【第五話】
著者:百門一新 イラスト:森原八鹿
使用人を統括している彼は、王城で指令長と呼ばれている。
建物の中をあまり知らないオフィーリアが場所を尋ねると、誰もが尊敬を込めてコルネイユのことを「指令長」と口にした。
普段から頼りにされているお方なのだろう。
急な訪問でも大丈夫だと励まされたが、お忙しくされているタイミングだったら……と考えてオフィーリアは強く緊張していた。
だが、訪ねてみるとあっさりと入室を許可された。
「構いませんよ。普段からひっきりなしに人で出入りしていて忙しいですし、手は埋まっていても口は空いていますから」
コルネイユは、目立った白髪をぴしりとセットした長身細身の男性だった。
椅子もない作業台は書類で埋まっていた。どうせ何度も立ち上がるのなら座るのは非効率、という彼のてきぱきとした物言いにぽかんとする。
でもオフィーリアは、嫌味っぽさもなくてとても好感を覚えた。
「獣人族の発情期、ですか」
尋ねてすぐ、コルネイユが整理していた書類の手を止めて思案する。
「一般的な〝ただの発情〟であれば、二週間ほどで落ち着きます。発情できる年頃から、皆さんは薬などで発症を自己管理されますから安心してください」
期間について質問しただけなのだが、発情期について解説が返ってきた。
王城で働くことに不安を覚えたのでは、と勘繰られたのだろうか?
国民の三割は獣人族の血が流れているが、王族以外は見た目で分からない。獅子王がいる王城は、獣人族の血族が多いとは聞く。
そこでオフィーリアは、ふと自分の状況から疑念を抱いた。
てきぱき仕事をするコルネイユが、わざわざ『安心』を説いてきた。
もしかしたら城勤めの女性が、獣人族の発情期に巻き込まれた事例も、少なからずあるのではないだろうか……?
実際、オフィーリアはヴィクトルの発情期に居合わせて交わってしまった。
彼は発情状態だと「私の番」と熱に浮かされたように呼び、欲情が収まるまで子作りに意識が向く。そして毎日通って飽きずに抱いた。
発情期間中に子作りをした相手と、繰り返す習性があったりするのだろうか……?
そこについても知りたく思った。
けれど思いついた途端、無理だわと思って落ち込んだ。
質問するとなると、自分の体験を話すことになるかもしれない。そう想像したら男性のコルネイユに尋ねられなかった。
そう諦めた時、不意に先程の彼の言葉が蘇った。
『一般的な〝ただの発情〟であれば、二週間ほどで落ち着きます』
――ただの?
今になって疑問に気付く。その言葉には、他にも発情期にはパータンがあるという意味が含まれているようにも感じる。
「他にも何か?」
じっとしているオフィーリアを見て、コルネイユが几帳面そうに眉を寄せる。
「あっ、いえ」
忙しい彼の手を止めてはいけない。
彼女は慌てて頭を下げると、礼を告げてその場をあとにした。
◇◇◇
獣人族の発情期の長さは、二週間。
コルネイユから聞いた話から推測するに、薬を飲んで自己管理しなければならないくらいに子作りへの衝動は強いのかもしれない。
つまりは発情期のせいなのだ。
オフィーリアは思う。
――そうでなければ、こんなにも求められるなんて、ないはずだから。
「ああっ、あ、あんっ、そこは……ぁあっ」
雑草のゴミを置く倉庫の入り口で、オフィーリアはスカートをまくし上げられ、ヴィクトルに秘部を味わわれてあられもなく喘いでいた。
唐突に現われたかと思ったら、ゴミ袋を置く暇もなく押し倒された。
ほとんど外に体が出ている状態なのに、待ちきれない様子であっという間に秘められた場所をあばかれてしまったのだ。
一週間と二日、彼はオフィーリアのいいところも全て分かっていた。
「だめだめっ、一緒にこりこりしちゃっ、あっ、ああ陛下ぁ……!」
秘部の上の一番感じるところを、指でぐりぐりとされ強い快感が起こる。舌と指で犯されているオフィーリアの花園は、何度も軽く達してしとどに蜜が溢れていた。
ヴィクトルは、まるで獣のようにその蜜を舐め回した。
感じ入っているのか、獣の耳はオフィーリアの全てに耳を済ませるようにぴんと立ち、尻尾は丸まっていた。
「極上の甘露のようだ。こんなにも溢れて」
両手で蜜口を開かれて、オフィーリアは背を甘く震わせた。
伸びたヴィクトルの舌が、浅い部分を突きながら舐め回していく。カッと中が更に熱を持ち、膣壁をうねらせた。
「あ、あぁ、だめぇ、そんなに舐めちゃ――」
と、不意にオフィーリアは体をのけぞらせた。
「あぁぁっ!」
じゅるじゅるとヴィクトルが蜜を味わったのだ。
あまりにも強い甘い痺れが、一気に体中を走り抜けて頭の中が真っ白になる。びくんっと腰が浮いて、もうイッているのかどうかも分からない。
以前よりも、ずっと気持ちいい。
数を重ねるだけ、体が快楽を覚えていくみたいに――。
「またイッたのか。よがる君は愛らしい」
解放されたオフィーリアの耳に、カチャカチャと音が聞こえた。
目を向けてみると、ズボンの前をくつろげているヴィクトルの姿があった。そこから、腹につきそうなくらいにそそり勃つ剛直が現われる。
オフィーリアを見下ろす彼は、ふーふーと獣のような息をもらしていた。
「もう姿を見た時から、一つになりたくてたまらなかった」
見据える目に熱を孕んでいた。その瞳を見た途端、オフィーリアは心を奪われて瞬きも忘れていた。
その目を、とても凛々しいと思った。ひと目見れば、もうそらせない魅力がある。
胸の鼓動が速まった。
獣人族の発情期とは、こんなにも情熱的なものだろうか? まるで、恋でもされているみたいな……と思った時だった。
「あっ」
濡れた蜜口に剛直をあてられて、オフィーリアはぴくんっと反応した。
少し前は、怖いとさえ思っていたのに結合部を見るのもいとわなくなった。自分の秘部が、期待に蜜を溢れさせてしまうのを見る。
――この人が、もし自分に恋をしてくれていたのなら。
一瞬、そんな思いが頭を過ぎった。情熱的なその目が本物だったのなら、と、望んでしまいそうになって気付く。
本当に嫌だったら、オフィーリアは何度も抱かれていないだろう。
「オフィーリア」
ヴィクトルが、甘く名前を呼んだ。
その声だけでオフィーリアの胸は、甘く疼く。
「陛下……」
冷酷な王、と呼ばれている人。けれど、オフィーリアは彼ほど優しく情愛に溢れた目をした人を、他に知らなかった。
のしかかり、体勢を整える彼に自然と足を開いて腰も浮いた。
「は、ぁ……っ、あっ……んんー!」
抱き締められながら、剛直がぬぷりと中へ挿れられた。
ヴィクトルがすぐに腰を振り出した。打ちつけられる勢いで体が揺れて、オフィーリアは彼の下で喘ぐ。
「あぁ……んっ……あ……っ、あぁ」
首を舐められ、せわしなく口付けを落とされ、感度はどんどん上がっていく。
愛撫をされながら乳房をまさぐられる。服に手を忍ばせ、直に握られ揉まれるとじんっと繋がっている場所も痺れた。
ヴィクトルは興奮しているのか、腰を乱して膣奥を突き上げ続ける。
「あっあっ、んっ、はぁっ、へい、か、激し」
鼻にかかった声を抑えられない。
建物の裏とはいえ、上の階の通路を使用人が通るとも分からないのに……。
余裕もなく剛直で奥を打たれ、オフィーリアは気にしながらたまらず喘いだ。二人がどんどん高みに昇っていくのを感じていた。
「とてもいいよオフィーリア。何もかもが、可愛い」
囁かれた睦言に、きゅんっと下腹部が震えた。
発情期だからなのだろうか? こんなにも乱れている様子を、可愛いだなんて……。
「そ、そんなことは、あっ、ン、ない、です」
「君の全てが、私のここに血を集めるんだ」
言いながら、教えるように熱棒で強く膣奥を刺激された。
「んんっ」
片方の太腿を引き上げられ、唇を奪われた。出しては入れてを繰り返すペニスが、違う角度から膣壁を擦りつけて子宮がきゅきゅっと締まる。
ガツガツと奥を突き上げられ、淫らな水音が増す。
下腹部からぐぐうっと快感が迫ってくる。それと同時に、オフィーリアは彼自身も中で大きくなるのを感じた。
彼も気持ちがいいのだ。夢中で腰を振ってしまうくらいに。
――それはオフィーリアも同じだった。
「っはあ、へ、いか」
唇を離されたオフィーリアは、腰を引き寄せた彼を見た。互いの終わりが近い。そろそろヴィクトルが、欲望を放とうとしているのだろうと分かった。
案の定、律動が凶暴なくらい激しさを増した。
快感が体の芯から全身まで、一気に広がって何もかも蕩けそうになった。
気持ちがいい。何も考えられなくなる。誰かに聞こえてしまうだとか、見られてしまうだとかもう頭にはなかった。
「あっあっ、陛下、陛下ぁっ」
オフィーリアは彼の背に腕を回して甘い悲鳴を響かせた。
一時の発情期だとしても、夢を見るように今は彼だけを思って抱かれていたい。
「またイきそうなのか、オフィーリア。私もだ」
ヴィクトルが目を潤ませ、オフィーリアの汗ばんだ顔に数回口付けを落とした。肩と腰を抱き寄せると、獣の呼吸で腰を振る。
熱の上がった吐息と、腰同士がぶつかる淫らな水音がしていた。
質量を増した剛直が、膣奥にあたるのが気持ちいい。
「いい、あっ、あんっ、奥に、あたって」
「私も君を感じてる。もっと奥に子種を注いでやろう」
ぐりぐりと腰を整えられて、更に奥までペニスを押し込まれた。
甘美な快感が強く起こって、オフィーリアはぞくんっと背をのけぞらせた。一瞬、衝撃で息が詰まった。
「あっ! そ、んな奥に……!」
「私の子を宿してくれ」
ヴィクトルが熱く囁き、オフィーリアの奥へ衝動のまま猛りを打つ。
もう周りになんて意識を向けられない。
「ああっ、あっ、あ、あぁイく、あっんんん!」
二人の呼吸が一つになると、快楽が弾けるのはあっという間だった。
きゅぅっと子宮の奥が強く震えた直後、最奥に熱い飛沫を注がれて、オフィーリアはヴィクトルと同時に絶頂を迎えた。
「はぁっ――君と一つになる喜びで、こんなにも気持ちいい」
再び短く射精したヴィクトルが、ぶるりと腰を震わせる。
中に入った猛りがぴくんっとはね、その熱でオフィーリアはまた小さく達してしまった。
「オフィーリア」
乱れた呼吸ごと、唇を奪われた。
「んっ……ン……ふ、んぅ」
優しい口付けに、強張っていた最後の心の壁も脆く崩れてしまった。中に注がれる熱と、舌を絡める穏やかで官能的なキスにとてつもなく幸福を覚えた。
この人が、好き。
自覚すると同時に、オフィーリアはつらく苦しくなった。この口付けも全て、発情期のせいなのに……、期待してしまう想いが胸を締めつける。
ヴィクトルが、再び腰を動かした。
「んんっ――は、あっ」
たまらず口を離してオフィーリアは喘いだ。またすぐに官能の火が灯り、下腹部に快感の波が押し寄せてきた。
気持ちよすぎて怖くなる。咄嗟に彼の服を掴んで見つめると、ヴィクトルはずっとこちらを見ていた。余裕なく求める美しい男の顔がそこにはあった。
「オフィーリア」
甘い声。まるで、本当に愛されているかのような……。
オフィーリアは胸の痛みから目をそらすように、快楽に身を任せて突き上げてくる彼自身を受け入れた。
今だけは、幸せを感じていたい。
興奮を煽られたかのように、ヴィクトルがオフィーリアの白い肌に口付けた。体をまさぐりながら、唇と舌で忙しなく愛撫していく。
「あんっ」
首に軽く歯を立てられ、オフィーリアは中にある彼をきゅんっと締めつけてしまった。
彼に注がれた精が、自分の愛液と混ざり合ってしたたるを感じた。剛直が出入りするたびにじゅぷりと音を立てていて、恥じらいに体がかぁっと熱くなる。
「ずっと、こうしていたい」
「そ、そんなのは、無理、です」
ずっとこんなことをされていたら、本当におかしくなってしまう。
繋がった場所だけでなく、体の全部が熱い。またしても高みへ押し上げられていくのを感じたオフィーリアは、ヴィクトルに乱されるまま肌までも感じ合った。
◇◇◇
――交わって感じる二人の足が、次の絶頂へ向けて動く。
その様子が見える二階通路で、ようやく理解に追いついたかのように、足早に一つの人影が離れた。
「陛下を目撃したという噂を確認してみれば、これですか……っ」
親指の爪を噛み、恐ろしい形相でツカツカと歩いていくのは、第三侍女長アドリーヌだ。
誰にも知られてはいけない。念のため、先に人払いをしていて正解だった。
まずは、噂は根拠のないものであるとして揉み消そう。そして陛下がここへ通う時間をどうにかなくすために周りに働きかけて、その間にあの娘を排除しなければ――。
その時、通路を曲がってきた兵達の肩を、アドリーヌの体が弾いた。
「うわっ」
勢いよくぶつかられた兵がよろけた。
彼女がこんなところを歩いているなんて、予想にもしていなかったことだ。驚く彼らを、アドリーヌは厳しく睨みつける。
「わたくしの肩にぶつかるとは、何事ですか。陛下の城の兵ともあろうものが、緊張感がなさすぎるのではないですか? 気を付けなさい」
まくしたてるように刺々しく言った。
ぶつかられたのは、兵の方だ。しかし兵達は、あまりの恐ろしい形相に言葉を飲み込んで謝罪を述べた。
「前もろくに確認できないのなら、別通路から行きなさい」
「は、はい。承知致しました」
言うだけ言ったアドリーヌが去っていくのを、兵達は怖々と見送った。
「こえーな……何かあったのか?」
「さぁな。どうせまた、娘達を陛下にはべらせるのに失敗したんだろ」
「高名なシャルルロット伯爵家の夫人なのは分かるけどさ。家来みたいに俺らにも平気で命令してくるところ、夫のエドゥアール様も強く言ってほしいよな……」
「無理だろ。伯爵家を動かしているのは実質あの人で、頭が上がらないんだよ」
怖いなぁと話しながら、彼らは渋々来た道を半ば戻る形で別通路を進んだ。