序章 お持ち帰りした夜に
「いいだろ?」
「良くないだろ」
「どうして?」
オトコのスイッチを押して、欲望の眼差しで光る大空(たく)の目にゾクリと背筋が震えた。恐怖ではなくて、何かを期待しているような疼きだ。
ジーっとゆっくりとパーカーのチャックを下ろされると、シャツの上から大きい膨らみを揉みしだかれる。痺れるような快感が胸から全身へと駆け巡る。
「んぅ、やめ……」
身体を捩って拒否の姿勢を見せつつも、もっと触ってほしい欲求も生まれた。
違う……こんなのは嫌だ。
理性が、場の雰囲気に流れそうになる感情を食い止めようとする。
付き合っているときは、肌に触れもしなかった元カレの大空が、今は身体の関係を求めている。ずっとしてほしいと願っていたときは、見向きもされなかったのに。
どうして今になってなのだろうか。破局後に、合コンで再会し、繋がる身体の関係とは一体なんなのだろうか。
「抱きたかったのは、マキだろ、私じゃない」
「目の前にいるのはユズだろ?」
「だからって……シテいいわけじゃない」
「可愛くしてやるって言ったし、『いいだろ?』って許可を得た」
「私は許可を与えてない」
「体が正直に許可をだしてるのに?」
大空の指が胸の先端を弾いた。ピクッと身体が跳ね、「あん」と声が勝手にあがってしまう。
「ほら、ほしいって言ってるじゃん。乳首、硬くなってるし。大人同士のお付き合いだろ? お互い初めて同士じゃないんだから、いいだろ?」
「元カレだからっていう理由で、か」
「まあ……そう捉えたなら、それでいいや。ちょっと違う意味だったけど」
「どういう……意味……んんぅ、ああっ、やめ」
服越しに乳首を摘ままれた。私は今まで感じたことのない感覚に、お腹の奥がじんじんとした。
シャツの裾から大空の手が侵入してくると、ブラジャーを上に押しやり、直に胸を弄りだした。先端を指で弾いたり、膨らみを強弱をつけて揉んだり、と。
「……ちょっと、やばい、な」
「は?」
「いつもはこんなことぐらいで、アレしないんだけど。ユズのは、やばい」
「だから、何がっ」
「ナニが……だよ」
グッと何かが太ももに押し当てられた。こんもりとした塊が、刺激してくる。
アレって……股間ってこと?
「ゆっくりと慣らして、楽しませるのが俺のスタイルだけど。悪いな……ユズの前では我慢がきかない」
「ちょ……無理」
「無理って言うなよ。こっちもキツイんだよ」
マジで、許して……と熱を帯びた吐息で耳元で囁かれ、私は考える間もなく、うなずいていた。
ジーパンと下着を一気に、脱がされた私は大きく足を広げられる。
「少し慣らすだけはしておこうな」
ぐちゅっと濡れた繁みへと指が吸い込まれるように入っていく。誰にも見せていない秘密の場所が開いていく感覚に、私は身体が小さく震えた。
「気持ちいい? 指入れただけで、軽くイッたのってユズが初めてかも」
イク? 気持ちいい?
わからない。ゾクゾクして、身体に電気が走ったかのようにぴくっと反応するが、快感なのかと聞かれても答えられない。
お腹の奥がむず痒い。
「ユズの中は少し狭いかも、な」
長い指で中を探るようにかき混ぜられると、鼻にかかる甘い声が勝手に口から漏れていた。
なに、これ。何で勝手に声がでちゃうんだ?
「やめ……だめ」
「奥まで充分、濡れてるから大丈夫だろ」
蜜筒から指を一気に引き抜かれると、大空がもぞもぞと足元で何か始める。チャックを下ろす音と、袋のようなものを開ける音がした。
「何をして……」
「ゴムをつけてんの。ちょっと、待ってて」
「ゴム……」
って、コンドームか。噂のアレか。エッチするときに使うという避妊具。
話で聞いただけで、実物を目にした経験がない。高校のときに、仲良しグループ外のモテる女子たちで
「お守りで持ってるの」と話しているのを耳にして、実物を見ようと目を向けたが見えなかった。
「合コンで持ちかえった男に妊娠させられるって、あり得ないだろ?」
「まあ、そうだ、な。持ち歩いてんだって思って」
「合コンだからな。ワンチャン、あるだろ」
「たしかに」
「入れるぞ」
ぐぐっと、何かが狭い穴を広げて入ってくるのがわかる。
なんだ……これ? へんな感覚だ。
「んんっ……あっ」
「やっぱ、狭いな。もっと解してあげるべきなんだろうけど、俺が我慢できねえ」
さらに強くねじ込まれるように奥まで貫かれる。
ビリっと何かが破れるような感覚と、熱い痛みで声をあげた。
「ユズ、もしかして……久しぶりなのか?」
「……は? なにが?」
「セックス」
……初めてだよ、バカ。
「っるさい!」
私は大空から顔を背けると、痛みで勝手に溢れてくる涙を隠した。
初体験は痛い。聞いていたが、実際に痛感している。
でも絶対に、大空には知られたくない。二十九歳で処女なんて気持ち悪いと、面倒くさい女と思われるだけだ。
「悪い、ちょっと……我慢できそうにない」
大空がさらに私の足を広げたと思うなり、激しく奥まで突いてきた。一定のリズムを刻み、ナカを擦られると、痛みとは別に、背中がゾクゾクとする感覚が生まれてくる。
「あ……あ、あ……あっ」
「ユズのナカ、ヤバいから」
何がどうヤバいというのか。意味がわからない。
けど、大空が、気持ちいいのだろうなというのは声や息遣いでわかる。速まる律動に、私も何かが弾けたくなった。
ああ……もっと奥を突いてほしい。
「大空……んぅ、奥まで」
「ここ?」
「ああっ! や……そこ」
「ユズ、イキそう?」
「ん、あっ……あ、あああっ」
奥を思いきり数回突かれただけで、下腹部が激しく痙攣を起こした。ぎゅうっとナカを絞めつけて、大空の熱に噛みつく。
「ちょ……っと、待って……ユズ、先にイクなよ」
「わからなっ……止められないんだから」
「え? もしかして、中イキ、初めて?」
大空が嬉しそうに笑う顔を見て、私はまたナカがきゅうってなるのを感じた。
「ああ……くそっ、イク」
ぶるっと小さく震えた大空が、ゴムの中に熱を吐きだしたようだ。繋がったまま、しばらくじっとしているかと思ったら、大空がゆっくりと身体を起こした。
「もう少し耐えられるかと思ったけど……俺もあっさりイッちゃったな」
少し悔しそうな表情で呟く大空は、私のナカから撤退していく。
初体験が終わった。
もっと感動するかと思ったのに、意外と何も感じなかった。
気持ちは良かった、と思う。目の前にいる男も嫌いじゃない……いや、好きだと思う。別れたけど、嫌いになって別れたわけじゃない。
むしろ逆で、好きだから耐えられなかった。触れてくれないことに。求めてくれないことに、心が痛くて辛かった。
抱いてくれないなら。
求めてくれないなら。
いっそ別れてしまえば楽になると思ったのに。
あんまりだ。別れてから、合コンで再会して、酔って記憶を飛ばして、お持ち帰りしたその夜には、付き合っていたときに夢見ていたエッチをしてしまうなんて。
悲しすぎる。
(このあとは製品版でお楽しみください)