美色エリート上司と愛の秘め事【第六話配信】

【第六話】

著作:御上ユノ イラスト:小路龍流

 

「安物のホテルですまないな」

鷹島は、小規模だが、ドアマンや受付、コンシェルジュ機能の揃ったホテルに案内した。海外旅行客も多いようで、英語と中国語が、日本語インフォメーションに併記してある。

安易にラブホテルを選ばないのが、鷹島らしかった。

鷹島が受付で手続きし、二人はエレベーターで、六階へ上がった。

美久は、自分の一歩一歩が、未知の世界に踏みこんでいると自覚し、足が震えた。鷹島は受付でコートとスーツの上を脱ぎ、片腕に掛けていた。鷹島のグレーのストライプシャツの背中に、美久は何度か頬を寄せたい衝動に駆られた。そうしてもきっと赦される、という状況が、美久の欲望に油を注いでいた。

鷹島はカードキーを挿し入れ、厚めのドアを押し開くと、美久を先に通した。

ごくシンプルなツインルームは、アイボリーとブラウンで統一されていた。部屋の隅にある、ややアジアンテイストの、枝をランダムに組み合わせた間接照明が、部屋全体のアクセントになっている。

背後でドアが閉じる音がして、美久は後ろを振り向いた。鷹島は、戸のすぐ前で立ったままだ。表情は、影になっていて、よく見えない。

もしかして、鷹島は、自分と一緒にいるのを後悔しているのでは、という気持ちが、美久の心に流れた。心配と性的な興奮で、美久の心臓は破裂してしまうのではと思うほど、強く拍動していた。

「本当に……いいのか?」

鷹島が、陰りから、一歩進んだ。顔の半分に、暖かい光が当たり、彫刻のようにくっきりとした陰影をつける。

鷹島は、自分の中に猛る情欲を、頑強な理性でコントロールしていた。どんなに自分が精を吐きたくとも、一方的で性急な行動は、気持ちの温度差を生むと知っている。

美久は、鷹島を見上げながら、着たままのコートを脱ぎ重力に任せて床へ落とした。自分でも、そんな風に誘うような行動をできることが、驚きだった。

美久は、まだ時期的には早い、やや薄手で膝丈のワンピースを着ていた。少し震える脚で、立ちつくしたままの鷹島へ近づき、ゆっくりと、身体を、鷹島に預けた。生地を介してでも、お互いの肉体の感触が伝わってきた。身長差で、美久の頭は、鷹島のみぞおち辺りに位置し、美久の頬から額に、鷹島の弾力ある筋肉があった。

鷹島から、声にならないため息が漏れた。

鷹島は、腕に掛けたコートを滑り落とし、フリーになった手で、美久の頭に触れた。一瞬、壊れ物をうっかり触ったように、手を離したが、改めて美久の髪に触れ、撫でては、一房を指の隙間に優しく絡ませた。

「鷹島さん……」

美久は、髪へ鷹島の指が触れるたび、最高に褒められているような心地良さを覚えた。

「……この段階でいうのも無粋だが……、下の名前で呼んでくれないか? ……苗字だとつい仕事を彷彿してな……」

「あ……。鷹島さん、下の名前、なんでしたっけ……」

美久は、甘えるように、顔を深く鷹島の身体に埋めた。鷹島が触れられて嫌な場所がないか、注意しながら、白く小さな手を、鷹島の身体に添わせる。その立派な体躯と甘い匂い、何より、鷹島の紳士的な力加減に、美久はうっとりと酔った。

「冴樹(さえき)だ。鷹島冴樹」

「……はい、冴樹さん」

美久は熱にうかされたように反復した。

鷹島は、少し屈み、その空間に美久を巻き込むようにして、抱きしめた。

これ以上ないまでに距離を縮め、二人はほぼ同時に目を閉じた。長い間、ずっと探していた相手に巡り合ったような、奇妙な懐かしさがあった。

鷹島は、美久の頭頂部に口づけをした。美久は、甘くて柔らかな感触を受け、小さく声を上げた。その声を耳にして、鷹島の熱が上がってくる。

美久の額、それから目の横、頬から耳元を辿り、首筋へと、鷹島のキスが落とされた。

「んんっ」

鷹島の唇が、耳をかすり、美久は思わず身体を縮こませた。

「ああ……」

フッと鷹島が笑い、片手を伸ばして美久の耳を隠した。

「急に驚かせた。耳が敏感なんだな」

身体のどのパーツが弱いか、初めての交わりでは分からない。たとえ性感帯だとしても、本人が嫌がることを続ければ、時に嫌悪を伴った感覚に変化する。鷹島自身、『されて嫌な経験』があるので、なおさら慎重であった。

「……ん」

美久は、顔を上げて、伸ばされた片腕を伝うように、背伸びをしながら鷹島の首筋に両腕を回した。鷹島は美久の膝の裏へ手を入れ、軽々と抱き上げた。

半回転して美久は一瞬、目を廻したが、自分の足が地に着いていないと知り、改めてその逞しい肩に抱きついた。

美久の絹糸のような艶やかな髪が、ふわっと鷹島の身体にまとわりついた。鷹島は、美しいオーロラのカーテンに包まれたような、ファンタスティックな感覚を持った。美久をベッドへ降ろす時、それが身体の下にならないよう、鷹島は、髪をできるだけ手や腕が当たらない位置へ、慎重に指で梳き流した。

美久は、自分の髪を整え終えて、少し身体を離す鷹島を仰ぎ見た。美久は、腰から両脚を、片側へ畳んでいるものの、無防備にベッドで仰向けになった体勢だ。

鷹島の黒い瞳が、間接照明の光を反射しながら、何かを見定めようとするように、揺れていた。

「……迷ってますか? 冴樹さん」

美久は思い切って聞いた。鷹島はそれを否定するように、ゆっくり瞬きをした。長いまつ毛に縁取られた瞼は、鷹島の瞳に謎めいた色を添えている。

「いや……」

長い指先で美久の前髪を退かし、鷹島は、少し首を傾げながら、美久の顔から身体のラインを、官能的な視線でなぞった。美久は、その貴族然とした仕草に見覚えがあった。料理屋で、美しい文様の入った小鉢を眺めていた、あの姿……。

「大切にしたい時間は早く過ぎる。……だから、時々、記憶に留める時間が欲しい。……だが、その時間さえも惜しいことがある」

「冴樹さん……」

「……変なことを言ったな」

鷹島は、長い身体を伸ばし、美久の左側、顔の上を横断するように手を着いて、自重を支えた。

俯いたことで、緩やかな波を描く鷹島の黒髪が、パラパラと落ち、彼の精悍な顔立ちを隠した。今まで見たことのない鷹島の甘美な顔に、美久の下腹部がゾクゾクと期待に震えた。優有羽との性急なセックスに、悪くも慣れてしまったのかも知れない。美久の身体は、鷹島が早く欲しくて、湿った熱を帯びた。

「……はぁ」

美久は、疼く身体を落ち着かせようと、息を吐いた。

その息を飲み込むように、鷹島が唇を重ねる。最初は、位置をずらして、桃色をした上唇の端を啄む。

「ん……は……」

鷹島の唇に柔らかく喰まれて、美久は声を漏らした。じれったさが、唇の感度を高める。下唇も吸い上げられ、美久は「ん……」と、淡い声を漏らした。

鷹島は、一度顔を離してから、角度をつけて、唇と唇を合わせた。

美久は、キスで感じたことなど、今までなかった。性感帯だという意識さえなく、洋画のような、我を忘れるようなキスなど、夢物語だと思っていた。

だが、鷹島の唇が重なった瞬間、身体中の神経を伝う痺れが走り、頭の中が白くなった。軽く背が反れ、下半身の鼓動が、よりスピードを上げて、美久を急き立てる。

「ん……」

その声は、雄の本能を刺激するように、鼻にかかった甘い響きを含み始める。鷹島はキスを続けながら、美久のワンピースの前ボタンを片手で外した。

鷹島は、スカート下から手を入れ、いきなり繊細な部分を攻めるのは、好きではなかった。特に、まるで処女のような、自分の胸の下にいる娘に対しては。とはいえ、ショートカットをした方が、雄として、色々と楽なのは分かっている。だが、我慢することもまた、交わる上での演出だと思っていた。そして、お互い、最終的な満足も大きい、とも。

「ふぅ……」

美久は、まだ軽く、唇を重ねただけのキスなのに、頭がボーッとした。

鷹島は、上目遣いで、美久の状態を確認する。

(驚くほど、……敏感だな)

美久は、鷹島の名前を呼ぼうと、唇を半開きにした。その時、鷹島が美久の首筋に、甘い口づけをし、反応を見ながら、その白い肌へ、舌を這わせた。

「あっ……ああっ」

開きかけた唇からは違う音が発され、美久は、身体をビクビクと縮めた。

特に弱い耳の部分を攻められたわけではないのに、全身が細かく震えた。鷹島に触れられる全てが、性感帯として、開発されていく。

「さ……冴樹さ……」

感電したかのように、美久の身体が時折、ビクンと弾ける。

このまま、甘い愛撫を続けられたら、自分がどうなってしまうか分からない。さらに、もはや下着を越えて、ワンピースの裏地を濡らすほどの蜜壺に、鷹島を受け入れたら、何が起こるのか、美久には想像もつかない。

「ここまでは……初めて……?」

鷹島が、美久の肌触りを、唇で堪能しながら言った。

「……?」

「こんな風に、なるのは、初めて……?」

美久は、上気し耳まで赤くなった顔で、小さく頷いた。

「じゃぁ、……僕が、美久の、初めての男だな……。嬉しいよ」

低くて甘い声が、美久の胸の辺りに響く。

美久は、その言葉に、身体だけではなく、心までも持っていかれた。

へその辺りまでボタンが付いたワンピースは、すでに半分、開かれている。

「……下着……、外していいか?」

美久は、その言葉に、細かく頷いた。むしろ、すでに、美久の肌は、鷹島の肌と直接、触れ合うことを欲して止まない。美久の本能が、早く、と、鷹島をせがみ、泣きそうな表情をつくる。

鷹島は、一度、身体の位置を戻し、美久に再度、キスをした。今度は、美久の可憐な唇を割る。美久は、鷹島に誘われるままに、自分の舌を、積極的に絡めた。

鷹島の滑らかな舌と触れ合った時、美久の脳内で、白い爆発が起きた。そして、無意識に身体をよじり、鷹島の首へ、細い両腕を伸ばして引き寄せる。

「ふ……ぅ……ん」

鷹島はベッドから美久の背が浮いた瞬間に手を回し、ワンピースの上からブラジャーのホックを、難なく外した。そして、キスを続けながら、美久の片腕を、優しく首から解き、袖を抜いた。そして、もう片側も同じようにする。

美久が深い接吻に夢中になっている間、上半身は、留め金が外れた下着だけの姿となっていた。

「可愛い肩だ」

鷹島は、外気に触れ泡立つ肌を宥(なだ)めるように、唇を寄せて、温めた。

「ん……」

美久は、劣情に染まった瞳を上げて、鷹島の胸へ手を伸ばした。すでに緩んでいるネクタイを不器用に解き、慣れない手つきで、鷹島のシャツのボタンを外した。

初々しい行為に、鷹島は、クスリと笑った。

「……ありがとう」

鷹島は、結び目が解かれたものの、未だに襟にぶら下がったままのネクタイを引き抜き、ベッドの下へ投げた。ストライプのシャツも同じようにし、下に着ていたダークグレーのタンクトップも脱ぐ。

美久の目の前に、引き締まった鷹島の上半身が露わになった。胸筋はほどよい膨らみを保ち、腹筋はくっきりと割れ、まだズボンで覆い隠された鼠蹊部(そけいぶ)へと繋がる筋肉と骨のラインが、淫靡な魅力を発している。

美久は、鷹島の裸に見惚れた。そして、これから、自分が鷹島を受け入れると考え、期待に身震いを覚えた。

「寒いか?」

鷹島は、ふと天井にあるエアコンの吹き出し口に目をやった。その無防備な首筋に、美久は、また違う種類の欲情を覚えた。

「いえ……」

美久は、鷹島に与えられた一連の快楽に、めまいを覚えながら、上半身を起こし、ブラジャーを外した。

西洋絵画のような、小ぶりで白く、パウダリックな質感の膨らみと、淡いピンク色の乳首が惜しげもなく晒され、鷹島は思わず息を呑んだ。

美久は、理性の残渣(ざんさ)で、恥ずかしさを覚えながらも、それ以上に鷹島が欲しかった。だが、力で手に入れられる人ではない。本能が、美久を突き動かし、鷹島を誘い煽ろうとする。

しかし、実際、具体的に、鷹島にどう働きかけ自分の身体へ導くのか、分かる美久ではない。

「白城君……、すごく、綺麗だ……」

鷹島は、絞り出すように言って、美久の首筋に甘くキスをした。そして、美久の背中を支えながら、彼女を横たえた。

鷹島は、胸の間に口づけをし、少女のような膨らみを、これ以上なく繊細に撫でた。女の胸はギュッと揉まれると痛いものだと、鷹島は知っていた。だが男は、興奮に任せて、ついそれをしてしまう。さすがに鷹島は十代や二十代の若者ではなかったし、しかも、美久の胸は柔らかいが、どこか処女的な硬さがあり、力を込めたら壊れてしまいそうだった。

「美久……です。美久……」

「……ああ、そうだな。……美久」

「……ん」

美久は、『ナカ』の欲求を抑えきれず、腰を淫猥に蠢かせ、鷹島の身体へ脚を絡めようと、膝を上げたり、諦めて下ろしたりを繰り返した。

鷹島は、美久をもっと興奮させたかった。自分以外では、今後、一切、満足できないような身体に……。珍しく、彼の中で、独占欲が首をもたげた。

鷹島は、まだ熟れきっていない乳房を優しく舐め上げた。パウダーシュガーが掛かったように白く、ヴェルヴェットのようにきめが細かい。

「あ……ふぅっ」

美久の小さい両乳首が、硬く勃起し、快感への期待で痺れを帯びた。鷹島は、尖りの先端を舌で刺激し、一方の実を、指の腹で擦った。

「あっ……!」

美久の腰が跳ね、かなり下の方へ落ちかけているワンピースがさらにずれた。鷹島は、美久の不意な動きでワンピースが破れる可能性を考慮し、それを、美久の足先の向こうへ追いやった。美久はショーツ一枚の状態となったが、鷹島はあえて下半身から視線を外した。代わりに美久の乳頭を、唇で喰み、甘味のように吸い舐めあげる。

「あっ!」

美久の胸から下半身へと、快楽が落雷のように轟き、彼女は快感に喘いだ。

快感から逃げるように、胸を引いた美久を逃さず、鷹島は、歯の先端で、薄桃の実を、ごく軽く噛んだ。

「あっ、ああっ……!」

再度、美久の脳内が白くフラッシュした。美久の愛蜜が、収縮と共に、どっとあふれ、子宮が呼吸するかのように、腹部が上下する。

「んん……」

美久は、『達する』という経験をしたことがなかったので、そのホワイトアウトの正体が、まだ分かっていなかった。

美久のショーツは、誤魔化しようがないほど濡れていた。まだ、本番行為に至っていないのに、これほどまで濡れているのは、美久にとって、初めての経験だった。

美久が淡い意識のもと、快楽に浸っている間、鷹島は身体を上げ、ベルトを外し、ズボンと下着を脱いだ。

「冴樹さ……」

美久は、より輝きを増す瞳で、鷹島の肢体をうっとりと見た。胸や肩幅に比べて細い腰、筋肉質な太ももとふくらはぎには動くたび筋が浮かび、足首はきゅっと締まっている。そして……鷹島の前の昂りは、今まで美久が見たことがないサイズのものであった。

(冴樹さん、……大きい……)

美久は、情炎に促され、無遠慮にそれを見た。鷹島は、美久の視線が注がれていても、照れる様子はなく、むしろ美久の脚の間に、身体を寄せた。

「美久……素直な反応だ……。もっと気持ち良くさせたい……。今まで、知らなかった分」

「……はい」

正直に返事をするのはあさましかったが、もう、欲求をふさぐことはできなかった。

ショーツは取り返しがつかないほど、ドロドロに濡れ、鷹島の綺麗な指が、それを脱がす間、甘ったるい糸を引いた。

「すごく……、濡れてるな……。何度か、イッたか」

「イった……?」

ショーツも床に落とされ、二人は一糸纏わぬ姿となった。

鷹島が、美久の足首を持って、内太ももにキスをし、その部分を軽く吸う。

「ひぁっ!」

下半身といわず、全身が性感帯と化した美久は、その甘さに身じろいだ。コプコプと、泉が湧くように、愛液が流れ出る。

「どこもかしこも、愛らしい……」

鷹島は、美久の湿った場所へ美しい手を伸ばし、薄い体毛を分けた。

すでに濡れそぼつ紅桃色の花弁を開き、敏感な種を見つける。鷹島は果実を齧(かじ)るように、一帯を口へ含んだ。

「ああっ……‼︎」

美久の尻がビクンと弾けそうになる。だが、その動きは、腰骨をホールドした片手で封じられた。鷹島は、花びらから陰核を見つけ出し、舌先で転がした。

「あっ……、冴樹……さんっ、だ……ぁ……め、そこ……なんか……」

美久の恥丘が、腫れているように、ジンジンとした。あまりに淫欲が昂り過ぎていて、痛みのような感覚も伴っている。

「力、強すぎる? 痛い?」

「痛……く、ない……。でも……」

「ここも、初めてか……」

そう言って、鷹島は未踏の地にある宝物を発見したような、笑みをつくった。

「……なんてことだ」

鷹島は先ほどより少し弱く、舌先を使いながら、軽くその焦点を吸った。

「ひぁっ……」

美久は、顔を横にして、腕に引っかかった枕を握りしめる。下半身は鷹島に固定されているから、逃げられようがない。

「うぅ……っ、あぁ……っ」

鷹島が、陰核を繊細に吸うたび、美久はツンとした鋭い痺れを感じた。最初は、痛みに似た感覚だったが、鷹島に慣らされていくうちに、膣がキュンと窄まり、ジワリとした愉楽を得る。

自分の身体に、このような感覚があるとは、想像もしてなかった。

美久の双丘から、どちらのものともつかない、透明な液体が、ベッドに伝い落ちる。

美久は、身体の奥底から、得体も知れない悦楽が昇ってくるのを知った。

「あ……ひぁ……なんか、冴樹さ……なんか、おかしく……なる……っ」

これ以上、進むことに見知らぬ恐怖を感じて、美久は手を伸ばし、鷹島の逞しい両肩を押した。本気で嫌だという訳ではない、これから初めて得る感覚が何なのか怖いのだ。

「……美久、大丈夫、もっと、リラックスして……。息、ゆっくり吐いて」

鷹島は、美久の両脚に過剰な力が入っているのを感じ、一度、口を離した。これでは、達した時に、脚が攣(つ)ってしまう。

美久は、素直に、鷹島の言うことに従い、深呼吸をした。いつの間にか、身体が汗ばんで、暑い。シーツが、身体の形に、体液でベットリ濡れているのを感じた。

「僕に委ねて……いいね? 初めての感覚かも知れないが……怖いことはない」

美久は頷いた。鷹島は、美久の両太ももの緊張を解くように、少し撫でた。筋肉が少し緩んだのを感じ取って、鷹島は、はっきりと屹立している美久の陰核を、甘く吸い、軽く前歯を立てた。

「あっ……あぁっ!」

美久は、小休憩を挟んでの興で、いきなり頂点へ達した。

「…………んくぅ……っ」

身体の底に溜まっていた享楽が、陰核への刺激により、一気に噴き出した。緩やかな痙攣が、膣を収縮させ、何がどうなってもいいような、快感が下腹部を中心にして広がる。ベッドから腰が反り、美久の脳内で、鷹島の美しい顔や、気怠いような官能的な目線、それにそぐわないような生々しい陰茎がチラついた。自分がこんなにも強い性欲を持っていると、美久は驚きもしていた。だが、普段なら恥ずかしいと感じるのに、今はそれを全力で肯定するほど、思考まで快楽に支配されていた。

「……は……っ」

淫蕩な波が弱まり、美久は大きな呼吸を繰り返した。

鷹島は、美久がイッている姿を余すことなく眺めて満足し、その頬にキスをした。

美久が陰核で達するのは初めてで、ただただその快感の強さに驚愕し、今までのセックスは相手が満足するだけのものだったと、鷹島によって言外に知らされた。

美久は、言葉が見つからず、度重なる悦楽に赤くなった目を潤ませ、鷹島を見上げた。美久の唇や乳首、あらゆる部分が紅潮し、鷹島を誘った。

長いこと、少なくとも鷹島が若い頃だったら耐えられなかった時間、待たされている陰茎は、粘稠(ねんちゅう)性(せい)のある液を滴らせている。

鷹島は、美久が何度か意識を飛ばしている間に、手元へ移動させておいたコンドームの包装を、歯でちぎった。彼は、日本人向けの標準的なコンドームのサイズが合わない為、自分が使用できるものを、男のたしなみとして持ち歩いている。

鷹島は、若い頃、『女が嫉妬するほどの美人』と称され、その手の顔立ちを好む女から、引く手あまただった。望みもしない女との関係を、若い性欲を利用され、半ば強引に持たされることもあった。

それが、鷹島が今、色恋に失望しか感じない理由のまた一つだ。そして、自分が『雄』である、という怖さもまた、鷹島の心に一種の傷として彫り込まれている。だから、全く使う予定が無くとも、コンドームの一つを持ち歩くのは、逆に鷹島にとって、いうなれば厄除御守、のようなものであった。

美久は、鷹島が、自らコンドームを着けるのを、欲情の昂りの中で見ていた。美久でも、ゴムなしでした方が、お互い気持ち良いと知っていた。しかし、当然の如く、コンドームを着けようとする鷹島は、美久の身体を考えてだと、素直に嬉しかった。

若い優有羽がゴム無しでセックスを望むのは、嫌だったが、その後の悦楽で押し切られた。優有羽は、美久を妊娠させたいのでは無く、快楽を得たいだけだと分かっていたから、余計に抵抗があった。

しかし、今。

美久は、鷹島に、それを着けてほしくない、という気持ちが芽生えていた。自分と鷹島の間に、無機物を介在させたくなかった。

「鷹島さん……。その……それ……」

一方の鷹島は、久々のゴムの感触に、過去の嫌な出来事が思い出され、気が逸れていた。美久に声をかけられて、トラウマにも似たその気分から、水面へ引き上げられる。

「ん……?」

「あの……冴樹さんが……望んでることだったらいいんですけど……。その……わ、私は……」

「……」

「鷹島さんを……中で……ちゃんと感じたくて……。でも……だめ、ですよね。良くない……ですよね」

言って、美久は恥ずかしくなった。

鷹島は、なぜか、美久の言葉に、救われたような気分になった。鷹島の中で、自分の下半身を、『完璧に』コントロールしようとするのは、自分が自分に掛けた呪いでもあった。今夜だけでも、美久の前では、自分を縛りつけているいくつかの事柄から、自由になっていた。しかし、いざ、ことに至る直前で、突然、鷹島自身の過去が、美久を遠ざけようとしていた。

「……良いのか悪いのかは……分からないが……」

鷹島は、陰茎がゴムの感触を嫌がり、萎え始めるのを感じた。『雄』はわがままだ、と、鷹島は苦笑した。心の決めた通りには動いてくれない。

「君は本当に良いのか……? ……無しで……」

「はい……」

鷹島の体感として今日は一段と、ゴムがキツく感じられていた。年齢を重ねてサイズアップというわけではない。美久が相手だから、鷹島の陰茎は、以前よりも硬く充血し、膨らみも増している。美久とのセックスに、鷹島の本能も、ゴムを望んではいなかった。

「……外していいか……。実を言うと、今日はちょっとキツい……」

鷹島はゴムの端を持って、陰茎からそれを引き剥がした。少し乱暴に外したのは、感触への拒絶と、あえて破って、やはり着けようという気にならない為でもあった。

圧迫から解き放たれて、鷹島の陰茎に芯が戻ってきた。

「冴樹さん……」

「美久……」

鷹島は、美久の上に覆いかぶさり、鼻と鼻を合わせ、少し子供っぽいキスをした。

「少し、指を挿れて慣らすな……」

「……ん」

鷹島は美久の陰部に手を伸ばし、谷奥にある蜜窟を探した。ヌルヌルとした愛液を辿ると、その入り口はすぐ判明した。美久の首筋にキスをしながら、人差し指を、蜜窟の奥へと進める。

「あ……あ……」

美久が、鼻にかかった甘い声を上げる。

濡れ潤った膣壁の甘美な感触に、鷹島の陰茎が、痛みを感じるほどに張り、震えた。だがその我慢も、鷹島にとって、悪くなかった。自分をじらせばじらすほど、爆発的な快感が得られる。

鷹島は、人差し指を、美久の中で上下に動かした。愛液がまとわりつき、淫靡な水音が立つ。

「あぁ……」

美久は、眉根を寄せて、鷹島の背中へ腕を回した。陰核を攻められるより、慣れた快感である。指一本でも、腰が波打つほど、気持ちがよかった。

鷹島は、美久の蜜窟が吸いつくように柔らかいのを知り、中指も追って挿し入れた。

「ひあぁっ……」

美久の声のトーンが高くなり、少しかすれた。

鷹島は、二本の指で、膣壁の間に十分な余裕をつくり、指先まで何度か出しては、入り口を少しずつ拡げた。挿入時に、美久が痛みを感じないよう、調整をすると同時に、美久の内壁を爪で傷つけないように掻き、美久の情炎に油を注ぐ。指先が蜜にまみれる感覚もまた、鷹島を昂らせた。

「挿れる……な。痛かったら、言ってくれ」

鷹島が指を抜くと、ドロリと愛蜜の塊も同時に流れ落ちた。鷹島はそれを、陰茎の先端を中心に塗りつけ、できるだけ抵抗がないよう準備をした。

「はい……。挿れて……ください。冴樹さんが、欲しい……」

美久の心身は、挿入の期待に小さく震えた。

鷹島は、美久の小さな尻を少し引き寄せて、挿入のために、反り上がる陰茎を押さえつけた。亀頭をゆっくりと近づけて、紅潮した蜜口を押し開く。

「あ……あぁ……」

美久が、長い吐息を漏らした。鷹島に開かれた、両脚がカタカタと震えていた。

鷹島は、挿入位置をキープしながら、美久の上へ身体を戻した。美久は、鷹島の顔が側に来ると、両腕でその首を抱いた。身長差によって、二人の身体は離れがちになった。

美久の行動を見て、鷹島は、彼女を膝の上に抱き上げる体位が、もっと密着できるかと、一瞬、考えを巡らせたが、諸般の事情で却下した。美久は鷹島が今まで交わった中でも一番、体格が小柄だ。自分の陰茎が、美久の身体に負荷をかけないか、という心配が、頭の片隅にあった。

鷹島は、亀頭の半分辺りで、一度、抜き、様子を見ながら再度、同じ位置まで挿し入れた。亀頭の傘の部分が、一番大きく美久を開く。鷹島は、裂傷を負わせるのを恐れた。

「大丈夫か?」

「大丈夫です……。もっと……大丈夫……」

いつもはほとんど前戯も慣らしも無く挿入されている身は、多少の傷も痛みとは感じなかった。むしろ、美久は、その向こうにある快楽を早く享受したかった。

せがむように腰を波立たせた美久に、鷹島はもう少し奥まで、亀頭を美久の中へ挿れた。孔の周囲の皮が張るのを感じた鷹島は、今一度、外へ抜く。その行為を数回繰り返し、泉のように湧く蜜をできるだけ絡ませ、鷹島は、美久との親和性を高める。

「……っ」

美久が、先端部分を全て飲み込んだ。鷹島は、傘の下にある敏感な部分に美久の甘い肉を感じ、一瞬、目を瞑った。

美久は、情炎にこがされつつも、鷹島が、気を遣って挿入しているのが分かったので、できる限り力を抜き、鷹島が与える悦楽を待った。

「冴樹さ……ん。苦しい……?」

「いや……」

鷹島のこめかみから、汗が一筋、滴った。湿気で束になった前髪が、情欲に染まりつつある鷹島の顔を、蠱惑的に魅せる。

「もう……動いても良さそうだ……」

鷹島は、腰を少し進めた。

「あっ……!」

陰茎と膣壁が擦れ、美久は、圧倒的な悦楽に、身悶えする。

「美久……すごく……吸いついて……」

鷹島は先端に子宮口を感じ、陰茎を亀頭付近まで引き出した。

「……っ」

「あぁ……ん」

蜜で潤った膣壁は、ハッキリと鱗の凹凸を持って雄を慰め、陰茎を引くにも押すにも、名残惜しそうに吸いついてくる。鷹島は、たとえ根元まで挿入できていなくとも、先端の快感だけで、充分、射精に導かれそうだった。

美久は、鷹島の陰茎が、自分のどこまで入っているか分からなかったが、そのサイズから生じる摩擦抵抗の愉楽に、身を委ね呆けた。

「もっと……欲しい、です……あぁ……」

鷹島は、美久の煽りに刺激され、遠慮というタガを外し、雄として腰を動かし始める。

途端に、美久は、身体をうねらせ、熱っぽい声を上げた。

「ああん……っ!」

根元まで挿入しないよう注意しつつ、鷹島は目を細め、挿入の悦楽に集中した。

「っ……は……。すご……い……な」

鷹島は、シャフトのスピードを上げて荒くなる息の下、思わずそう呟いた。

細くて小さなその身体に、自分の太い陰茎が収まっているのも、雄として嗜虐的な眼福であった。そして交わった窪みから動きと共にあふれ出る愛液も、視覚から鷹島を昂らせた。

「あ……ぁ……っ! あぅ……んっ!ふ……ぅっ」

 

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