「男ははじめてか?だったら黙って俺の言うとおりにしてろ」
そして艶(つや)めいた声色で囁く。
「天国にいかせてやる」
ニヤリと笑った男のフェロモンに当てられて、高瀬が口を噤(つぐ)む。頬に血が上っているのが、自分にもわかった。
志賀の愛撫は執拗だった。
激しい口づけで高瀬の身体が弛緩したのを見計らって、しなやかな筋肉のついた肌に、余すところなく啄ばむようなキスを降らせていく。
太股の内側の柔らかな皮膚を強く吸われて、思わず背が仰(の)け反(ぞ)った。
それまでなんの存在意味ももたなかった胸の突起を捏(こ)ねられて、細い腰が撥(は)ねる。
「そんなこと……やめ……っ」
抗議の声は口づけに消され、なおも執拗に志賀は高瀬の乳首を弄(もてあそ)ぶ。押しつぶすように捏ね、芯を持ちはじめたそれをきゅっと抓(つ)ねると、口づけの隙間に高瀬は甘い喘ぎを零した。
信じられなかった。
男に口づけられ組み敷かれて、反応する自分の身体が。
女のように悦楽の喘ぎを零しながら、志賀の与える快感を、自分は素直に享受している。
胸を弄(いじ)られてこんなに感じるなんて、知らなかった。そんな場所は、男にとってはなんの意味も持たないものだと思っていた。
志賀の唇が頬をすべり、顎を伝い落ちて、綺麗に浮いた鎖骨を噛む。それだけでもう、高瀬は背を突き抜ける快感に我を忘れてしまいそうだった。
それなのに志賀は、直接的な行為にはなかなか移らず、まるで恋人を愛するように、じっくりと時間をかけて高瀬の身体を拓(ひら)いていく。徐々に朱に染まってゆく肌を楽しみ、男を知らない高瀬に、淫(みだ)らに足を拓かせようとする。
それまで指で弄られていた場所に滑(ぬめ)った感触を感じて、高瀬はハッと我に返った。
「あ……や…ぁ…っ…や、やめ……っ」
志賀の分厚い舌が高瀬のささやかな乳首を食(は)み、吸い、ねっとりとした舌使いで固くなった粒を転がしている。
それによって下肢に急速に熱が集まり、浅ましくも勃ち上がった高瀬の欲望が、志賀の逞しい腹筋に擦られて、トロトロと透明な蜜を零しはじめた。
執拗に胸に吸いつく志賀の頭を押しのけようとして、しかし両手を頭上に拘束されてしまう。
「邪魔すんなよ。せっかく可愛く尖(とが)ってんだから、もっと味わわせろ」
「そんな…とこ……俺は女じゃな……っ」
しかし志賀の愛撫はやまない。
「感じるんだろ?もっと素直に哭(な)いてろ」
そして胸への愛撫はそのままに、空いたほうの手を高瀬の下肢に滑らせた。
それに焦った高瀬が、身体を捩って逃れようにも、圧(の)し掛かる志賀の重みでピクリとも動けない。
志賀の大きな手に握られて、高瀬の欲望がビクリと撓(しな)った。ゆるゆると上下に扱(しご)かれて、ビクビクと震える。
鈴口を親指の腹でぐりっと抉られ、高瀬は嬌声を上げた。
「あ…ぁ……っ」
「結構立派なもん持ってるじゃないか。カタチもいいな。ほら、ここ、いいだろ?」
同性だからこそわかる弱い場所を擦られ、高瀬は頭(かぶり)を振って身悶(みもだ)えた。
高瀬の腕を拘束していた志賀の手が外され、胸を執拗に弄っていた舌が離される。それにほっとしたのも束の間、今度は膝裏を抱えるようにして両足を大きく開かれ、高瀬は志賀に局部を晒(さら)す恰好(かっこう)を取らされた。
「な……っ!」
抗議しようとして、しかしその声は迸(ほとばし)った嬌声に消されていた。
「や…ぁ…っ!あ……は…ぁっ」
口でされるのがはじめてなわけではない。過去につきあった女のなかには、しゃぶるのが好きなやつも何人かいた。
しかし、志賀の口淫は、それとは比べものにならないほどの快感を、高瀬に齎した。
「志賀…さ……あぁっ!」
離してくれと言う間もなく、高瀬は志賀の舌に煽られて、欲望を解き放っていた。
志賀は、口内に弾けた高瀬の蜜を嚥下(えんか)し、ビクビクと震える欲望に舌を絡めたまま、ゆっくりじっくりと余韻をひきずるような愛撫をする。
弾けた蜜と志賀の唾液でしとどに濡れた高瀬の欲望の先端に口づけ、志賀はさらに奥まった場所へ、愛撫を移していく。
反射的に逃げを打った高瀬の腰を掴み、先ほどよりもさらに恥ずかしく下肢を押し広げると、露(あら)わになった秘孔に舌を這わす。
頭では理解していた。男はそこで受け入れるのだと。
しかし、実際にそこを弄られると、言いようのない恐怖が高瀬を襲った。
踏み込んではいけない領域なのではないのか?
一度知ってしまったら、もう二度と引き返すことはできないのではないか?
「戻れなくなる」と志賀は言った。
では、戻った先にあるものは、いったいなんなのだろう。
今までと変わらない自分の姿。
浅ましく軽薄な野心に心を支配され、薄汚れた欲望に突き動かされるようにして、日々あくせくと生きていくしかない自分の後ろ姿が、高瀬の思考を過ぎった。
その間にも、志賀の指が丹念に狭い入り口を解し、執拗な舌が秘肉を蕩かしていく。
「ふ…ぅ…く…っ」
高瀬の口から零れた苦しげな吐息に、志賀は固く噛み締められた高瀬の唇を押し開く。そして、無骨な指を二本、咥(くわ)えさせた。
「しゃぶってろ。口を閉じたら余計辛いぞ」
そして秘孔を穿(うが)つ指を徐々に増やしていく。普通の男のものよりもさらに一回り大きな志賀の手は、指も太く長く、狭い高瀬の内壁が苦しさに戦慄(わなな)いた。
しかし中を蠢(うごめ)いていた志賀の指先が探していたポイントを掠(かす)めると、ビクリと腰が跳ね、きつく締めつけているだけだった肉壁が僅かに綻ぶ。
「ぅ……う……っ」
志賀の指をしゃぶらされている高瀬は、低く呻くことしかできない。だがその呻き声にも、先ほどまでとは違う甘さが混じっていることを、志賀は聞きつけていた。
前立腺を攻められて、高瀬が切羽詰まった声を上げる。腹につくほどに勃ち上がった欲望の先端からは止(と)め処(ど)なく蜜が溢れ、最奥を穿つ志賀の指にまで滴(したた)っている。そこからグチュグチュと淫靡(いんび)な音が響いて、高瀬は羞恥に身を捩った。シーツを掴んだ手が震えている。
「柔らかくなったな。いい具合だ。熱くて締まりもいい」
志賀は中を穿つ指で秘孔を掻き回しながら、高瀬の欲望を舐め上げた。すると蕩けた肉壁が志賀の指をきゅっと締めつける。
「感度も良好だ」
卑狼な言葉の数々に、しかし高瀬はもう何も言い返すことなどできなかった。
脳味噌が沸騰しそうなほどの強烈な快感。
口に咥えさせられていた指が引き抜かれ、高瀬の唾液に濡れたそれを志賀が舐る。そして、布地の上からもそうとわかるほど猛った欲望を取り出した。