序章
昼下がりの室内は明るい光に満ちていた。
開け放した窓から、剣を合わせる金属音と容赦ない大声が流れ込んでくる。すぐ外の広場で、騎士たちが鍛錬に励んでいるのだ。
「そら、もっと脇を締めろ! 隙だらけじゃないか! そうだ。よし、その調子!」
先ほどまで、その一団の中にアリーチェもいたのだが――。
「さあ、アリーチェ。脚を開くんだ」
「は、はい」
今は一糸まとわぬ姿で、大きな黒革の肘掛椅子に座らされている。艶やかなストロベリーブロンドの髪が腰のあたりまで流れているが、白い下肢を隠してくれるものはなかった。
アリーチェは唇を噛んで、きつく目を閉じた。言われるまま脚を開こうとしたが、恥ずかしくて身体が動かない。
たとえ深夜の寝室であっても耐えがたいのに、まさか昼間の執務室でこんな恰好を強いられるなんて――。
「だめだ。目を閉じるな。それに脚を開けと言ったのに、俺の命令を拒むとはどういうことだ? 騎士団では、上官は絶対の存在だと教えたはずだが」
厳しく叱責され、アリーチェはしかたなく目を開けた。
(どうして?)
緑に青を溶かし込んだような瞳に映った青年は、肩章や飾緒こそ外しているものの、漆黒の軍服をきっちり身につけている。
プラチナブロンドの髪と紫の瞳を持つラファエレ・アンジェロ・ディ・ラマルディ――アリーチェより三歳下で、女性と見まがうほど優しい顔立ちの美青年ながら、彼は勇猛果敢で知られるマキーニア王国第一騎士団の団長を務めていた。
今、その鋭い視線はまっすぐアリーチェの肢体に注がれている。
「でもラファエレ、こんなことは……」
「団長だ」
「あ、も、申しわけありません、団長」
そう、ここでは常に彼の命令に従わなければならない。たとえどんなに淫らな要求をされようとも、今の状況はアリーチェ自身が望んだものなのだから。
やっとの思いで閉じていた膝を離すと、椅子の前に立っていたラファエレが跪いた。その位置からだと、髪と同じ色の和毛に守られた部分まですっかり見えてしまう。
「よし。もっと大きく」
アリーチェの動揺をよそに、ラファエレは淡々と命じた。
「返事はどうした、アリーチェ?」
「……はい」
自分を励まし、なんとか頷いた時、ふいにラファエレが両方の足首をつかんだ。
「あっ!」
大きく開いた両脚を、それぞれ左右の肘掛けにのせられたのだ。結果、いっそう性器をさらけ出すことになり、恥辱のあまり全身に朱が差した。
(嫌、こんなの!)
恥ずかしさに震えるアリーチェに、ラファエレがさらに畳みかけた。
「力を抜くんだ。抗うことは許さない」
口調は厳しいのに、その視線は柔らかく、まるで愛撫するように白い裸身を這い回る。
そうされると脈がどんどん速まって、なぜだか身体の芯が甘く痺れ始めた。まるでもっと強い刺激を求めているかのように。
「ああ、君は本当にはしたないな。ただ見ているだけなのに、こんなに蜜を溢れさせて。それにどうだ。触れてもいない乳首も尖らせている」
「そんなはず――」
胸の変化まで指摘され、アリーチェは思わずかぶりを振る。確かに二つの頂は痛いほど疼いているが、そんな淫らな事実は認めたくなかった。
騎士団付きになり、ラファエレのそばで過ごすようになってから、何度となくこんな目に遭わされている。それでもまだ純潔は守られているのだから。
「おや、俺を嘘つき扱いするのか?」
アリーチェの動揺を楽しむように、ラファエレが笑いながら顔を近づけてきた。
「上官に逆らうとは度胸がある。どうせ無駄なことだが」
あらわにされた秘部に熱い息がかかり、アリーチェは思わず身構える。
次は秘裂をまさぐられるのだろうか? それとも蜜口に指を入れられるのか?
心底怯えながらも、アリーチェの肉花にはまた露が滲んだ。
自分では気づいていないものの、身体は続きを待ち焦がれているのだ。銃や剣を扱い慣れた硬い指先が与えてくれる、甘く狂おしい悦楽を――。
ところが今日のラファエレは一向に動こうとせず、濡れ光る蜜園をじっと見つめているだけだ。いつもは気を失いそうになるくらい執拗に辱めるのに、何分たっても状況は変わらなかった。
(……どうして?)
彼の性戯に乱れるのは耐えがたい屈辱だ。とはいえ、昼日中に女陰をさらしたまま放置されるのも、ひどくいたたまれないものだった。
ラファエレの視線を感じて、秘処がじわじわと熱を持ち始める。さらには繊細な花びらや小さな肉珠が疼き、アリーチェは思わず細い腰を揺らしてしまう。
するとすかさず見咎められて、罰するように右の太腿をくすぐられた。
「あ、ん」
続いて左側には唇を押し当てられた。
「やれやれ。君は本当に堪え性がないな」
肝心な部分には決して触れずに、唇と指が白い肌を丹念に這い回る。しかしそんなやり方にも、身体はたやすく反応してしまう。
(いけないのに。嫌なのに……こんなこと)
次第にアリーチェの呼吸は速まり、紅潮した頬にも涙が伝い始めた。
「お、願い。もう……やめて」
「それは嘘だな。またこんなに蜜を垂らしているくせに。本当は俺の指で、潤んだ襞をじっくり弄ってほしいのだろう?」
露骨過ぎる問いかけにかぶりを振ると、ラファエレはため息をついて身を起こした。同時に、その指や唇も上気した肌から離れてしまう。
「やれやれ、強情なことだ」
「あ……」
追い上げられたまま愛撫を中断されて、アリーチェは呆然と目を見開いた。身体の奥で渦巻く欲望をいったいどうすればいいのだろう? こんな状態で突き放されたことは初めてだ。
しかしラファエレは、さらにアリーチェを追いつめようとする。
「素直に欲しがれば、望みのものを与えよう」
「欲しがる?」
「もっと辱めてほしいのだろう? そろそろ認めるんだ、アリーチェ。自分が恐ろしく淫らな女だということを。そうすれば、妃殿下の茶会でもきっとうまくやれる」
「そんな、ひど――んぅっ!」
唐突に顎先をつかまれ、強引に唇を塞がれた。
反論が気にいらなかったのだろうか。舌を捩じ込まれて、呼吸さえままならない濃厚な接吻が続く。
「ん、んんっ!」
アリーチェの華奢な身体が大きく跳ねた。いきなり秘処に指を差し込まれ、クニクニとかき回されたのだ。さらに小さな肉芽の包皮を剥かれて、声もなく全身を震わせる。
「アリーチェ」
ようやく口づけから解放され、呼びかけられても、アリーチェはもはや答えを返せない。涙で視界がぼやけ、ラファエレの姿さえよく見えなかった。
それでも指戯はやむことなく、下肢からは淫らな水音が響き続ける。
「俺は心底驚いている。どこから見ても聖女のようで、姉のように慕っていた君が、まさかこれほど淫乱だったとは。いつも後を追いかけていた昔の俺に教えてやったら、きっと腰を抜かすだろうな」
「やん、やっ……あぅっ!」
嘲るような、それでいて過去をなつかしむような独白に、アリーチェはかぶりを振った。
それなら自分だって同じ思いだ。二人は幼なじみで、かつては多くの時間を共に過ごしたのだから。
――嫌だよ、アリーチェ! 行かないで!
――大丈夫よ、ラファエレ。ちゃんと待っているから。
かくれんぼや鬼ごっこをしながら、そんなやり取りを幾度交わしたことだろう。
とても内気で、天使のように愛らしく、弟みたいにかわいがっていたラファエレ――その彼に、まさかこれほど辱められるなんて。
(どうしてなの、ラファエレ?)
再び唇を奪われ、貪るように口づけられる。
「ん……んんぅ、ん」
執拗に花芯を嬲られながら、アリーチェは淫らな闇の中へと引きずり込まれていった。
(このあとは製品版でお楽しみください)