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できそこない聖女譚~闇の貴公子を救うためには愛を捧げないといけませんか?~

できそこない聖女譚~闇の貴公子を救うためには愛を捧げないといけませんか?~

著者:麻倉とわ

イラスト:桜田なな

発売年月日:2024.3.28

定価:990円(税込)

 異様な霧を纏う「呪われた」シャイエ公爵嫡男ロランに救われた聖女ミュリエルは、恩返しも含め嘘の告白をする。呪いに蝕まれた彼の呪縛が解かれるのは、聖女と触れあう間のみ――しかし、訝しむ彼の信用を得るために体を許していくミュリエルは、ふと惹かれ合う想いがあることに気づく。「僕のそばにいてくれ、これからもずっと」しかし、想いを確かめようとしたつかの間、王妃より聖女を穢した罪をロランはかけられてしまい……。

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登場人物

立ち読み

序章

 

春の夜半、淡い花の香りが漂う中――。

闇のとばりの中で昼間の疲れや緊張がほぐれ、身も心も安らいで、人が最も無防備になるひとときだ。

それなのに今、ミュリエルは豪奢な館の一室で不安に慄いていた。艶やかな黒髪に囲まれた小作りな顔は青ざめ、緑の瞳も頼りなく揺れている。

「ミュリエル」

甘い低音で呼びかけられ、ミュリエルは小さく身を震わせた。返事をしようとしても、喉がつまって、うまく声が出てこない。

「ねえ、僕を見て。ミュリエル」

きらめく金髪と宝石のような瞳――ろうそくの明かりが照らしているのは、確かに言葉を失いそうなほど美しい面差しの青年だった。

ロラン・ヴァレール・ド・シャイエ。代々、このレスカル王国で要職を務めているシャイエ公爵家のひとり息子だ。

ミュリエルは寝台の背にもたれるロランと向かい合う形で座っている。

その水色の瞳はまるで春の空のように澄んでいるけれど、彼と視線を合わせるなんてとうてい無理な話だ。というのも――。

「でも……」

ミュリエルは思わず緑色の目を伏せる。

「恥ずかしい?」

「え、ええ、とても!」

確かに恥ずかしくてたまらなかった。ミュリエルがまとっているのは羽のように軽くて、身体の線が透けるほど薄い絹の夜着だけで、下着も身につけていない。

一方で、ロランは古代の戦士のような裸体を惜しげもなくさらしていた。しかも彼の欲望はすでに雄々しくそそり立っている。

しかしミュリエルが硬直している理由は他にあった。

実のところ、ミュリエルは恐ろしかったのだ。なりゆきとはいえ、ロランとはもう何度も肌を合わせているし、そろそろこの状況に慣れてもいいころなのだけれど――。

「ミュリエル」

ふいに長い指が伸びてきて、額にかかる髪をかき上げた。

続いて瞳をのぞき込まれ、ミュリエルは息を呑む。

(ひっ!)

思わず身を竦めると、そっと引き寄せられた。

「あっ!」

力強い鼓動と少し高めの体温――抗う間もなく、広い胸に閉じこめられてしまった。頬がなめらかな肌に触れて、ミュリエルはますますうろたえる。

(ど、どうしよう?)

全身の血流が凍りつきそうな気がした。

(怖い……怖い。怖いったら怖い!)

しかし今、それを口にするわけにはいかない。うかつにそんなことをしたら、何が起きるかわからない。まだ問題は解決していないのだ。

幸いロランは怯えを羞恥と勘違いしている様子で、笑いながら黒髪にそっと口づけた。

「まったく……本当にいつまでも初々しいな。恋に落ちてしまったからと迫ってきたのは君の方なのに」

「あ、ええ、そうね。そうなのだけど……」

「だったら、ミュリエル。そろそろ僕に慣れてくれないか。もう何回も、こうして夜を過ごしているだろう?」

ロランは苦笑しながら、なだめるように背中をさすってくれたが――。

「ひぁっ!」

大きな手がゆっくりと、まろやかな臀部に下りてきたのだ。夜着をめくり、はじめは遠慮がちに触れていた指が、ほどなくこねるように動き始め、割れ目の奥の方まで伸びていく。

「ロラン! 待って、ロラ――うっ!」

反射的に逃れようとすると、さらに引き寄せられ、唇を口づけで塞がれた。

「うう、う、ん」

すかさず肉厚の舌が入り込んできた。

尖らせた先端で頬の内側をくすぐられ、ピンクの歯肉をなぞられて、身体に戦慄が走る。そっと舌先を絡められると、一気に肌が粟立った。

「だめだよ、ミュリエル。こんな状況で待てるわけがない」

時に優しく、時に強引に――ロランの口づけは巧みで、やがてミュリエルは息をするのも忘れ、彼と唇を重ねていた。

十八年生きてきて、キスをしたのはロランが初めてだ。そのせいなのか、彼と口づけを交わすと気持ちよくてたまらず、全身から力が抜けてしまう。

「あ、ん……ふ」

寝台にゆっくり押し倒され、思わずロランにしがみついた時だ。

「やぅっ!」

華奢な身体が大きく跳ね上がった。いつの間にか下肢の間に指が回り込んでいて、繊細な秘裂を撫で上げたのだ。

「君だってそうだろ? ほら、こんなにたっぷり濡らして」

ロランはそっと指を動かしながら、甘い声で「悪い子だな」と咎めた。

「まだ少ししか触っていないのに……いやらしい」

「わ、私は――」

「まったくなんて淫らなんだ。ああ、また蜜が零れた」

「やぁっ!」

唐突に女陰をまさぐられ、ミュリエルは大きく身を反らせる。与えられる快感が強過ぎて、涙が零れた。

両脚の奥からニチュニチュと水音が聞こえ、その生々しさにも煽られて、もうどうすればいいかわからない。心は抗っているのに、身体の方はロランの愛撫に酔いしれ、恥ずかしいほど悦んでいた。

ついこの前まで接吻はおろか、異性と手をつないだことさえなかったのに――。

(……どうして?)

今や快感は明らかに恐怖を上回っていて、ミュリエルの理性をどんどん溶かしていく。

濡れた花芯をまさぐられ、狭い蜜路にも指を入れられた。なおもヌグヌグと解されているうちに、ただ快感を追うことしかできなくなる。

「ロラン、ああ……ロラン、いや……おかしく……なる」

ついさっきまで恐れ慄のいていたのに、ミュリエルは官能の波にさらわれ、自分から大きく脚を開き、腰を揺らしてしまう。

こうしている今だって、本気でロランから逃れたかった。けれどもグズグズに蕩けた蜜壺は、彼の熱を求めていやらしくうごめいている。

「君は本当に敏感だな、触ってもいないのに、乳首も硬くなっている」

「う、うそ、そんなこと――」

しかし胸の頂が恥ずかしいくらい尖っていることは、ミュリエル自身が一番わかっていた。絹の夜着に先端が触れるたびに、切なく疼いてしかたないのだ。

こうまで追い上げられては、もう後戻りはできない。

「僕が欲しい?」

「ええ。ええ、ロラン!」

「……ここに?」

「あうっ!」

熱い切っ先を押し当てられただけで、ミュリエルは軽く達してしまった。

きつく閉じたまぶたの裏に白い光が走り、ふと気が遠くなる。毎晩のように抱かれているうちに、ひどく感じやすくなってしまったのだ。

しかし次の瞬間、ロランが本格的に押し入ってきた。

「ひぁうっ!」

圧痛と強烈な違和感――ミュリエルはかぶりを振って、反射的に逃れようとする。

ところがいつの間にか腰をつかまれていて、さらに深く抉られてしまった。熱い凶器は容赦なく抜き差しを繰り返し、ミュリエルをいっそう追いつめていく。

「やん……やっ! 熱い」

「すまない、ミュリエル。今夜も加減してやれなそうだ」

「そんな……だめ、あ、あ……ああっ!」

腰を持ち上げられ、ほとんど二つ折りにされて、奥の奥までズンズンと穿たれる。

けれど与えられる悦楽が深ければ深いほど、ミュリエルの心はいっそう軋んだ。

(溺れてはだめ。だって私は……愛されてなどいないのだから)

はじめからわかっていたことなのに、ただ快感だけを追えばいいのに――。

しかしそんな迷いも許さないほど強直を捻じ込まれ、突き上げられ、再び淫熱に犯される。

「あ、あうぅっ!」

絶頂は唐突に訪れた。

ロランに揺さぶられ、彼方の高みへと押しやられながら、ミュリエルは意識を手放した。

(このあとは製品版でお楽しみください)

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