売れない漫画家がイケメン二人に狙われてます【第二話配信】

【第二話】

著作・イラスト:御上ユノ

 

あれから、数日経った。

尾崎さんとの事が気になったけれど、仕事の締め切りでそれどころじゃなかった。今回はカラー扉の件もあって、余計、時間がかかっちゃったし。

あたしは完成した原稿をチェックすると、送付用データにまとめ、クラウドサービスで、URLを青山さんへメールした。

今回は、打ち合わせも兼ねて、青山さんが、バックアップ用データが入ったUSBメモリも、直接うちまで取りに来てくれるらしい。はじめてのことだわ。時間は夜の九時。漫画雑誌の編集さんってホント大変よね。うちからまた会社へ戻るのかしら。お世話になってる身でいうのもためらわれるけど、けっこうなブラック会社……。

あたしは、椅子に座り、寝不足もあってぼんやりした。ミラーレス一眼から抜き出した資料写真が、モニターに映ってる。なんとなく数枚、流し見してたら、あたしが尾崎さんとえっちした休憩室の写真が出てきた。この時は、ポット無事だったのになぁ……。

っていうか。

尾崎さんと、しちゃったんだ、あたしってば。しかも、よく知らない人なのに。

あたしは、仕事モードが抜けた頭でそう考えて、いまさらドキドキしてきちゃった。疲れてるのに立ち上がって、また部屋をうろうろする。ああ、どうしよう。また、会いたいような、会いたくないような……。最後は逃げるように帰って来ちゃったけど。怒ってなかったかな。でも、雑誌が発売されたら、取材のお礼として、渡しに行かなくちゃ。

そう考えてると、玄関のチャイムが鳴った。あたしは必要以上にびくっ!!と跳ね上がった。インターホンに出ると、予想通り、青山さんだった。

あたしは、青山さんを部屋に招き入れようとしたんだけど、やはりというか、これからまた編集部に戻るから、玄関でいいって言う。だから、あたしは玄関までUSBを持っていった。

「メールでも頂いているので、大丈夫かと思いますが、一応、確認しますね」

って言って、青山さんは玄関で自前らしきタブレットへUSBを繋いで、フォルダの中身を確認し始めた。

だったら、部屋に入ればいいのに、って思ったんだけど、黙って待ってたわ。

「はい、枚数あります。お疲れ様です」

「わざわざご足労頂いて、ありがとうございます」

あたしは深々と礼をした。青山さんは立ち上がり、USBを恭しくバッグへしまうと、またお辞儀をした。つられて、あたしもお辞儀をする。そのリズムで、青山さんが玄関のドアノブをつかんだ時、その手がぴたっと止まった。

あれ。なんか、忘れ物かな??

「そういえば、尾崎の所に、取材に行った際……」

青山さんは、ゆっくり振り向いた。あたしは、青山さんの顔を、はじめてまじまじと見た気がした。黒くて大きめな瞳。少し曲線を描く頬に、ふっくらした唇。伸びっぱなしの髪と、だぼっと着たチェックのシャツさえなければ、尾崎さんとはまた違った美青年で通るのに。

「はい」

あたしは、なにを聞かれるかドキドキした。なにしろ、青山さんの知人(友人??)であるところの尾崎さんと、こともあろうに取材先でえっちしちゃってるものだから。

「ポット、壊したそうですね」

びくーーーーん!!!!

きっと、動揺がもろに表情に出ちゃったんだと思う。青山さんは、なにか確信したように、口を結んだ。

え……と、ポットは……。なんて答えよう??えっちしてる最中に、テーブルから落っこちました、って、言う??そんなこと、言えるわけないじゃない。たまたま、肘でひっかけて落としちゃいました。これも変。あんなでかいものを??じゃぁ、立ち上がった時、起立性低血圧を起こしてポットを巻き添えに倒れちゃった、なんてどう??これいいかも。うん。これでいこう。

「あの、ちょっと、起立性低血圧を起こしちゃって……」

あたしはちょっと、具合悪そうな演技を入れて言った。

「あの後、入れ違いに、僕、取材先に行ったんですよ」

え??……ええぇぇぇぇっ??

「知人って言ってますけど、実は尾崎とは古い友人でして、時々、裏口から遊びに行くんです。まぁこの間は、たまたま時間が空いたので取材の礼も兼ねてだったんですけれど」

「はい……」

あたしの声が、蚊の鳴くような声になっていく。

「そうしたら、ポットが壊れたって聞くし。テーブルも、修理しないといけないほど脚がガタついてたし。一体、何があったんだって思いましたよ。まぁ、尾崎とは、長い付き合いですから。彼の様子を見てピンときましたけどね」

名探偵、青山が真実に迫ってくる。あたしは内心で頭を抱えた。ああ~。もう、誤魔化せない。

あたしは青山さんにびくびくしながら、あったことを正直に話した。すると、青山さんは顔を赤くして怒り出した。

「尾崎が香月さんにそんなことを?!許せません!!」

青山さんは、これから、カチこんでいく、ぐらいの勢いだ。てっきりあたしが怒られるもんだと思ってたから、訳がわからなかった。だって、抵抗しようと思えば、逃げられたはずなのに、尾崎さんに押し切られちゃったあたしがいけないのよ。

青山さんは、玄関にバッグを置いた。そして、突然あたしの手をつかむ。あたしはびっくりして前のめりになった。その時、支えるようにして、青山さんがあたしを抱きしめた。

え。えぇぇぇぇぇっ?!?!

「香月さん、怖い目にあったんでしょう。本当にすいません。あいつ、昔からあんな感じで……。一人で行かせた僕が悪かったですね。本当にすいません」

「ちょ、ちょっと待って……!!」

あたしは青山さんを引き離そうとしたけど、青山さんは意外に力が強くて、びくともしなかった。

「僕、香月さんのことが……好きですっ……。その、こんな形で……すいません」

そう言うと、青山さんは、あたしの両頬をつかんで、キスをした。青山さんの唇は柔らかくて、そこからじんわりと快感が広がっていく感じがした。

「…………ん」

あたしは、唇だけ合わせたキスに、なぜだか抵抗できなかった。文字通り骨抜きになって、体中の力が抜けていく。あたしは、その場に崩れ落ちるように尻をついた。すると、青山さんが、あたしの上に覆いかぶさった。自然と、あたしは、あおむけに倒された。

「香月さん……!!香月さん……!!」

「青山さん……?!」

青山さんの手が、あたしの胸をつかんだ。そして、仕事着であるスウェットの上から、それをもみしだく。あたし、仕事の時は、ノーブラかスポーツブラのことが多い。その時は、たまたまノーブラだったから、青山さんの手の感触がモロにわかった。

「青山さん……っ。だめ、です……っ」

青山さんに胸をいじられて、乳首が立ってきちゃった。青山さんは指先でそれをこすった。すると、あたしの身体の奥に、電気みたいな快感がぴりっと走った。

「ん……」

あたしは思わず感じて声をあげてしまった。すると、青山さんは、スウェットをめくって、乳首に直接、舌をつけた。

「ひぁんっ!!」

青山さんは、乳首の先を舐めて、吸い上げ、そして甘く噛む。その度に、下半身がじんじんうずいてくる。

「あ……。んぁんっ……」

両方の乳首を攻められて、あたしは思わず声を上げちゃった。こんなことって、アリ??漫画家と担当編集が??いや、世の中にはそういうカップルだっているけど……。この状況は、ハプニングだし、そもそも一人暮らしの女性の部屋で、仕事で来た関係者が……、その、けしからんわけで……。

青山さんは、あたしの乳首から、少しずつ舌を這わせて、へそから下へおりていく。あたしは期待と罪悪感をもって、青山さんを見た。今、一番、どくん、どくん、と脈打ってる部分。青山さんは下のスウェットとパンティを脱がすと、その茂みに顔を埋めた。

「ひやぁぁぁっ」

青山さんが、あたしの尖りを舐めた。そして、それを唇で吸い上げ、舌先で転がす。頭が真っ白になるほどの快感がした。

「あぁぁんっ!!ああっ」

あたしは、玄関という事も忘れて、大きな声をあげてしまった。そして、あたしの洞窟が、ひく、ひく、と、ケイレンしはじめた。さらに、青山さんがあたしの尖りを吸い上げると、腰の奥から、じわっとした感覚がわきあがる。そして、大きな波が、割れ目一帯に起こって、あたしは背を反らせた。きゅぅっと、洞窟が狭くなる。ぶわっと、全身に鳥肌が立った。

「…………っ」

あたしは、めちゃくちゃ気持ちいい快感に、全身を支配されてしまった。もう、止められない。あたしが視線を送ると、青山さんはズボンのチャックを下ろした。そして、立派にたちあがった男性器を、あたしの股にこすりつける。それだけでぬちゃ……と音がした。あたし、そんなに濡れちゃってるんだ。恥ずかしい。でも、青山さんが欲しい。

「香月さん……」

青山さんは、ゆっくり身体を前に傾けながら、あたしの中に自分自身を沈めた。ぐぷぷぷ、と、いやらしい音がする。

「あ……っ」

青山さんを中で感じて、あたしはまた全身をびくんと震わせた。青山さんがあたしの中に入ってる。そう思うだけで、いけないことをしているような気持ちと快感が混ざって、ぞくぞくする。

「動きますよ」

青山さんはあたしの顔の左右に、両肘をついた。そして、ゆっくり、下半身を動かしだす。

「ん……っ。んんっ……」

柔らかい刺激に、少しものたりなくて、あたしはちょっと腰を振った。もっと激しいのが欲しい……そう、尾崎さんみたいに、めちゃくちゃにされるような。青山さんは、それを感じたのか、ちょっとずつ動きを速くしていった。

「はぁ……っ。あぅん……っ」

ぐちゅ、ぶちゅ、と、つながってる部分が、音を立てた。青山さんの男性器は、あたしの中で、更に大きくなったような気がした。あたしの中は、青山さんでいっぱいになる。内壁をこすられて、あたしは快感で声を上げた。

「あぁん……っ。ふぅ……っ。うぅん……っ」

青山さんが、大きく動いた。その時、あたしが体をねじってやや斜めになったら、反射的に身体がビクンと跳ねた。なにか、すごく強い快感のスポットに当たった。え……??これは一体、ナニ?

「ココ……気持ちいいんですね……」

青山さんは、あたしの片足を持ち上げると、その場所を攻めはじめた。

「ひあぁっ……っ。あん……っ!!んんっ……。あぁっ……」

びちゃ、くちゃ、ぬちゃ、ぐちゃ……。

もう、言葉にもならない快感だった。気持ちよすぎて、どうかなっちゃいそう。頭がだんだんボーっとしてきて、身体だけが青山さんを感じてる。そして、青山さんは、敏感な尖りを、指で一緒に刺激した。ばらばらになってしまいそうな気持ちよさに、もう何も考えられなくなった。

「んぁっ……。あぁっ……ん……あ……んん……」

「一緒にイキましょうね」

そう言うと、青山さんは、あたしの中のスポットを、強くこすりあげた。

「あぁっ……!!!!」

あたしは、はじめて中でイってしまった。快感のしびれが、大波のように全身を飲み込んだ。あたしは、そのまま気を失ってしまった。

 

「…ぶ、です……だい……」

遠くで、声がする。あたしは、まぶたを開けようと頑張った。なんて重いのかしら。身体も、まるで石みたいに重い。

「……大丈夫ですか??」

薄目で見ると、それは青山さんだった。黒々とした目に、赤い唇、白い肌。あたしより、白い肌をしてるんじゃないかしら。

「すみません、その……」

青山さんは困ってるみたいだった。え??あたし、なにか困らせるようなこと、した?締め切りやぶったりしたかしら??

「僕……手を出すなんて……最低ですよね……」

手を出す……??

あたしの記憶は、ゆっくりと巻きもどった。確か、あたし、椅子に座って、ボーっとしてた気がする。なんでかっていうと、青山さんを待ってたから。で、青山さんが来て、原稿データの入ったUSBを渡して、……そして、その後は……。

「あっ……」

本当は、手で口を押さえたいところだったわ。だけど、指先にいたるまでだるくて、言う事をきかないの。

「ホントすいません」

「……いいよ」

だって、流されちゃったのはあたしだし。青山さんに魅力を感じてなかったって言ったら、ウソになるし。

「香月さん」

「あたしは大丈夫よ」

あたしは、自分の布団に寝かされている事を確認した。自分の部屋であることも、はっきり見えてきた。

「香月さん……すみません」

「何度も謝らないでください。あたし……嫌じゃ、なかった、です、よ」

ちょっと、背伸びして、そう言ってみた。それを聞くと、青山さんは、ぱっと顔を明るくした。

「青山さん、もう行った方がいいんじゃない??徹夜仕事になっちゃいますよ」

「そ、そうですね……」

青山さんは、あたしのことを心配しつつ、仕事のことも気にかけてたみたい。なにより、あたしも睡眠時間を削って仕事したんだから、今日、作業してもらわないと意味がないし。

「じゃぁ、すいません。先、編集部に戻らせて頂きます。ホント、すいません」

青山さんはいつもの調子に戻って、ぺこぺこと頭をさげた。

「鍵はいいわ。後で起きたらかけるから……」

あたしは、またまぶたが重くなってきた。なんだかもう、何もしたくない。眠い。

「は、はい。それじゃぁ、失礼します」

ドアが閉まる音がした。あたしは、そのまま、鍵もかけずに、眠りに落ちていった。

 

 

それから数日間は、青山さんから連絡はなかった。きっと、入稿準備に忙しいんだろう、って思ったわ。その間、あたしは、次回作のプロットを書きはじめた。次の仕事に入るまでのちょっとした休みだっていうのに、休んでられないのよね。なんか、いつも漫画関係のことを、してなくちゃいけないような、気がするの。ベテランの作家さんで、家事、育児をこなしながら仕事してる先生とかいらっしゃるけど、あたしには出来ないわ。

それにしても、あたし、青山さんともやっちゃった……。一体、どんだけ流されやすいのよ。好きとか嫌いとか、そういうことより、快感をとっちゃう訳よね。あー。最低。それもこれも、ちゃんとした彼氏がいないのがいけないんだわ。リアルでは、出会う暇なんてないから、ネットで出会いを探しちゃおうかしら。

そうやって、PCに向かってる時、スマートフォンが鳴った。表示された番号から、青山さんだってすぐにわかったわ。

「はい、香月です」

『青山です。お疲れ様です』

「お世話になってます」

『あの……、献本が出来たんですけど、取材のお礼用にニ冊必要ですよね』

献本っていうのは、その雑誌に描いた作家さんに渡される雑誌ってことね。もちろん、タダ。今、青山さんは、”あたしの分と、尾崎さんの分が必要ですよね”、って言ってる。

「はい、そうですね」

『献本ですけど、直接、渡しに行かれますか?』

「そのつもりですけど……」

『僕も、担当編集として、一緒に行きます』

「はい……。……って。ええっ?!」

あたしは思わず、変な声をあげちゃった。

『僕が、尾崎に香月さんを引き合わせた原因ですので……。今週の水曜、空いてますか』

「はい、空いてます」

『じゃぁ、三時に、レストランの前で待ち合わせましょう。尾崎にも伝えておきます』

「は、はい」

そうよね、献本を渡しに行くのは当然……。編集がついてくるかこないかは、場合によるけど。普通、あたしぐらいのランクじゃ、ついてこないのよね。やっぱり、尾崎さんを警戒してるのかな。

……あれから、青山さん、何も言ってこないけど、あたしのこと、どう考えてるんだろ。好き、って言ってくれたのは覚えてるけど。それ以上の進展は、ないのかしら。あたしって受身すぎ??だけど、一編集さんだって思ってた人から、告白されたんだもの、頭の整理がつかないわ。それに、尾崎さんのこともあるし。二人とも魅力的よ。尾崎さんは、遊び人かもしれないけど。この二人に恋愛感情がついてくるかっていうと、自分でもよく分からないの。

『じゃぁ、十三日の午後三時に。よろしくお願いします』

「はい」

あたしは、電話を切った。当日、ニ人の前で、あたしはどんな顔をすればいいのかしら。

 

 

献本、受け渡し当日。

あたしは、レストランの前でちょっと待った。今度は、ブーツやワンピを流行りモノに買いかえた。これで、人前に出ても恥ずかしくないわ。前のブーツは捨てちゃった。大体、ブーツってひと冬で使い潰せないのに、どうしてコロコロ流行が変わるのかしら。物持ちがよければ五年ぐらいもちそうよ。

そんな事を考えながら、少し、靴ずれで痛む足をぶらぶらさせてると、青山さんが走ってあらわれた。今日は、リュックを背負っている。

「すみません、待たせてしまいましたか?」

「大丈夫、まだ時間前ですよ」

「入りましょう」

そう言うと、慣れた感じで、青山さんがレストランの中に入っていく。あたしは、その後をびくびくついていく。

また、あの尾崎さんに会うんだ。って思ったら、また胸がドキドキしてきちゃったわ。青山さんを見ても緊張しないのは、きっと、外見の完成度のせいかもしれない。青山さんが髪を撫で付けて、スーツでもびしっと着こなしたら、あたしは青山さんにドキドキするかもしれないわ。

客席を通り過ぎて、バックヤードに入ると、青山さんは、「尾崎!」と声をかけた。どこからか、小さく、「おぅ」と返事がした。あたし達は、休憩室に入った。すると、尾崎さんが、廊下の奥から出て来た。

尾崎さんは、相変わらず完璧だった。堂々とした身のこなし、そして、余裕のある笑顔。

「先日は、よくもやってくれたな」

尾崎さんの第一声がこれだった。あたしは、きょっとーんとした。もしかして、ポットの事??

「お前が悪いんだ」

青木さんは、今までにない攻撃的な調子で、言い返す。

「おかげで、タレントよろしくドーランで隠さなきゃいけなかったんだぞ」

「それは大変だったな」

会うなり突然、火花を散らし始めて、あたしは二人が何を言ってるのか分からない。あたしはこそっと、「あの……なにがあったんですか……??」と聞いた。

「こいつがいきなり、殴りかかってきた。頬骨にあざができてね」

と、尾崎さん。

「当然の報いだろ。うちの作家に手を出して!!」

青山さんが、意外なほど大きな声を出した。あたしはびっくりしちゃった。いつもの青山さんじゃないみたい。

「合意の上だ!!」

尾崎さんが、ちょっと高圧的に言った。合意……してたのかしら。でも、無理やりじゃなかったし、あたしもそれなりに気持ちよかったわけで……。

「いや、香月さんは合意してない!!」

二人は、怒鳴りあいながら、どんどん距離を狭めていく。これって、一触即発ってやつ??あたしは、ヤバいと思って、二人の間に入って、両手を伸ばした。

「まぁ、まぁ、ちょっと、待って」

あたしが手を伸ばした事により、二人は少し後退した。だけど、じっとにらみ合ったまま。怖い。これで男同士のケンカがはじまったら、あたしには止められない。っていうか、献本を渡しに来たんじゃなかったっけ。

「お前みたいな遊び人に、香月さんを触る権利はない」

青山さんの目が、怒りに燃えている。いきなり友人に殴りかかるぐらい、あたしの事を心配してくれたんだ……。そう思うと、ちょっと胸が痛い。だって、あたしが尾崎さんに流されなければ、青山さんが、そんな行動に出ることもなかったんだから。あたしのばか。

「遊びじゃない。ちゃんと可愛いと思った。来るのを心待ちにしてた。なのにお前が……」

どきん、と、心臓が跳ねる。うそ……尾崎さん、あたしの事、可愛いって言ってくれたのは、本気だったんだ……。信じてよかったんだ。初めて会うのに、いきなりえっちするなんて、慣れてると思った。だから、尾崎さんの事を、信じられなかったの。

「嘘だ。お前はいつもそう言って、女の子をもてあそぶんだ」

「そんなことはもう卒業した。きちんと付き合いたいと思ってる。お前が連絡先を教えてくれないから……」

「教えるわけないだろ!!」

えんえんと続く言い合い。どうなっちゃうの??……っていうか、原因はあたしなんだけど。あたしは、おろおろして、二人の間を行ったり来たりした。二人が言い合うたび、あたしが責められているような気がした。ごめんなさい、ごめんなさい!!と土下座したい気分だわ。

「香月さん、君はどうなんだ??俺とこいつ、どっちをとるんだ??」

尾崎さんが、あたしを向いて言った。あたしは、びくんとして、身をすくめた。

「そうだ、ちゃんと、香月さんの気持ちを聞かないと」

青木さんも同意して、こちらを向いた。

合計四つの目が、あたしのことを射抜く。ああ。どうしよう。恐れていた事になっちゃったわ。あたしは、どちらも選べないし、選ぶ権利はないと思ってる。それってずるい??いままで、選ばれたから付き合うような恋愛しかしてこなかったんだもの。恋愛漫画家が恋愛ヘタなんて、おかしな話。

尾崎さんは尾崎さんで、ちょっと強引だけど素敵だわ。でも青山さんは青山さんでアットホームな優しさが魅力。変な話、どっちも好きよ。でも、そんなこと言ったら、尻の軽い女だって、ケイベツされそう。でも、本当に自分の気持ちが分からないんだもの。お願い、許して。

 

「俺と青木、どっちを選ぶ??」

「香月さん、僕と尾崎、どっちがいいですか」

尾崎さんと青山さんが、言った。

 

………あたしは、二人の勢いに、おそるおそる口を開いた……。

 

 

(この作品は『旧題:許してそんなこと。』を加筆修正して掲載しております)

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