壁の向こうから押し寄せてくる。
「体は素直なんだな。とはいえ、まだ狭いな。この仕事、始めて間もないのか?」
そんなことを問われても、指を動かされたままでは答えられない。快感を覚えた体は、次の絶頂を求めて快感を拾っていく。
「痛かったら申し訳ないから、塗っておくか」
葵が不意に指を引き抜いた。何かをガサゴソとする音に緊張して目を向けると、彼がベッドサイドテーブルの引き出しを探っていた。
「そ、それは?」
葵が手に取った物のふたを開けて、手にとろりと垂らす。
「ローションだ。出張で来た子が置いていった。少し感じやすくする物も入っているから、きつかった場合の痛みも和らげてくれるはずだ」
「そ、そう、なんですか」
よく分からないけれど、ひとまず頷いておく。
「えっと、そういうのも、よく使う機会があるんですね」
「まぁ、男一人身だからな。仕事も忙しくて、前の彼女がいたのも三年前かな」
前の彼女、という言葉にドキッとした。
それはそうだ、これだけイケメンなら世の女性は放っておかないだろう。しばらく特定の人がいない、というのも珍しいくらいだ。
そんなことを思っていると、葵が上へとずれてきた。
「手で温めてみたけど、少し冷たいかもしれない」
「えっ? あっ、んぅ……!」
ぬちゅり、と長い指が蜜壺に挿ってきた。
愛液とは違う、ぬるっとした感触にヒヨリは震えた。葵がのしかかるように体勢を整え、目を覗き込みながら頭を撫でる。
「中に塗りながら、もう少し解すよ。いい?」
「は、い」
こくん、と頷くと「いい子だ」と頭にキスをされた。
葵が肌や胸を愛撫しながら、蜜壺も強弱をつけて刺激してきた。探るように膣壁をこすり、ヒヨリが感じるところで指を曲げて押してくる。
やはり慣れている。うまい。
初めてなのに、挿入されている違和感は快感に上書きされていく。
「あぁ……あっ、んん……気持ちいい」
葵が触れてくる全部が、快楽を生んで甘く痺れた。ヒヨリはあられもなく喘ぎ、初めての官能に酔いそうになった。
「あっ、あ、だめ、またイク……っ、もう、イッ、んんーっ!」
こらえる余裕もないまま、ヒヨリはシーツを握り締めてぶるっとした。
葵が、燃えるような目を細めた。
「――なんて表情をするんだ」
そんなことを言われても、分からない。潤んだ目でぼんやり見つめ返したヒヨリは、不意に唇を指でなぞられてドキッとした。
「な、何?」
すると葵が、真剣な目で覗き込んできた。
「君、キスはオーケーなのか?」
「は……? キス、ですか?」
どうして、そんなことを聞くのだろう。
ヒヨリがきょとんとすると、なんと取ったのか葵が追って言ってくる。
「仕事では、キスをしないと決めている子もいるのは知ってる。始めてから君がキスしてこないのも、普段からスルこと以外は許していないんだろう?」
それは知らなかった。ヒヨリは未経験なので、そもそもドキドキしっぱなしでキスのことなんて頭に浮かんでさえこなかったのだ。
「あの、その、私がキスをしなかったのは」
慌てて答えようとしたら、目の前で振った手を握られた。
「すまない、キスをさせてほしい」
葵が、熱く見据えてきた。
真剣な眼差しは凛々しくて、火傷してしまいそうな視線にヒヨリは息を呑んだ。これが、欲情した男性の目なのか……。
「必要なら倍の金も払う。だから、キスをさせてくれ」
「倍!?」
ふと耳に飛び込んできた言葉に、仰天した。
「あ、あの、そもそも私、相場とかそういうのは、ちょっと」
分からないのだと続けようとした言葉は、葵が腰を密着してきたせいで途切れた。
じんじん熱を持った割れ目に、固くなったペニスの竿部分があたった。あっと思った直後、上下にこすられて花弁を淫らに動かされる。
「あぁ……あ、あ……っ」
熱い男根が、濡れた秘部と合わさって水音を立てている。
その不埒な光景に、きゅんっと感じてしまった。
「そう、その表情だ。腰にクる。声もたまらない」
「そ、そんなことを、言われても」
「こんなにもキスをしたいと思ったのも初めてだ。頼む、キスをさせてくれ。君とは、キスをしてシたい」
目の前で彼が腰を振っている光景もいやらしくって、胸の鼓動はぐんぐん速まっていく。
考えようとするものの、迷う時間を奪うかのように葵がこする力を増した。強い快感が押し寄せる。悶える顔を見られているのが、猛烈に恥ずかしくなる。
「わ、分かりましたっ。キスしてもいいですから――あっ、ンン」
答えた瞬間、吐息ごと唇を奪われた。
唇をついばまれ、柔らかさを確かめるようになぞられる。それだけでぞくぞくと甘く痺れたのに、唐突に荒々しく舌がねじ込まれてギョッとした。
「んっ、んん、ふぁっ……ん、んっ」
初めての情熱的なキスに、くらくらした。怯えるヒヨリの舌をやや強引に絡めて、けれど彼は口内を探りながら、くちゅくちゅとこすり合わせて気持ちよくする。
葵が蜜口をペニスでこすりつけてくる快感が、もっと強まって押し寄せてくる。
キスをするだけで、こんなに変わるの? だめ、もう……。
「んんぅ、ん、んんっ、ん――っ!」
そのまま快楽を高められ、またしてもヒヨリは達した。
びくんっと腰がはねた。ベッドから少し浮いた時、葵が手を伸ばした。
「そのままで」
「へ? あっ、だめ、んんっ」
再び唇を重ねられ、手でくちゅくちゅと蜜壺まで愛撫される。
初めての強い快感で、ピーンッと太腿が伸びた。浮いた腰がいやらしく揺れて、もっと奥に何かを迎えたいと膣壁がひくつく。
呆気なく、また絶頂に昇らされてしまった。
「すまない。興奮して、もうゆっくり進める自信がない」
手早くコンドームをつけた葵が、濡れきった蜜口にペニスをあてた。触れた熱にドキッとしていると、構える余裕もないまま片腕で抱き寄せられた。
「できるだけ配慮はするが、途中で止めてはやれない」
「あぁっ、あ……!」
じゅぷりと音がして、熱い猛りがゆっくり押し入ってくる。
大きくて苦しい。膣壁がこすられる快感がぞくぞくと背を走り抜け、ヒヨリは葵にすがった。
「くっ。狭くて、気持ちいい」
途中で進めるのを止め、葵が不意に腰を前後に動かし始めた。
「ま、待って、まだ全部入ってな、あんっ」
「君とは、一回の約束だ。膣内で、しっかり感じてくれるようにしたい」
ちゅっちゅっと、葵が頬や首にキスをしてくる。
ベッドが小さく揺れて、いやらしい水音が一定のリズムで上がっていた。きついと感じていたのに、次第に甘い快感にとろけていく。
中が甘く疼いて腰が揺れるタイミングに合わせて、彼は抽挿を徐々に速めてくる。
「あ……んっ、……ああ、あっ」
気持ちよくてぼうっとしてきた。
快楽に背まで甘く痺れ、動かし続けている彼の腰の揺れにも快感が高まった。
「中がうねって、熱い。気持ちいい?」
「あぁ、あ、気持ちいい、あんっ」
中を出入りするペニスの感触に、体が震えた。
蜜壺が熱い。これ以上熱が生まれたら、おかしくなる。もしかして、もうほとんど全部入っているのでは――そう思った時だった。
「あぁっ、あああぁ!」
葵が、一気に剛直を奥まで突き入れてきた。
限界まで腰を密着させ、竿先が奥に触れる。その大きさと熱の衝撃だけで、ヒヨリは蜜壺をきゅきゅぅっと震わせて達した。
「っはぁ、すごくいいよ。悶える顔も悩ましいほどに、いい」
体重をかけ、葵がぐりぐりと剛直で膣奥を探る。
「ひぅっ、だめ。あぁあ……ああっ、奥にあたって、中が、全部響くみたいに」
「また軽くイッたね。そうか、ここがいいのか」
不意に葵が腰を振り出した。先程とは比べ物にならない快感が押し寄せ、かぁっと下腹部が熱くなる。
「あっあっ、ん、あぁ、あぁあ……!」
ヒヨリは最奥を突き上げられ、たまらず甘い声で喘いだ。
「くっ。すまない、我慢も限界だ」
葵がヒヨリの片足を上げ、もっと奥へと言わんばかりに腰を押し込んで、激しく突き上げてきた。強烈な快感に視界がチカチカした。
「キスしたい。舌をくれ」
「んんぅ!」
強引に唇を重ねられ、舌を絡め取られた。
葵の律動が速まる。快感も急速に高まっていく。
「んっ、んっ、んんっ――んんん!」
頭の中が真っ白になった一瞬後、奥で強く快感が弾けた。びくんっと体が震えて膣道を締める中、彼がぶるりと腰を震わせた。
あ、イッたんだ……。
ぐったりと倒れ込んできた彼の体を受け止めたヒヨリは、ようやく終わったことに安堵して、強すぎる快楽に意識を手放した。
(この続きは製品版でお楽しみください)