倉庫内に、邦久(くにひさ)の切迫した息遣いが響く。対照的に、邦久を逃すまいと、前後に立ちはだかる男たちは落ち着いていた。
双子だけあって、顔立ちがそっくりなだけではなく、異常な状況での立ち居振る舞いまで似ているのは、驚嘆よりも、ただ恐怖を覚える。ほんの少し前まで、あんなに親しみを覚えていた男たちなのに――。
とにかくこの密室から逃げなければと、邦久はドアのほうに視線を向ける。夜間のビルであるため、大声を出したところで誰も駆けつけない。自分の足で、倉庫の外に出なければならないのだ。
しかし、両腕でしっかりと邦久の体を羽交い絞めにしている双子の片割れ――陽(よう)二(じ)は、気配を察したらしく、邦久が行動を起こすより先に動いた。
「あうっ」
陽二の唇が耳に押し当てられ、熱い吐息を注ぎ込まれたかと思うと、耳朶にそっと歯が立てられたのだ。
反射的に首をすくめた邦久の仕種に誘われたように、目の前に立つ倫(とし)生(み)が顔を寄せ、再び唇を塞いできた。
余裕なく上唇と下唇を吸われ、舌を這わされる。邦久は懸命に唇を引き結び、キスを拒もうとする。本当は頭を左右に振りたいが、陽二の舌先が耳をくすぐり続けているため、動けない。
年下の双子たちに、邦久はいいように扱われていた。この状況では、邦久が倫生の上司であるということすら、些細な、いやもう、どうでもいいことなのだ。
倫生に乱暴な手つきでジャケットの前をまさぐられ、ボタンを外されていく。
「やっ、め――……」
なんとか動かせる肘から先で倫生の肩を押し退けようとしたが、指先に力が入らない。その間にも倫生によってジャケットの前を開かれ、ネクタイを解(ほど)かれて、スラックスから引きずり出されたワイシャツのボタンに手がかかる。
「やめろ、倫っ」
強く呼びかけた邦久に、倫生が強い眼差しを向けてくる。怒らせたのかと思った邦久は、一瞬怯えたあと、哀願するように問いかけていた。
「倫生、やめてくれ……。どうして、こんなことをする?わたしはやっぱり、君らに嫌われているのか?」
「嫌いなら――」
羽交い絞めを続けていた陽二の腕が解かれ、よろめいた邦久は咄嗟に倫生の肩に摑まる。今度は倫生の腕に捕まえられた。目を見開く邦久に、倫生が顔を近づけてくる。何をされるかわかったが、顔を背けることを許さない迫力があった。
「んうっ」
きつく唇を吸い上げられ、抱き締められる。混乱した意識に引きずられ、このときになって初めて、背筋にゾクゾクするような痺(しび)れが駆け抜けた。
倫生に唇を貪(むさぼ)られる一方で、腰に陽二の手がかかり、ベルトを緩められる。
「嫌いなら、こんなリスクを冒してまで、同性のあなたに触れようとは思いませんよ。むしろ、嫌いの対極にある気持ちを、あなたに抱いている」
スラックスの前を緩められ、腰を撫でられながら下着ごと下ろされる。恐慌状態に陥った邦久が声を上げようとすると、倫生の舌が口腔に入り込んできた。目を見開いた邦久の眼前で、倫生も一心に、邦久を見つめていた。
熱く激しい眼差しに反応して、体の奥で妖(あや)しい衝動が蠢(うごめ)く。それを煽るように倫生の片手が、剥(む)き出しとなった邦久の両足の間に這わされ、同時に陽二の両手が、胸元を撫でてくる。
倫生の大きなてのひらに、敏感なものを包み込まれた。息もできないほどの驚きにビクビクと体を震わせ、邦久は必死に体を捩ろうとしたが、弱みを擦り上げられると何もできない。さらに、胸元を撫でてくる陽二には、もう一つの敏感な部分を捉えられた。明らかに、邦久に快感を与えてこようとしている手つきだった。
意図を理解した途端、身を焼くような羞恥に襲われる。
「あっ、あっ……」
タイミングを見計らっていたように倫生の唇が離され、倉庫内に邦久の声が響く。
「いい声ですね、有賀さん」
陽二にからかわれたと思い、胸元に押し当てられた手を払い除(の)けようとしたが、倫生の腕の中から奪い取るように抱き寄せられ、今度は陽二の顔を間近から見つめることになる。
倫生とよく似た顔なのに、表情が違う。倫生が狂おしい激しさを感じさせるのに対して、陽二のほうは余裕たっぷりだった。享楽的とも言えるかもしれない。自分も楽しむが、邦久も楽しませようと待ち構えているような。
「陽二っ」
必死に名を呼んだが、陽二は頓着(とんちゃく)する様子もなく、邦久の唇を塞いできた。
優しく唇を吸われながら、今度は陽二の手が両足の間に這わされ、緩やかに強弱をつけて邦久のものを愛撫(あいぶ)し始める。
「あうっ」
声を洩らすと、陽二の舌も口腔に入り込んで感じやすい粘膜を舌先でまさぐってきた。倫生が傍らに寄ってきた気配がして、胸元にてのひらが這わされる。指先に胸の突起を捉えられると、いきなり強く摘まみ上げられた。
ビクビクと体を震わせた邦久は手をさまよわせ、倫生の肩に摑まる。足も震えてきて、自分の足で立っているという感覚が危うくなっていた。
「有賀さん、舌出して」
甘い声で陽二に囁かれ、当然のように邦久は拒否しようとしたが、感じやすい先端を爪の先で弄られ、強烈な感覚が背筋を駆け抜ける。弱みを握られているようなものだった。もう一度囁かれぎこちなく従ってしまう。
差し出した震える舌を、まるで倫生に見せつけるように陽二に吸われる。すると、倫生の手があごにかかったかと思うと、半ば強引に顔の向きを変えさせられる。はあっ、と邦久が息を吐き出したときには、倫生の顔が眼前に迫っていた。
「やめ――」
声を上げようとしたときには、倫生に深く唇を塞がれる。あっという間に舌が口腔深くにまで差し込まれた。
キスに溺れそうになり、足掻くように手を動かし、倫生の肩にすがりつく。
「んっ、んっ、んうっ」
胸の左右の突起を同時に指で弄(いじ)られる。片方ずつ、倫生と陽二が触れているのだ。そして両足の間から生まれる屈辱と恥辱に満ちた快感は、どちらの手によって引き出されているものなのか――。
唇の端から唾液が滴り落ちようとすると、陽二の舌に舐め取られ、そのままキスの相手が倫生から陽二へと代わる。
こんな行為をすることにどんな意味があるのか、もちろん邦久にはわからない。すでにもう、双子から与えられるキスと愛撫によって、思考が甘く溶けかけていた。