序章
開け放した窓から、夜風が流れ込んできた。
ひんやりした空気に肌を撫でられ、ローデリカは無意識に裸の肩を震わせる。長い黒髪で隠されているものの、ほっそりした象牙色の肢体は何もまとっていなかった。
だが、下から男根に貫かれ、体内で燃えさかる炎に炙られていては、寒さを感じる余裕などない。思わず腰を浮かしかけると、強く引き寄せられ、続けざまに突き上げられた。
「あうっ!」
身体のわりに大きな乳房がフルフルと揺れ、隙のない美貌が猛々しい快感に蕩けていく。ローデリカは琥珀色の瞳を潤ませ、あえかな嬌声を上げた。
「あ、あん、ああっ!」
「ローデリカ……ローデリカ」
広い寝台に仰臥し、腰の上にまたがる華奢な身体を揺さぶるのは、金髪の若者だった。
ローデリカが身も心も捧げる青年、ロンヴァルド王国の王太子コンラート――息を荒げ、眉を寄せていても、ランプの光に浮かび上がる面差しは息を呑むほど端麗だ。特に印象的なのは、蒼天を思わせる澄んだ瞳だった。
「僕を見て、ローデリカ」
静養先から戻ったとはいえ、今なお本調子ではないのか、コンラートの白い顔は青みを帯びて見える。それでいて視線は火焔のように熱っぽく力強かった。
「おにい、いえ……コ、コン、ラート」
ローデリカが上擦った声で名を呼ぶと、コンラートはふと目元をなごませた。深い慈愛と容赦ない欲望――青い瞳は相反する感情に揺れている。
その複雑な眼差しが、ローデリカをいっそう煽った。
「ローデリカ、愛している」
「わ、わたく、しも…………あ、あん!」
甘く囁かれながら何度も穿たれ、ローデリカは目を閉じて全身をわななかせる。
どれほどこの言葉を聞きたいと望んだことだろう。これまでずっと求め続けながら、何度もあきらめようとしたコンラートの愛。今ようやく、彼も自分の思いに応えてくれたのだ。
「僕のローデリカ」
コンラートが腕を伸ばして、ローデリカを貫いたまま上体を引き寄せる。蜜洞を犯す楔の角度が変わり、さらに奥を抉られた。
「きゃうぅ!」
なめらかでたくましい身体に覆い被さる形になって、ローデリカは自分からコンラートの唇に口づけた。
ひとつに繋がっていてもなお、体温も、感触も、彼のすべてを感じたかった。できることならこのまま融け合ってしまいたいほど彼を欲する自分がいる。
「いけない子だ」
ただ唇を合わせるだけの拙い接吻がおかしかったのか、コンラートが小さく笑った。
「だって……ん、う、うう」
すぐさま肉厚の舌が捩じ込まれ、ローデリカはためらいながら自分の舌をおずおずと差し出す。尖らせた先端でくすぐられ、たやすく絡め取られると、背筋に甘い震えが走った。
するとコンラートがローデリカを抱き締めて、ゆっくり身を起こした。
「んっ! う、んんぅっ!」
深い口づけを交わしながら、熱杭を埋め込まれたまま体勢が変わっていく。絶え間なく与えられる快感に翻弄され、華奢な身体痙攣した。まだ愛の行為に慣れていないため、ローデリカは呼吸する余裕さえなくしていた。
「いけない。息をして、ローデリカ」
「ふ、あっ!」
ローデリカはなんとか息を吸い、押し倒されながらコンラートにしがみつく。今度は彼に組み敷かれる形になって、小刻みに蜜口の浅いところばかりを突かれた。
「やっ! 嫌ぁ、も、もっと!」
「もっと?」
「お、く、もっと、奥を」
恥ずかしくてたまらないのに、コンラートを求めずにはいられない。すると願いに応えるように、深いところまで一気に埋め込まれた。
「ひうぅっ!」
嬌声を堪えようと口元に手をやると、すかさず指先を食まれた。そのまま激しく抜き差しされ、ローデリカは再び忘我の縁へと追い上げられる。
「や、やぁ――」
快感を覚え始めた身体は、どんなふうに抱かれてもたやすく悦びに震えてしまう。それが、愛する人ならば――幼いころから、気がつけば彼だけを見つめていたのだから。
しかし幸福感に酔いしれながらも、ローデリカの胸は締めつけられるように痛んだ。
本来なら、二人の関係は許されるものではないのだ。
――お兄様、わたくしの大切なお兄様。
コンラートとローデリカはずっと兄と妹として育てられてきた。たとえ実の兄ではなくても、彼は愛してはいけない相手だったのだが――。
「ローデリカ」
「あうぅ」
名前を呼ばれただけで身体の奥が切なく痺れ、同時に含まされている灼熱の質量が増したような気がした。
「ずっとこうしてお前を愛していたい」
「ええ……ええ、わたくしも」
頷いてみせたものの、本当は恐ろしくてたまらなかった。
ローデリカが、コンラートに話したことはただの偽りではない。そのせいでいろいろな人が狼狽し、傷つくような、まるで毒薬のようなものだった。
いずれ嘘が発覚すれば、これまで惜しみなく愛してくれた両親も、妻にと望んでくれた人も、いや、誰よりもコンラートこそが激しく怒り狂い、ローデリカを責め、心から蔑むことだろう。その結果、二度と彼に近づけなくなるかもしれない。
とはいえ犯した罪の深さに怯えながらも、こうなったことを悔やんではいなかった。
「ああ、奥が締まった」
「……そんなこと」
「愛しいローデリカ、本当に感じやすいのだな。かわいらしい声をもっと聞かせておくれ」
吸い込まれそうな青い瞳に見つめられ、甘く響く低い声を聞いていると、何も考えられなくなってしまう。恐ろしい嘘も、貞節を信じてくれている婚約者の存在も、コンラートと自分の未来のことさえも、すべてが誘惑の霧に覆い隠されていくのだ。
(コンラート、わたくしの、わたくしだけの愛しいお兄様)
再び落ちてきた口づけに応えながら、ローデリカは甘美で淫らな夢にその身を委ねた。
(このあとは製品版でお楽しみください)