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『蜜愛の牢獄~メイドは反逆の宰相に乱される~』番外編 公開中!


5月27日から配信されている『蜜愛の牢獄~メイドは反逆の宰相に乱される~』の番外編を限定公開!
下記よりお楽しみください!!

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『蜜愛の牢獄~メイドは反逆の宰相に乱される~』番外編
著作:ただふみ

オデットは指示されたとおりにティーセットを持って王妃の間の前に立っていた。
やっぱり、この趣味は理解できない……。
大きくため息をついて項垂れれば、肩口で切り揃えられている銀髪が前方へと流れてくる。両手がふさがっているのですぐには髪を直せないが、それはそれで構わなかった。オデットは首を左右に軽く振って気持ちを切り替える。
この場所に戻ってきてからいくらか時間が経っていた。メイドとしての仕事ながら、オデットがお茶が冷めてしまうのを承知で立っていたのには理由がある。
先に進まねばと、まずはティーセットの持つ位置を変える。そして勇気を振り絞って豪奢な扉をノックする。
「オデットです。紅茶をお持ちいたしました」
中から返事があればと思って声をかけるが反応はない。
だが、これは想定の範囲内だ。
「……はあ」
憂鬱な気分だ。思わずため息をついてしまって、オデットは自分で自分が嫌になった。だが、これに慣れろと言われるほうがおかしい。何度も経験していても、その思考は消えてはくれなかった。
繰り返しノックしたところでどうせ反応は期待できないからと、オデットは王妃の間に足を踏み入れた。できるだけ音を立てないように意識して、テーブルを目指す。
なぜなら、敬愛する二人の邪魔をするわけにはいかなかったからだ。
「そ、そこはっ……やっ……んっ、シルベストルさまぁっ」
「ロゼリーヌ、貴女は本当に可愛らしいですね」
甘く鳴くロゼリーヌ王妃の声と、彼女を愛でるシルベストル陛下の声が隣室から聞こえてくる。二人はベッドで睦まじい時間を過ごしているところだ。
唇を貪る音とベッドが軋む音が耳に入って、オデットはへその下あたりが甘く疼くのを感じた。
やだ、また反応しちゃってる……。
身体があの甘く痺れる感覚を求めているのを自覚した。シルベストルの弟君によって教え込まれた甘美で背徳的な行為を、身体が思い出している。
だから、嫌なのに。
ロゼリーヌの側仕えメイドであるオデットは、二人から仕事を命じられれば断ることはできない。それに、こんな場面にほかのメイドを遭遇させるのはいろいろと憚れる。
シルベストルさまの趣味だとしても、ほかの人たちに拡まるのも考えものだもの。ロゼリーヌさまは気づいていないみたいだし。あたしさえ我慢すればいいんだから。頑張れ、あたし。
シルベストルが王妃の間を訪ねてきたときは、二人を部屋に残して一度退室する。その後、二人きりの部屋にお茶を運ぶようにと、シルベストルに頼まれているのだ。
運動後に水分を補給するのは理にかなっていると考えているので、オデットは最初は素直に応じた。初めて二人の睦ごとを聞かされたときはかなり動揺したが、これが陛下によって仕組まれたことだと理解したあとは割り切っていたつもりだ。
しかし、あの《事件》のあとは少し違う。
とにかく、さっさと仕事を片付けてしまおう。
薄闇の中、テーブルにティーセットを置く。あとは彼らにお任せだ。朝の支度のために部屋に入るまで、オデットが触れる必要はない。
音を立てず、無事に仕事を終えて部屋を出るべく歩き出す。そこで、ベッドルームから聞こえるのが話し声だけになっているのに気づいた。
「え……あの……胸で、ですか?」
ロゼリーヌの戸惑う声が珍しくて、オデットは自然と立ち止まる。思わず耳をそばだてた。
「えぇ。貴女の胸で挟んでしごいて欲しいのです。できるでしょう?」
一方のシルベストルの声は楽しげだ。
胸で挟む?
オデットは自分の胸元に手を当てる。それなりに質のいいブラウスの下には、控えめな二つの乳房があった。何を挟もうというのかはわからないが、自分の胸が何かを挟めるほど膨らんでいないことは明白だ。豊満な胸を持つロゼリーヌならなんでも挟めそうな気がするが、根性で寄せて上げて膨らみを強調させているオデットには厳しい気がした。
そういえば、少しは大きくなったのかしら?
ふとそんな疑問が浮かんで、オデットは早足で王妃の間を去った。自分だけでは確認できないと考えたから。

人目を気にしながら塔をのぼるのにもいくらか慣れてきた。
使用人たちのほとんどが寝る準備をしているか休んでいるかと思われる夜間。そんな時間帯にオデットが忍んで向かう先は、ある人物が幽閉されている牢だった。
見張りがいないっていうのもどうなのかしら。体調が急に悪くなったときなんかは困るでしょうに。
オデットは目的の牢の前までやってきて、ふとそんなことを思う。幽閉中であるはずの人物が見張りを追い出すように手配していることは知っているが、少し気になった。
ああ。あたしが来ることを前提にしているからいいのか。
真冬の夜はとても冷える。かじかんだ指先に息を吹きかけて温めると、質素な扉を軽くノックした。
「今夜は遅かったのですね」
鍵がかかっていなければならないはずの扉がゆっくりと開く。シルベストル陛下の弟君であり、幽閉中の前宰相――ジェルトリュドが顔を出した。
少し伸びた艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめているので、精悍な顔立ちがしっかりと見える。特に今は不機嫌らしく、冷たい印象を与える表情をしていた。それはオデットがよく知る幽閉前の雰囲気に近い。軽蔑するように見下ろす緑色の瞳は、その当時以上に冷ややかだ。
幽閉されている身なので、今はドレスシャツにトラウザーズという軽装にガウンを羽織っている。前よりも質素に過ごしているはずだが、王族という身分を剥奪されたわけではないからか生地は上質だ。そんな彼を見て、出会った頃の彼はもっと華やかだったなとオデットは思い出す。
とりあえず、顔色はよさそうね。
王宮から少し離れた場所にある塔は、この時季は特に凍える。風邪をひいて体調を崩してもおかしくはないのだが、今のところその心配はなさそうだ。
「シルベストルさまのお使いがありましたので」
オデットがよそ行きの笑顔で返事をする。彼のこういうひんやりとした態度にはある種の安堵感があった。優しくされたほうが、むしろ奇妙に感じられるのがオデットである。
「お使い? ――ああ、あの趣味ですか」
なんのことを言っているのか理解できたらしい。氷の表情がふっとやわらいで、オデットの手を引いた。抵抗することなく牢の中に引き込まれる。
扉が閉まり、牢の中で二人きりになった。
オデットの身体は壁にそっと押しつけられ、逃げ道をふさぐようにジェルトリュドは立って見下ろす。緑色の瞳に熱が宿り、オデットの顔を映したかと思ったときには唇を塞がれていた。
「んっ……」
抵抗しようかなどと考えていたのは触れられた瞬間だけで、オデットは自然と唇を開いて彼の舌を招き入れた。互いの舌を擦り合わせれば、クチュクチュと音が鳴る。
ああ、熱い……。
ここまでの道のりは寒く、身体はすっかり冷えていたはずだったが、口づけだけで芯から熱が広がっていくのがわかった。へその下あたりがじんと疼く。
「……お使いのあとの君はいつも情熱的ですね」
互いの唇を繋ぐ唾液の糸を名残惜しく見つめていたオデットは、ジェルトリュドの言葉に首を少しかしげた。
「そうですか?」
「見せつけられて、僕を求めたくなるのでしょう?」
忘れられていたわけではないとわかったからか、ジェルトリュドが機嫌をよくしている気がする。サラサラの銀髪を右手が愛でて、そのまま頬を、首筋を、そして胸元を撫でる。
「別に、そういうわけでは。ただ、あなたがあたしに刻んだことを、勝手に身体が思い出しているだけで」
彼を恋しいと思ったわけじゃない。ただ、あの刺激を思い出してしまっただけ。
誤解されたくなくて、オデットは感じたままを正直に言う。すると彼の手のひらが胸の先端をこねるように動いた。
硬くなっていた胸の頂から甘い痺れが全身に波及して、オデットは腰をくねらせた。
「それならそれで構いませんよ。……しかし、兄様によってこんなにさせられたとなると、悔しいものですね」
ブラウスの上から凝り始めた乳首を見つけ出して優しく摘む。ピクッと肩が震え、その様子をジェルトリュドはじっくりと観察していた。
「あ、あたし、何かされたわけじゃないんですけど、……やっ」
ロゼリーヌとシルベストルが行為にふけっているのを聞いてしまっただけ。聞かされたのも同然ではああるけれども。
乳首を指の間に挟み、しごくようにして胸を揉まれる。熱がどんどんと生まれてくるのがわかった。身体が熱い。
「君に触れたのだったら、こんなものじゃ済みませんよ」
貪るようなキスをされて、オデットの意識は溶けていく。
「……はぁ……ジェルトリュドさま……」
気持ちがいい。でも、物足りない。もっと直に触れてほしいし、もっと深いところで繋がりたい。
たとえ、そこに愛がなくても。

ベッドに移動して肌を重ねる。凍えるほどの冷気が部屋に入り込んでいるはずだが、それがかえって気持ちよく感じられるほどには互いの身体に熱を宿していた。
「ジェルトリュド、さまぁっ、んっ……ふぅっ」
「……オデット」
名を呼び合って、口づけをして。身体を何度も貫かれながら、悦びを感じる。激しく、それでいながら丁寧な抽挿の果てに、オデットの最奥に熱が放たれた。
「あぁっ!」
全身がガクガクと震える。甘い倦怠感に襲われて、オデットは汗や蜜でびしょびしょになったシーツに身体を投げ出した。
どうしてこんなに気持ちがいいのだろう……。
横になって呼吸を整えていると、隣に寝転んだジェルトリュドが華奢なオデットの身体を抱き寄せた。
「少しは発散できましたか?」
体力が余っているのか、ジェルトリュドの呼吸は乱れていない。それがなんとなく悔しくて、オデットは小さく膨れた。
「発散させるために、ここに来たわけじゃ、ないんですけど」
息が乱れたままなので途切れ途切れに文句をつける。
ジェルトリュドはふっと小さく笑って、オデットの耳たぶを甘噛みした。
「ひゃうっ」
達したあとのためか肌が敏感だ。いつもならそんなに感じないはずなのに、ぞくっとして想定以上に大きな声が出た。
「では、なんのためなんです?」
問われて、オデットは聞きたかったことを思い出した。くるりと身体の向きを変えて向き合う。上目遣いにジェルトリュドを見れば、不思議そうな顔で見つめ返された。
「……あの。胸で何を挟むんですか?」
ジェルトリュドの問いの答えになっていないのは承知で、率直に疑問を口にする。本題はこのあとだ。
オデットの問いに彼は目を瞬かせ、ぷっと吹き出した。
「何を言い出すかと思えば」
「挟んでしごくそうですけど」
覚えていた台詞を口にして、オデットははたと気づく。
あたしにはなくて、男性にはあるもの、だわ。
するとジェルトリュドは片目を細めて、冷たく笑った。
「へえ。兄様がロゼリーヌにそんな要求を。確かにあの豊満で肉欲的な身体ならさぞかし愉しいでしょうね」
そんな言葉に、オデットはますます不機嫌になった。
「どうせあたしは貧相ですよ」
ロゼリーヌを見ていると、自分の身体がより貧相に思える。食事をたくさん摂っても太りにくい体質らしく、かろうじて掴める程度の肉が胸と臀部についている程度。ジェルトリュドがそんな発言をすれば、ロゼリーヌのようなプロポーションのほうがよいに違いないと確信する。
あたしはあたしだからそれでいいって言っていたくせに。
ジェルトリュドに喜んでもらいたいわけでは決してないけれども、悔しいと感じてしまう気持ちは抑えられない。
「そうですね……確かに君の胸では僕を挟めそうにはありませんね」
オデットの台詞を肯定すると、ジェルトリュドは小さな膨らみに手のひらを被せて揉みしだく。
「んんっ……」
気持ちのよい場所を的確に責められている。自然と腰がくねった。
「ちょっ、ジェルトリュドさま、ずるいっ、あんっ」
離れようとすればさらに抱き寄せられて、首筋に吸いつかれた。続いて、汗ばむ肌に舌を這わされ、快感に震える。
「僕の手でこうして感じてもらえるなら、どんな体格だろうとそれで充分ですが。君はいつもロゼリーヌに嫉妬しますね。親友なんでしょう?」
「嫉妬なんかじゃ……あっ」
胸をいじっていない手が、股間を隠す茂みを滑って割れ目に触れる。しっとりとしてぐしゃぐしゃにぬかるんだそこを、指先がかき回す。
「ああっ、ダメ、やんっ」
「もっと高みに連れて行って差し上げましょう」
「ああっ」
次々と湧き上がる快感に、オデットは言葉を失う。自然とすべてを受け入れて、彼の手で再び達した。
「はぁっ……はぁっ……」
恨めしい気持ちでジェルトリュドを見つめると、彼は優しげに微笑んでいた。おそらくオデットしか知らない、心を溶かすのに充分な表情。
「君は胸が小さいことをかなり気にしているようですが、心配いりませんよ」
「それは、あたしはあたしでしかないからでしょう?」
そんな慰めの言葉がほしいわけではない。ジェルトリュドに言われたところで、この劣等感が消えるわけではないのだから。
すると、彼は首を小さく横に振った。
「ちゃんと大きくなっていますよ。ですから、心配無用だと思います」
「!」
オデットは目を瞬かせる。言葉が出ない。
「胸を育てるお手伝いならできると言ったではありませんか。ですから、このまま僕に抱かれ続けてくださいね」
チュッと口づけをされる。騙された気がするが、その口づけで騙されたままでいいような気になってしまった。
ジェルトリュドさまはずるい。
「さてと。ここからが本番です。気絶するほどの愛を刻みつけて差し上げましょうか。ロゼリーヌなどに嫉妬せずとも済むように」
眩むような色気を孕んだ笑みを浮かべたのを見て、どくどくと蜜が溢れ出したのを感じた。倦怠感も疲労感もあるというのに、ジェルトリュドを欲してしまう己の身体をオデットは浅ましいと思う。でも、やめられない。
ってか、なんであたしが、胸が大きくなっているかどうかを気にしているってわかったんだろう。
尋ねる前に組み敷かれ、深く口づけられる。するともう、問いのことなどどうでもよくなった。オデットは彼から与えられる快楽にすべての意識を注ぐ。 《了》

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6月24日配信『密約~ラシェルとふたつの白い薔薇』前日談 公開中!


6月24日配信予定『密約~ラシェルとふたつの白い薔薇』のショートストーリー(前日談)を限定公開!
下記よりお楽しみください!!

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『秘密』

アベル・デルランジュは知っていた。
いま、この寝室の外で、聞き耳を立てている男がいることを――。
(――僕の妻を……ラシェルを、おまえのものにしてくれないか?)
それはアベルが、ギデオン・アズナヴールと――廊下で、夫婦の営みを盗み聞きしている男と交わした、密(ひそ)やかな取り決めだった。
こんな常軌を逸した提案を、ギデオンがすんなりと受け入れたのは嬉しい誤算だ。
(ギデオンもよほど、切羽(せっぱ)つまっていたということか……)
アベルは、なにも知らされていないラシェルの、なめらかな太腿(ふともも)を両手で開きながら思う。
(――あるいは、僕の気が触れたとでも思っているのだろう。当然だ。恋敵(こいがたき)に自分の妻を寝取れと命じる夫が、どこの世界にいる……?)
結婚後のラシェルは、驚くほど美しくなった。
きめの細かい肌は、触れると手のひらに吸いついた。蒼(あお)い大きな眼は、いつも濡れた憂いを帯びている。
細くあるべきところは細く引き締まり、柔らかくあるべきところは柔らかい。尻は丸く肉感的で、張りのある胸は高く盛りあがり、乳首はちょうどいい大きさだ。
女の悦びを知り、さらに深い悦楽へと昇りつめようとする彼女は、アベルにとって女神のような存在だった。
だからこそ、背後にギデオンの影が見え隠れすることに、耐えられなかったのだ。

ラシェルの腿の間にある、湿った襞(ひだ)に触れながら、アベルは訊(き)く。
「ここに、ギデオンのペニスが入ったんだろう? 何回、入れられた?」
「……いや……お願い、アベル……」
「何回、入れられた? 言って――」
ラシェルは、蒼い眼に涙を溜(た)めて、かぶりを振った。
羞恥に染まった彼女の表情は、アベルの欲望を焚(た)きつける。
「覚えていないくらい、何度もしたんだね――?」
やさしい口調で尋ねながら、彼はラシェルのぬかるんだ窪みに、指を二本差し入れた。
待ちわびていたかのように襞がうごめき、指を中へと誘い込む。
「ギデオンには、どこで、どんな風に抱かれたんだ? 服を着たまま? それとも、最初からぜんぶ脱いで、裸になった?きみは、ここ(・・)を口で愛されるのが好きだよね。ギデオンも舐めたり、吸ったりしてくれた――?」
ラシェルは黙ったままだ。けれど、言葉で責められるのが好きなことは、よく知っている。
その証拠に、彼女の身体の中は、アベルの指が溶けてしまいそうなほどに熱い。欲情を示す透明な蜜がとろりと溢れ、指に絡みつく。
嘘をつけないラシェルの淫らな肉体が愛おしく、めちゃくちゃにしてやりたくなった。
アベルは、蜜壺に根元まで指を沈ませた。手のひらをぐっと押しつけ、ラシェルの敏感な花芯を圧迫してやると、先をねだるように腰がふるふると震える。
「……続けてほしかったら、僕の質問にちゃんと答えるんだ、ラシェル。ギデオンには、どんな格好(かっこう)で抱かれた? ……服は? 着たまま? どこで? きみの部屋? それとも、どこかのホテルへ行ったのか?」
「さ、最初は……服を、着たまま……」
「ふぅん。下だけ、脱がされたんだね。それで?」
「……口と、指で……快(よ)くされて……」
「どうやって繋がったの?」
「そのまま……後ろから……長椅子に、手をついて――あっ、ん……っ」
「どこの長椅子で? 場所は――?」
アベルは、熱い襞に包まれた指を少し曲げると、ラシェルの《いい場所》に押しあて、擦るように動かした。
「あ、あっ――こ、小屋の、中で……ギデオンと、畑の、葡萄(ぶどう)を見てたら……雨が降ったの……それで……」
「ふぅ……まだまだ、続きがありそうだな。それから?」
深く息をついたアベルは、ラシェルの耳もとでささやく。
「――ああっ、……あ、脚を開かれて、椅子に座らされて……その、また、口で……」
「そう――ここ(・・)を、何度も口で愛されたんだね? きみの大好きなやり方で……」
意地の悪い責め言葉を吐くたびに、アベルの頭は醒(さ)めていく。けれど、彼の男の部分は逆らうように熱を帯び、硬く息づいていた。
肉体と感情が、完全に切り離されてしまっている。
均衡(バランス)を崩した心を縫い留めている糸が切れるのは、もう時間の問題だった。

アベルは、ラシェルを近くの長椅子に押し倒し、ワンピースをまくりあげる。太腿のなかばまでのストッキング姿が、なまじ全裸よりも淫らに映った。
はしたなく開いた脚の間に顔を埋(うず)めると、花芯に唇を押しつけ、むしゃぶりつく。
舌先をとがらせて、包皮から顔をのぞかせた赤い真珠を弾くように愛でられるのが、ラシェルのお気に入りだ。
そうやって、たっぷりと愛したあと、唇で性器全体を覆って吸いあげると、あまりの快感に気を失いかけたこともあった。
アベルの髪をつかんだ華奢(きゃしゃ)な手が、小刻みに震えている。
「ああ、アベル……、もう、だめ……、いく…わ……アベル――」
追いつめられた声で、ラシェルはアベルを呼んだ。

***

愛する女が、抱かれていた。自分と、おなじ貌(かお)をした男に――。
デルランジュ城の廊下にたたずみ、ギデオン・アズナヴールは、扉の向こうから漏れる快楽の喘ぎを聞いていた。
いったいどうして、こんな下品な、あさましいまねをしているのだ。おまえは女に狂って、理性も矜持(きょうじ)もなくしてしまったのか――どこからか、あざける声が聞こえた。
「そんなものが、なんの役に立つ……?」
毅然(きぜん)とした声で、彼はつぶやく。
矜持など、とうの昔に捨てている。心から愛した女性に拒絶され、見捨てられた男のプライドなど、どれほどの値打ちがあるというのか――。

なんの前触れもなく、その悪魔はやってきた。
肌寒さが残る、春の夕暮れどき――ギデオンは、父親から引き継いだ画廊の窓辺に立ち、外の様子を眺めていた。
パリの街が紫色の帳(とばり)を降ろしはじめ、通りに建ち並ぶ家屋に灯りが点(とも)るこの時間、独りきりになるのはつらい。
愛する者から見捨てられたのだという現実を、嫌でも思い知らされるからだ。
若く純真な美貌の画家がギデオンのもとを去り、しばらくして、異国の婚約者も離れていった。
(なぜ、こんなことになったのか……)
考えるたびに無力感に襲われる。
深いため息をつき、そろそろ引きあげようと、窓辺を離れたそのとき――。
入口の扉がゆっくりと開き、ドアベルが渇いた音を立てた。
あらわれたのは初対面の、だがギデオン自身が、誰よりもよく知っているはずの男だった。
立ち姿が美しい。
金髪に近いアッシュブラウンの髪、すっとした眦(まなじり)の蒼(あお)い眼――その虹彩(こうさい)のふちは、灰色に滲んでいる。少しめくれた上唇に、形よく整った鼻。
彼は、今日のギデオンとおなじ、黒いスーツをまとっていた。
「失礼。ギデオン・アズナヴール……?」
自分と瓜ふたつの男に、名前を呼ばれた。
奇妙な体験だった。
(ドッペルゲンガー)
ギデオンの脳裏に、とっさに単語が浮かぶ。
死を告げる分身――その姿を見た者は、ほどなく命を失うと言われている。
「突然訪ねて、申しわけない……話したいことがあるんだ」
ドッペルゲンガーが喋った。
たしか、『死の分身』は声を発することはないと、ギデオンは覚えていた。
「……どうぞ、お掛けください。ムシュウ――?」
椅子をすすめながら、名前を訊く。
「デルランジュ……アベル・デルランジュ。アベルでけっこうだ、ギデオン――」
眼の前で、自分自身が動き、話をしていた。
声までよく似ていて、あわせ鏡の中に入り込んでしまったようだ。
はっきりとわかる二人の違いは、髪型と髪の色、左眼の下の黒子(ほくろ)だけ――。
眼を逸(そ)らしたいのに、逸らせない。
自分が生きてきた二十八年間の経験と記憶――それを、このアベルという男と共有しているのではないかと、ギデオンは奇妙な錯覚をおこした。
思い出したくない過去や、見ないふりをしてきた自分のすべてを、無理やりに暴かれていくような心地になる。
同時に、まわりの人間の眼に自分がどう映っていたのか――そのありのままの姿を見せられると、これまで知らなかった自らの容貌の美しさに気づき、とまどい、アベルに対して不可思議な感情が芽生えてくる。
(彼は……僕の、半身――)
ギデオンは、めまいを覚えた。

その翌月――。
晴れてラシェルの夫となったはずのアベルは、蜜月のさなかに、正気の沙汰とは思えない話を持ちかけてきた。
「ギデオン……僕の妻を、抱きたくはないか――?」
憔悴(しょうすい)した表情で、アベルは言った。
「彼女のことが忘れられないんだろう……? だったら、取り引きをしようじゃないか?」
暗い輝きを宿したアベルの眼から、ギデオンはまたしても、視線を逸らすことができなかった。
おなじ男として、彼の気持ちは理解できる。
妻が浮気をしている――そんな事実かどうかもわからない妄想に苦しむよりも、実際に自分の眼の前で男に抱かれている姿を見るほうが、まだ救われるのかもしれない。
(それにしても……愛する人を、わざわざ恋敵に差し出すとは――)
尋常な状況ではなかった。関わらないほうがいいに決まっている。彼もろとも、狂気の淵に引きずり込まれるかもしれない。
(この男は、狂っている。あるいは、もう人間ではなくなっているのか……?)
危険だった。よくわかっている。けれど……。
悪魔の誘惑を退けるには、そのときのギデオンはあまりにも打ちひしがれ、絶望しきっていた。

***

神をも恐れぬ、あさましい所業だと知っている。
自分の選択が間違っていることも、誰にも理解されないであろうことも。
それでも彼女さえ――ラシェルさえ手に入るのなら、地獄に堕ちても本望だと、ギデオンは思った。
「……もう、いや……やめて……」
「どうして? ギデオンには、舐めさせたんだろう?」
寝室から漏れる淫らな会話のあとに、ぴちゃぴちゃと、かすかな音がした。
ラシェルの秘所を、アベルが舐めているのだ。
唾液を飲み込んだギデオンの喉が、ぐびりと鳴る。
「あああっ! もう、だめ……! お願い……」
快楽を訴える女の悲鳴が聞こえた。
肌と肌が擦れあう音と、ため息が続く。
「ああ、アベル……、もう、だめ……、いく…わ……アベル――」
ラシェルの嬌声に、アベルの醒めた声が続く。
「また達(い)くの? だめだよ、まだ……」
「あ、あ……」

わずかに開いた扉のすき間から、長椅子にうつぶせ、後ろから貫かれているラシェルの姿が視界に飛び込んできた。
思わず眼を逸らしかけたギデオンは、気持ちを立てなおし、彼らを見据える。
挿入されたアベルの昂ぶりが、ラシェルの身体に出入りしている様子が、はっきりと見えた。
(自分の分身が、ラシェルを犯している――)
倒錯めいた錯覚が引き金となり、ギデオンの身体の中心に、一気に血液が集まっていく。
ラシェルの奥深くに、ペニスを埋めたかった。
そのとき、彼女は、どんな表情をするのだろう?
突きあげるたびに揺れる乳房を見たい。
柔らかい襞でできた蜜壺の、その熱い蜜が自分の睾丸や腿を濡らし、伝い流れていく感触を味わいたかった。
充血した牡(おす)の象徴が、ズボンの布を押しあげている。ギデオンは、自分の股間に手を伸ばしたくなる誘惑を、こぶしを握り締めることでかろうじて耐えていた。
ラシェルが、すすり泣くような声で訴える。
「――もっと……もっと動いて、アベル……突いてほしいの、奥まで……」
「こう――?」
アベルは熱くたぎった自身の肉を、ぎりぎりまで引き抜いては、最奥まで突き入れる動きをくり返す。
「あああっ!」
ラシェルがのけ反り、絶頂の悲鳴をあげる。
それが、合図になった。
(もう二度と、愛する人を失いたくない……)
ギデオンは眼を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
そうして、腕に力を込め、静かに寝室の扉を押し開けた――。
〈完〉
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『密約~ラシェルとふたつの白い薔薇』作者:燈花先生の公式SNSはコチラ!!
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蜜約【斜め補正なし】