ポンコツ魔女です、清純派騎士様を強制発情させてしまいました!?【第三話配信】

【第三話】

 

著者:百門一新 イラスト:龍 胡伯

 

一章 まさかの媚薬効果が継続中!?

 

その翌日。

ディアンド王国の王都には、いつも通りの朝が訪れていた。美しい景観の中、もっとも華やかな王の宮殿では――二階の私室から大爆笑が響き渡っていた。

「あっははは! それで美味しく頂いちゃった、と」

改めてそう事実確認をしたのは、王都の【魔女】の管理責任者、第一王子フレデリック・ラルグ=ディアンドだ。

フレデリックは十九歳で王位継承権を持ち、『ラルグ』のネームを与えられたディアンド王家嫡男だ。目立つ金髪と碧眼は、彼の美しさを更に引き立てている。

しかし女性達を虜にする強気な性格の滲む美麗な顔は、今や笑いで年相応の若さを見せていた。

その向かいの席に、護衛騎士ルシアンは腰かけていた。

「素敵な時間を過ごしてしまったのは認めます」

人払いがされた室内の中、主にそう正直に語ったルシアンは「はあ」と顔を押さえる。

「時期をみてプロポーズしようと思っていたのに、ほんとにあの人は……」

今から四年前、二十一歳の時にルシアンは十五歳のアリエルと対面を果たした。陛下達は、魔女の里からきた教育係を名乗る美しい魔女に夢中だったが、彼は、彼女の後ろに隠れているアリエルだけを見ていた。

小さくて、ふわふわしている。

アリエルの第一印象はそうだった。強い癖っ毛のクリーム色の髪は、髪留めさえしておらず〝魔女のローブ〟で覆っていた。大きなサファイアの瞳は、迷惑をかけるという予感で申し訳なさに揺れていて――。

『は、初めまして。魔女のアリエルと申します。め、迷惑が嫌になったら、す……っ、すぐクビにしてくださいぃぃ!』

そして、ルシアンは紹介されたその場で泣かれた。

魔女がクビになるなんて、聞いたことないけどな……と当時ルシアン達は思った。

魔女の里から共に来た美人な魔女が、そのあとアリエルをなぐさめていた。信頼され、泣きつかれている姿を前に、ルシアンは羨ましいとこっそり思った。

あの時に込み上げた感情は、今になって思い返せば小さな嫉妬に近かった。

『それでは頼んだぞ、ルシアン』

フレデリックの父である国王に直々に言葉を頂き、見ていた王侯貴族達の前で〝公認の魔女の護衛騎士〟になった瞬間、爵位を賜った時以上に胸が熱くなった。

そしてようやく、彼は初めてアリエルの手を取れたのだった。

今思い返してみれば、初めて目にした時から惹かれていた、としか言えない。

アリエルのびくつきようは、魔女の里でもかなり迷惑をかけまくったからだった。自他共に認めるかなりのドジっぷりだった。フレデリックにも『心してあたってほしい』と言われていたが、その通り、もう目が離せないほど色々とひどかった。

けれどルシアンは、アリエルと過ごす時間がとても心地よかった。

あの大きな目で一心に見上げられ、言葉を交わす時間は特別だった。

実は、護衛騎士を平部隊員で交代制にする案も出ていた。しかしルシアンは断り、また自身が持つ部隊の指示権を第一近衛騎士隊長へと一時委託し、フレデリックとアリエルのための護衛騎士として専念することにした。

恋だと気付いたのは、彼女が十六歳になった時だ。

一緒に街を歩いていた拍子に、身長が伸びた彼女が、ふと目線の高さに少しだけ近付いたと笑った時だった。

『これで、子供扱いから一歩前進よね!』

――ああ、僕にとってはいつだって、君は一人の女性だった。

魔女でもなく、少女でもなく、ただただ目の前にいる『アリエル』を自分は見ていたのだと、ルシアンは気付かされた。

それからというもの、ルシアンの生活は一層アリエル中心になった。

会えない時だって、彼女のことで頭はいっぱいだった。

そして十九歳になった彼女は、すっかり大人の女性になった。細くくびれた腰のおかげで、肉付きのよくなった尻はローブ越しでもよく分かる。服を盛り上げる豊かな胸は、彼女の無垢と相反して色っぽい。

ルシアンは自制が強い方だ。ローブの前を開けている時、彼女がテーブルに大きな胸をのせている時だって、爽やかに微笑んで何食わぬ顔でやり過ごした。

だというのに、アレはない。さすがに抑制は不可だ。

「くっ、強制発情とかなんていう拷問だ……!」

ルシアンは昨日を思い返し、苦悶の声をもらした。

あの時、アリエルの中に自身を入れたくてたまらなくなった。奥まで突き上げ、何度だって精を放ち、ここで彼女を孕ませたい……そんな情欲に理性が飛びそうになっていたのだ。

恐ろしい魔法薬である。

それもこれも、都合のいい条件を備えた、例の依頼品〝魔法の媚薬〟のせいだ。

相手に〝初めての痛みを与えないもの〟で、男性が飲むことで、触れる部分から女性側にも媚薬効果を与える魔法薬だ。

だからルシアンが滾った自身を挿れた際、体内に直接魔法薬を受ける形になって、アリエルも甘い声を上げ乱れに乱れたのだ。

しかし、それはルシアンが一芝居打ってしまったせいでもある。

魔法薬での強制発情とはいえ、彼女との初情交だ。膣内で気持ちよく感じてもらいたくて、自然とそうなるように持っていったのである。

だからそれを詫びるように、一回では到底満足できなかった自身に我慢を課し、汗と体液に濡れて色気むんむんのアリエルの身体を清めてベッドも綺麗にして去ったのが昨夜だ。

「――フレデリック、正直に答えてください。あれは、あなたが依頼したものですよね?」

幼少期から騎士としてついていたルシアンは、一人の年上の幼馴染として彼に尋ねた。

するとフレデリックが、悪びれもなく「そうだ」と答えてきた。

「お前がプロポーズする気配が全然なかったから、勇気でも持たせてやろうと考えてな。あとでお前に渡してやろうと思っていたのに、まさかアリエルのポンコツが発動して、超強力な強制発情剤になるとはな、くくく」

「笑い事じゃありませんよ。まったく、余計なことを……」

ルシアンは、ぐぅの音も出ず項垂れた。

抱いたアリエルの温もりや声を思い出すだけで、彼のオスはじんわりと熱を持つ。

夢にまでみたアリエルの中は、挿れた瞬間に出してしまいそうなほど気持ちよかった。強制発情という状況もあって、交わりながらも服を脱がせる余裕もなく。

だが、胸を見たい、もっと触りたいという衝動をこらえて良かったと思っている。

ようやく愛しい彼女を抱けたのだ。一回きりの媚薬の効果が終わったとしても、恋を自覚して三年もずっと抑え込んできた欲望が、もしアリエルの白い胸まで目にしてしまっていたら、一晩中むしゃぶりついて初恋の人を抱き潰してしまっていただろう。

「さすがは奇想天外で予測不能な魔女だな。ルシアンのこんな姿が見られるとは」

フレデリックが、ぶっくくくと笑いを噛み締める。

「強制発情だなんて、さすがの僕もなす術がありませんよ」

「堅実なイメージが強いお前だから、これを知ったらメイド達が面白おかしく噂しそうだ」

「フレデリック」

「しないって。俺の騎士と、アリエルの名誉を守るためにも」

ルシアンの睨みに、フレデリックが咳払いの仕草をして笑いを止めた。だが、笑顔を消せていない。

(楽しんでいるな……こっちは一晩中悩まされたというのに)

魔法薬は切れたはずだが、一度外れた箍はなかなか戻らない。

屋敷に帰宅したのちも、寝るまでの間に、抱いた彼女を思い出しては複数回抜いてしまっただなんて知られたら、余計にからかわれそうだ。

ルシアンは色々と思った末、大きな溜息をもらした。

「彼女は予測不能なところがありますが、ただうっかりなだけですよ」

でも正直、抱く相手にも影響を与えるSSランク級の魔法の媚薬が、更に強力な『強制発情剤』に進化したのには参った。

(一般的な媚薬にも対応できるよう訓練されているのにな)

アリエルがほしい、孕ませたい。

普段抑え込んでいた気持ちが爆発するみたいに、情欲の熱が体の中で暴れ狂い、ルシアンの身体がアリエルを欲した。

こんなにも好きでいるのに、全然気付いてくれなくて――それゆえか、他の女性を自分の家でルシアンにあてがうと聞いたあの瞬間、切れて半ば自分から発情状態を受け入れていた。

「それで、どうするんだ?」

「……なんとか、考えてみます」

ルシアンはまた熱が込み上げそうになって、フレデリックに気付かれる前にと席を立った。

 

◇◇◇

 

その頃、アリエルは自責の念に駆られていた。

付き人のごとく甲斐甲斐しく世話を焼き、店の手助けまでし、守ってくれている騎士様を強制発情させちゃうとか、あり得ない。

ルシアンが、どれだけ生真面目で誠実な騎士かは知っている。

彼は、魔女の里でも『ポンコツすぎる問題児』と言われ、先輩魔女達も教育係を投げ出したアリエルの面倒を、辛抱強くみてくれている。

『僕のことは、ルシアンと呼んでください』

初めて会った時、ルシアンは年下のアリエルにそう丁寧に言った。

彼は伯爵位を持っていて、騎士としてもかなり高い身分にいる。魔女は貴重な存在とはいえ、他の魔女達のように生活魔法も使えないアリエルの方こそ敬語で話すべき相手だ。

それなのに、彼は出会った時からずっと優しかった。

『いつも通り喋っていいですから。その方が君も僕と話しやすいでしょう? 緊張しなくていいんです、僕は君の騎士なんですから』

『う、うん……なら、そうする』

初めて手を取ってもらった時、彼は身を竦めるアリエルの緊張をほぐした。

そんな彼をアリエルは強制発情させ、かなり恥ずかしいことをさせてしまったのだ。

ルシアンの自尊心やら騎士道精神を、いたく傷つけた。イチモツを突っ込まれて、あんあん言わされたのも仕方がない……。

「でも、私が気持ちよくなっちゃってどうすんのよぉおぉお!」

体がきつくて、今日は店を閉めることになったのは報いだ。しかし、結果的に罰にはなっていないのではないかとも思う。

元になった魔法の媚薬の効果は抜群だった。

秘められた場所へ初めて迎え入れた指も、彼自身も気持ちよくてたまらなかった。ルシアンと繋がっていた間、とくに最後は気持ちよすぎてうろ覚えだ。

(あんなに甘い声を出していたなんて、思い出したら死にそう……!)

アリエルはカウンターに額を打ちつけた。しかし何度も頭の中に蘇るしまつで、薬草の分類作業にも全然集中できないでいる。

恋愛なんて無理だろうと思っていたのに、贅沢にも、女性達に熱い視線を送られるルシアンに初めてを奪われてしまった。

(うっうっ、全女性の皆さん、本当にごめんなさい……)

一度でいいから、とルシアンに抱かれたがっている女性が大勢いるのは知ってる。

アリエルとしても、知らない誰かよりルシアンが相手で良かったと思っている。

彼が優しいのは知っているし、怖くはなかった。自分が作った魔法薬のせいで、痛くもなかったせいもあるだろう。

……そんなことを言うと、全女性を敵に回しそうなので言えないけど。

この事態がバレたら、と考えると恐ろしさと反省が込み上げ、媚薬や発情効果に関わる材料は全部処分した。

王城から依頼のあった魔法の媚薬は、その前に速攻で作り直した。今朝、別件で商品を取りにきた宮廷医に、ついでに持っていってくれないかと頼んだ。

「魔女なのに専属の護衛騎士がいることが、そもそもあり得ないのよね」

アリエルは、打ちつけた額をこすりながら自分に落胆する。

残念なことに『箒で空を飛ぶ』以外の魔法もポンコツだった。攻撃も防御もあらゆる便利な魔法能力もいかせていない。

加えて、何もないところで、転んで危うく崖からダイブしそうになることもあった。

料理をしようとしたら、材料を全部だめにして空腹地獄だって味わった。

魔女の里の頼みで国王が保護を引き受け、一任されたフレデリックが自分の一番信頼している護衛騎士ルシアンをアリエルにつけた。

本来の彼の役目は、アリエルを守ること。

「それなのに私っ、販売からプライベートまで世話を焼かれている……!」

これまでを振り返ったら、今度は罪悪感で死にそうになった。

人のいい彼は忙しいと客の対応に入り、時には店の開店や閉店を手伝い、アリエルに紅茶を淹れたり買い物の荷物持ち係になったり……。

「そう考えると、彼が不憫!」

アリエルは、ワッと泣いて顔を手で覆った。

彼は、アリエルの世話をするような身分の人ではない。

あんな素敵な騎士様をこき使っているだなんてと、王都の女性達は思っているはずだ。彼は同性からも尊敬を集めるいい人なので、男性達も呆れているに違いない。

これまでの巻き込み被害を考えると、彼本人がプッツンするのも時間の問題だ。

(こ、これは……本格的に自立を考えなければ)

そうしないと、近いうちに鬼のように怒った彼を見るハメになるかもしれない。

そんなのは嫌だし、怖すぎる。

それに、これまで辛抱強く護衛し続けてくれているルシアンに見放されてしまう。その前に、なんとしても彼から卒業できるように頑張らないとだめだ。

だって、と思ってアリエルはローブの胸元を握りしめる。

(ルシアンには、嫌われたくないわ……)

自分の元から去っていった教育係の魔女達を思い出し、胸がきゅっとした。

まずはお店のこともしつつ、自立するためにどんな方法があるか考えようと思った。

 

◇◇◇

 

その翌々日、アリエルは万全の用意で開店した。

店の足りない薬草や材料をチェックし、薬草を集めるため箒であっちの山こっちの森へと飛んだ。丘の下の張り紙を見て調達準備を知っていた客達も、欠品は無しと期待して朝から休みなく来てくれた。

ひとまず通常営業をしつつ、自立する方法を考えるつもりだった。

でも、アリエルは今日も護衛騎士が来ることを忘れていた。客がひっきりなしに来訪する中、ルシアンが顔を出した途端、アリエルは考える余裕をなくした。

先日、奥の寝室であんなことがあったばかりだ。

ルシアンの方は、来客の多さを見てすぐにいつも通り案内などに入ってくれていた。しかし積極的に接客対応にあたり、彼が目を合わさないようにしているのはすぐに気がついた。

(うぅ、すごくぎこちない……)

アリエルも、客が続いているのをいいことに彼の方を見ないようにしていたのもある。

けれど客達は、人の出入りの多さもあって違和感を覚えていないようだ。

「おや、今日は大盛況だね」

丘のすぐ近くに住む老医師グーパーが、帽子を外しながらそう言った。

「グーパーさん、いらっしゃい! 子供にも使える痛み止めですよね? ご用意はしてあるんですけど、包むのはこれからで。少し待っていてもらえますか?」

「私は大丈夫ですよ。馬車で来ましたから、予約番号を取って馬車で待っていようかな」

その時、二人の女性客を見送ったルシアンが戻ってきて、グーパーのもとへ向かった。

「お久し振りです、膝のお加減はいかがですか?」

 

〈第四話へ続く〉

ポンコツ魔女です、清純派騎士様を強制発情させてしまいました!?【第四話配信】

関連記事一覧
Related Post