序章
尊敬している職場の先輩を通して知り合った男性・坂木佳輔のアパートに来ていた。綺麗系女子のフリをしていた私の素顔を見られてしまったためだ。
素の私は赤ジャージを好み、レンズの厚い眼鏡をかけているダサい女。TL漫画をこよなく愛し、レンタルショップで大量に借りて夜な夜な読んで胸をときめかせる『社会不適合者』だ。
その姿を写メに撮られてしまい、脅されて彼の家までついてきたものの、玄関で動けなくなった。
「おいで」と佳輔さんに優しく手を差し出された。私はその手を取ると、スニーカーを脱いで家にあがる。床はひんやりと冷たくて、ぶるっと身体が震えた。
怖い……という気持ちもあると思う。同時に、ダサい恰好の私に手を差し伸べてくれる佳輔さんにときめいている自分もいるのは否定できない。
正直、今までの人生の中で赤ジャージを着ている私を見て……誘ってくる男はいなかったから。どうしてだろう。漫画にあるようなヒーローと重なってしまう。
違うのに。彼は、そんな人じゃない。合コンで、引っかけられそうな女をおとして、ホテルでエッチして満足するような男なのに。
今だって、誘ってもいつも断る私に、断れない条件を突きつけているにすぎない。赤ジャー姿の写メをちらつかせれば、セックスに持ち込めると思われている。
佳輔さんに引っ張られるがまま、部屋の奥にまで足を進めた。目の前にはシングルのベッドがあった。掛け布団は乱れている。朝、起きたときの状態のままなのだろう。
彼が毎日使用しているベッドで抱かれるのかと想像する。きっとTL漫画で読むような甘い時間が待っているのだろう。
お互いに恋心や愛はなくとも。
「あの……やっぱり……」
「ん?」
言いかけた言葉は震えてしまう。やっぱりやめたほうがいいんじゃないかと、臆病な面が顔を出す。
脅して身体を重ねるのは良くない。でもイケメン男性に抱かれるチャンスは滅多にない……と、天使と悪魔が私の中で葛藤している。
たぶん……佳輔さんは勘違いしている。
きっと私がセックスに慣れていると思っているに違いない。でも私は……未経験なのだ。
実のところ、今まで彼氏がいた経験がない。ゼロだ。年齢イコール彼氏いない歴と同じ。ずっと漫画が大好きで……高校のときは漫画本欲しさにバイトしていた。
大学にはいかずに、今の仕事の給料だって家に入れているお金以外はすべて……漫画に捧げている。
佳輔さんは知らないはずだ、そんなオタクな私を。
表の顔しか……見てないだろうから。今からでも遅くはない。彼のためにも、やめたほうがいい。イケメンのイケメンによる華麗なる女性リストに傷をつけてしまうから。
「待って……もらって……も」
「待てない」
チュッと唇に軽いキスが落とされる。頬に手を置かれると、今度は口の中に佳輔さんの舌が入ってきた。
ちょっと! 難易度が高い。
いきなり舌って。漫画での知識しかないから。
佳輔さんの舌が私の舌に触れただけで、身体にゾクッと何かが走っていく。
「やっ……んぅ」
身体に表現のしようのないものが走るたびに、声が漏れてしまう。
佳輔さんはキスをしたままで、ジャージのチャックを下に降ろして、手を中に入れてくる。キャミの上から胸を覆うと、優しく揉み始めた。
佳輔さんの手は温かくて、触れられたところが甘く痺れる。胸の先端を指先で弾かれると、「ああっ」と嬌声があがり、私膝から一気に力が抜けた。
「思った以上に、さおりちゃん……敏感だね。なのにノーブラで外出って……危ないっての」
私の脇の下に手を入れて、崩れ落ちた私を支えてくれる佳輔さんが、耳たぶを甘噛みしてきた。
「……っや、だ。それ……だめ」
「どれ?」
舌先の感触と、ぴちゃっという水音がダイレクトに入ってきて、身体が熱くなる。
「さおりちゃんは耳が弱いの?」
「よわっ……くないです」
「弱いよ、だって腰が揺れてる」
「ちがっ……これは」
「俺もヤバいかも……ほら、わかる?」
佳輔さんが、私の腰にぐっと硬いものを押し付けてきた。ジャージ越しなのに、熱いような気もする。
「ちょ……!!」
「女の子と初めてエッチするときは、優しく丁寧に……が、俺の中でのルールなんだけど。無理かもしれない」
「いえ、そこは無理をしましょう! 無理をするべきです、むしろ」
優しくできないってことは、荒々しい行為になるっていう前振り。それは困る。
ただでさえ、「初めて」ってとても痛いと聞く。何もしなくても痛いってわかっているんだから、ぜひとも、いつも以上に優しくしてほしいものだ。
「……無理かも、って言ってるのに」
クスっと笑われると、トンと肩を押されてベッドに倒された。お尻からベッドに落ちると、覆いかぶさるように佳輔さんがのっかってきた。
「ねえ、さおりちゃんは優しくされるのが好きなの?」
「どの女性も……優しくされるのが好きかと思いますが?」
「そういう女ばかりじゃないでしょ。荒々しいのが好みだっていう女もいた。濡れてもいないのに、突っ込まれるのが愛されてるって思うって」
「そっ……そういう女性としたければ、私でない女性を抱いてください。私は男性に優しさと誠実さと、一途さを求めます」
「じゃあ、俺は……さおりちゃんにエロさを求めようかな?」
はい? エロさとは?
赤ジャー女にエロさを求めるのは……どうかと思うけど。経験もないのに。
経験だらけの男が求めるエロさとは……考えただけでもハードルが高すぎて、眩暈を起こしそうだ。
佳輔さんはスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。その仕草が……やばい。
初めてリアルで見る萌え仕草に、顔が真っ赤になった。イラストで見るだけでも恰好いいキラキラ行動なのに……。目の前で見られるのは、幸せすぎる。
イケメンがリアルでやると……恰好良さが半端ない破壊力を生み出す。心臓の鼓動が速さを増して、目の前の男に恋心を抱いてしまいそうになる。
私は思わず手を伸ばすと、ネクタイを締めあげた。
「……え? さおりちゃん? 何をしてるの?」
「あの、もう一回……緩めてもらってもいいですか?」
「え? ああ、いいけど」と不思議そうな顔をしながら、佳輔さんがネクタイに指をかけた。
やっぱり……恰好いい。
絵になる、と言ったほうが合っているかもしれない。イケメンがやるから、恰好良さに拍車がかかるのだろう。
リアルでイイものを見させてもらった。
もう一度……と思って手を伸ばしかけたところで、佳輔さんに手首を掴まれて阻止された。
「次、進んでいい?」
「あ、だめです」
「ちょっと、我慢がきかないんだよね」
「我慢しましょう! するべきです」
「無理……エロいんだもん、さおりちゃんが」
えっと……どこが? 赤ジャーのどこがエロいと?
この人の目は、もしかしたら腐ってきているのかもしれない。
ノーメイクで、髪を二つに結い、赤ジャーを着た女を見てエロいから我慢できないという男を、私はいまだかつて見たことが無い。
むしろ萎えるのではないのだろうか?
「ごめんね、さおりちゃん」と謝られた私は、なぜそんなことを言い出すのかと理解する前に、ズボンと下着を脱がされていた。
初めての覚悟もさせてもらえないまま、ベルトを緩めて、屹立した熱を押し込まれた。
優しくしてって言ったのに。
誰にも開いたことのない場所を前戯もなく、押し広げられる痛みは壮絶で……。叫び声をあげていた。
「あああああっ! いたっ……痛い、痛い、いたいっ」
「え? ……ええ? あ……えっ?」
ビリっと何かが破れた痛みと、いまだかつて開いたことのない蜜口が拡張される痛みが合わさって、私は悶え苦しむ。
一気に奥まで差し込まれた状態で、痛いと叫ぶ私に、佳輔さんは軽くパニックを起こしているようだった。
見たことのない焦り顔で、あたふたしている。
「ちょ……えっ? さおりちゃん……処女?」
「処女、ですっ。抜い、てぇ……痛っ、い、んんぅ」
苦しみながら、やっとのことで「お願い」と言えた。
「すぐ、抜くっ、から……緩めてっ。噛みついてるから」
噛みついてる? なにそれ?
なんでもいいから、早く抜いて。
「動けないんだって……さおりちゃんが、締め付けて」
「意味が……わからない」
「力をぬい……ああ、やばっ。はや、くっ。俺が……イッちゃうから」
「そんな、やめっ。無理……」
「……くっ、あっ……、ごめっ、ナカに……」
そう言いながら、佳輔さんが小さく震えた。
お腹の奥がじんわりと温かくなると、なぜかホッとして力が抜けた。ずるっと蜜口から熱が撤退していくのがわかった。
(このあとは製品版でお楽しみください)