冷酷刑事になぜか溺愛されています【第三話】

第三章 冷めない熱

 

(黒崎部長が起きる前に帰った言い訳を……本人に言う、と?)
できるわけない。なぜ、この状況で聞いてくるのだろうか。逃げられずに、彼の腕の中にしっかりと囚われている。
近すぎて高鳴る心臓の音が聞こえてしまいそうだ。距離を空けたいのに、逃げられない。
「なぜ先に帰った?」
「あ……あ、えっと。その……言わなきゃ駄目ですか?」
「言えない理由があると?」
「そう、いう、わけでも……」
全く言えないわけじゃない。重大な秘密が隠されているわけじゃないし、できるなら言いたくない。そんな程度なのはわかっている……が——。
彼の温かい体温と煙草の匂いが香ってくると、鼓動がますます早鐘を打ちつけた。頭の中に心臓が移動してしまったのかと言わんばかりに、鳴り響いている。
恋焦がれているのは岡本のはずなのに。ドキドキが止まらないのはどうしてだろうか。
「どうしたらいいのか……わからなくて」
「は?」
「二人で寝て起きた後に、どういう顔をしたらいいのかわからなくて。着替えるタイミングとか……その、いろいろと。で、そういうことを考えだしたら、寝ている間に帰ってしまえば……という考えに至ったので帰りました」
「……可愛いかよ」
「えっ?」
何を呟いたのか、よく聞き取れずに顔をあげると黒崎が赤い顔をしていた。愛依と視線が合うなり、顔を背けられてしまう。
「理由は、わかった。次は勝手に帰るなよ」
「……え? 次、あるんですか?」
「……は?」
黒崎の黒い瞳が、愛依に戻ってくると見つめ合った。
「悪い大人に引っかかったと思えって」
「素直かっ! こうも言っただろ、好きだ、とも」
「はい……ええっ?」
「これは——、お仕置きが必要か? それとも……躾、かな?」
「な、なにを」
黒崎が膝をつくと、愛依のスカートを捲り上げた。薄い下着越しに指先が、真珠に触れる。甘い痺れが身体に走って、愛依は膝が震えた。
「少し濡れてる……どうして?」
「んっふ、あっ……ここ、会議室っ……あっ」
「なら、声を抑えろよ。ちょっと抱きしめて、先っちょを触っただけなのに、もう濡れてるお前が悪い。これじゃあ、男は誘われているって思うだろ」
(ちが……触っちゃ駄目だから。声とかの前に、こういうことは、しちゃ……いけないのに)
心と裏腹に、身体は知ったばかりの快感に素直に反応してしまう。腰が勝手に黒崎のほうへと突き出てしまっていた。
ふるふると頭を左右に振りながら、愛依は両手で口を塞いで、漏れ出る甘い吐息を封じ込めた。それでも熱い息が漏れてしまい、荒い呼吸音だけが響く。
「先週まで何も知らない処女だったのに、な。すっかりここはオンナになってる。甘い匂いが……やばい、な」
「ちがっ……触る、から」
身体が勝手に反応してしまうのだ、と言い訳したい。が、知ってしまった快楽を求めてしまうのは本能だけじゃない。理性でも……欲しいとちらついている。触れるだけじゃない。もっと、奥の奥に突き刺してほしいと願ってしまう。
秘処を隠しているパンツが少しずらされると、黒崎の指先が弧を描くように直接膣口をなぞった。待っていた刺激に、愛依の背中が反りかえる。


けっして中には入れず、溢れ出した蜜をかき混ぜるだけ。くちゅと水音が小さく鳴る程度の触り方に、愛依は物足りなさを感じた。
「もっと……」と思わず出たお強請(ねだ)りの言葉に、ハッとして愛依は顔を真っ赤に染め上げた。言うつもりなんてなかった。むしろハシタナイ。
付き合っている彼氏でもない男性に足を広げて、お強請りするなど。淫乱の証拠だ。
「なに?」
「なんでもない、です」
「何か言ったよね? 『もっと』だっけ?」
「ちゃんと……聞こえてっ!」
「その先が知りたい。『もっと』なに?」
首を振って否定する。なんでもないのだ。『もっと』の先の言葉は言っちゃいけない。言ってしまったら、淫らな女に堕ちてしまう。
入り口を優しく撫でるだけの指が、いきなり蜜筒の奥に突き刺さった。
「んんっ!」
「こういうこと? 『もっと』奥に入れてほしい?」
「だめぇ……ここ、会議室、だからぁ」
「まだそんな余裕があるの? 何も考えるな、指だけ感じろ」
愛依の中に入ってきた指が、最初から激しく掻きまわしてくる。中に溢れだした蜜が、ぐちゅぐちゅと音を立てて、恥ずかしさをさらに煽ってくる。
身体の奥が熱い。かき乱されている蜜筒が、熱い。黒崎の指先が奥に刺さるたびに、身体がヒクつき、跳ね上がってしまう。快感の頂点は目前——で、彼の指がいきなり引き抜かれた。
「んぁ……え?」
(もう少しで……)
「イカせない。お仕置き、終わり。次はちゃんと言えるといいな」
立ち上がった黒崎が悪魔の笑みを浮かべて耳元で囁き、愛依の蜜で濡れた指を舐めると、会議室を出ていった。
(嘘……やだ、こんな状態で)
奥がジンジンと熱を持ち、疼いている。これでは仕事にならない。奥に溜まった熱を放って、楽になってしまいたい。仕事があるのに。

     ◇◇◇

なんとか態勢を立て直したというべきか。愛依は仕事に集中することで、下肢に疼く熱い欲望の渦を奥へと押し返した。考えないように。わざと仕事内容の独り言をつぶやくことで、自分は今、仕事中なのだと言い聞かせた。
午前中に終わらせたい仕事に区切りがついた愛依は、ふうっと息を吐きだして身体をリラックスさせた。回転椅子で背伸びをして、お昼はどうしようかと考え始めると、総務係に電話が鳴った。愛依が電話に出る前に、部長の深山が受話器を取って耳につけた。
「あ、黒崎部長、お疲れ様です。さきほどはどうも……え? 了解です。大川を下に行かせますね」
(わたし……?)
深山が受話器を置くと同時に、愛依は視線を動かした。
「宇佐美の件で世話になったから、黒崎部長の班で昼飯を奢ってくれるらしいぞ。行ってこい!」
「ええ? 私はなにも……むしろ深山さんのほうが対応してくれたわけですし」
「いいから、いいから。奢られて来いって」
(『黒崎部長の班』って言ってたよね? なら大人数のはず……)
二人きりでないのなら、さっきの続き、とはならないだろうし、いろいろと安全なはず。いや、むしろ二人きりのほうがいいのか? そしたら奥で疼く熱を……。
邪な考えに、愛依は被りを振った。いつから自分はそんな浅ましい考えをするようになってしまったのか。違う、自分は淫らな人間じゃないと胸に手をあてて、刻み込んだ。
愛依は鞄を腕にかけて地域課を出ていく。階段で下に降りて、裏口に向かった。そこには黒崎一人しか立っていない。
愛依は辺りを見渡すが、他に待っていそうな刑事課の人間はいなかった。もしかしたら、先に店に行っているかもしれないと思い直し、気持ちを落ち着けようとした——が。
「俺だけだ」とあっさりと班であることを否定されてしまった。黒崎が奢ると言えば、愛依が必ず断るだろうという彼の計算のもとで呼び出された。まんまとその罠にはまっていた。
浦賀署の近くにある蕎麦屋でランチを奢ってもらう。イタリアンやフレンチを奢られるより、気楽にご馳走になれると言えば、そうなのだが。やっぱり気は遣う。奢られるような仕事を、黒崎としたわけじゃない。たまたま宇佐美が来て、愛依が教えただけ。
天ぷら蕎麦を啜りながら、愛依はちらちらと黒崎を見やった。長身で、身体の線は細いのに筋肉はついている。顔も端正で、警察官よりもどこかのモデルをやっているといった方がしっくりくるのに。
(意地悪だけど)
憎めない。
さっきの会議室での一件だって、怒ってもいいと思う。でも怒れない。むしろあのままの状態で放置されたことを怒ってしまいそうだ。
「どうした?」
「いえ……別に」
「ちらちら見ても、何も変わらないぞ?」
「見てません。それに怒ってますから!」
「怒る? 頬を赤らめて、瞳も潤ませて? まるで誘っているようにしか見えないけど? 会議室での続きをしたくて辛いんじゃないの?」
テーブルの下で、黒崎の膝が愛依の固く閉じた足を広げさせて、間に入ってきた。
「つっ……つらくないですから。わ、私より黒崎部長のほうが辛いんじゃないんですか?」
(私だけ辛くてモヤモヤしているなんて、ズルいっ)
「ああ。辛いよ」
あっさりと認められてしまい、愛依は肩透かしをくらった。未消化の熱をそんなに簡単に認めていいものなのだろうか? 抱いていけない恥ずかしい感情なのではないのか? 人として、見せてはいけない欲望なのではないのか。
愛依は眉間に皺を寄せたまま、難しい表情を作った状態で氷のように固まってしまった。
「私の常識が一瞬にして、崩されたような気がします」
「性欲は隠せ、淫乱だと思われないように……エッチな人間は嫌われるから、とか思ってる?」
「なんで知って……?」
「一般常識だろ……でもさ、それってどうなんだ? 人間だって動物だろ? 子孫を残すための本能があるんだから。盛る気持ちを無理に隠す必要はないと思うけど」
「全く隠さないのもいかがなものかと……足、やめてください」
なおも両足の間に膝を入れてくる黒崎を睨みつけた。彼は残念と言わんばかりの表情で、肩を竦ませると、膝を引っ込めてくれた。

     ◇◇◇

「ご馳走様でした」と愛依は、店を出ると黒崎に軽く頭を下げる。
黒崎は笑顔で頷くと、長財布をズボンの後ろにねじ込む。ブブッと彼の胸ポケットに入っている携帯の振動音が聞こえて、愛依はちらっと視線をあげた。
「ああ。岡本からだ……ん? 大川、聞いてるか?」
「何をですか?」
愛依は、黒崎が見せてくれる画面をのぞき込んだ。
『来週末の予定を空けておいて。この前の合コンメンバーで鍋パーティをやるから』
(鍋パーティ? ……知らない。いつの間にそんな話になっていたの?)
そもそも愛依は合コンメンバーと誰も、アドレスの交換をしていない。幹事だった愛依の知らないところで何が起きているのだろうか?
「しら、ない……です」
「真夏に鍋って馬鹿か、あいつら」
呆れたように小さなため息を零した黒崎は、スマホを胸ポケットに戻した。
(知らない……どういうこと? なんで?)
幹事なのに。幹事だったのに……何も知らない。私の裏側で何が起きているの?
ピロンと聞きなれたラインの音がして、愛依も鞄の中からスマホを出すと小川からのラインだった。
『合コン、楽しかったから。グループライン作ったんだけど。そこで話が盛り上がって、鍋パーティやることになったから。愛依、予定空けておいてね』
(グループライン? 私……誘われてないのは、どうして?)
どうして私は——仲間外れになっているのだろう? 
目の前がぐにゃりと歪み、膝から力が抜けていった……。

 

第三話 了

 

※第四話を読まれる方は下記をクリックしてください。

冷酷刑事になぜか溺愛されています【第四話】

関連記事一覧
Related Post