書籍情報

孤独な天使が舞い降りる【書下ろし】

孤独な天使が舞い降りる【書下ろし】

著者:伊勢原ささら

イラスト:九条AOI

発売年月日:2015年03月06日

定価:990円(税込)

俺は今日一日で、多分おまえに惚れたかもしれない。 キスするけどいいな バイトにあぶれた大学生の一臣は、ある日駅前で「家族募集中」のボードを持って立っている若者を見つける。下心も手伝って、あどけなく可愛い・理玖に「俺が家族になってやる」といい、一臣と理玖の二人の同居が始まった。理玖の良さがわかるにつれ、ますます彼にひかれていく一臣。それを面白く思わない一臣の元恋人・優希がワナを仕かけてきて……?!

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登場人物

栗田理玖(くりた りく)
19歳。身寄りがなく、肉親の愛情を十分に注がれて育たず、一人で生きてきた。『家族募集中』のボードを見て声をかけてきた一臣に救われる。
相澤一臣(あいざわ かずおみ)
大学3年生で、バイトに明け暮れる貧乏奨学金生。恋人の有季に嫌気がさし始めているときに、駅前で理玖と出会う。さびしそうな理玖を放っておけず何かと面倒を見てしまい、惹かれていく。

立ち読み

「どうしてドキドキするんだ?」
「……わからない」
眉間の皺がさらに深くなる。理玖にとっては相当難問のようだ。
「家族はドキドキしない」
「そうだな。そういうドキドキはしない」
「困った」
「困ったのか?」
「一臣が家族でなくなってしまう」
心底困惑した顔だ。
理玖のドキドキが伝染してしまったのだろうか。恋人をとっかえひっかえしてきて相手には不自由したことのない一臣が、触れるだけのキスでおかしいくらい高揚している。これではまるで中学生の初恋だ。
「家族じゃなくても恋人でいられるぞ」
「恋人……」
「キスしてドキドキするんだったら、きっと家族じゃなくてもう恋人だ」
うーん、と喉の奥で唸るような声を出して、理玖は考え込んでしまった。両腕にその体を抱いたまま、一臣は根気強く返事を待つ。たっぷり一分待って可愛い唇が開かれる。
「恋人は……」
「ん?」
「一緒に、はつもうでに行く?」
思わず笑ってしまった。笑われたのが気に障ったのか、理玖は微妙にムッとした顔をしている。理玖にとってそれは大問題だったらしい。
「何もおかしくない」
「あぁ、笑って悪かった。初詣な、もちろん行くぞ」
「お花見も」
「花見にもふれあいの園にも行く。ただ恋人が家族と違うのは、こうやって相手に触りたいって思うことだな」
理玖はやっと納得したのかコクリと頷いた。
「それならいい」
「いいのか」
「いい」
「嫌じゃないのか」
「い、嫌じゃない」
いくぶん恥ずかしそうに告げられた一言に煽(あお)られる。一臣は抵抗しない理玖の体を反転させると、背中からやんわりと抱き締めた。風呂場に置いてあるボディシャンプーとも違う、理玖特有の石鹸みたいな香りがする。柔らかい髪をかき上げ、覗く耳に唇を当てると、そこはすぐに赤く色づき理玖が身をよじる気配がした。
「嫌か?」
「ううん」
あまり触れていると抑えが利かなくなりそうだ。それでも、もう少し進んでみたい。
一臣は怖がらせないように指を進めて、Tシャツの上から胸の突起を探った。指の腹で軽くそこを撫でながら右手を徐々に下に持っていく。
「あ……」
ジーンズの上から中心に触れると、理玖が小さな声を出した。
「おまえ、ここ一人で触ったことあるか?」
「う、うん」
後ろから覗(のぞ)く頬が赤くなっている。いくら世間ズレしていなくてもさすがに自慰は知っていたらしい。
「どうなる?」
「き、気持ちよくなる」
「俺にされるともっと気持ちいいぞ」
「うそ」
「何が嘘だよ、失礼な。胸だってほら、もう気持ちいいだろう?」
「んっ……」
すっかり硬くなった蕾に軽く爪を立てると、理玖は肩をすくめ小さく甘い声を上げた。
「胸は自分で触ったことはないのか?」
「な、ない」
「じゃあ俺が最初だ」
「な、何かした。変」
「触ってるだけだぞ」
そのままTシャツの上から慎ましい尖りの感触を楽しみながら、片手でジーンズの前をくつろげさせる。
「一臣」
不安げな声が漏れた。
「ん?嫌か?」
「こわい」
「何が怖い?俺か?」
「変な感じになってる」
「なっていいぜ」
笑いながら、進めた指で少し形を変え始めた理玖の中心に直接触れる。
「ひゃっ」
理玖が色気のない声を出して身をすくませた。
「おまえ初めて会った日の夜、ここ、全然反応しなかったんだぞ」
「ね、眠たかった。あと、嫌だった」
一臣の巧みな指に幹から先端まで擦(こす)り上げられ、理玖は上ずる声で言い訳する。興奮のためかしゃべり方が妙に舌足らずになって可愛らしい。
「今は、嫌じゃないのか?」
「い、嫌じゃ、ないっ。あっ……」
すっかり勃ち上がった先端はもうしとどに濡れている。緩急つけて追い上げると理玖は身をよじり、頼りない背中を一臣に擦(こす)りつけてくる。
「い、いや……あ、んっ」
「そうか、嫌なのか」
嫌なわけがないのに聞く自分も意地悪だと思う。理玖はもう声も出せずにただ首を横に振る。自分の指が理玖に快感を与えてやっていることが嬉しくて、達しそうになるたびに引き止めさんざん焦らしてから解放してやった。理玖は全身を震わせて一臣の手の中に欲望を吐き出した。
「ごっ、ごめんなさい……あ」
耳まで真っ赤になってベッドサイドのティッシュボックスを取りに行こうとした理玖は、絡まったジーンズに足を取られそのままペタンと膝を突く。真っ白い尻が半分見えてしまっているのが完全に目の毒だ。今押し倒してそのまま体を繋げてしまっても理玖は抵抗しないかもしれないが、それは優希とのことがきちんと片づいてからだと一臣はギリギリで我慢する。
半分脱げかかったジーンズから目を逸らし、爆発寸前の欲望を抑えつけながら脱力した体をよいしょと立たせた。あわてて下着とジーンズを引き上げている背中を抱き締める。
「どうだ?気持ちよかったか?」
「う……うん」
一臣の方を全く見ようとしないのは、もしかしたら照れているのだろうか。視線は頑強に足元に落とされている。
「またしたいか?」
「う、うん」
「じゃ、次はもっと気持ちいいことしようぜ」
「やっぱり……」
「ん?」
「やっぱり、ドキドキした」
「ドキドキしたのか」
「恋人?」
「きっとそうだ」
「でも、家族でもいてほしい」
「それはな、恋人よりもレベルが高いんだぞ」
笑いながら言った一臣の言葉に理玖は「がんばる」と小さな声で答えた。一臣が胸の前に回した腕に、理玖の小さな手がかけられる。
頭が真っ白になるほどただ嬉しくて、たまらなく幸せで胸が熱くなってくるなんて体験は、自分の人生には訪れないのだ思ってきた。ところが、違っていた。どんな乾いた人生にも、その瞬間は突然やってくるのだ。
理玖も今同じように思ってくれているといいのにと、一臣は心から願った。

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