ポンコツ魔女です、清純派騎士様を強制発情させてしまいました!?【第四話配信】

【第四話】

 

著者:百門一新 イラスト:龍 胡伯

 

「これは護衛騎士様。いやはや、最近は孫が戻ってきて手伝ってくれていますから、とても助かっていますよ。今日は患者用の薬をね」

「そうでしたか」

と、ルシアンの目が向いてアリエルはドキリとした。

「アリエル、できあがっているのなら僕が包みますよ」

「そ、そうね。それなら、これをお願い」

アリエルは、慌てて後ろからかごを引っ張り出した。カウンターの上に置いて、中に入っているいくつかの袋について説明する。

「これはグーパーさんので、こっちは、これからいらっしゃるトーマスタン夫人のもの。ついでにお願いできる?」

「分かりました。どちらも説明書を入れて、持ち帰り袋に包めばいいんですね」

「うん、よろしくね――あっ」

かごを渡そうとした時、ルシアンの手にアリエルの指があたった。

触れてしまうことなんて、これまでしょっちゅうあった。

それなのに、熱が走ったみたいにパッと二人して離してしまった。すっかり意識してしまっている。アリエルは恥ずかしくなって先に俯いた。

「ご、ごめんなさい」

「いえ。その、こちらこそ」

ぎくしゃくとした笑顔で互いに応答し、離れる。

アリエルは、カウンターの受付場所で待たせていた客のもとへ戻った。後ろには、まだ数人列を作っている。

「ごめんなさい、少し離れてしまって」

待たせてしまっていることへの申し訳なさで、みんなに謝った。

しかし、なぜか彼らは顔を見合わせ、揃ってにこやかな顔で「いえいえ」と言ってきた。

「焦らないでいいですわ」

「そうそう、アリエルさんの薬はよく効くし、こうして症状を聞いてワシらにも丁寧に調合までしてくださる」

「一人ずつ話を聞くだなんて、立派なことですね」

「えーっと、その、間違いがあったりしたら大変ですからね」

アリエルは褒められ慣れなくて、ははは……とぎこちなく笑った。

客足がようやく落ち着いたのは、それから午後のティータイムを回った頃だった。

常連客の来訪も偶然重なって、普段の休み明けよりも忙しかったようだ。お店を構えた時から通ってくれている商人が一人、入店してきてちょっと驚いた顔をした。

「壁の棚に並んでいる薬草箱も、ガラガラですね」

「ちょっと作る量も多くて……」

「なるほど」

彼は、察したようだ。

「丘から出てくる人の数が続いていたので、なんとなく推測はしていたんですよ。腹ごしらえをしながら、タイミングを待っていて正解でした。騎士様もさぞ大活躍されたことでしょう」

「うん、ルシアンには本当に助かったわ」

アリエルは、ようやく一人の客となった彼の向こうを窺った。

そこには、持ち帰り用の袋に『魔女アリエルのお店』のシールを張り、丁寧に折り畳んで箱に並べて詰めていくルシアンの姿があった。

彼は訪問してからというもの、ずっと動いている状態だ。

休憩してもいいと伝えたのだが、進んで仕事をみつけていた。

(気まずいのは……申し訳なさもあるんだわ)

ゆっくりして、話すタイミングを作りたくないのだろう。

そう思ったら、寂しさを覚えて胸がぎゅっとした。この間の一件はアリエルのせいなのに、彼に罪悪感を抱かせてしまっている。

彼と、ギスギスした関係になるのは嫌だった。

(どうにか時間を置いたら、元に戻ってくれないかしら)

アリエルはそう考える。改めて謝罪するにしても、二人にはもう少し気持ちを消化する時間が必要なのかもしれない。

商人の視線もルシアンに向く。腹をくくってアリエルは口を開いた。

「えーっと、ルシアン。今日は大変だったでしょう? 私は外出の予定もないから、もう上がっていいわよ」

ルシアンがようやく顔を上げた。なんだか普段通りそう――と思っていたら、彼の黄金色の目がちらりと商人の方を見た。

なんだか違和感を覚えた。すると彼が、アリエルににこっと笑いかけて言ってくる。

「いいえ、大丈夫ですよ。僕のことはお気になさらず」

続けて、と彼の笑顔と手の仕草が伝えてくる。

気のせいか、なんだか妙な圧を感じた。

「そ、そう? なら、いいのだけれど……」

「アリエルも、これがあった方が助かるでしょう?」

「ええ、そうね。とても助かるわ。でも」

ここは屈せず意見を言おうかと思った時、商人が軽く苦笑して「アリエルさん」と止めた。

「もう少しいてもらった方がいいですよ。ティータイム明けを見計らって来る客もいるかもしれないし。綺麗なお嬢さんが、男と二人きりになるものじゃありません」

彼が自分を指差してそう言った。

アリエルはきょとんとした一瞬後、少しおかしくなった。

「冗談がお上手ね。それで、ご注文は?」

「ははは、これ以上事実を言うと騎士様に睨まれそうなので、そういうことにしておきましょう。薬草もだいぶ減った中で悪いとは思うのですが、こちらを頂きたくて」

商人が、ジャケットの内側からノートから切り取った紙を出した。

彼女はそれを受け取り、箇条書きにずらりと並んだリストを確認する。

「傷薬と応急処置用品一式と……あら、精霊除けと、彼らの目を誤魔化すために使えるハーブも書かれてありますけど、もしかして山を越える予定が?」

「その通りです。道中急ぐ旅なもんで、精霊にからまれても厄介だなと思いまして」

「安心して、昨日摂ってきて全てあるわ。すぐに用意しますね」

アリエルは、カウンターの中でくるりと後ろの壁の棚に向き合った。

早速、紙に書かれた薬と薬草、ハーブなどを確認しながら、希望量をかごに入れていく。

高い位置の棚のものは、カウンターの内側に常備してある箒に乗って、ふわりと浮かんで必要な分を引っ張り出した。

「いや~、何度見ても面白いなぁ」

カウンターに腕を乗せ、商人の男は楽しげに目を細める。

「そう?」

「踏み台のかわりに魔法の箒ですからね。魔女の店だけの名物ですよ」

魔女の店は、国内では指で数えるほどしかない。その働く様子を物珍しがって、薬を試しに買いに来つつ見ていく者達もいた。

(確かに、見慣れない光景ではあるかもしれないわね)

箒の上でそんなことを考えていると、ふと下から声がした。

「アリエル。また頭でもぶつけたら大変ですよ」

見下ろすと、いつの間にかカウンターの内側にルシアンがいた。目が合うなり、彼は両手を軽く広げて言う。

「降りていらっしゃい」

飛ぶ魔法だけは完璧なのに、昔からルシアンはこうだ。

客の前で成人前当時のアレやコレやの失敗談を上げ注意されてもたまらないので、アリエルはルシアンに従って、ふわりと箒から降りた。

ルシアンが抱き留めて、ゆっくりと床へ下ろす。

商人がカウンター越しに首を伸ばし、珍しそうにしげしげと眺めていた。

「ほぉ、まるで羽みたいに軽そうですね」

「彼女達は浮遊魔法が使えますから。箒は、あくまで補助なんです」

「なるほど。さすがは護衛騎士様だ」

商人は親しげに笑ったのに、ルシアンは視線すら返さず、いつもみたいに愛想のいい顔もしなかった。

場の空気が悪くなりそうな気がして、アリエルは慌てて会話を繋げた。

「私は一人で降りられるんだけど、エスコートでもするみたいに、ルシアンはなんでも手助けしようとするのよ」

「うんうん、アリエルさんも慣れているみたいだなとは感じていました。しかし、人に降ろしてもらう光景は初めて見たな。どんなものか試してみたいものですが――」

「僕だけの特権です。彼女の騎士ではないあなたがする必要はない」

ようやく彼を見たかと思ったら、ルシアンがぴしゃりとそう言った。

「アリエル。彼へ商品を」

「ええと、そうね」

せっつくような声で言われて、アリエルは急ぎ包装に動き出す。

「お待たせしてしまって、ごめんなさい。どうぞ」

代金をもらったあと、急に空気を悪くしたルシアンのことも兼ねて謝った。大きめの袋を受け取った商人が、分かっていると伝えるかのような苦笑を浮かべた。

「気にしていませんよ。今日は客もたくさん来たんでしょう?」

「ええ、まぁそうだけど。それが何か?」

「アリエルさんは、どんな人とも仲良くなるのが得意ですからね。みんなに仲良しで、放っておかれて騎士様はもやもやしているんですよ」

「そんなことはないと思いますけど」

商人の推測がおかしくて、アリエルはまだ同じカウンター内にいるルシアンを振り返る。

「僕は、面白くないです」

真っすぐ見下ろした彼に、そう言われた。

目が合った矢先だったアリエルは、じっと見つめられて、なんだか頬が熱くなってきた。

「そ、それじゃあ見送るわっ」

商人がニヤニヤと眺めているのに気付いて、彼の視線を振り切るように慌ててカウンターを出る。ルシアンがついてくるのを感じて、商人を扉の方へと向け背中を押した。

「おや、もう少し喋ってくれていてもいいんですけど」

「旅を急ぐんでしょうっ? ほら、馬車が待っているわよっ」

開いた扉の前まで来たら、停まっている大型の馬車が見えた。もたれて立って待っていた彼の部下達が、まちくたびれた様子でさっと向かってきて、荷物を受け持つ。

「アリエルさん、今回もありがとう。助かりました」

「リーダーのお喋りで、困らせませんでしたか? お喋りなのは商人柄なんです、許してやってください」

「さっ、行きますよリーダー!」

逞しい男が掴んで引っ張り、商人が持たされた帽子を悠々と被りながら「それではさようなら」と言った。

男達は、あっという間に大型の馬車へと乗り込んで、丘を下り去っていった。

馬車が木々の向こうに見えなくなったところで、アリエルは一息ついた。

「ふぅ。これで一旦落ち着いたわね」

ようやく客がゼロになったことを思った時、不意に後ろから片腕で抱き寄せられた。驚くアリエルを店まで後退させ、ルシアンが『休業中』の看板を立て扉を閉めた。

そして、ガチャリと鍵をかけた。その手はアリエルの身体へと回ってきて、簡単に両腕の中に閉じ込められてしまう。

(こ、これは、一体どういう状況?)

アリエルは、後ろから抱き締められている状況に心臓がばくばくした。

首筋にかかる彼の息で、鼓動は早急に速まっていく。

「ルシアン? あの、一体どうしたの?」

先日の濃い触れ合いで分かったが、意外と鍛えられ逞しい彼の胸板を背中に押しつけられるのは大変落ち着かない。

「箍が外れたら、今までこらえていたことが全部たえられなくなって」

「た、箍?」

よく分からないことを言われる。

たぶん、胸がドキドキしすぎて、うまく考えられなくなっているのかもしれない。ひとまず状況整理も兼ね、アリエルは先日のこともついでに話しておくことにした。

「あのねルシアン、その、この前のことなら気にしなくてもいいのよ。私――」

言いかけたアリエルは、肩と首の間に顔を埋めてきたルシアンの鼻先が、ぐっと肌に押しつけられる感触に息を止めた。

「君からは、甘い香りがしますね」

そんな覚えはない。

魔法薬の調合は繊細な作業なので、王都の娘達のように香水をつけてしまったら、香りの変化確認の邪魔になる。

そんなことを考えていると、ルシアンの息が耳元にかかって心臓がはねた。

「もしかして、この前の薬の香りが残っていたりしますか?」

「え? いえ、それはないないっ」

アリエルは咄嗟に素早く答えた。

 

〈第五話へ続く〉

ポンコツ魔女です、清純派騎士様を強制発情させてしまいました!?【第五話配信】

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