プロローグ
トントントン――。
午後十一時に、書斎のドアをノックする音が廊下に鳴り響いた。
「どうぞ」
中から聞こえてきた低い声が、部屋の前に佇む愛(まな)花(か)の胸をキュッと締め付ける。
「失礼します」
愛花は小さく声をかけ、ドアを開けて中に入った。
そこは愛花の夫である武藤(むとう)周五郎(しゅうごろう)の書斎であり、その奥は彼の寝室になっている。
重厚な机に山と積まれた書類の向こうから、周五郎が顔を上げた。二人の視線が合い、彼の顔にほんの少し驚愕の色が浮かんだ。
「ふむ……ずいぶん用意周到だね」
周五郎の視線が、愛花の乳房の上で止まった。
愛花は今、何ひとつ身に着けておらず、両手は臍の位置で重ね合わせている。こうして全裸で書斎を訪ねるにあたり、入浴を済ませ髪の毛も丁寧に梳かした。
今夜は、なんとしてでも彼の子供を孕みたい――。
そう強く願った愛花は、恥を忍んで着ていたものをすべて、自室に脱ぎ捨ててきたのだ。
「はい……お気に召しませんでしたか?」
「いや、実に効率的だし、好ましいよ。さあ、こっちへおいで。ちょうど仕事もいち段落ついたところだ」
手を差し伸べられ、愛花は早足で周五郎のもとに駆け寄った。そうしている間に、彼はネクタイを緩め、スラックスの前を寛げる。
そばに寄るなり壁に背中を押し付けられ、左脚を持ち上げられて踵を机の縁に置くよう誘導された。
「あんっ!」
左手で乳房を揉まれ、先端を強く吸われる。
愛花は、たちまち全身を紅潮させて、大きく喘いだ。キスが喉元に移り、顎の先を軽く噛まれる。
「びしょびしょに濡れてるね。これならすぐに挿入できそうだ」
周五郎にはじめて会ったのち、すぐに彼の人となりに惹かれ、心ひそかに想いを寄せていた愛花だ。
彼を想うだけで脚の間は潤い、溢れ出る蜜が太ももを伝う。
「あ……あの、もしよろしかったら、口で――」
愛花が身じろぎをすると、周五郎は小さく首を横に振った。
「それには及ばない。もう十分に勃起しているからね」
周五郎が、そう言うなり愛花の秘裂に屹立の先を擦りつけてきた。
「ぁあんっ! ゃああんっ!」
すでに腫れ上がっている花芽の先を刺激され、愛花は猫のような鳴き声を上げる。その唇をキスで塞がれると同時に、彼のものが蜜窟の奥深くに入ってきた。下から強く突き上げられ、快楽が脳天を突き抜ける。
「あああっ! せ……先生っ……! あっ……あああああ――」
乳先を指の腹で捏ねられ、押し寄せる快感にわなわなと身を震わせる。
愛花は右脚を突っ張り、両方の踵を机の縁に据えた。自然と秘裂が上向きになり、挿入がいっそう深くなる。
「……っ……」
周五郎が低く唸り、腰の動きを速くする。蜜窟の中で、彼のものがいっそう硬く強張るのがわかった。
周五郎の手が、愛花の双臀を鷲掴みにする。そこを強く揉まれて、我にもなくうっとりと目を閉じて嬌声を上げた。
「肩に掴まって」
そう言われ、愛花は言われたとおり彼の肩に腕を回した。
「ひぁあっ……!」
そのとたん、最奥にある膨らみを繰り返し突かれて、一瞬意識が飛びそうになる。
周五郎のものが、動くたびに自身の形を愛花の中に刻んでいく。
「せ……んせいっ……、ああああんっ!」
愛する人に抱かれるなんて、自分はなんて幸せ者なのだろう――。
そんな気持ちが、愛花に普段なら決して口にできないような台詞を言わせた。
「せんせ……もっと……もっと、いっぱい……もっと、突いてください……ああああ――」
「もちろん、そうしてあげるよ。……だが、できれば『先生』じゃなく『周五郎』と呼んでくれないかな? そのほうが夫婦らしいだろう?」
背中が壁を離れ、身体を周五郎の腕に抱えられる。
愛花は、彼の名前を呼ぼうとして唇を開いた。
「し、しゅう……」
けれど、もう何年も主従関係にある彼を、名前で呼ぶなんてどうしても慣れない。
「じゃあ、こうしよう。愛花が僕の子を身ごもったら、僕の事を名前で呼ぶ。――いいね?」
「は……はい、わかりました……」
「よろしい。約束だよ」
「は――、あんっ! ……ああああっ!」
返事をしようとした刹那、ふいに上下に激しく揺すぶられ、奥を繰り返し深く突かれた。
屹立が蜜にまみれ、卑猥な水音を立てて愛花を激しく攻め立ててくる。
一気に昇りつめて、天地がわからなくなった。
快楽に溺れ、目蓋がピクピクと痙攣する。
気がつけば彼の寝室に運び込まれ、ベッドの上に仰向けに寝かされていた。
身体には薄いブランケットが掛けられており、周五郎がその上から下腹のあたりをそっと撫でさすってくれている。
「先生……」
「うん」
「すみません。私ったら、つい……」
「愛花は本当に感じやすいね。とてもいい事だし、謝る必要なんかない。僕は、もうすこし仕事をするから、今夜はこのままここで眠るといい」
彼に触れられている下腹が、じぃんとして熱く痺れている。おそらく、愛花が朦朧としている間に、彼は目的を達したに違いない。
愛花が頷くと、彼は優しく微笑んで下腹から手を離そうとした。
「先生、待ってください。もう少しだけ、お腹に手を置いていてくれませんか? あとちょっとだけでいいですから……」
「わかった」
彼の手がいったん下腹から離れ、ブランケットの中に入ってくる。直に触れてくる掌が想像以上に温かくて、愛花は思わずその上に自分の掌を重ね合わせた。視線が合い、周五郎が微かに目を細めた。
「今日は忙しかったから、疲れているだろう? まだしばらくこうしているから、もう眠りなさい」
周五郎に促され、愛花は素直に頷いて目蓋を下ろした。そっと下腹を撫でてくる掌がとても心地いい。
(今度こそ、妊娠しますように……)
愛花は心からそう願いながら、いつしか深い眠りに落ちていくのだった。
(この続きは製品版でお楽しみください)