プロローグ
自分のベッドがギシギシと揺れる度にまるで他人の部屋にでも来たような気分になった。
長い黒髪が汗で体にへばりついて、瑠(る)衣(い)のオドオドしたくりっとした目が男性を見つめる。
細身で小柄だが、瑠衣はいつもスウェットを着ていて、セックスからは遠いイメージだ。
一方、男性は茶色の髪を汗で光らせながら、シャツをはだけさせスラックスを今にも脱ぎそうだった。
彼氏の部屋に来たような、旅行でも来たようなそんな甘い気分で、初めてのセックスに翻弄されている。
「あっあっ!」
真鍋(まなべ)瑠衣は秘部をなぞられる度に喘いだ。
「下着から蜜が染み出して、可愛い声で啼いて」
柿田(かきた)翔(しょう)駒(ま)の色気のある眼差しに見下ろされながら、瑠衣はイヤイヤと首を振った。
「それはっ……違っ!」
「違うことはないだろう? こんなにして」
下着越しでも蜜が溢れ出していて、ぬちっと音を立てて掬い取られると瑠衣は恥ずかしさに顔を覆った。
「やぁっ……」
「こんなにしてる女、初めてだけど?」
「違うの……こんな、わけ……」
瑠衣は首を振って否定したが、体がジンジンして腹の奥が疼いてたまらなくなっていた。
柿田から触れられると欲しくなってしまう。
添い寝屋の彼に本来はセックスまで許していいわけはないのだが、柿田は『オプション』としてセックスが出来ることを提案していた。
瑠衣は作家業に人生を捧げ、二十八歳まで我慢してきた性欲を解き放つ為にも、そしてストレスと不眠を改善する為にも今回、二歳年上の柿田ならと勇気を出してセックスしてくれと頼んだのだ。
それが非常識であっても、瑠衣にとっては不眠もストレスも大問題だったから。
「あっあああっ!」
「瑠衣。他のこと考えてるとイケないよ?」
「やっあっ! 私……もう……」
瑠衣は体を震わせて腹の奥から湧き上がるものを堪えていた。
今にもそれは溢れ出しそうで、恥ずかしくてたまらない。
「瑠衣。我慢してても、俺は手加減しないから」
言うなりスウェットを脱がされ、下着まで脱がされてしまう。
「あっ」
「男の前で肌を見せたことはある?」
瑠衣は素直に首を振った。
「じゃあもちろん、その先も知らないわけだ」
「ごめんなさい。私、面倒なことお願いして」
「面倒じゃないよ。ただ、俺が初めてなんていいのかなって」
「私、初めては柿田さんがいいです」
自分でも驚くことを言ってしまったと思った。
でも、以前の添い寝で触れられて、柿田といると心地よくなれたし、心まで許せた。
普通の男性じゃここまで心は許せない。
柿田のニヤリとした笑みに吸い込まれて、なんでもしてしまっている。
彼はスーツもだらしなく着崩していて遊んでいそう、茶髪で軽そう、そんな印象を受けていたが、話していると優しく気遣いもしてくれて、日々の疲れも吹き飛んでいた。
瑠衣のデスクのノートパソコンは電源が付けっぱなしだし、メモ帳が散乱している。
片付ける時間も取れず、日々パソコンに向かって執筆するのは一人ぼっちだし疲れてしまった。
「ほら、また違うこと考えて。裸にされてもぼんやりする癖が治らないかな?」
「違うっ」
足を広げられてぬるっと指を蜜壺に挿入されると、抜き差しが始まる。
「ああっあああっ!」
初めての快感にあられもない声が出てしまう。
恥ずかしくなって口を覆うと、すぐに払いのけられた。
「だめだよ。我慢したら」
「らって……んああっ!」
「蜜が溢れて止まらない。体はたっぷり、自分で仕込んでるみたいだね?」
瑠衣は違うと首を振った。
けれど指先はさらにめちゃくちゃに混ぜてきて、何も考えられなくなる。
「ンンあああっ」
「初めてで、そんな感度良いわけないだろう?」
(一人でしてたのバレてる。恥ずかしい……)
瑠衣は目を潤ませながら、柿田を見つめた。
「おねだりかな」
瑠衣は思わず頷いていた。
第一話
眠れない、そう思いながら瑠衣はベッドの上で時計を見つめて時間が過ぎるのを待った。
そしてぼんやりスマホを眺めているうちに、明け方になっていく。
(朝だ。空が明るくなってきた)
そう思っても、体を起こすことは出来なかった。
顔だけ窓に向けてカーテンの隙間から見える僅かな光を見て、外を確認するだけだ。
二日続けて徹夜をして、原稿を書いてなんとか納品。
恋愛小説を書いて細々と生きているものの、それだけでは生計は立てられないため、融通の効く知り合いのコンビニでバイトをさせてもらっている。
こんな風に締め切りが近いと、バイトを休み徹夜をして仕上げるのだが、体に良いことは何一つない。
おまけに、コンビニバイトは通常なら早朝な為、生活リズムが崩れてしまうと寝不足のまま仕事をすることになる。
(今日は休みだけど、締め切りが終わったら、連絡して手伝いに行かないといけないから困ったな)
瑠衣はため息を吐いてようやく体を起こした。
立ち上がりカーテンを開けると、朝の日差しが差し込んでくる。
「まぶし……」
目を背けると、瑠衣は思わずカーテンを閉めた。
ずっと夜起きて生活をしていたから、朝の光が目に辛い。新しい仕事が入るまで、早朝バイトだというのに、どうしたらいいのだろう。
瑠衣は困り果ててしまうと、そのままもう一度ベッドにダイブした。
(なんとか小説は書いてるけど、兼業しないとやっていけない。遅筆だから締め切り間際で徹夜が当たり前。座りっぱなしで体のあちこちが痛い)
なんとか朝でもいいからと寝てみようと目を閉じるが、先ほど浴びた朝日が強くて、もう寝ることは出来そうになかった。
おまけに、徹夜続きのせいと納品した高揚感からか、心がどこか浮かれ気分でもある。
スマホでネットを見ていると、ふと添い寝屋という広告が目に飛び込んできた。
アダルトサイトだと思ってスルーしようと思ったが、何となくタップしてしまう。
そこには美麗な男性が並び、『あなたを眠りに誘います』と書かれている。
さらに見ていくと、女性がイケメンにエスコートされている写真が目に入る。
そして、添い寝の手順を教えている写真が添えられていた。
(このあとは製品版でお楽しみください)