「クレア、寝酒を用意したのです。よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。でも、わたくしお酒は――」
「ごく弱いものですから、大丈夫。きっとよく眠れますよ」
せっかくの心遣いを断るのは申しわけない気がした。クレアはグラスを受け取り、ひと口飲んでみる。とろりとした飲みやすい酒で、爽やかな甘さが口中に広がった。
「……おいしいです。どうもありがとう、チャンドラ」
「わが宮廷に伝わる薬酒です。さあ、もっとどうぞ。きっと気持ちが楽になるはずですから」
確かに心がふわりと軽くなったように感じられる。クレアは勧められるまま、薬酒をすべて飲み干した。
「お気遣いに感謝します、チャンドラ」
さすがに夜もふけた。クレアはチャンドラを送り出そうと立ち上がったが――。
「あ」
いきなり視界がぼんやりとかすんでしまったのだ。突然のめまいに襲われ、クレアは俯いて目を閉じる。
「どうしました、クレア?」
「いえ」
目を開けて、「大丈夫」と答えようとした舌がもつれた。それでも歩こうとすると、今度は足に力が入らず、ぐらついてしまう。
「危ない!」
支えてくれたのはチャンドラだった。港で助けてくれた時と同じように、そのままクレアを抱き上げる。その拍子に、肩からショールがはらりと落ちた。
「あの、チャン……ドラ?」
チャンドラはクレアを抱きかかえて、寝室へ続く扉を開けた。
「どうぞ……下ろして……ください。わたくしは……自分で」
「大丈夫、心配しないで」
チャンドラはクレアを寝台に横たえると、額にかかった髪をかき上げた。
「少佐と、こうしたことはありますか?」
答える間もなく、額に唇が落ちてきた。
子どもに与えるような軽い接触だったが、クレアは声もなく目を見開く。チャンドラはエヴァンとの過去を問い、額に口づけたのだ。保たなければならない彼との距離が一気に縮まり、どうしていいかわからない。
――愛しているよ、クレア。
エヴァンと手をつなぎ、抱き合って、どちらからともなく唇を重ねた――チャンドラにキスされたことで、故郷に置いてきたはずの思い出がじわりと再生された。結ばれる日を信じていたから、それ以上進むのは互いに自重していたけれど。
「こうしたことは?」
チャンドラはさらに頬に、まぶたに、鼻先にと何度も唇を落とす。
「おたわむれは……おやめください」
体を包むぬくもりも、柔らかな唇の感触も、すがすがしいのに甘さもある彼の香りも、何もかも心地よくて、このまま目を閉じてしまいたくなる。しっかりしなければと思うのに、視界ばかりか頭もぼんやりして、うまく考えをまとめられなかった。
「どうか……もう」
「かわいい人だ」
最後に唇にそっと触れた後、チャンドラは自身も寝台に腰を下ろした。
これ以上はいけない。クレアは力なく首を振った。
「もうお戻りに……ならないと」
「クレア」
チャンドラは三つ編みにしてあるクレアの髪を解き始めた。枕に広がるプラチナブロンドをすくっては、いとしげに口づける。
「あなたは、とてもきれいだ」
「チャンドラ?」
何かがおかしかった。どうしてチャンドラはいつまでも引き取ろうとしないのか? なぜ自分の髪に口づけるようなことをするのか? それに急にめまいがした理由は?
「まさか……さっきの……お酒に?」
クレアは起き上がろうとしたが、体が重く、動くことができない。それでもなんとかチャンドラを見上げると、その表情は何かを堪えているようにつらそうだった。
「すまない、クレア。だが私は……彼に、ウィンストン少佐にあなたを渡すわけにはいかない。どうしてもあなたを私のものにしなければ」
クレアは大きく目を見開いた。
自分がチャンドラのものに? 彼に惹かれ始めているのは間違いない。けれど望まないまま、こんな形で無理やり結ばれるのは耐えられなかった。
「嫌です」
純潔を散らされるのであれば、その相手を決めるのは自分でありたい。しかし今のクレアには、その思いを口にする気力さえなかった。
一方のチャンドラも寝台に上がり、クレアの体を挟むように膝をついたものの、寝衣に手をかけたまま動かなかった。まだ迷っているらしく、どこか視線が定まらない。
「おね……がい」
薬酒の効き目なのか声も思うように出なかった。だが、その懸命な懇願がかえって彼を煽ってしまったらしい。
「だめです」
返ってきた声は少し掠れていた。
「許してください、クレア。いや、私を許してはいけない」
チャンドラは硬い表情で、ひとつ息を吐いた。
「あなたが欲しい、どうしても」
胸のリボンが解かれた。すぐさま襟元を大きくくつろげられ、一気に腰の辺りまで引き裂かれてしまう。いつもと違うチャンドラに、クレアは身を震わせるしかなかった。
「やめて……どうか」
これまでクレアは侍女やメイド以外に肌を見せたことはない。それなのに今、半裸の体はチャンドラの前にさらされていた。両手に力が入らず、胸元を隠すことさえできない。
「なんて美しい」
チャンドラは魂を抜かれたような目つきで、クレアを見下ろしている。しかしかぶりを振ろうとすると、両手で頬を抑えつけられた。
「待ってくれると……おっしゃったのに」
「こうしなければ彼があなたを奪ってしまう」
「チャンド――」
小さな悲鳴は口づけで封じられてしまった。
先ほどまでと打って変わって、強引な接吻(せっぷん)は息継ぎさえ許さない。自分を刻みつけようとするかのように、チャンドラの舌はクレアの口腔を自在に這い回り、舌に絡みついた。
初めての深く、濃厚なキス。送り込まれた唾液は飲み込みきれずに、唇の端から伝い落ちる。
「う……ん」
息ができないのと、獰猛な口づけのせいで、クレアの意識はさらにぼやけてしまう。次第に体から力が抜けていった。
「苦しい……息を、息を……させて」
「申しわけない、クレア。気持ちが焦ってしまって」
チャンドラが慌てて身を起こしたので、クレアは空気を貪(むさぼ)るように胸を上下させた。しかし両手はシーツにきつく押しつけられたままだ。
「あなたがいとしくて……誰にも渡したくなくて」
苦しげな声で囁きながら、チャンドラは再びクレアの唇を奪った。
そのまま顎先からゆっくり首筋をたどってくる。今度は強いばかりでなく、羽でくすぐるように触れる
だけの時もあり、その微妙な強弱にクレアの肌は反応し始めた。かすかに粟立ち、不思議なもどかしささえ覚えてしまう。
「あ……」
「クレア、かわいい人」
思わず漏れた甘い吐息を、チャンドラは聞き逃さなかった。押えていた手を離すと、クレアの鎖骨に頭をもたれるようにしながら、ためらいがちに左の乳房に手を伸ばす。形を確かめるようにそっと触れると、「夢のようだ」と呟いた。
「ずっと……こうしたかった」
その瞬間、最後の堰(せき)が切れたのかもしれない。チャンドラはふっくらした半球を包み込むと、頂に口づけた。
「ひっ」
いずれはエヴァンに嫁ぐ身だったから、クレアも性愛について多少の知識はあった。だが男性がそんなことをするなんて想像したこともない。
「な、何をなさるの?」
思わず押し返そうとすると、チャンドラはクレアの動揺を楽しむように口角を上げた。
鴇(とき)色の粒を口に含まれ、舌先で舐め上げられて、体がピクンと跳ね上がる。
「あん!」
襲ってきたのは、経験したこともない甘く鋭い痺れだった。それを受け止める間もなく、今度は軽く左右に転がされ、クレアは小さく喘ぐ。
「うう、う」
チャンドラはまるで赤子のように、チュクチュクと音をたてて可憐な突起を嬲(なぶ)り続けた。そのたびに甘美な稲妻が続けざまに背筋を駆け抜けていく。
「あ……や、嫌」
小さな肉果はいつの間にか硬く尖り始め、二つの膨らみを彩るように薄赤く色づいていた。
「感じているのですね、クレア?」
「えっ?」
感じる? それはどういう意味だろう? 自分の体はなぜこんなふうにざわめいているのだろう? いじられている胸元だけでなく、どういうわけか腰の奥が疼いて、両腿を擦り合わさずにはいられない。
「我慢しないで、もっと素直になってください」
チャンドラは乳首を咥(くわ)えたまま、反対側にも手を伸ばす。大きな掌で乳房を包むと、人差し指と中指に突起を挟んで形が変わるほどこね回した。
「だめ……おかしく……なりそう」
「そうです、クレア。もっとおかしくなってください、私のために」
チャンドラは胸をいたずらしながら、一方の手をそっと滑らせ始めた。平らな腹を撫で下ろし、引き裂かれた夜着の中へと差し入れる。下着越しにふっくらした秘丘を撫でられ、クレアは大きく身をのけぞらせた。
「あ、ん」
しなやかな指はゆっくりと、けれども何度もその辺りを行き来する。そうされると、体の奥の疼きがますます強まり、腰が浮き上がりそうになった。
「あ……あ、あ」
唇を噛んで堪えようとしても、喘がずにいられない。ゆるやかな動きがたまらなくて、無意識に腰がうねってしまう。体の奥から、じわりと何かが滲み出てくるような気がした。
「気持ちいいですか、クレア?」
「ええ……ええ」
もう自分を騙せなかった。いくら堪えようとしても、チャンドラの指と唇が淫らな熱をもたらし、クレアを混乱させ、追い上げ続ける。望まぬ行為に反応してしまう自分が許せなくて、目元に涙が滲んだ。
「わたくし……どうして?」
初めての床でこれほど乱れてしまうなんて、自分はどうかしているのではないか? それとも生まれつきとんでもなく淫蕩なのだろうか?
「あなたのせいではありません」
チャンドラが目元に唇を移し、透明な滴を吸い取った。
「あの薬酒には破瓜(はか)の痛みを和らげるため、催淫効果もあるのです。だからあなたはこんなにもかわいらしく蕩けてしまった」
長い指が下着越しに秘裂をくすぐる。いつの間にか、そこはしっとりと湿り気を帯びていた。
「やっ!」
「濡れてきましたね」
チャンドラは嬉しそうに囁いて身を起こすと、閉じた両腿に手をかけ、少しずつ開き始めた。さらに膝を立てさせ、間に自身の体を入れ込んでしまう。
半裸のまま恥ずかしい姿勢を取らされて、クレアはまた涙ぐんだ。
「もっと濡らしてください。私を受け入れるために」
「お許しください……どうか」
「だめです」
チャンドラは静かに首を振り、身を屈めた。
「ひぁ!」
腰を強く押さえつけられたかと思うと、秘部に濡れた感触が走った。押しつけられものは柔らかく、あたたかい。下着の上から、すっぽりと唇に覆われたのだった。すぐさま肉厚の舌が花芯の輪郭を探るようにねぶり始める。
「い、や、嫌ぁ!」
こんなところを舐めしゃぶるなんて。
想像を超える行為に、クレアは取り乱して逃れようとする。しかしあいかわらずほとんど動けなかった。それでいて弄ばれている部分は妖しく震えて、とろりと蜜を零す。
「だめ……ああ」
舌と女陰がそれぞれピチュ、クチュと淫らな水音をたてる。クレアは気づいていないものの、今では赤みを帯びた花びらも、その上部にある小さな肉の芽も濡れた布地越しにはっきり見て取れた。
本気で拒みたいと思っているのに、いつしかクレアは自分から秘所をチャンドラの唇に押しつけていた。互いをへだてる薄い布がもどかしくてたまらない。
「チャンドラ……チャンドラ!」
どこかに持っていかれそうで、でもまだ何かが足りなくて、やめてほしいのに、続けてほしくて、クレアは泣きながら首を振った。この甘い地獄では、自分がどうしたいのかさえわからない。与えられているのが快感なのか、苦痛なのかも次第にあいまいになっていった。
「チャンドラ……お願い」
なおも掠れた声で訴えると、唾液と愛蜜で濡れそぼった布が取り去られた。
「きゃう!」
まず与えられたのは指だ。そっと花びらをかき分けられただけで、クレアの体は細かく痙攣する。直接の刺激は恐ろしいほど鮮烈だった。
「クレア、どうか私のものに」
ふいにクレアの全身が芳香に包まれた。濃厚な甘さと、さわやかな緑を思わせる香りが入り混じって立ちのぼる。いつ用意したのか、チャンドラが腹の上に香油を垂らしたのだ。
喘ぎを繰り返す唇に、尖った二つの乳首に、すでにたっぷり潤っている花園に、しなやかな指が香油をすくっては塗り広げていく。何か特別な作用があるのか、執拗な愛撫で疲弊した体が心なしか軽くなった。
「クレア、あなたは火と水の乙女。愛の行為で自身を焼き尽くさぬよう、手の届かないところに流されてしまわないよう、そして私を受け入れてくれるよう、これはあなたのために調合したものです」
再び花弁を食みながら、チャンドラは蜜壷の辺りを探り始めた。淫液と溶け合って、甘い香りがいっそう強くなる。
「あう……あ……あ」
「力を抜いてください、心からも体からも」
繊細な女襞を丹念になぞられて、クレアは声にならない悲鳴を上げた。誰にも触れられたことのない隘路(あいろ)にも、当然のように香油が塗り込められたのだ。
絶え間なく蜜道を指でかき回され、少しずつ広げられても、クレアは自分が何をされているかもうわからない。いつの間にか互いが生まれたままの姿になっていることさえ気づいていなかった。生硬な体はとうに限界を超えていたのだ。
「あなたを愛しています、クレア。心から」
「チャン……ドラ」
香油でぬるつく秘口に、チャンドラの滾(たぎ)りが押し当てられる。そこを張り出した先端で何度も擦り上げられ、頑なな蕾(つぼみ)もさすがに綻(ほころ)び始めていた。
「い……やぁ」
猛った熱塊がグヌリと侵入してきた時、とうとうクレアは意識を失ってしまった。
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