売れない漫画家がイケメン二人に狙われてます【第一話配信】

【第一話】

著作・イラスト:御上ユノ

 

『あん……あぅ……あはぁん……』

『ほらここ、こんなに濡れ濡れだぞ。お前は本当に淫乱な身体をしてるな』

『いゃぁん…。そんなトコ…見ちゃ……やぁ…』

 

あたしは、そんなセリフを書き込みながら、コーヒーを一口飲んだ。

 

あたしは香月りる。っていっても、これはペンネーム。本名は嫌いだから、ふせてるの。

職業は、漫画家。でも残念なことに、頭に”売れない”がつく。かろうじて月刊誌に、読み切り(完結してるお話ってことね)漫画を描いているの。ちょっと両親には言えないような、えっちな漫画ね。過激系少女漫画、とでもいうのかしら。けっこう前から、コンビニで売られている少女漫画雑誌は、えっちな描写が多い。雑誌にもよるけど、大手、中堅出版社、問わず、何かしらこの路線はあるわ。

特に厚めの雑誌なんかは、多くの作家が執筆してる。そういうのは、短編が多いの。あたしもその一人ってわけ。

読み切りだけ描いてるような漫画家を、漫画家って言わない、っていう、業界の暗黙のオキテもあるけど。漫画を描いて食ってるんだから、あたしは漫画家って言ってもいいと思うわ。

 

あたしは、机の上にコーヒーを置いて、えっちシーンを描きだした。

「バックの体位だから、この腕がここにきて、この手はこっちで…」

平日の午後。漫画家にしては珍しく昼型のあたし。外の公園では子供の遊び声がしてる。このいたたまれなさったら。もう慣れちゃったわ、ダメな方向に。

紙の上では、男女が、からみあってる。恍惚の表情を描く時は、思わずあたし自身もそんな顔になってると思う。恥ずかしい話、自分の作品なのに、ちょっと興奮する時だってあるわ。

でも、欲求不満がつのるだけ。思わず一人えっち、しちゃう事もある。

だって。

この仕事をしてると出会いがないんだもの。

朝起きて、時にはパジャマのまま、机に向かったらすぐに仕事ができちゃう。で、意外と漫画を描くのって時間がかかるから、一日がかり。気付いたら夜だったりする。締め切り前は、リモートでデジタルアシスタントさんを頼んだりするけど、女の子限定にしてるから、男いないし。っていうか、同業者の男だけは避けたいし。

特に漫画の仕上げをデジタルにしてから、外に出る機会が、ガクンと落ちたわ。昔は、仕事場兼自宅へ通って来てくれるアシスタントさんを迎えに行くついでに、その子達と外食とかしたけど。今はデジタルツールを使ってやり取りするし、あたしが行ったことない、遠方に住んでるアシスタントさんだっている。極めてビジネスライクな関係になったわ。

そんな訳で、日に日に女力を落としていくあたし……。

だって、一日誰とも会わないなら、化粧する必要性もないじゃない??

実家は近くにあるけど、狭くて仕事部屋が作れないから、自分でアパートを借りてるの。何より、母親はあたしが何を描いてるのか知らないんだもの。知らぬが花よ、お母さん。厳格な母があたしの描いてる作品を読んだら卒倒しそう。

 

『あぁん……んぁっ。あんっ…。欲しいのぉ……いれてぇ…』

 

さぁ、これから盛り上がりシーン、というところで、スマートフォンが鳴った。表示された電話番号から、サガタ出版の「快感☆恋愛」編集部だと分かった。あたしが描いてるえっち漫画を、ありがたくも掲載してくれている雑誌さんだ。首の皮一枚でつながっているという噂もあるけども。

「香月です」

『快感☆恋愛編集部の青山です。香月さんでいらっしゃいますか?』

担当編集の青山さん(男性)の低い声がする。女性誌だから女性編集者しかいないかと思うと、結構、男性編集者も少なくないのよね。あと、名前を”先生”、呼び、するか、もまちまち。青山さんはしないけど。

「はい。お世話になっております」

『お疲れ様です』

あたしは型通りの挨拶をした。高校を卒業してから、就職はしなかったけど、漫画家になるまでに幾つもアルバイトをしたし、一般常識はいちおう、あるつもり。

『実は…突然なんですが…今回、扉絵が…』

青山さんはぼそぼそとしゃべる癖がある。腰が低いからなんだと思うんだけど、あたしなんか、ランクの低い漫画家なんだから、そんなに気を使わなくてもいいのに。ちなみに、扉絵っていうのは、その作品の表紙ってことね。

『あの…時間があればなんですが……』

あたしは、ぼさついた頭を掻いた。青山さんは、一度、顔合わせで会ったことがある。結構、イケメンだった(というぼんやりとした記憶)のに、猫背でぺこぺこ頭を下げながらしゃべっていた。分類するとすれば、ヘタレ。でも、きっとああいうのがタイプな女性もいるんだろうな。もしかして、ベッドでは豹変するとか?  ……あ、これ、次回作のネタに良いかも。

なんて、あたしが勝手に思ってると、青山さんが言った。

『扉、4Cで。今回』

わかる人にしかわからない単語を聞いて、あたしは思わず、「ホント?!ホントに?!」と、勢いよく立ち上がってしまった。その後、起立性低血圧を起こして、しばらく目のチカチカに耐えなきゃいけなかったけれど。

『はい。時間ありますか??』

「やります!!はい!!」

4Cっていうのは、扉絵がカラーって意味ね。一つの作品の表紙(扉絵)が、突然カラーの時って、たまにあるよね。あれって、人気があったり、期待されてる作家さんなの。読者アンケートっていうシビア~な制度があって、ここで人気がなければ、このご時世、簡単に首を切られるし、人気があったら、連載だってとれちゃう。その雑誌の看板なんてなれば、雑誌自体の表紙を描いたりして、下にも置かない扱いになるんだから。

大手なんかだと、誕生日に花束まで届くの。一時期、大手の端っこにいたから、いろいろ場違いなすごい世界を見たわ。季節のご挨拶に、年末はホテル貸し切りパーティーに……、バブル時代はもっと凄かったんじゃないかしら。

でも、大手では、あたしみたいなぺーぺー漫画家は、作品掲載が確約されてないの。どんなに時間をかけて考えたネームも、会議で瞬殺される。震えるわね。

あたしは漫画だけで生計を立ててるから、それは困る。大手に賭けるか、中小で枠をもらって無難に生きるか、ってことで、あたしは後者を選んで、大手から去ったわ。仕方ないことよね。

ただ、残念ながら、今の中堅出版社に移っても、あたしは鳴かず飛ばず。担当編集者の青山さんがなんとかつなぎとめてくれてるって思うわ。だから、カラーがもらえるなんて感謝感謝。

でも、前作の何がウケたのかしら。カラー扉の話が来たって事は、すなわち読者アンケートが良かったってこと。でも、青山さんは、何が良かったとかあまり言わない。だから、あたしも、ふたを開けるのが怖くて、何も聞けないの。

『じゃぁ、そういうことで。扉だけは締め切り前にください』

「はい、わかりました」

『あと、取材したいって言ってた、レストランの件ですが、知人がOKしてくれたので、後で地図等FAXで送ります』

「はい」

『じゃぁ……よろしくお願いします……』

消え入るような声で、青山さんの電話は切れた。あたしは、異常にテンションがあがっちゃって、六畳一間をクマみたいにうろうろした。頬が火照って、なかなか冷めない。他の人気作家さんなんか、そんなことで、こんなにエキサイトしないわ、きっと。でも、低空飛行の作家にとっては、ホントに嬉しいことなんだから。

そんな事をしてるうちに、FAX機がカチっと鳴って、青山さんからであろう連絡を受信しはじめた。固定電話って本当に嫌いなんだけど、まだFAXで送って、って言われることが多くて、仕方なく取り付けてる。書類をスキャンするのって、何だかんだいってまだ手間がかかるしね。

あたしは情報を受信し終えた感熱紙を手に取った。

そう。今回はレストランもので、取材をお願いしてたのよね。といっても、あたしはレストランのバイト経験があるから、プロット(ストーリー)は資料なく書けたんだけど。アシスタントさんに描いてもらう、背景写真が欲しかったの。最近は写真をデジタル加工して背景に出来ちゃって、それはそれでいいんだけど、違和感が出ちゃうシーンもあるの。あたしはさすがにそこまで妥協できない。どんなにギャラが安くっても、売れてなくっても、これでも出来る限りベストをつくしてるつもりよ。

とはいえ、チェーン店のレストランなんかは、簡単に写真撮影なんて許可してくれないから、青山さんの知人が経営してるっていう、レストランにお願いしたってわけ。

あたしは、地図と、注意事項と青山さんの通信を読んだ。ここまできてなんだけど、せっかくカラーがもらえるのに、レストランもので勝負かけていいのかしら。でも、もうプロットが通って下描きに入っちゃってるし、アシスタントさんの作業予定もおさえちゃったから、引き返しがつかないよね。

あたしは、分割払いで買ったミラーレス一眼の準備をして、取材の日を待った。

 

取材当日。

レストランの外観は、あたしが思ってたのと違ったから、ちょっと残念だった。地図アプリで、事前に確認しておけば良かったわ。シンプルなガラス張りで、どっちかっていうと、美容室?って感じがしたの。まだ、開店前で、店内の照明が暗いせいもあると思うけどね。 入り口から入ってもいいって、青山さんのFAXに書いてあったから、あたしはそーっとドアを押し開けた。

「すみませ~ん」

店内はシーンとしていた。このレストランは、ランチタイムと、ディナーしかやってないんだって。午後三時に来ても、当然、誰もいないわよね。

あたしは、肩にかけたバッグを持ち直した。今日は、普段みたいに眼鏡にパジャマって訳にもいかないから、一日用コンタクトと、流行遅れのワンピとブーツを身に着けてた。だって、人前に出る事なんてめったにないんだもの。流行のものを買っても着ないまま……なんてことも、よくあるのよ。でも、ブーツは特に目立つから、なんかすごく恥ずかしい。レストランの店長が、流行に、うとい人だと願うわ。

「はーい」

何秒かして、店の厨房の方から返事がした。その声を聞いたら、ちょっと緊張しはじめた。だって、しつこいけどホントに普段、人に会わないし。何より、人に会うのが好きな性格だったら、漫画家になってないと思うし。

とか思ってるうちに、足音は、もう、すぐ近くへ。

「サガタ出版の青山さんから紹介頂きました、香月りると申します」

あたしは、相手も見ずに頭を下げちゃった。声の主は自分よりもかなり大きい人だと感じたわ。下げた視線から見える脚が、とっても長かったから。

「香月さんですね、聞いてますよ」

顔を上げた瞬間、あたしは思わず、びっくりして固まっちゃった。その、店長らしき人は、すっごく整った顔立ちをしてた。頬には無駄な肉がなくて、骨格がきれいに分かる。目は切れ長で、楕円の眼鏡をかけてる。鼻筋がすっと通ってて、少し濃い目のベージュ色をした唇は薄く、男性なのに色っぽく見えた。黒髪は緩めのオールバックにしてる。そして160センチのあたしが見上げるほどだから、身長は180センチを超えてると思う。

びっけーーーー!!

あたしは内心で叫んだ。公式SNS(一応持ってる)に書くなら、動く”ビックリ”マークの絵文字を、何個つけても足りないわ。それに、普段人に会わないのに、会ったら会ったで相手が超美形なんて、刺激、強すぎ!!

「店長の尾崎です」

尾崎さんは、にこっと笑顔になった。あたしは、思わずパニくっちゃった。この容姿で笑顔は反則!!

あたしは、まず名刺出さなきゃ…と、バッグに手を突っ込んだけど、名刺ケースが手に当たらない。「あれ?あれ?」あたしはますますパニくる。は、恥ずかしい。名刺一つまともに渡せないなんて。

「どうぞ奥へ。名刺はその後でもいいですよ」

尾崎さんはくすっと笑った。あたしが名刺を出そうとしてたのを悟ったみたい。あたしはますます顔が熱くなる。だけど、あたしは平然を装って、「はい」と言って尾崎さんの後ろをついて行った。

 

通されたのはレストランの休憩室だった。あたしがチェーン店のレストランでやってた時は、かなり雑然としてた場所だけど、尾崎さんのレストランはキレイに整頓されてた。

「どうぞお座りください。荷物はテーブルの上にどうぞ」

と言って、尾崎さんは、折りたたみイスを開き、それを引いてくれた。あたしはお姫様よろしく、そこに座った。取材に来たのに、いいのかな、この扱いで。向かい側に、尾崎さんがイスを同じように出して座る。あたしはその間に、バッグの奥底に埋まった名刺ケースをサルベージして、震える手でそれを尾崎さんに向けた。

「あ、改めまして。香月りるです」

「どうも」

尾崎さんが長い指でそれを受け取って、自分も胸ポケットから名刺ケースを取り出した。

「レストラン、ケット・シー、店長の尾崎貴志(おざき・たかし)です」

あたしは、名刺を両手で受け取った。こんな人から名刺をもらえるなんて、めったにないよ~!!脳内はもう、緊張と興奮で訳が分からなくなっちゃってる。ちょっと気が遠くなってきちゃったわ。

「それで、取材って言うのは??」

「あ、はい。バックヤード、調理場や、客席を撮影させて頂きたくて…」

「ああ、いいよ」

尾崎さんが、急にタメ口になったので、どきんとした。これ以上、心臓が大きく鼓動し続けたら、疲労で止まっちゃいそうよ。

「君、……香月さん、レストランでバイトした事ある?」

不意に言われて、あたしはきょとんとした。

「あ、あります……。学生時代……」

「だろう。あんまり一般人はバックヤードって言葉、使わないからな」

そう言って、尾崎さんが、口の端だけでにやっと笑ったの。あれ。なんだか、最初のすがすがしい印象と、ちょっとイメージ違う気が……。だけど、その時のあたしには、気にする余裕なんてなかったわ。

 

あたしは、バックヤード(調理場と客席の境目みたいなものね)と調理場、客席をミラーレス一眼で撮影させてもらった。その間、尾崎さんはあたしを遠巻きに見てたの。きっと、何か壊したり大事なものを触ったりしないか、監視してるんだわ。

客席のイスなんかは、曲線が多いから何カットも撮った。いろんな角度から撮っておかないと、後で資料として使い物にならないのよね。

「随分、イスを、念入りに撮るんだな」

尾崎さんが、あたしの後ろから声をかけてきた。あたしは、ちょっと仕事モード入っちゃって、そのまま撮影し続けてた。

「はい。曲線の多いものは、角度が変わると描きづらいので」

「香月さんが描くの?」

「いえ、アシスタントさんが」

あたしはしゃがんで、やや下からのアングルでイスを撮った。もうそろそろいいだろうと思って立ち上がった時、さーっと目の前が粒状に変わって、頭を押さえつけられるような強いめまいに襲われた。また、起立性低血圧だわ。慣れたものだけど、人前でなるなんて最悪……。

あたしは、テーブルに手をついて、頭を少し下げた。不自然なポーズだったけど、仕方ないわ。

「香月さん、どうしたの??」

尾崎さんが、あたしの肩を掴んだ。大きくて、暖かい手。触られてちょっと驚いたけど、今は、早くこのめまいが去ってくれる事を祈るばかり。

「あの、起立性低血圧で…。頭を下にしてれば、すぐに治ります。すみません」

言ってるうちに、チカチカした感じは引いてきた。めまいも、倒れそうなほどではなくなった。なにより、この恥ずかしい体勢から抜け出さなくっちゃ。

あたしは、そーっと頭を上げて、慎重に歩き出した。すると、尾崎さんが、あたしの肩に腕を回して、支えてくれた。

「大丈夫かい??」

「はい、少し治りました」

「そうか??でも、少し休憩室で休んだ方が良さそうだ」

って、尾崎さんは言うと、少し屈んで、あたしの両膝に腕を回し、一気に抱き上げた。

きゃぁぁぁーーーー!!

あたし、標準体重より、ちょっと重いのよ?!それをお姫様抱っこなんて、(—-こいつ重いなぁ—-)なんて思われてそうで、恥ずかしい!!

でも、じたばたすると、余計、尾崎さんに負担がかかるような気がして、あたしはじっとしてた。抱き上げられた感覚は、文字通り地に足がつかない感じで、ふわふわしてた。しかも、尾崎さんは思ったよりがっちりとしてて、あたしの体重でもよろけたりしない。

「それにしても、漫画家さんでも、可愛い子っているんだな。いや、でも、って言ったら失礼か」

尾崎さんは、バックヤードの戸を押し開けながら言った。

え、えぇぇぇぇっ?!可愛い子ですって??不細工とはいわないけど、平凡の下ぐらいのあたしが?!尾崎さん、目がどっかおかしいんじゃないのかしら??

「てっきり、ベレー帽かぶって、ビン底眼鏡の子がくるかと思ってたけど」

って、ベレー帽のイメージ、古っ!!……でも、眼鏡、は、当たってる。と、思うわ……。

尾崎さんは、あたしをイスの上に座らせてくれた。あたしは、まだ、頭をあげている自信がなくて、ちょっと前かがみになった。すると、尾崎さんは、休憩室の長テーブルの上のポットとか、あたしの荷物とかをぱぱっと端にどけて、スペースを作った。

「香月さん、ブーツ脱いで、ここに横になるといい」

え??この、テーブルの上に??従業員が食事したりする場所だよね、これ。

でも、あたしは具合の悪さに耐え切れなくって、ブーツを脱ぐと、尾崎さんの手を借りて、テーブルの上へ。そして、あおむけに寝転んだ。

「頭を低くして、足を上げた方がいい」

と言って、尾崎さんは、あたしの両足の下に何かを差し入れたの。あとで、それは業務用ワインのダンボールだと分かったわ。

だけどこの足上げスタイル、ワンピのすそから、ストッキングの奥にあるパンティが丸見えなんだけど……。でも、尾崎さんは、本気で心配してくれてるみたいだし、気にしてないかな。

とか考えてると、尾崎さんの姿が視界から消えてる。まぁ、あおむけで天井を見てるからっていうのもあるんだけど。でも、この体勢になったら、具合の悪さがほとんどなくなった。よかった。だけど、ちゃんと体調を整えておくべきだったわ。こんな迷惑かけちゃうなんて……。なんて反省してると、こつこつこつ、と、足音が近づいてきたの。尾崎さんが近くに来たんだ、と思った。

「尾崎さ……」

ん、すいません。と、言おうと口を開いたら、「そのまま」と尾崎さんの声がして、口の中に何かが入ってきた。それは、”ふんわり甘いもの”で、中央には芯みたいな、硬い物体を感じる。あたしはその”ふんわり甘いもの”を、反射的に飲み込んじゃった。すると、口の中から、するっと芯が抜けた。口の中に残った甘いものをモグモグしたら、それが生クリームだって、やっとわかったわ。

「低血糖も起こしてるかと思ってね。甘いもの持ってきた」

と言って、尾崎さんは、あたしの視界に入るように、器にのったクリームを見せた。そして、右手の人差し指は、白いクリームがついている。

え??もしかして、さっきの芯みたいな物体は、尾崎さんの指だったの??

「あの……えと……今の……」

「もう一口。ちゃんと全部、舐めとってくれないと、指に残る」

といって、尾崎さんは器から生クリームをすくい上げると、あたしの口の中に入れた。あたしは、あんまり口を開いてなかったから、唇のまわりにクリームがついたような感じがした。

「ん……」

あの、尾崎さんの指が、あたしの口の中に入ってる……。あたしは、なんか、エロく感じちゃって、下腹部がきゅんとした。今度は、尾崎さんの指だって分かってるから、舌を使って丹念に舐めとった。

「香月さんの口の中って暖かいな。それに、舐めかたが上手いよ」

といって、尾崎さんは指を抜いた。そして、不意に顔を近づけると、あたしの口まわりについた生クリームを、ぺろっと舌で舐めた。

「ひぁっ」

「動くととれない」

動くととれないって言われても……。普通、指でとらない??

だけど、あたしは、尾崎さんに身をまかせることにした。だって、助けてくれてるんだもの。舌を使うなんて、変わってるけど。

「まだ、ここについてる」

尾崎さんの柔らかい舌が、唇の下をぺろりと舐めた。触れたところから、電気みたいな快感が走って、思わず、「あ……」って声を上げちゃった。

「可愛いな、反応も」

キスじゃないよね、口まわりを舐めてくれてるだけよね。でも、やっぱり指かティッシュで十分じゃなかった??っていうか、この状況って……どうなの??

尾崎さんの顔が、離れたのを見計らって、

「ありがとうございます。もう、具合良くなりました」

と、あたしは、慌てて身を起こそうとした。だけど、尾崎さんに、テーブルの上に押し戻された。

「逃げるなよ。君だって、感じただろ」

目の前に尾崎さんの顔が間近に迫る。美形をドアップで見るのは破壊力ばつぐん。あたしは、ただ、目をぱちぱちまばたきするしかなかった。普段、えっちマンガを描いてても、急に、気の利いた言葉なんて出てこないものよ、ホントに。

尾崎さんが、目をつぶって、あたしにキスをしてきた。あたしは、尾崎さんの肩を押し戻そうと抵抗したけど、全然ダメだった。尾崎さんは、あたしの舌をからめとって、吸いあげた。それだけで、欲求不満の身体がびくんと動く。唾液と生クリームが混ざり合った、甘い甘いキス。あたしは、唇から口の中で感じる快感に、くらくらした。取材先の店長と、こんなことしちゃダメなのに……!!なにより、青山さんの顔が立たなくなるじゃない!!

「ん……。くふぅ……あ……ん……」

だけど、心うらはら、我知らず声がもれちゃう。尾崎さんは、角度を変えて、何度もあたしの中に侵入してくる。尾崎さんのキスはとっても上手で、あたしは力がどんどん抜けてきた。尾崎さんは、舌の先で、上あごや歯列をなぞったりした。その部分が、麻酔を打たれたみたいに、どんどんマヒしていく。あたし、どうなっちゃうんだろう。

下半身は、すでにどくん、どくん、と、別の心臓が脈うってる。それをおさえる為に、両腿をぎゅっと閉じた。すると逆に、快感が下からわきあがった。

「うぅん……」

「敏感な身体だな、まだキスしただけなのに」

そう言うと、尾崎さんは、あたしのワンピのすそに手を入れた。身体が、尾崎さんの手を期待してる。そして、尾崎さんは、あたしの股に触れた。そして、先頭にある、一番、敏感な部分を、軽く指の腹でこすった。それだけで、あたしは全身に強い快感が走って、身震いした。

「あっ!!」

「すぐイきそうだね、イかせてあげるよ」

そう言って、尾崎さんはあたしのストッキングとパンティを膝まで下ろした。ひんやりとした空気に触れて、あたしは一瞬、身を縮める。だけど、次に尾崎さんがあたしの尖りを直接触った時には、どうなっちゃうかと思った。両脚から頭のてっぺんまで、快感が複雑にからみあって、頭が真っ白になった。

「んん……。ああ……っ」

腰の奥から、快感の痺れがウェイブして、じわっと盛り上がる。それが、尾崎さんの指にこすられることで、何度もその波がやってくる。あたし、イクって経験をしたことがないけど、これがそのイクって感覚なのかな。何もかもどうでも良くなるような、ものすごく強い快感だわ。

「何度もイってるね。もう、こっちなんて濡れ濡れだ」

「あ…………っ」

尾崎さんの指が、先頭から中央におりた。さっきからどくんどくん波打ってる洞窟のありか。閉じたふくらみを二つに割って、尾崎さんの指が中に入ってくる。そして、指の腹が内壁をこすりはじめた。あたしは、また強烈な刺激に、腰をくねらせる。変な表現だけど、かゆい所を掻いてるような感覚に、似てると思うわ。

「あ……んんっ、あん……んぁっ……」

「気持ち良さそうだ。俺にも楽しませてくれ」

そう言うと、尾崎さんは、ダンボールをどけて、靴のままテーブルの上にのった。

これ、二人乗っても大丈夫なの??とあたしがちょっと冷静になった時、尾崎さんは、ベルトを外し、ジッパーをおろした。あたしは、仕事柄(と、あえて言うわ)、男性器には興味があるので、思わずガン見しちゃった。尾崎さんのそれは、がっちり立ち上がっていた。そのサイズは、いままで見た中でも大きくて、重そう。

「入れるよ」

尾崎さんは、あたしの両足の間に入ると、膝であたしの尻を少し浮かせ、慎重に入れ始めた。あたし、尾崎さんとこのままヤっちゃうの?!

無理やり広げた訳じゃないのに、なぜか尾崎さんの大き目の男性器が、あたしの中にずぶずぶ埋まっていく。あたしはもう、期待やら罪悪感やらで訳が分からなくなっちゃった。でも、ぐぐぐ、と、大きく広げられた入り口が、すでに”痛”気持ちイイ。そして、尾崎さんの性器は、子宮を突いた。奥の方で、ちょっと鈍痛がした。

「動くよ」

尾崎さんが、腰を動かし始めた。あたしはまた新しい快感に、身体中を支配されることになった。

ぐちゅ、ぐちゅ、と、たっぷり潤った所が、えっちな音を立てる。

「あっ……あ……っ!!もっとゆっくり……!!」

「ゆっくりだとつまらないだろ」

尾崎さんの冷たい声が、逆にあたしの下半身を、じわりと刺激する。尾崎さんが動くたび、テーブルがゆれ、その上に置いてあった物が落ちる音がする。だけど、それがどうでもよくなっちゃうぐらい、気持ちよかった。

「あ……ふぅっ……うぅんっ……んぁっ」

「すごく可愛いよ。このアングルも、すごくいい」

尾崎さんとつながってる!!と思うだけで、あたしは、更に濡れちゃって、液をテーブルに滴らせちゃった。尾崎さんで、あたしは満たされてる。もう、これ以上ないほど、いっぱいに。尾崎さんは力強く、あたしの中をこすってる。あたしは、どうかなっちゃいそうな快感に、声をあげた。

「あんっ、ん……ふぅ……はぁっ……あん」

尾崎さんの体力はすごかった。急に全速力で走り出して、マラソンをしているようなものなのに。あたしはだんだん乱れて、尾崎さんの肩をぎゅっと握り締めた。

だんだん、全身が快感で支配されてくる。あたしも尾崎さんの動きに合わせて、腰を振りはじめていた。

「あ……はぁ……っ。んぁっ……」

「いいよ、りる。すごくいい……」

ぎし、ぎし、ぎし、と、テーブルが音を立てはじめた。あたしには、その音さえ、「もっと、もっと」と言っているように聞こえた。

何十分と、尾崎さんに突かれていただろうか。

「イクよ」と、少し乱れた息で尾崎さんが囁いた。そして、あたしの腰骨を掴んで、ぐっと奥まで差し込んだ。

「う……っ」

尾崎さんは、小さくうめいて、動きを止めた。

 

あたしは、惨状を目の前に、何をどう優先順位をつけていいのかわからなくって、乱れた髪を直した。

ポット落下→熱湯をぶちまけて壊れてる。あたしのバッグ→中身が床に散らばってる。ちなみにミラーレス一眼は、起立性低血圧を起こした時、客席に置き忘れたから無事。あと、足をのせてたダンボール→休憩室の床に転がったまま。

それと、ストッキングはやぶれてるので諦める。尾崎さんが持ってきたビニール袋に、ごみとして捨てた。

あたしは少し冷静を取り戻してきて、バッグの中身をかき集めた。ダンボールは隅に片付けた。

ポットは、電源がつかなくなってしまった。どうしよう……と、困った顔でポットとにらめっこしてたら、ごみを捨ててきた尾崎さんが現れた。

「テーブルの上に置いといていい」

「で、でも……。あたし、弁償します!!」

なんだかちょっと気まずい気分を振り払いたくって、あたしは思わず言った。だって、えっちが終わった後も、尾崎さんは全然、変わりないんだもの。あたしは、自分の奥を見せちゃったことを、変に意識しちゃってる。恋人とか片思いとかじゃなくて、はじめて会った人なのに、えっちしちゃったんだから!!

「弁償してくれるぐらいなら、二回戦目がしたい」

と言って、尾崎さんは、あたしのあごを持ち上げて、軽くキスした。さすがに本気じゃないよね。あれだけ運動したんだもの。尾崎さんの髪だって、ちょっと乱れてる。

「壊したものは、今度、アルバイトをして返してもらう」

「えーーーっ」

そうあたしが言った時だった。

「おはようございまーす」

がたたん、と、音がして、休憩室の奥にある、裏口の戸が開いた。きっと、アルバイトの子かも。

「あ」

と、尾崎さんが、裏口を振り向いたスキに、

「取材させて頂いて、ありがとうございました!!」

と頭を下げた。そして、バッグをとり、あたしは、小走りで入り口から外へと出た。

 

〈第二話へ続く〉

 

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