「では、アレクシス様。こちらに来て、歴代皇帝三十名の御名をお書きください」
「えー、本当に書かせるんですか?」
「もちろんです」
珍しくブラックボードの前に立つことを嫌がったアレクシスに、エミーリアは背筋を伸ばして、鹿(しか)爪(つめ)らしく言った。やっと教師らしいことができた! と。
そんな勝ち誇った心境が滲み出してしまったのだろう。緩む唇を必死に引き締めていると、
「……仕方がないですね。わかりました。それじゃせんせ、僕からも一つお願いがあります」
口角を上げ、アレクシスは企むように笑った。
「な、なんですか?」
ものすごく嫌なものを感じながら、恐る恐る訊ねると、
「もし僕が綴り一つ間違えることなく、歴代皇帝の御名をすべて書き上げることができたら、先生の柔らかそうなその『秘密』に、触れさせていただけませんか?」
「や、柔らかそうな『秘密』……?」
なんのことだかエミーリアにはさっぱりわからなかった。するとアレクシスは、長くて綺麗な指で、真っ直ぐとエミーリアの胸を指し示したのだ。
「え……、えぇぇぇぇっ!」
『秘密』とは、エミーリアのたわわな乳房のことらしい。
「な、何をおっしゃっているのですか!? アレクシス様!」
驚いて、エミーリアはドレスの上から両腕で自分の胸を隠した。
「だって、すっごく気になるんですもの。先生のおっぱい。それに自分で言うのもなんですが、僕だって年頃の男です。女性の身体に興味を持っても、おかしくはないでしょう?」
「そ、そういうことは恋人にお願いすればいいじゃないですか!」
「残念ながら、恋人はいません」
「い……いないのですか?」
「はい」
至極真面目な顔で頷いた皇子に、エミーリアはなぜか嬉しくなった。アレクシス様には恋人がいらっしゃらないのね……、と。
だからだろう。純粋に女性の身体に興味を持ち、胸を触りたいなどと青臭い願望を口にした彼が、より一層可愛く思えてしまった。
「い、いいでしょう。では綴りを一つも間違えることなく、完璧に御名を書き上げることができたら、む……胸を触らせてあげましょう!」
「ほんとに? やったー!」
躊躇(ためら)いがなかったわけではないが、エミーリアが了承すると、アレクシスは無邪気に喜びながらブラックボードの前に立った。
その姿を眺めながら、エミーリアは「大丈夫よ!」と自分に言い聞かせる。
皇子は本気で歴史が苦手みたいだし、歴代三十名もいる皇帝の名を、綴り一つ間違えることなく書き上げるなんて、なんの予習も復習もしていない人間にできるはずがない。
そう確信していたのに――。
「できましたよ、せんせ」
「…………うぅ、全部合ってる……」
歴史書を片手に答え合わせをしたエミーリアは、失意のどん底にいた。
「さぁ、エミーリアせんせ。その大きなおっぱいを触らせてください!」
「きゃあっ!」
軽々とエミーリアを横抱きにすると、アレクシスはブラックボードの前にあるソファではなく、一番奥まった場所にあるベッド脇の寝椅子に腰を下ろした。そして自分の膝の上にエミーリアを座らせると、真っ赤になった彼女の頬にキスをする。
「ちょ、ちょっと待って……っ!」
逃げようともがくエミーリアに、アレクシスは余裕ありげに笑った。
「往生際が悪いですよ、せーんせ。貴女の柔らかそうなその『秘密』を早く見せてください」
固定するようにエミーリアの腰を抱くと、皇子は大きく開いた胸元に指先を引っかけ、躊躇うことなく一気にドレスとコルセットを引き下ろしてしまった。
「いやぁっ!」
肩からも袖が抜け落ち、エミーリアの豊満な胸はぷるりと震えながら皇子の眼前に晒された。
「綺麗だ、先生の『秘密』……」
熱っぽく囁かれて、エミーリアはアレクシスに耳朶を甘噛みされた。
「やんっ」
必死に胸を隠していた腕も優しく解(ほど)かれて、桜色の乳首をした豊かな胸をじっくりと凝視される。
皇子は真剣そのものといった目で、エミーリアの形の良い乳房を眺めていた。
だから余計に恥ずかしかった。
もっと軽いノリで一瞥されるぐらいの方がまだ良かった。しかし皇子の青い瞳は舐めるようにエミーリアの胸を見つめている……。
「ア、アレクシス様……、は、恥ずかし……です……」
羞恥から、今にも涙が溢れそうなほど顔を真っ赤に染めていると、優しくアレクシスに口づけられた。
「恥ずかしがることなんてありませんよ。この部屋には貴女と僕しかいない。例え誰かがやってきても、決して部屋には入るなと言ってやりましょう」
そういう問題ではない気もするが、嫣然(えんぜん)と微笑んだ皇子があまりにも美しくて見惚れていると、ゆっくりと寝椅子に横たえられた。
「……あっ」
エミーリアの頭上で両手首を一括りにすると、アレクシスは空いていたもう片方の手で、たわわな彼女の乳房に触れた。
その手は少しひんやりとしていて、エミーリアはビクッと肩を震わせる。
「あぁ……、先生の胸はなんて滑らかで温かくて、そして柔らかいんだ……」
乳房の下方に手を添えて、たぷたぷっと持ち上げられるようにされて、恥ずかしくてエミーリアは下唇を噛んだ。
男性に胸を見られたのだって生まれて初めてなのに、こんな風にじっくりと観察され、しまいには感想まで言われてしまった。
先ほどまでコルセットとドレスに包まれていた乳房は、外気に触れて少し肌寒かった。一瞬気温が下がったのかと思ったが、きっと自分自身の体温が羞恥で上がっているのだろうと、エミーリアは思った。だから必要以上に外気が冷たく感じられ、桜色の無垢な乳首は硬くしこってしまったのだ。
「先生のここ。まるで触ってほしいと言っているかのように尖ってますね……」
そんな乳首を彼に見咎められてしまい、エミーリアの頬は火を噴きそうなほど熱くなる。
アレクシスの声は低くもなく、高くもなく、よく通る澄んだ音色をしていた。かなりの美声だとエミーリアはいつも思っている。それなのに艶やかな彼の声で、とろりとした蜂蜜のように囁かれたら、緊張と羞恥だけでなく、別の意味でドキドキと心臓が高鳴り出す。
「い、いけませんわ……っ!」
慌てて制止したのだが、彼は瞳に好奇心と、それとはまた別の熱を浮かべると、人差指でエミーリアの乳首を突いた。
「あ……んっ」
自分でも信じられないぐらい甘やかな声が漏れて、慌ててエミーリアは口を噤む。
「――先生、もしかして今ので感じちゃったんですか?」
「な、何を……っ!」
全身を真っ赤に染めて、エミーリアはアレクシスを睨んだ。すると彼は意地悪く微笑むと、固い蕾をいじるように、さらにエミーリアの乳首を指で突いた。
「んっ……、んんっ」
今度は声を出すまいと必死に唇を噛んだけれど、アレクシスの指は次第に大胆な動きを見せるようになった。くるくると円を描きながら乳輪ごと乳首をもてあそんだり、張りがありながらも柔らかい乳房の中に、尖った先端を押し込むようにする。
「や……ぁ、あぁぁんっ」
感じたこともない甘く焦れた感覚に、エミーリアは思わず身体を捩らせた。
「やっぱり感じてるんじゃないですか、せーんせ」
「か……、感じて……なんか……」
強がってみてもだめだった。
羞恥と愉悦から瞳は潤み、全身は強い酒を飲んだように熱く火照っている。
なのにアレクシスは、そんなエミーリアをもっと翻弄するかのように、指先一本だけで桜色の乳首を捏(こ)ねたり、押し潰したり、弾いたりしてくる。
「あっ、あぁんっ……あっ……」
誰にも触れられたことのない、無垢だったエミーリアのそれは、皇子の指先に硬さを増していき、乳房全体も快感に張りを増していった。
「先生のおっぱいは本当に素敵だなぁ。形も綺麗で――。ほら、こんなにも乳首もしこってきて……。僕にいじられることを悦んでいるみたいだ」
「いや、やめて……っ」
卑猥な皇子の言葉の数々に、とうとうエミーリアの頬を涙が伝った。
するとアレクシスは慌てたように目を見開いたが、再び目元を細めると、泣き出したエミーリアをあやすように口づけてきた。
「ふっ……、うっ、ぅんんっ」
最初は触れるだけのキスを。
そしてエミーリアが唇を許し出すと、歯列を割って舌を差し入れ、臆病な舌を絡め取る。
「ん、んぅ……」
きつく舌先を吸われて、意識がぼうっと酩酊(めいてい)した。
皇子とのキスは実に甘美で、どんな菓子よりも甘く、エミーリアにもっともっと……と思わせる何かがある。
「そうですよ、せんせ……。ずいぶんキスが上手くなりましたね」
皇子のリードに任せるように舌を絡ませていると、熱い吐息をつきながら唇を離したアレクシスに褒められた。これではどちらが家庭教師で、どちらが生徒かわからない。
しかし恋人はいないと言った割には、皇子はこういうことに慣れている気がする。
恋人はいないけれど、愛人はいるということだろうか? などと考えていると、なぜか胸の辺りが切なくなったけれど、あくまで自分は家庭教師で、そんなことを考える立場ではないと、エミーリアは己を律する。
「――何を考えているんですか? 先生」
「えっ?」
少しだけ意識を逸(そ)らしたことを聡い皇子に気づかれて、咎(とが)めるように手のひらで乳房を鷲掴みにされた。
「ひ……、んっ」
エミーリアが驚きに目を瞠ると、アレクシスはそのままゆったりとエミーリアの胸を揉み込んできた。
「あぁ、先生の胸は本当に最高ですね。こうして手のひら全体で味わうと、感触といい、伝わる重量感といい、さらにその良さがわかる……」
まるで高級な金時計でも愛でるかのような口ぶりに、喜んでいいのか、恥ずかしがっていいのかわからなかった。
しかし褒められているのだから、いつも肩が凝って仕方がない大きな胸にも美点はあったのだと、自分のコンプレックスを少しだけ肯定してやる。
「あぁんっ、あっ……、あぁ」
皇子の手のひらは確かに、そして優しくエミーリアの乳房を揉みしだいていった。
捏ねるようにされて、背中が大きく仰け反る。
指先で乳首を何度も弾かれて、甘い刺激に全身が堪らなくなっていった。
「いやぁ、もう、もうお許しください……っ」
柔らかな『秘密』を存分に触らせてあげたのだから、そろそろ許してくれてもいいだろう。
そう思ってエミーリアが懇願すると、皇子は足りないと言わんばかりに、今度は両手で両乳房を揉み込み出した。
「まだまだですよ、せんせ。なんせ苦手な歴史を頑張って、皇帝の御名を三十名分書いたのですから。もう少し直接貴女に触れていたい……」
「ア、アレクシス……様……?」
真剣な眼差しで見つめられて、エミーリアは抵抗する力を奪われていく――。無邪気な皇子の笑顔にも弱いが、彼が時折見せる男らしい真摯な顔にも、エミーリアは弱かった。
「ひゃ……、う、んんっ」
大きく大きく、まるで滑らかなパン生地を捏ねるようにされて、エミーリアは結い上げた髪が乱れることも忘れ、何度も左右に頭を振った。
たわわな自分の白い乳房に、皇子の綺麗な指がやんわりと埋まっているさまを見て、羞恥と愉悦で意識がどうにかなってしまいそうだ。
しかも赤くて長い舌を差し出すと、皇子はなんの許可を取ることもなく、すっかり立ち上がってしまったエミーリアの乳首をそっと舐めてくる。
「だ、だめぇ……っ」
そんなことまでされるとは思っていなくて、エミーリアは驚いてアレクシスの肩を両手で押しやった。しかし一見華奢そうに見える皇子の身体はびくともせず、そのままきゅっと乳首を吸われてしまう。
「あぁ……、やぁっ」
ぴりっとした痛みにも似た快感が全身を駆け抜けて、エミーリアは自分の下半身が堪らなく濡れていくのを感じた。
先ほどから胸に与えられている刺激のせいで、腰の辺りはすでに甘い熱で満たされている。
エミーリアは、これまでにないぐらい秘処が潤っているのを恥ずかしく思って、膝をもじもじと閉じてしまった。
「もしかして、濡れてしまったんですか?」
「――っ!」
どこまでも聡い皇子は、エミーリアの胸中を読んだかのように上目遣いで訊ねてきた。そんなアレクシスの言葉に、エミーリアの頬は再び燃えるように熱くなる。
「我慢しなくてもいいんですよ」
彼は小さく笑って、エミーリアの両膝の間に片足を割り込ませると、躊躇うことなくドレスの中に膝を入れ、絹製のドロワーズの上からエミーリアの秘処をくっと押し上げた。
「あぁっ……」
感じたこともない強い快感に、渇望していた何かが満たされていく――。
それと同時に新たな火種が身体の中で生まれて、さらに堪らない気持ちにさせられた。
「やっ、あぁ、だめ……、だめぇ……」
大きく乳房を揉み込まれながら、ぐっぐっと秘処を膝で押し上げられて、エミーリアはこれまで味わったこともない快楽に、さらに涙を零した。
こんな恥ずかしいことはやめてほしいと思うのに、身体は彼が与える刺激を求めて、自然と皇子の膝に秘処を擦りつけてしまう。
「あぁ、あっ、あぁ……ん、やぁっ」
強く押された秘裂はドロワーズの中で左右に割れ、蜜壺とささやかな花芯が布越しに刺激される。
「ひ……んっ、あぁ、やだぁ……アレクシス……様ぁ」
乳首を吸われながら、しとどに濡れた膣口と花芯を膝で擦り上げられて、エミーリアの腰は前後に揺れてしまった。
「あっ、あぁあ……、あっ……あんっ」
意味をなさない言葉が、より一層エミーリアの口から零れ始める。そうして目の前に何か目映(まばゆ)いものがちらつき始めた時だった。
「うっ、ふ……ぅっ、んん」
皇子の唇にまた口を塞がれて、エミーリアは必死にキスに応えた。舌を絡ませ合い、互いの舌先を吸って、エミーリアも皇子の口腔に舌を差し入れると、滑らかな彼の上顎を舐める。
「――まずいな……、こんなキスを先生にされたら、僕だって抑えが利かなくなってしまいますよ?」
端正な顔を歪めて、皇子は切羽詰まったようにエミーリアを見つめた。
こんなキス……と言われても、男をまったく知らないエミーリアに、口づけの仕方を教えてくれたのはアレクシスだ。なのにあたかも自分が彼の制御を効かなくさせているように言われて、少しだけエミーリアは不服に思う。
しかし彼の膝は確実にエミーリアの感じる箇所を捉えて、何度も何度も濡れた蜜壺と、莢(さや)の剝けた真珠を擦り上げていく。
「いやぁっ……、あぁ、あぁぁっ――」
目映いものを一際感じた時だった。皇子に胸を揉みしだかれながら、エミーリアはドクンと身体の最奥を大きく脈打たせ、閃光のような煌めきを感じた。
そして初めて迎えた何かにぐったりと身体が弛緩すると、瞼や頬や唇に、キスの雨が降ってくる。
「いったのですね、先生」
「い……、いく?」
言葉の意味がわからず、潤んだ瞳でとろんと皇子を見つめ返すと、小さく笑われた。
「今は意味がわからなくても構いません。これからは、何度でも僕があなたをいかせてあげますから」
この時のアレクシスの笑顔がとても穏やかで、優しくて……。エミーリアは彼に抱き寄せられるまま、そっと身体を預けたのだった。
それからというもの、アレクシスは授業が終わる度に、エミーリアの赤い唇と豊満な胸を貪るようになった。
この行為はまるで恋人同士の秘め事のようで、エミーリアを毎回ドキドキとさせ、いけない気分にさせた。
しかし、これはあくまでも授業をちゃんと受けた『ご褒美』なので、アレクシスは相変わらず余裕ありげに、そして真面目にエミーリアの講義を受けてくれた。
『ご褒美』という名の、甘美な時間を得るために――。
(このあとは製品版でお楽しみください)