幸福の子爵令嬢【第一話配信】

【第一話】

幸福の子爵令嬢~学園アイドルにガチ恋してたら結ばれちゃいましたっ!~

 

著者:茅原ゆみ イラスト:森原八鹿

 

序章

 

アドラスヘルムニア王国には、国内外に名の知られた名門校、ツェツィーリア学園がある。

そこには国の名誉遺産にも登録されている、広くて立派な図書室があり、その奥のさらに奥。一部の生徒しか知らない、鍵の壊れた資料室があった。

「……いけませんわ……レオンハルト様」

秘めやかな男女の声が聞こえてきて、釦(ぼたん)の外されたブラウスから零れそうな豊かな胸を掴んだ青年の手に、少女は白い手をそっと添えた。

「そんなことを言って。お前も俺に抱かれるのを待っていたのではないか?」

可愛い下着を身に着けて……と口にしながら、きら星の如く輝くオーラを放ち、美しい容姿をしたレオンハルト・ヴェルター・フォン・アドラスヘルムは、口角を上げて妖艶に微笑んだ。

「ち、違いますわ!」

目と目が合い、本心を見抜かれて、今日の下着は少し派手だったか!? とクリスティーナ・プライセルは頬を真っ赤に染めた。そして今乗せられている、古くて頑丈な書斎机から降りようと、レオンハルトの胸を押しやった。

しかしレオンハルトの鍛えられた身体はびくともしない。

彼は華奢に見えるが、日々の鍛錬を怠らないので、意外と筋肉がついているのだ。

しかも彼の身体が脚の間に挟まっているので、チュチュで膨らませた制服のスカートが、腿まで捲れてしまっているクリスティーナは、どんなにもがいてもレオンハルトから逃れることができなかった。

その様を、レオンハルトは小鳥でも弄ぶように眺めている。

「まだ補習授業まで時間があるのだろう? だったらそんなに焦る必要はなかろうに」

「レオンハルト様は? 大学部のご講義はよろしいんですか?」

「俺を誰だと思っている? あの『ツェツィーリアⅤ』のメンバーだぞ? そんな失態を犯すものか。すべて計算通りだ。この後の講義は先ほど休講になった」

「本当ですか? 何か特別な力を使ったとか……?」

クリスティーナが空色の瞳をまあるくすると、レオンハルトはサファイアのような濃紺色の瞳を眇(すが)めた。

「なんだ? まるで俺が『王子』だということを笠に着て、授業を休講させたとでも言いたげだな」

「そ、そんなことは……」

クリスティーナが口元を手で隠しながら笑うと、両手首を突然掴まれ、壁に縫い留められた。

「だから! 可愛い口元を隠すなと言っているだろう?」

鼻先が付きそうな距離で拗ねたように叱られて、クリスティーナの笑みも引き攣った。

「も、申し訳ありません。長年の癖で……」

「……仕方もないか。その原因を作ったのも……」

「なんですか? よく聞こえない」

「なんでもない。それより口元を隠すごとに罰を一つ与える約束だったな」

「うっ!」

開き直った笑みで再び口角を上げたレオンハルトは、さらに身体を密着させてきた。

そしてクリスティーナのショーツの紐に指を絡ませると、魔法のようにするりと解いてしまう。

クリスティーナは先月まで、こんなレースがたくさんついた……しかも紐で縛るタイプの大胆なショーツを履くような少女ではなかった。

むしろ半世紀は遅れているのではないか? というダサい形のドロワーズを穿き、母親ですら「もう少し、年頃の女の子らしい下着を身に着けたら?」と我が子を心配していた。

その上、産業革命後のアドラスヘルムニア王国では、見かけることもなくなった瓶底眼鏡をかけ、制服の乱れも一切なく、どこの部活動にも属さず、笑うことも滅多にない堅物少女だった。

そんなクリスティーナが、たったひと月で流行の下着を身に着け、制服も今時風に着こなし、許された者しか出入りできない『ツェツィーリアⅤ』のサロンを使用して、学園中の女子学生たちから羨望の眼差しで見られる存在になるなんて、誰が予想しただろう?

レオンハルトは木苺色のクリスティーナの唇を甘く奪うと、自身の服のズボンの前立てを緩めた。

そうしてクリスティーナのブラウスの釦をもう一つ外すと、ブラジャーの肩ひもをそっと下ろし、可憐で豊満な片乳房を露わにした。

「あ……んっ」

敏感な乳首を「お仕置きだ」と囁きながら、レオンハルトはきゅっと摘まんだ。

しかしその力は甘くて弱く、優しく指先で転がし出す。

「あっ、あっ、あっ……だめっ、レオンハルト様……」

腰に響くもどかしい快感に、クリスティーナの白い喉が反った。

「こら、あまり声を出してはだめだ。ここは学園の中だぞ? 王城の寝室とは違う」

「で……ですが……」

快感の涙を滲ませながらレオンハルトを見れば、美しい顔は悶えるクリスティーナを嬉しそうに眺めていた。

そして片方の乳房もブラウスの上から掴まれ、大きく揉みしだかれる。


「ひゃっ……レオンハルト様、もう……もう……」

熱くなった身体で訴えると、レオンハルトも我慢できないとばかりに、クリスティーナの可憐な泉に灼熱を押し当てた。

「あぁ……」

抱き締め合うようにしながら、クリスティーナはゆっくりと彼を受け入れていく。

どんな幸福よりも、幸せな気持ちに包まれながら……。

 

――これは、人前で笑うことができなくなった少女が、笑顔を取り戻し、お妃様になるまでの物語。

 

 

 

第一章 推ししか勝たん!

 

五百と六年の歴史があるツェツィーリア学園は、幼少部から大学院まである、由緒正しき男女共学の教育機関である。

制服はあるものの、学園行事や校則については学生に一任しているという、自由な校風だ。

自由といっても、品位ある爵位を持つ家庭のご子息やご令嬢しか通うことができないので、自分たちで己を律する校則が多く、ある意味一般市民が通う学園より、校則は厳しいかもしれない。

そんなツェツィーリア学園には、伝統といってよい光景がある。それが校門から学園玄関まで続く、百メートルもの『朝のお手振り』だ。

「キャーッ! レオンハルト様、こっち向いてくださーい!」

「レオンハルト様は、本当に今朝からかっこいいですわぁ!」

一人の女子学生が頬を染めると、隣にいた友人らしき女子学生が語気を強める。

「あら、ご親友のオスカー様はストイックで、甘い顔立ちのレオンハルト様と違って、また素敵ですわよ!」

「あ、あのモスグリーンのお車は、レオンハルト様の従兄弟君にあたる、ラファエル様のものでは?」

双眼鏡を覗いていた女子学生が声を上げると、

「そうですわ、そうですわ! キャーッ! ラファエル様~ッ!」

と、ラファエル推しの女子学生が、手作りのうちわを激しく横に振った。

幅三十メートルほどの煉瓦道には、学園内で自治を行う高等部から大学部までの学徒自衛隊がズラリと並び、『お手振り』に興奮した女子学生が飛び出したりするのを抑えたり、興奮から倒れた女子学生を介抱したりしていた。

「まぁ、お次は屈強で美丈夫なロベルト様ですわ!」

「大変、カメラの準備をしなければ……っ!」

「まぁ、最後のお車はカミル様のものでは?」

「あーん! 今日はなんて運のいい日なんでしょう! 『ツェツィーリアⅤ』の皆様のご尊顔を拝することができるなんて! ラッキー以外の何物でもありませんわ!」

彼女たちがお手製のうちわを手に、黄色い声を上げる相手は、学園内の六割の女子学生を虜にしている『ツェツィーリアⅤ』だ。

『ツェツィーリアⅤ』とは、今から三十年ほど前から始まった、戯れも含んだ制度だ。

学園内の容姿端麗で成績優秀者。しかも家柄良しの選ばれし五名のイケメン集団を指す。

しかも彼らは若くして社交界の華でもあり、国内の貴族で知らないものはいないというほど、老若男女から人気を得ている。

「私もあと、二十歳若ければねぇ」

「あら、私だってあと三十歳若ければ……」

と、お手振りには外部の人間も集まり、このようにうっとりと語るご年配の貴婦人も実に多い。

そして元『ツェツィーリアⅤ』であった男子学生は、将来を約束された者が多く、軍隊幹部や最先端科学を扱う学者、著名な作家、世界をまたにかける音楽家や演出家など、その活躍は多岐にわたる。

その中でも特に注目されるのは、王位継承権を持つ者がリーダーを勤めるという特別制度だろう。

『ツェツィーリアⅤ』は、すべてにおいて完璧さを求められるが、その最たるものが次期国王候補の王子たちである。

王子は中等部に上がった時点で、無条件で『ツェツィーリアⅤ』への入部を許される。

そうして半年後には、周囲の生徒からあらゆることを吸収し、『ツェツィーリアⅤ』のリーダーとして、学園を卒業するまで君臨し続ける。

その歴代リーダーの中でも、現在トップに君臨するのは王位継承権第一位、次期国王、レオンハルト・ヴェルター・フォン・アドラスヘルム。天使のような輝かしさと群を抜いた美しさから、国内外から注目を集める存在だった。

もちろん成績は常に学年一位。剣の腕も、剣術部の主将である幼馴染みのオスカー・アルミン・バルシュミーデと互角で、馬術については学園内で右に出るものはいないというほどの文武両道ぶりだ。

『ツェツィーリアⅤ』は、皆が同じ学年ではない。

幼馴染みであるレオンハルトとオスカーは、大学部四年の二十二歳。

そしてレオンハルトの従兄弟であるラファエル・ディートハルト・ハーゼンバインは、大学院一年の二十三歳。

ストイックで美丈夫、しかも現陸軍大将を父に持つロベルト・クライバーと、子猫のような愛らしさと小悪魔的魅力で、『ツェツィーリアⅤ』のマスコットである、国家医師総長の長兄カミル・クライシェは高等部三年の十八歳と、実は学年も接点もバラバラだ。

よって登校時間も本来なら異なるのだが、彼らのファンである女子学生が、一度に彼らのお手振りに間に合うように、日によっては時間が決められて、こうして黄色い声が飛び交う人だかり(……といっても、皆行儀は良い)が出来上がるのだ。

そんな、『ツェツィーリアⅤ』のお手振りに歓喜する女子学生の後方で、木陰に隠れながら、最推しであるレオンハルトのうちわをそっと振る少女がいた。

名はクリスティーナ・プライセル。家柄は子爵という、高等部三年の十八歳だ。

しかしこのクリスティーナは、実に地味だった。

 

第二話へ続く〉

 

幸福の子爵令嬢【第二話配信】

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