最初にクラブの応接室で彼を見たとき、僕はオーナーのことをすごく格好いい人だと思った。
マネジャーのセクハラまがいの面接から助けてもらったということもあるけど、彼は僕が今まで会ったことがないほど、立派な大人の男の人だった。
二十代の半ばぐらいだろうか、背は高くてすらりとしており、嫌になるくらい足が長く、目鼻立ちのすっきりしたイケメン。
いかにも高そうなブランド物らしいスーツを格好良く着こなしている姿は、似合いすぎていて嫌みにさえ見えない。
スーツを着ているときは痩せているように見えたけど、服を脱ぐと引き締まってガッチリしている。
胸板も厚く、逆三角形でバランスが良い。
とくに切れ長で形の良い目は強烈な印象を与える。
目に力があるというのは、こういう人のことをいうのだろう。
退廃的な雰囲気があり、セクシーな男の色気を漂わせていた。
一度見たら忘れられないほど魅力的で、女の人が放っておかないタイプだと思う。
どこからどうみてもやり手の青年実業家に見える。
それなのに、そんなイケメンがなんで僕みたいなガキを相手に、本気で迫ってくるのかさっぱりわからない。
どんなに女の子みたいでも僕は「男」だ。
ついているものはちゃんとついているし、胸も女の子みたいに柔らかくもない。
僕なんか抱いても楽しいとはとても思えない。
そりゃあ世の中には、男が好きだっていう人がいることは知っている。
母さんに小さいときから、「昴ちゃんは可愛いから気をつけるのよ」と口を酸っぱくして言われていた。
だけど、オーナーはとてもそういう趣味の人には見えない。むしろ女の人にすごくもてそうだ。
だけど彼は、ニッコリ微笑んでベッドに上がってくる。
「それじゃあお互いに楽しもうか」
僕は反射的に後ずさりをしていた。でも、ベッドの端は壁で逃げ場なんかなかった。
さっき「服を脱げ」と言われたときに、見栄を張って脱がなければよかった。
そうすれば彼の隙を見て逃げることもできたのに、すっぽんぽんじゃ逃げることもできない。
「君の好きなだけ泣かせてやるよ」
(え……?)
そう言った彼の顔は艶を帯びて妖しく輝き、ますます男の匂いを発散させる。
女の人ならば、感激してウットリするかもしれない。
だけど、しつこいようだけど僕は男だ。
男相手にフェロモンを発揮してどうする。
こんなことなら、「SEXなんてどうってことない。男と寝るなんて平気だ」なんて嘘をつかなければよかった。そうすれば逃げ出すチャンスはあったかもしれないのに……。
僕は、自分が成り行きでそう言ったことを後悔していた。
彼が僕のことを子供扱いするので、頭にきて嘘をついたのだ。
本当のことを言うと、男の人どころか女の人ともそういうことをしたことは一度もなかった。
それなのに、初体験の相手が男だなんて不毛すぎる。
だけど、目の前の彼は本気だ。マジモードで迫ってくる。
「ちょ……ちょっと!待てよ!」
「待てない」
「そんな……!」
(嫌だぁ~!)
僕は咄嵯(とっさ)に身体を硬くしていた。
すると彼は、いきなり僕の両膝に手を掛けてグイッとそこを開かせる。
「わぁ!」
驚いて膝を閉じようとしたが、彼の力に押し切られた。
僕の薄っぺらな股間が彼の前にむき出しになった。彼の視線がそこに向けられる。
恥ずかしくて僕は真っ赤になっていた。
「一人前にちゃんと剥けているようだな」
「ば、馬鹿にするな!」
自分でだってまともに見たことがないというのに、なんで他人に、それも男に見せなければいけないんだ。情けなかった。 それなのに僕の男の印は、彼の視線を感じて恥ずかしそうに震え始める。