書籍情報

がんじがらめに愛して。【特別版イラスト入り】

がんじがらめに愛して。【特別版イラスト入り】

著者:妃川 螢

イラスト:かんべあきら

発売年月日:2014年10月24日

定価:935円(税込)

もっともっと愛して。 人一倍おとなしく人づきあいが苦手な北条戀(れん)は、意に染まない人事で、エリート集団の国際部の事務職に就いて2年目の社会人。その戀に新人教育の役が回ってきた。日々の仕事で精いっぱいながらも承諾した戀だったが、現れた新人を見て驚愕してしまう。眩しい魅力に溢れる彼――真鍋侠也(きょうや)は、1年前の雨の夜、ボロボロだった戀が一夜をともにした行きずりの青年だったのだ。あくまで知らぬふりを通そうとする戀に侠也は……!? リーマン&年下攻のラブモードを妃川螢テイストでどうぞ❤

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登場人物

北条戀(ほうじょう れん)
フランス語、ドイツ語、英語の三か国語を話せる。国際部所属、真鍋の教育係。お酒に弱く甘いカクテルしか飲めない。少女のように華奢で大人しい。世話焼きの姉と妹がいる。
真鍋侠也(まなべ きょうや)
長身でファッションモデルのような体型、オリエンタルなはっきりした印象の顔立ち。両親は離婚している。父は二人の勤める会社の社長。母は若い頃はモデル、現在はデザイナー。

立ち読み

あの晩、自分がどれほど淫(みだ)らに青年を求めたか、脳裏に焼きついて、消したくても消し去れない。 覚えている。
口づけの甘さも、汗の匂いも、貫かれる激痛も。そして、その奥から湧き起こる底知れぬ疼痛(とうつう)も……すべて、戀の肌が覚えている。
熱に浮かされたように、温もりを求めた。
抱き締めてくれる腕を求めた。
なぜあんなことをしてしまったのか……当の戀本人にもわからない。
――あんな……あんなはしたないこと……。
思い出すのは、リアルな快感。
痛みでも哀しみでもなく、逞しい腕に抱かれることの、安堵と温もりだった。
「あ……ぁ……や…ぁ……っ」
はじめて知る、他人の肌の感触。
間近に聞こえる、心臓の音。
覚悟していた痛みはなく、あるのは畏怖(いふ)すら感じるほどの悦楽ばかり。それが逆に、戀の恐怖心を煽った。
「やだ……だめ……あ…あぁ…っ」
雨の匂いを残す髪が、白いシーツにパサリと乱れ散る。
シーツを握り締めた白い指が、小刻みに震えていた。
それに気づいて、青年は戀の手を取り、自分の背に回させる。噛み締めた唇を啄ばみ、血が滲み、真っ赤に腫(は)れたそこを、癒すように舐めた。
「爪立てていいよ。声も我慢しなくていいから。俺に、溺れればいい……」
都合良過ぎるほどの青年のやさしさに、これは夢ではないかと、戀は考えていた。すべては夢で、自分はまだ薄汚れた路地裏に座り込んだまま、雨に濡れているのかもしれない。
すべては都合のいい夢。
淋しい心がつくり上げた、幻だ。
でも、だとしたら、なぜ自分を抱ぐ男は、菅原ではないのだろう……。
菅原に、抱かれたかった。
本当に抱いて、抱き締めてほしかったのは、いつもやさしかった菅原だったのに……。
しかし、現実の菅原は、救いの言葉ひとつくれず、戀に背を向けて去った。
惨め過ぎて笑えるほどに、戀の恋心はズタズタにされたのだ。
菅原に抱かれる夢を見ないのは、戀のなけなしのプライドなのかもしれない。
振られた相手に未練がましく縋りつくほど、自分は落ちぶれてはいないのだと……どんなに情けなくても冴(さ)えなくても、自分にだってベッドを共にする相手くらいいるのだと……。実際にはそんな相手と巡り合ったことなどなかったけれど、それでも誰かに、求められたかった。
そう……求められたかったのだ。
誰かに。
欲しいと、言ってもらいたかった。
愛されたかった。
自分の性癖と向き合うのが怖くて、戀は今まで誰かと愛し合うことから逃げつづけていた。逃げて逃げて、自分の気持ちからも逃げつづけて……。
やっと向き合えると思った矢先に、仄(ほの)かな恋心は、コナゴナに打ち砕かれてしまった。
当然だ。
相手には、同性を愛する趣味などなかったのだから。
なんの覚悟も防御策も講じなかった心に、その衝撃はあまりにも強く、戀の心をズタズタに切り裂いてしまった。
だから……求めた。
男の腕を。
男の温もりを。
縋った背は広く、しなやかな筋肉に覆われていた。
その滑(なめ)らかな感触を味わうように掌(てのひら)を滑(すべ)らせていると、戀の身体中を弄(いじ)っていた青年の大きな手が、ツンと色づいた、ささやかな突起を摘(つま)む。
なんの膨(ふく)らみもない平らな骨ばった胸を、大きな掌が揉むように愛撫すると、敏感になったその場所は、疼(うず)くような感覚を戀に齎した。
「や…ぁ……っ」
戀の艶(つや)めいた声に誘われるように、青年の舌が色づいた突起を捕らえた。滑(ぬめ)った感触に包まれた直後、強く吸われ、ゾクリと背を快感が突き抜ける。
「あん……あ…ぁ……」
戀の太股(ふともも)を割って滑り込んだ逞しい身体が、戀の下肢を淫らに開かせる。
熱く滾(たぎ)る青年の欲望が、快楽に震え濡れそぼった戀のそれに触れて、激しい喜悦を生み出した。
「あ…っ!ぁ…やぁ…んっ」
クチュリと濡れた音が耳に届いて、戀の羞恥(しゅうち)はますます煽られる。
耳を塞ぎたい衝動に駆られながら、しかし戀の身体は持ち主の意志を裏切って、もっとと強請(ねだ)るように、細い腰を擦(す)り寄せた。
「可愛いよ……すごく……」
耳朶を擽(くすぐ)る男の囁き。
戀の情欲を煽りながら、青年は巧みな愛撫で初(うぶ)な身体を拓(ひら)いてゆく。
「いや……も…ぁ…っ」
中途半端に昂(たか)められ、放り出されたままの欲望が切なくて、戀は喘(あえ)ぐ。白い爪先がシーツに皺を寄せる。
「辛(つら)いの?ここ?」
青年の長い指が戀の欲望をツツッと撫で上げると、それはピクンと震えて、先端から透明な雫を零した。
「あぁっ!あ…ぁ…っ!」
戀の零した透明な液体を先端に塗り込めるように青年が指を蠢(うごめ)かす。はじめて知る他人によって齎される快感の深さに、戀はあっという間に昇りつめ、青年の手に白濁を放っていた。
快感の余韻にピクピクと痙攣(けいれん)する細い身体をぎゅっと抱き締め、青年はやさしいキスをくれる。瞼にこめかみに唇に。
朦朧(もうろう)とする瞳を上げ男を見上げる。
そして、自分を見下ろしている……抱いているのが、名も知らぬ青年であることを、戀は認識した。
重い腕を上げて、青年の頬にそっと指を滑らす。

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