プロローグ
漆黒の空にはビーズを散らしたように無数の星が瞬いている。
ずっと見ていても飽きないくらい美しいのに、彩奈(あやな)の視界は涙でぼやけ、奇妙に歪んでいた。
「んっ……あ、あう」
小刻みに震える身体にパチャパチャと水しぶきがかかり、つい眉を寄せてしまう。しかし、その冷たさがほてった肌には心地よく感じられた。
自分たちの他に誰もいない、静謐(せいひつ)なプールの中。
小ぶりだがふっくらと形のいい乳房、ほっそりした腰、淡い下生え――生まれたままの姿で彩奈は水面に浮かんでいた。
長い黒髪が海藻のように広がり、華奢な肢体を白く浮かび上がらせる。
童顔で、二十五になってもたまに高校生と間違えられるが、今その表情はしどけなく蕩けていた。見開いた二重の目は焦点が合わず、桜色の唇からは堪えきれない嬌声が断続的に零れ落ちる。広げた両脚の間に身体を入れられ、快楽から逃れることができないのだ。
腰を支えられながら、無防備に秘処をさらしている相手は――。
「マ・シェリ(愛しい人)、彩奈。水の中でも、君のここはとても熱いね」
ずっとかき回されていた蜜口から指を引き抜かれ、彩奈は声にならない悲鳴を上げた。
「まだ触っていないのに、乳首もこんなに尖らせて……早くかわいがってあげなければ」
「そんな……」
彩奈は潤んだ瞳で恋人を見上げる。
プールを照らす青い光に、彫りの深い端正な笑顔が浮かび上がった。
くっきりした二重の目や薄めの唇は優しげで、時には中性的にさえ見えるのに、その肉体は男らしく引き締まっている。厚い胸板、割れた腹筋――彼もまた何も身につけていない。
二人がいるのは泊まっている部屋に隣接したプライベートゾーンだ。しかしいくら人目がないからといって、裸身ではしたなく戯れるなんて――。
「嫌……藤堂(とうどう)さ、ん」
「ノン、彩奈。ドミニクだろう?」
フランスの血を引く彼には二つのファーストネームがある。ドミニクと怜央(れお)――どちらの名前もすてきだと思うが、彩奈は言われるまま「ドミニク」と呟く。
「セ・ビアン(よくできました)、彩奈」
いつもきれいになでつけられている髪が濡れて額に落ちかかっている。そのせいで今夜のドミニクはなんだか少年めいて見えた。しかし細めた目には情欲の炎が揺らめいていて、その落差もまた彩奈を追い上げる。
「だめ、おかしくなるから……」
拒みたいはずなのに、腰が勝手に揺れ、声も甘えるように上擦ってしまう。身体が彼の指や唇を欲しがって、愛撫の続きをねだっている。
彩奈は自分が信じられなかった。そんな淫らな一面があるなんて、これまで思いもしなかったのに。
「いいさ。もっとおかしくなってごらん」
ドミニクの指が右の鎖骨をたどり始めた。
彩奈は息を詰めるようにして、指先が胸元へ下りてくるのを待つ。だが彼は一番触れてほしい先端を避け、桜色の乳輪をクルクルとなぞる。
「あ、あ」
羽で撫でられるような刺激はもどかしいだけで、渇きが募るばかりだ。彩奈は焦れて、何度もかぶりを振った。
「やっ……あ、ん」
「教えて、彩奈。僕にどうしてほしい?」
意地悪な囁きに腰の奥が切なく疼いてしまう。そんな恥ずかしいこと、答えられるはずがないのに……。
だがドミニクは辛抱強い。ちゃんと言葉にしなければ、いつまでだって待つだろう。あえて核心を外した愛撫を続けて、どこまでも彩奈を追いつめようとする。
「さ、触ってほしいの」
「どこを?」
さすがにそれは口にしづらい。彩奈が頬を染めて言いよどむと、ドミニクが低く笑った。
「だったら彩奈、自分で触ってみせて。そこを存分に愛してあげるから」
「でも……」
「さあ、いい子だから」
「こ、ここを」
彩奈はおずおずと手を伸ばし、尖りきっている右胸の先端に触れる。たったそれだけで白い肢体がピクンと跳ねた。
「ウィ、マドモアゼル」
爪の先で乳首を弾かれたのは次の瞬間だった。
「あんっ!」
さらに軽くつままれて、クニクニと揉まれると、全身に甘い痺れが走った。彩奈は無意識に大きく腰を振る。すると、ドミニクの指先はすかさず左の尖りに移った。
「ああ、かわいいな。こっちもすっかり硬くなって……きれいな木の実みたいだ」
今度は三本でつままれ、潰すように強めにこね回される。
「嫌ぁあ」
身を捩って逃れようとしても、腰をつかまれていてかなわない。動いたせいで水に沈みそうになると、いっそう強く抱え込まれた。
「彩奈、もっとかわいい声を聞かせて」
そして深く引き寄せられ、ちょうどドミニクの屹立が秘部に押し当てられる形になる。
(当たってる、ドミニクの……)
そこから伝わってくる熱と脈動が、胸をいじられる快感とあいまって、羞恥心を溶かしていく。恥ずかしくてたまらないのに、彩奈は濡れた花弁を自ら雄芯に擦りつけた。
「おやおや、そんなふうに僕を煽るなんて」
ドミニクは困ったような笑い声を上げ、ゆっくり腰を引いた。
「やっ」
離れてほしくなくて、彩奈が声を上げた時だった。
「きゃん!」
ふいに抱き起こされたかと思うと、左の胸粒が温かくて柔らかなものに包まれた。そのまま強く吸われて、乳首を口に含まれたことに気がついた。
「ド……ミニ、ク」
舌先でつつかれ、音をたててしゃぶられて、目の前で火花が散る。無意識に逃げを打とうとすると、罰するように軽く歯を立てられた。
尖りを甘噛みされては口内でねっとりと転がされ、白い身体が断続的に痙攣する。
「や、あ、あ――」
「本当に困った人だな」
ドミニクが突起に舌を絡ませながら笑った。その唇の動きが絶妙な刺激となって、彩奈は大きくのけぞる。
「かわい過ぎて……もっと泣かせたくなる」
「やめ――」
ところが息つく間もなく、脚の狭間にも指が伸びてきた。
グチュ、ピチャと、下肢から淫靡な水音が響く。ドミニクが乳首を甘噛みしながら、最も感じやすい部分をまさぐり始めたのだ。
淡い色の花びらや、その奥に隠れている可憐な肉芽――器用な指先だけでなく、気まぐれな水の動きでも感じてしまう秘部を甘く刺激する。
「嫌、い、やぁ」
濃厚で絶え間ない愛撫に身体も心もついていけず、視界が白くかすみ始めた。
けれどもドミニクの指や唇はなおも執拗に動き続ける。限界が近いのに、求めているものはまだ与えられそうになかった。
「ジュ・テーム(愛している)、彩奈」
二人の長く熱い夜は始まったばかりだった。
(このあとは製品版でお楽しみください)