「やはり怖いか?」
「あたりまえです!僕は男の身体を見て興奮なんかしませんし」
「それじゃ興奮するようにしつけてやるよ」
(こ……この!)
「強姦罪で起訴します」
「無理だな。証拠不十分で不起訴だ。それに強姦罪じゃない。こういう場合は暴行罪だ」
僕はますます腹立たしくなって、ひたすら彼を睨む。
すると彼は苦笑して言う。
「あのな、それ、逆効果だぞ」
「え……?」
「無理やり泣かせたくなる」
(……!)
僕は唖然となった。しかも、
「とにかくこのままじゃ収まらないから一回いこうか」
なんてふざけたことを言って、彼は俺にキスをしてきた。
「いや……嫌だ!」
無理やり顔を向けさせられ、キスをされる。
それでも嫌で唇をギュッと噛みしめたが、強く吸われて息ができず、思わず唇を開いてしまう。
「あ……!」
そのとたんに彼の舌が素早く潜り込んでくる。そのまま彼は僕の口の中を荒々しく貪りだす。 「やぁ……!うっ!や……めろ!」
足をばたつかせて暴れると、今度は左手で僕の縮こまっているものを、彼はやんわりと握りしめる。
「あ!」
思わず僕は喘いで身体を震わせていた。カッと身体が燃え上がる。
(流されるな!しっかりしろ!)
僕は必死に心の中で叫んでいた。
だけど、彼の匂いが、そして彼の僕を見るせつなげな瞳が、僕のすべてをおかしくさせていく。
頬は上気し、いつのまにか僕は腰を淫らにくねらせていた。 さんざん貪られて、唾液でダラダラになった後、ようやく彼は唇を離した。
僕のペニスは彼の手の中で嬉しげに震えている。
「素直だな」
「触られたら誰でも感じます」
「同性でもか?」
「そうです!」
ムキになって言い返したが、僕はなんだか情けなくなってきた。
「恵、認めろよ。私が好きだと」
「検事……」
「嫌か?」
「それは……。あなたは僕に男のプライドを捨てろと言うのですか?」
「そうだ。私のために捨ててくれ」
「勝手なことを。あなたって本当に身勝手だ!なんでこんな男に憧れていたんだろう」
自分の馬鹿さが悔しい。だけど、彼はジッと真剣な目で僕を見ている。
その目は哀しげだった。
「見るな!そんな目で見るな!やりたければやればいいだろう!欲しければ僕の身体を持っていけばいい。でも、心まで……心まで求めるな」
涙がポトリと落ちる。
(あ……!)
「泣くな」
「あなたが泣かせてるんだろうが……」
文句を言って彼の肩に顔を埋める。彼は泣きじゃくる僕を黙って泣かせていた。
そして、僕がさんざん泣いて泣き疲れると、今度はリビングから酒の瓶を持ってくる。
それを一口含み、僕に飲めとばかりに口移しで注ぎ込んできた。
僕は泣きすぎて喉が渇いていたので思わずそれを飲み下した。
だけど飲み込んだとたん、喉が焼けるように熱くなった。
「なんですか……これは?」
「ウォッカだ」
「そんな強い酒を飲ませないでください」
「どうして?酔えば少しは気休めになるだろう?」
「今から何をされるかわかっているのに酔えるわけないでしょう。これ放してください」
僕は縛られた腕を解こうともがいた。
「一発殴らせろ!」
するとそれを聞いて彼は困った顔で首を竦める。
「意外と気が強いな」
「あたりまえでしょう。あんたは自分が何をしようとしているのかわかっているのか!」
「愛し合いたいだけだが」
「一人でやれ」
「一人では無理だ」
(この……!)
「さぁ、おとなしくやらせろ」
どうしても布施検事は僕とやりたいらしい。僕はさすがに観念するしかなかった。
憧れていた男。彼のようになりたいと望んだ相手。パーフェクトだと思った彼もただの人間だったのだ。鋼鉄の鎧を纏いながら、その内面では血を流していた。
僕を抱いて、少しでもその痛みが安らぐのならばいいじゃないか……。
そう思った自分に僕は愕然となった。
(僕は……)
どうやら僕は後戻りできないほど、彼に魅せられていたらしい。
あまりの情けなさに笑うしかない。思わず苦笑すると彼は怪訝な顔で僕を見返す。
「どうした?」
「……嫌いになれたらよかったのに」
「恵」
「さっさとやれよ。そしたら嫌いになってやるから!」
やけっぱちで喚くと、彼はそんな僕の額にそっとキスをする。
「愛している」
「卑怯者……卑怯だ。最低だ!こんな時に言うなんて馬鹿野郎!大嫌いだ!」
「恵」
涙が再びせきを切ったように流れだした。涙の理由が悔しさだけではなかったのが、ものすごく腹立たしい。 (なんでこんな男に……!)