書籍情報

淫靡な団欒【書下ろし】

淫靡な団欒【書下ろし】

著者:かのえなぎさ

イラスト:史堂櫂

発売年月日:2014年10月24日

定価:990円(税込)

――英成、お前も高坂の体を愛してみるか? お前たちは本当に仲がいいな 留学先から帰ってきた秀麗な容貌のエリート黒岩英成は、父の征司郎と住み込みの私設秘書、高坂佳樹がセックスしているのを目撃してしまう。常に悠然とした物腰の40代とは思えない引き締まった体の父が、普段とはかけ離れた様子で黒髪を乱す秘書を犯す姿を見るうちに湧き上がってきた情欲の疼きを抑えきれず、英成は思わず2人の営みに加わり高坂に熱い欲望の昂ぶりをぶつけてしまう。危ういバランスの三人の淫靡な生活が始まった。

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登場人物

黒岩英成(くろいわ ひでなり)
22歳。黒岩製薬の次期後継者として働くために留学先から戻る。茶色い髪以外の容貌は父親に似ている。 裕福な家庭に育つ。10年前に母を亡くしている。
高坂佳樹(たかさか よしき)
26歳。征司郎の私設秘書。黒岩家に住み込みで仕えている。黒髪で、無機質的なくらい非常に整った顔立ちだが、中身は意外と人間味がある。
黒岩征司郎(くろいわ せいしろう)
40代半ば。英成の父。黒岩製薬経営者。年齢に見合わない引き締まった体を持つ聡明な男。いつでも端然とした佇まいを崩さず、悠然とした物腰の紳士。心の中には忘れられない人。

立ち読み

夜、なかなか寝付けないのは、体にまだ時差が残っているせいだ。
日本に帰国して一週間、一応ベッドに潜り込む努力はしているが、今夜はあまりに目が冴(さ)えすぎていた。
子供の頃から、眠れないときの英(ひで)成(なり)の行動は決まっている。洋館と呼ぶにふさわしい広さを持つ自宅内を歩き回るのだ。そして今夜も、眠るための不毛な努力を諦め、ベッドを抜け出した。
三階の、父親の部屋の近くを通りかかったのは、たまたまだった。
昔から、三階は大事なものが置いてあるから近づくなと言われていた。成人した今となっては、その注意も無効とはなっているものの、特段用があるわけではないため、上がることはない。ただ、書斎は別なのだ。子供心に好奇心をそそられ、ときおりこっそりと忍び込んでいた。
少しは様子は変わったのだろうかと思った英成は、久しぶりに三階の書斎を覗(のぞ)いてみようとしたのだが、このとき、征(せい)司郎(しろう)の部屋のドアが開いたままなのに気づいた。
フットライトがぼんやりと廊下を照らしている中、一番奥まった場所にある征司郎の部屋から漏れる明かりは、やけに煌々(こうこう)として見えた。
こんな時間に何をしているのかと、関心半分、呆(あき)れ半分で思いながら、英成は書斎の扉に手をかけようとして、動きを止める。
ふと、魔が差した。
就寝の挨拶(あいさつ)でもして、父子らしいスキンシップを取ることにした。
なんといっても、七年ぶりに同じ屋根の下で暮らし始めたのだ。久しぶりの肉親との同居による居心地の悪さを、早く払拭(ふっしょく)したかった。
「親父、まだ――」
起きているのか、という言葉は、発する前に口中で消えた。
部屋を覗き込んだ英成は、数瞬、目の前の光景が理解できなかった。ただ、二十二歳の健康な男として、人並みの経験を積んできたおかげで、本能的に事態は呑み込めた。異常な事態ではあるが。
「――……くうっ、あぁっ……」
掠(かす)れた艶めかしい声が、耳に届く。途端に英成の体は、熱くなった。
ベッドの上で、征司郎は裸だった。
四十半ばを過ぎたというのに、どこにも弛(ゆる)んだ部分が見当たらない引き締まった体は、汗で濡れている。その征司郎の体が大きくゆっくりと前後に動き、再び艶めかしい声が上がった。
「はっ、あっ、あっ――」
英成は、ふらりと足を踏み出し、部屋に入っていた。自分でもどうしてこんな行動を取ったのかは説明できない。声に誘われたといえるかもしれない。
父親が、誰かとセックスしているのは明らかで、普通の感覚ではあればその場を黙って立ち去るのが正しい。しかし、気になったのだ。
艶めかしい声が、男のものであったことに。
歩み寄る英成に、征司郎がちらりと視線を向ける。熱を帯びた眼差しや、乱れて額にかかった髪、弾んだ息遣いを目の当たりにして、英成は完全に、妖しい空気に呑まれてしまった。もう逃げ出そうにも、足が動かない。もちろん、目も背けられない。
征司郎は、男を組み敷いていた。知らない男ではなかった。
「……こ、さか……」
男を呼んだ英成は、無意識のうちに口元に手をやる。ベッドに入る前に、この男が淹れたお茶を飲んだのだ。
男は、高坂(こうさか)佳樹(よしき)といった。
征司郎の私的な秘書だと紹介されたが、なぜかこの家に住んでおり、征司郎だけではなく、英成の身の回りの世話までしている。この家に出入りしている家政婦や庭師などは、征司郎ではなく、高坂に仕事の指示を仰いでいたぐらいだ。
自分が留学している間に、得体の知れない男が家に入り込んでしまったと、英成は漠然(ばくぜん)とそんな不快感を持っていたのだが、どうやら直感は外れていなかったようだ。 「何、してるんだ、あんたたち……」
問いかけるまでもなく、見たらわかることだ。それでも口にせずにはいられなかった。
征司郎の返答は素っ気なかった。
「黙って見ていられないなら、部屋を出ていけ」
「見て、って……、何言ってるんだ、親父――」
次の瞬間、ドキリとした英成は言葉に詰まった。高坂が、じっと自分を見上げていたからだ。
最初に紹介されたとき、感情がないような冷たい目をした男だと思ったが、今はその目は、何かを訴えてくるかのように鮮烈で、欲情に濡れている。少なくとも、見られていることに恥じらっている様子はなかった。
ふいに高坂の眼差しが揺れ、身じろぐ。英成がゆっくりと視線を動かした先で、高坂の反り返った欲望を、征司郎が握り締めていた。
二人の密着した腰を嫌でも意識してしまい、目を背けたい拒絶感と同時に、抗いがたい興味が英成の中でせめぎ合う。
征司郎は、英成の興味をさらに煽(あお)るように、腰を動かした。
「うっ、ううっ」
征司郎の手に扱(しご)かれて、高坂の欲望の先端から透明なしずくが垂れ落ちる。
「さっきあれだけ舐めてやったのに、もうこんなにしているのか」
子供を窘(なだ)めるような柔らかな声で征司郎が囁(ささや)き、呼吸を乱しながら高坂が応じる。
「申し訳、ございません……、旦那さま」
高坂のその言葉を聞いて、英成の胸の奥が疼(うず)く。唐突に湧き起こった、情欲の疼きだ。
征司郎が高坂の上に覆い被さる。心得ているように、高坂が征司郎の首に両腕を回してしがみつき、二人は唇を重ねた。
まるで英成に見せつけるように唇を吸い、差し出した舌を緩やかに絡め合う。同時に征司郎が腰を動かし、繋がった部分を擦りつけ合う。より律動を欲しがるかのように、高坂の両足が、征司郎の逞(たくま)しい腰に絡みつく。
一連の行動を目で追いながら、いつの間にか英成の呼吸は荒くなっていた。父親とその秘書の理解しがたい行為に、忌々しいことに魅了されつつあった。
「んうっ、んっ、あっ……、あっ……ん」
征司郎が唇を離した途端、高坂が歓喜の声を溢(あふ)れさせる。押し寄せる快感の波を耐えるかのように、緩やかに頭を左右に振っていたが、ふとした拍子にまた英成と目が合った。
非常に整った顔立ちをしてはいるが、どこから見ても男である高坂が、女のように乱れている様は、独特のいかがわしさと色気があった。それに、道徳心や理性を失わせてしまう、強力な毒のようなものも。
「――わたしの息子が気になるか」
高坂が視線を向ける先に気づいたらしく、征司郎がそう言って笑う。なぜか英成のほうがうろたえてしまったが、高坂は肯定とも否定とも取れる仕種で視線を伏せた。そんな高坂の目元に唇を押し当てた征司郎が、次に英成に言葉をかけた。
「お前も、高坂が気になるだろう?」
「あっ……」

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