アドラスヘルムニア王国には、国内外に名の知られた名門校、ツェツィーリア学園がある。
そこには国の名誉遺産にも登録されている、広くて立派な図書室があり、その奥のさらに奥。一部の生徒しか知らない、鍵の壊れた資料室があった。
「……いけませんわ……レオンハルト様」
秘めやかな男女の声が聞こえてきて、釦(ぼたん)の外されたブラウスから零れそうな豊かな胸を掴んだ青年の手に、少女は白い手をそっと添えた。
「そんなことを言って。お前も俺に抱かれるのを待っていたのではないか?」
可愛い下着を身に着けて……と口にしながら、きら星の如く輝くオーラを放ち、美しい容姿をしたレオンハルト・ヴェルター・フォン・アドラスヘルムは、口角を上げて妖艶に微笑んだ。
「ち、違いますわ!」
目と目が合い、本心を見抜かれて、今日の下着は少し派手だったか!? とクリスティーナ・プライセルは頬を真っ赤に染めた。そして今乗せられている、古くて頑丈な書斎机から降りようと、レオンハルトの胸を押しやった。
しかしレオンハルトの鍛えられた身体はびくともしない。
彼は華奢に見えるが、日々の鍛錬を怠らないので、意外と筋肉がついているのだ。
しかも彼の身体が脚の間に挟まっているので、チュチュで膨らませた制服のスカートが、腿まで捲れてしまっているクリスティーナは、どんなにもがいてもレオンハルトから逃れることができなかった。
その様を、レオンハルトは小鳥でも弄ぶように眺めている。
「まだ補習授業まで時間があるのだろう? だったらそんなに焦る必要はなかろうに」
「レオンハルト様は? 大学部のご講義はよろしいんですか?」
「俺を誰だと思っている? あの『ツェツィーリアⅤ』のメンバーだぞ? そんな失態を犯すものか。すべて計算通りだ。この後の講義は先ほど休講になった」
「本当ですか? 何か特別な力を使ったとか……?」
クリスティーナが空色の瞳をまあるくすると、レオンハルトはサファイアのような濃紺色の瞳を眇(すが)めた。
「なんだ? まるで俺が『王子』だということを笠に着て、授業を休講させたとでも言いたげだな」
「そ、そんなことは……」
クリスティーナが口元を手で隠しながら笑うと、両手首を突然掴まれ、壁に縫い留められた。
「だから! 可愛い口元を隠すなと言っているだろう?」
鼻先が付きそうな距離で拗ねたように叱られて、クリスティーナの笑みも引き攣った。
「も、申し訳ありません。長年の癖で……」
「……仕方もないか。その原因を作ったのも……」
「なんですか? よく聞こえない」
「なんでもない。それより口元を隠すごとに罰を一つ与える約束だったな」
「うっ!」
開き直った笑みで再び口角を上げたレオンハルトは、さらに身体を密着させてきた。
そしてクリスティーナのショーツの紐に指を絡ませると、魔法のようにするりと解いてしまう。
クリスティーナは先月まで、こんなレースがたくさんついた……しかも紐で縛るタイプの大胆なショーツを履くような少女ではなかった。
むしろ半世紀は遅れているのではないか? というダサい形のドロワーズを穿き、母親ですら「もう少し、年頃の女の子らしい下着を身に着けたら?」と我が子を心配していた。
その上、産業革命後のアドラスヘルムニア王国では、見かけることもなくなった瓶底眼鏡をかけ、制服の乱れも一切なく、どこの部活動にも属さず、笑うことも滅多にない堅物少女だった。
そんなクリスティーナが、たったひと月で流行の下着を身に着け、制服も今時風に着こなし、許された者しか出入りできない『ツェツィーリアⅤ』のサロンを使用して、学園中の女子学生たちから羨望の眼差しで見られる存在になるなんて、誰が予想しただろう?
レオンハルトは木苺色のクリスティーナの唇を甘く奪うと、自身の服のズボンの前立てを緩めた。
そうしてクリスティーナのブラウスの釦をもう一つ外すと、ブラジャーの肩ひもをそっと下ろし、可憐で豊満な片乳房を露わにした。
「あ……んっ」
敏感な乳首を「お仕置きだ」と囁きながら、レオンハルトはきゅっと摘まんだ。
しかしその力は甘くて弱く、優しく指先で転がし出す。
「あっ、あっ、あっ……だめっ、レオンハルト様……」
腰に響くもどかしい快感に、クリスティーナの白い喉が反った。
「こら、あまり声を出してはだめだ。ここは学園の中だぞ? 王城の寝室とは違う」
「で……ですが……」
快感の涙を滲ませながらレオンハルトを見れば、美しい顔は悶えるクリスティーナを嬉しそうに眺めていた。
そして片方の乳房もブラウスの上から掴まれ、大きく揉みしだかれる。
「ひゃっ……レオンハルト様、もう……もう……」
熱くなった身体で訴えると、レオンハルトも我慢できないとばかりに、クリスティーナの可憐な泉に灼熱を押し当てた。
「あぁ……」
抱き締め合うようにしながら、クリスティーナはゆっくりと彼を受け入れていく。
どんな幸福よりも、幸せな気持ちに包まれながら……。
――これは、人前で笑うことができなくなった少女が、笑顔を取り戻し、お妃様になるまでの物語。
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