序章
しなやかな指に頤(おとがい)をすくわれ、マルガレーテは小さく慄いた。
「どうした、マルガレーテ? 接吻にはもう慣れたはずだが?」
男らしい低音なのに、どこか甘さも感じさせる囁き――離宮の優美な寝室で、エルンストの声はヴェルベットのように柔らかく響く。
蝋燭の揺れる光が、王太子の秀麗な面差しを照らし出した。絹糸のような漆黒の髪、深い海の色をした瞳。神に仕える大天使さながらに凛々しいのに、その笑顔は少年の名残も感じさせる。
それなのにマルガレーテの身体はぎこちなく強ばるばかりだった。嫁いで何日もたつというのに、こんな状況ではどうしていいかわからなくなるのだ。肌が透けるような寝衣姿を見られるのも恥ずかしい。
大きな寝台の端に腰かけたまま声も出せずにいると、からかうような笑い声が響いた。
「そんなに怖がらないで。ほら、こうされるのは好きだろう?」
上唇を柔らかく食まれ、全身がカッと熱くなる。
そんな変化を察したのか、細い肩を抱く腕に力が込められた。一方で、長い指がなだめるように蜂蜜色の髪を梳く。
「それにテレジアとは……もっといろいろなことをしているのだろう? キスよりもずっと淫らで、激しいことを」
慕っている人の名前を唐突に囁かれ、華奢な身体が震えた。テレジアはエルンストと生き写しの美しい女性で、うぶなマルガレーテに優しく性愛の手ほどきをしてくれる相手だった。
「彼女からすべて聞いている。君はどうされるのが好きか、どこに触れられると悦ぶか」
「そ、それは――んっ!」
震える唇を口づけで塞がれ、マルガレーテは反射的に逃れようとした。しかし顎先を捉えられているせいで身動きできない。
左の乳房をそっと包まれたのは、その時だ。
「たとえばここだ」
「や、あんっ!」
「大丈夫。ちゃんと教えられている、決して乱暴にしてはいけないと」
エルンストは何度も唇を啄みながら、豊かな胸をまさぐり始めた。ものたりないくらい優しい触れ方をするくせに、人差し指と中指で可憐な頂を挟み、クリクリと擦って尖らせる。その指は確かにテレジアの愛撫とよく似た動き方をした。
「ん、う、んぅ――」
絹の寝衣は羽のように薄いが、布地で肉粒を擦られるたびに強い刺激に襲われる。その上わずかな隙間から肉厚の舌が入り込んできて、口内をゆっくり探り始めた。小さな歯列をたどられるだけで、いたたまれない感覚がジワリとわき上がってくる。
「ふ、あ……」
「もうこんなに硬くして……君は実に感じやすいな。本当は指でいじるだけでは足りないのだろう? もっと別の場所も触ってほしいのではないか?」
キスの合間に淫靡な睦言を囁かれ、わななく肢体から次第に力が抜けていく。
「ああ、そういえばこちらを忘れていた」
エルンストは続いて右の膨らみも揉みしだいた。そうしながらマルガレーテを抱きかかえ、ゆっくり寝台に押し倒していく。
「あ、おやめくだ――」
「だめだ」
抗おうとしても無駄だった。エルンストが覆い被さってきて、布越しに胸の果実をくわえたのだ。舌先でくすぐられ、ねっとりと転がされて、足先がキュッと丸まってしまう。
「嫌! あ、ああっ!」
濡れた絹地が突起にまとわりつき、ひんやりした感触が走ったが、すぐに熱い口腔に包まれた。弄ばれている胸から無数の火花が散って、全身に広がっていくようだ。ほどなく両脚の奥の感じやすい場所がほてり始め、マルガレーテはモジモジと腰を揺らした。
「……嫌だと? それは違うな」
低い笑い声が響く。エルンストはなおも乳首を舐めしゃぶり、じれったいくらい細やかな愛戯を施し続けた。
「や、あ、あん」
官能の荒波に追い上げられ、琥珀色の瞳が涙で濡れる。それでもマルガレーテは悦びに身を任せきることはできなかった。
「殿下、どうか……お許しを」
「なぜだ、マルガレーテ? 私たちは神の御前で婚姻の誓いを交わしたのだぞ。夫が妻を慈しむのは当然だろう?」
確かに彼の言うとおりだった。今のマルガレーテはれっきとした王太子妃であり、伴侶となったエルンストに心を寄せてもいる。いや、それどころか日ごとに思いが募るばかりだ。しかしだからこそ、こんなふうに淫らに溺れてしまうことが許せないのだった。
「わ、わたくしは――」
「テレジアのことを気にしているのか?」
今度は柔らかく甘噛みされて、マルガレーテは声にならない悲鳴を上げた。再びテレジアの名を耳にしたせいか、ひどく敏感になっている気がした。
「それなら案ずることはない」
エルンストは一度上体を起こすと、薄絹の寝衣を腰までめくり上げた。
「あっ!」
「さあ、脚を開いて」
両腿に手をかけられ、大きく割り開かれて、マルガレーテはきつく目を閉じた。
下着をつけていないため、淡い下生えも、その奥の秘部も、すべてがエルンストの前にさらされている。いたたまれずに頬を真っ赤に染めながらも、マルガレーテが感じているのは羞恥だけではなかった。
――わたくし……どうして?
その証拠に、熟れた果肉は自分でもわかるくらい熱を帯びて疼いている。まるで王太子に蹂躙されるのを待ち焦がれているかのように。
「きれいだ。君の花園が濡れ光って、ヒクついている」
「……見ないで、どうか」
視線で嬲られるだけで、たまらなく感じてしまう。脈がどんどん速くなり、苦しいくらいだ。
房事についてはほとんど知らなかったのに、無垢な身体はたった数日ですっかり変えられてしまっていた。夫であるエルンストによって、いや、それ以上にその姉のテレジアによって。
「なぜ嫌がる? まるで朝露を抱く花のようなのに」
器用な指先が和毛をくすぐり、マルガレーテを喘がせる。
「テレジアにも見せたのだろう? こんなこともさせたはずだが?」
淡い色の花弁をそっとめくり、エルンストはほてった秘処に優しく指を埋めた。
「ひっ!」
最も敏感な場所に触れられて、細い腰が跳ねた。
「や、あ――」
滲み出た蜜液をすくい取りながら、器用な指先が秘裂をゆっくり行き来する。
「感じるのだろう、マルガレーテ?」
マルガレーテの下肢からは、クチュクチュという耳を覆いたくなるような水音が響いた。それを聞きたくなくて何度もかぶりを振るが、甘い攻めは容赦なく続く。
「あ、あうぅ」
エルンストは花びらを嬲り続けるものの、肝心な官能の芽には触れようとしなかった。それでも花芯からはジクジクと蜜が溢れ出す。マルガレーテは無意識に腰を揺すったが、そんなふうに焦らすやり方もテレジアを思い出させた。
少し硬い指先の感触も、繊細で丹念な触れ方も、怖くなるくらいよく似ている。そんなふうに思うのは二人が血を分けた姉弟だからだろうか? ともすると彼女に愛されているような感覚さえ覚えてしまい、マルガレーテは激しく動揺した。
王太子に抱かれながら他の人物を思い浮かべるなど不敬の極みだ。そればかりか女性でありながら自分に性の奉仕をしてくれるテレジアにも申しわけない。彼女の行為はすべてエルンストのためなのだから。
「だ、め。だ、だめ……こんなの」
間断なく追い上げられ、罪の意識にも苛まれて、マルガレーテは涙を零す。
「どうしてだめなのだ?」
「だ、だって――」
「さあ、マルガレーテ」
エルンストは濡れた頬に唇を寄せ、優しく涙を吸い取った。
「もう何も考えるな、テレジアのことも。君はただ溺れればいい」
「……溺れる?」
「そうとも。私たちがこうして睦み合うことを、彼女は何より望んでいるのだから」
「殿下……あうっ!」
エルンストが身を起こしたかと思うと、秘裂に濡れた感触が走った。
「や、やぁ!」
猫がミルクを舐め啜るようなピチャピチャという音――熱く柔らかい何かが、マルガレーテの花弁をゆっくりなぞっている。
――まさか……舌?
エルンストが自分の陰部を舐めているのだ。
想像したこともない行為に頭の中が真っ白になったが、とまどう間もなく小さな蜜孔にも指を差し入れられた。
「や、許し、てくだ――」
いやらしい水音が響く中、与えられる快感はすでに限界を超えていた。なんとか逃れようと、脚の間にある頭を押しやろうとした時だ。
「くぅっ!」
エルンストが唇で襞をかき分けるようにして、繊細な肉芽に歯を立てたのだった。同時に隘路の入口を指で引っかかれ、ほっそりした身体が大きく跳ねる。
ずっと待ち焦がれていた瞬間だったが、処女の身体にはあまりに刺激が強過ぎた。
「あ、ん、ああ……」
荒れ狂う愉悦の嵐に巻き込まれ、マルガレーテは全身をわななかせた。
(このあとは製品版でお楽しみください)