腕に絡みつく毛布が、杏香きょうかを微睡みの中から離してくれない。
もう朝だ。起きて、貴順たかのぶさんに朝ご飯を作ってあげないといけないのに――そうわかっているのに、体はほんのりと気怠く、ベッドの中の温かさが心地よい。
「んん……」
「……杏香さん?」
掠れた声が耳元で聞こえたのは、その時だった。なめらかな素肌の上に添えられていた指先が、ぴくりと動く。
「おはよう、貴順さん」
「おはよう……なんだ、今日土曜日じゃないか……早起きだね、杏香さん」
髪のあちこちを縦横無尽に跳ねさせたまま、時任ときとう貴順――杏香の夫である青年が目許を擦った。
「朝ご飯、すぐ作るね。今日はお休みだから、手早くトーストとスープでいいかな」
「んー……ねぇ、待ってよ」
ダークグレーのカーテンの隙間から、眩しい陽光が射し込んでくる。
遮光カーテンのおかげで部屋はまだ薄暗く、ゆっくりと起き上がった杏香はまずカーテンを開けようと立ち上がった。だが、その時覚えた違和感に思わず体が硬直する。
「ぅっ……い、たぁ……」
「もう、無理しちゃだめだよ。昨日、結構激しくしちゃったもんね」
まず感じたのは、体の節々に残る鈍い痛みだ。
それから、内腿を伝うぬるりとした感覚――その感覚によって、杏香の頭の中には昨夜の記憶が鮮明に蘇ってきた。
突然襲ってきた痛みに眉をしかめた杏香は、一度ベッドに座り直し、腰の辺りを少し擦った。ひどく痛めたわけではないのに、どこか火照っているような気がする。
「下着も全部散らかしちゃうし……昨日の貴順さん、ちょっと意地悪だったね」
「そうかな? 杏香さんがかわいいのがいけないと思うよ。俺だってもうちょっと自制するつもりだったのに」
薄く笑う声が、杏香の耳朶を揺らす。
いつの間にか彼女の背後をとっていた貴順が、まだ下着も着けていない杏香の体を後ろから抱きすくめた。
彼の、見た目よりたくましい腕に抱きしめられると、どうしようもなく胸が高鳴ってしまう。
「ねぇ、このままもう一回しない? どうせ今日はお休みなんだし……先週は出張で、杏香さんといられる時間も短かったから……」
「ぁっ……あ、やっ……」
しっとりとした声でそう囁かれ、首筋を甘噛みされると、杏香の背筋はゾクゾクとした甘い痺れが走った。
ちくりとした痛みが心地よい感覚に変わると、今度は唾液をまぶした舌が首筋全体を舐める。寝起きで鈍い皮膚の感覚が、そうされることで一気に鋭敏になった。
「ひゃ、ぅっ……ちょっと、貴順さんっ……! ま、まだ朝……」
ちゅ、と軽く皮膚を吸われ、唇が首筋から肩甲骨の辺りへとおりていく。
出っ張ったその場所に唇を這わされた杏香は、自分の口元を必死で押さえながら快楽に耐えた。
「ぁんっ、ァ、もぉっ……!」
「ほら、こっちにおいで。杏香さんのこと、俺にもっとよく見せて」
優しく腕を引かれ、杏香の体は再びベッドの上へと引き戻された。一糸まとわぬ姿で仰向けに寝かされた杏香は、全身をくまなく眺められる羞恥に身をよじる。
「貴順さん、その、あんまりじっと見られると……」
「なんで? もっとちゃんと見せてよ。夜だとよく見えないし――」
優しく囁きながら、貴順は手のひら全体を使って杏香の肢体を愛撫する。
まずは丸みを帯びた両方の乳房を、包み込むように捏ね回す。あえて先端には触れず、柔肉の感触を楽しむような動きで指先を動かされて、杏香はびくりと体を震わせた。
「あ、ンっ……! は、ぅっ……あっ、あ……」
火照りを取り戻した双丘が、貴順の手指によってゆっくりと形を変えられる。
それはさほど乱暴な動きではなかったが、逆にそれが杏香の官能を煽った。むずがゆいような感覚ばかりが繰り返され、先端への刺激は一切与えられないのだ。
「杏香さん、かわいい……」
うっとりと呟く貴順だったが、決定的な刺激は与えられない。
そのもどかしさに、次第に杏香は自ら体を震わせた。
「そこ、ばっかり……やだ、ぁ」
「ん……杏香さんは、ここ触られるの嫌い? 別のところがいいのかな?」
普段はとても優しい貴順だったが、ベッドの中では少し意地悪だ。
触れてほしい場所はわかっているだろうに、わざと見当外れのところを舌先で舐ってくる。
「ちがっ……そこじゃ、ないのぉ……っ」
「じゃあ、どこに触ってほしいの? 君の口で教えて」
命令するような口調ではないが、じんわりと鼓膜に染みいるようなその声に、杏香は顔を真っ赤にさせながら唇を開いた。
「先に……胸の……さ、触ってほしいの」
恥ずかしくて、顔から火が出てしまいそうだ。
でも言わなければ、彼はいつまでもほしいものを与えてはくれない。それがわかっているから、杏香は震える声でそう懇願した。
「うん、触ってほしいんだね」
確かめるように杏香の言葉を繰り返した貴順は、ふるふると震えるその先端に、唾液で濡れそぼった舌先を押し当てた。
尖らせた舌の先端が、色づきはじめた蕾をコリコリと刺激する。
「ぁ、ふぅっ……ン、んんぅ」
ぬるついた唾液をまぶした舌が、ザリザリとした刺激を小さな蕾へと伝えてくる。
それだけで杏香の頭の中は蕩けそうになってしまい、更なる刺激を求めて貴順の頭を抱えるように押さえつけてしまう。
「ァふっ、あ、た、貴順さん……」
「まだこっちもぬるぬるしてる――昨日はシャワー浴びずに寝ちゃったもんね」
乳房を柔らかく甘噛みした貴順が、その左手をゆっくりと下へおろしていく。
そうして、力が入らなくなった杏香の足を簡単に広げると、その間でぬかるむ秘処に指先を挿しこんだ。
「ひぁ、ァんっ! あ、ぁ……やっ、そんな、ぁ」
昨夜、出張から帰ってきた貴順は、それは懇ろに杏香を愛してくれた。
頭のてっぺんから足の先まで余すことなく愛撫され、何度も楔を打ち込まれて絶頂を繰り返す。ぐぷぐぷと淫らな音を立てる蜜口が、そんな記憶を呼び起こしていった。
「ッァ、んぅう――ァ、は、ぁあっ……!」
「杏香さん……ねぇ、一回だけしよう? このままじゃ俺も、もう我慢できない……」
熱っぽい息を敏感な肌に吹きかけられ、乳房の先端をちゅっと吸われた杏香は、彼から持ちかけられた提案に思わず首を縦に振った。
どのみち、ベッドに縫い止められた時点で杏香は彼の手から逃れることはできないのだ。
与えられる快楽に身を焦がしてうっすらと目を開けると、そこには切羽詰まった表情の貴順が眉を寄せていた。
「杏香……っ」
低く掠れた声で名前を呼ばれて、杏香の下腹部が狂おしく疼く。
張り詰めた雄茎が取り出され、切っ先が入口に押し当てられると、そこは火傷してしまいそうなほどに熱かった。
「たかのぶ、さん……」
名前を呼ぶと、彼が顔を上げる。
くしゃくしゃの黒髪の間から見える、劣情と熱に浮かされた視線で射抜かれて、杏香の体は熱い蜜を溢れさせた。
だが、貴順はその先端を蜜口に押し当てては上下に動かすばかりで、まだ杏香を貫こうとはしない。ぬるついた先走りが、浅い場所に擦りつけられるだけだ。
「き、きて……貴順さん、おねがい……」
とうとう我慢ができなくなって、杏香は貴順の手をぎゅっと握って懇願した。
すると、貴順はわずかに目を細めて体を屈める。
ギッとベッドが軋む音がした瞬間、待ちわびていた衝撃が杏香の体を駆け抜けていった。
「んんっ……ァ、あぁっ、ぁぅ、あっ……!」
十分な質量を持った肉楔が、蜜をまぶした隘路を一気に最奥まで突き上げてくる。
短く息を吐き出した貴順が腰を打ちつけると、二つの体がぶつかりあう生々しい音がベッドルームに響いた。
「ふァ、あっ、ンん……ひぅ、た、貴順さんっ……」
「杏香さん、だめだって……そんな風におねだりされたら、本当に止まらなくなっちゃうだろ」
咎めるような口調だったが、貴順の声音はひどく楽しげだった。
張り詰めて熱くなった先端が、杏香の弱い場所を何度も擦りあげ、幹がみっちりと膣内を埋め尽くす――夫から与えられる充足感に、杏香はシーツを握りしめながら必死で快楽を逃そうとした。
「あ、ンっ……ひぁ、あっ……! はげしっ、ゃ、あぁっ」
「杏香さん、こっち見て。俺のことちゃんと……」
鼻先にキスを落としながら、貴順は律動を止めることはなかった。
それどころか、杏香の右足を持ち上げた貴順は更に奥まで欲望を打ちつけてくる。最も奥まった場所を、まるでくちづけをするかのように何度も穿たれ、シーツを握る杏香の指先は徐々に弛緩していった。
「ァ、は、あ……ッ、ん、貴順さ、んぅ、む……」
頭の中が真っ白になって、うわごとのように夫の名前を呼ぶ。
すると、彼はそれに応えるように杏香の舌に吸い付き、角度を変えて何度も唇を重ねてきた。
「んっ、ふぁ……ァん、ぅ――」
「ッは、杏香さん――ふふ、トロトロになっちゃったね。かわいい……」
(この続きは製品版でお楽しみください。)