【第三話】
著作:葉月ぱん イラスト:南香かをり
真っ白なシーツの上に、髪を散らすようにして横たえられた。
ディナーデートの帰り。ホテルに直行した智花と一心は、いつものように身体を重ねる。
――水族館デートから、約半月が経った。
一糸まとわぬ姿でベッドに寝転ぶのなんていつ振りだろうか。小さなころ、お風呂上りで布団にもぐり、直接感じる寝具の柔らかさに驚愕し、そのまま寝て風邪を引いた以来かもしれない。
あのころは何も考えていなかったな、としみじみ大人になった自分を振り返る。
「あ……っ」
それも余裕があれば、だろう。
白雪のような肌が赤みを含んで、口づけを受け入れる。二の腕から鎖骨にかけ、細い首筋へと真紅の薔薇が散らされるたび、自分のものじゃない声が溢れる。
「明日も、その……仕事、だから」
「じゃあ見えないところに」
「ん……んぅ」
舌を使ってくすぐって、鎖骨から乳房へと口づけていく。
桜色になった乳頭を捏ねるように上から押さえつけ、左右に振る。固さを確認し、つねって伸ばし、ゆっくりと舐る。玩具で遊ぶようにして簡単に弄ばれる智花は、すがりつくようにシーツを握りしめる。
枕を掴み、乱れた彼の頭髪を撫で、ピリピリと伝わる快感に歯を食いしばる。
閉じようとしても開く足はそのままに、智花は口で呼吸を始めた。はあ、はあ……荒くなる呼吸は、一心を呼び寄せる。円を描くように乳房を揉みこみながら、彼は智花の唇を食む。充血して、ぷっくりとした艶のある唇を舌でなぞり、歯を当て、吸い込む。
歯茎の外側を撫でて侵入する舌は、自然と受け入れてしまう口腔によって、歯列を越えて唾液を交換する。舌を重ねて、絡めて、時には吸ってしごき入れる。
双丘にやっていた彼の手はシーツを掴む智花の指を恋人繋ぎのようにして絡め取る。両手とも自由を奪われたら、繁みをノックする何かが顔を出す。
「待っ……」
「僕がいつ待てたと思う?」
耳たぶを食む甘い吐息に力が抜けた。
痙攣するようにぴくっと腰が揺れ、自ら蜜洞へと導いてしまう。上下に腰を動かし、濃厚に舌を絡ませながら、彼の熱塊の在処を探る。じれったそうに「ここだよ」と蜜洞の脇をノックされ、智花は喘いだ。
「いじ……わる……ぅっ」
「それは智花が悪いんだよ」
ベッドに入る時だけ、名前で呼ばれる。
きゅん、と胸が弾み、腰が深く沈む。お腹を空かせたように、茂みから垂れた涎はシーツに染みを作る。糸を延ばして垂れていく蜜は、いやらしい香りをふりまく。頭がおかしくなりそうだった。
「ねえ……一心……っ」
吐息を呑んで、智花は哀願する。
耐えられないとばかりに彼の腰に自らを押しつけ、灼熱を臀部の谷間に捕らえる。
「挿れ、て……?」
「いいよ。智花は好きだね」
「うん……うんっ」
頬を染め、繋いだ両手を握りしめ、智花は頷く。
「じゃあ、挿れるよ。力を抜いて」
言われた通り、力を抜くために息を吐き出す。
じゅくじゅくになった肉襞は、彼を求めている。初めて彼を知った夜を思い返し、胎を刺す灼熱に好奇の声を上げる。
「すご……っ、一心……んんっ!」
ゆっくりと身体の中に一心が入ってくるのがわかる。
喜ぶように腰が痙攣する。
淫らになってしまった。彼色に染められてしまった。
産声を上げた夜、苦悶が恍惚に変わっていったのを憶えている。
「かわいいよ、智花。ああ、こんなことなら……」
続く言葉はなく、抽送に専念する一心。
聞きたかった。けれども、逢瀬に言葉なんて要らないだろう。
快楽を貪るために、男と女が身体を交えるだけ。それ以上になにが必要だろう。
「あ、あぁあ……っ!」
智花は頂きへと駆けのぼっていく。
熱を上げた剛直が、押し拡げる膣の中でさらに膨張する。
なにもかもを呑み込む傍流を待ち望み、彼に合わせて智花も腰を打ちつけた。
「エッチだね、智花」
そんなことはない。
でも、エッチになってしまったというのなら、一心が悪い。
「それは、っ……いや……?」
溢れる蜜を掻き出す勢いに、瞳が潤む。見上げる彼は、少しだけ驚いた表情を浮かべ、首を振る。
「むしろ、好きかな」
「よかっ、たぁ……ぅ!」
小さな絶頂が襲い、頭が真っ白になる。
波立つ快楽に、緩んだ口の端から唾液が垂れた。舌で掬い取る一心は、求める唇に応えるようにして、智花に口づけを施す。舌が交じる。唇が吸われ、共有するように吐息が奪われ、苦しくなると同時におのずと蜜洞の締まりが増す。
ああ。さらに膨張している。
「智花……もうっ」
「きてっ、うん……いぁ、ああ!」
同時に果てようと、智花はさらに膣を締め上げた。力の入らない下半身を彼に巻きつけ、彼の熱を最奥に受け止める。
「い、……く――――ぅッ!?」
唇を塞がれ、声にならない嬌声を上げる智花。
痙攣する身体を貫くように噴き上がる白濁の灼熱に、脳が焼かれる。真っ白になる思考、明滅する視界、肌を焦がす快楽の余韻が、言語能力まで失わせる。
力の入らない身体から、彼が引き抜かれる。
蜜に混ざることなく、炸裂した白濁はコンドームの竿先を膨らませていた。
発情期の獣のように荒い吐息で、四つん這いになる一心は、使い終わったコンドームを引き抜く――そして、新たなゴムの袋を開けた。
「次は……?」
真っ白な頭で、いつも聞いた声に反応する。
頷き返し、細くて白い太ももを惜しげもなく広げ、濡れそぼつ繁みを披露する。
一度じゃ終わらないのはわかっている。二度、三度……いつ終わるのかなんて、数えたことがなかった。
それでも。
「愛してるよ、智花」
言葉と共に唇に落ちる口づけに、智花は笑みを灯す。
週一のデートのたび、快楽に溺れるぐらいは許してほしい。
「わたしも、大好き……一心」
「ああ……」
ベッドの上で愛を囁くたび、悲しそうに笑う彼の顔を忘れるために。
〈つづく〉
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